31. 2015年10月07日 20:07:06
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2015.10.5 07:00 【防衛装備庁発足(1)】 防衛装備の海外移転で中国封じ込め 太平洋の安全保障に力こぶ 民間各社も海外展開前のめり http://www.sankei.com/politics/news/151005/plt1510050001-n1.html防衛省に防衛装備庁が設置され、看板をかける中谷元・防衛大臣(左)と渡辺秀明・防衛装備庁長官=1日、東京都新宿区の防衛省 http://www.sankei.com/politics/photos/151005/plt1510050001-p1.html 防衛省の外局、防衛装備庁が1日発足した。これを機に防衛装備の国際化に向けた政府と関連産業の取り組みが一段と加速する。政府は、急速な軍事力拡大を背景に海洋進出を急ぐ中国の脅威に対応し、欧米やアジアの親密国への防衛装備輸出や技術移転を通して結びつきを強め、安全保障体制の強化につなげる考えだ。国内の防衛各社も政府の政策に呼応し本格的な海外事業展開に向け動き出した。 進む枠組みづくり 「装備の技術的優位確保、海外との装備技術協力、国内防衛生産技術基盤維持など課題は多い。関係省庁や産業界からの期待に全力で応えたい」 防衛装備国際化の司令塔を担う防衛装備庁の渡辺秀明長官(前防衛省技術研究本部長)は1日、こう決意を語った。 産業界も「防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けリーダーシップを発揮してもらいたい」(経団連)と新組織に期待をかけている。 すでに安倍晋三政権は昨春、武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」の制定を機に防衛装備国際化への取り組みを本格化。日本の防衛装備や技術を相手国に移転する場合の枠組み協定の締結国は米、英、仏、オーストラリアの4カ国に達した。このほか、インドやフィリピン、マレーシア、インドネシアとも事務レベル協議を行っている。 こうした取り組みの狙いの一つは、防衛装備の提供を通して親密国や友好国との連携を強め、共通の脅威に備えるものだ。アジアで海洋勢力圏拡大を急ぐ中国を念頭に置いたものであることはいうまでもない。 日米でアジア向け装備を 安全保障問題に詳しい森本敏・拓殖大学特任教授(元防衛相)はインタビューで「装備技術協力は安全保障協力と表裏一体の関係」とした上で「今後は日米間で国際共同開発案件を増やしながら、できればアジアへのサプライチェーン(供給網)を作る必要がある。これが日米のインターオペラビリティ(相互運用性)を強化し、中国向け抑止力の強化につながっていく」と指摘する。 安倍首相はハワイ(米)、日本、豪州、インドを結ぶ「安全保障のダイヤモンド」を形成し中国の拡張政策を封じ込める戦略を描き、これらの国との防衛装備協力を推進している。豪州向けには三菱重工業と川崎重工業が開発、製造している通常動力型潜水艦「そうりゅう級」(4200トン)を、インドには新明和工業製の海上救難飛行艇「US2」をそれぞれ売り込んでいる。 このほか、南シナ海で中国の脅威にさらされているフィリピンに対し、自衛隊を退役する哨戒機や巡視艇を供給するなど、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に対する「能力構築支援」も行っている。 これらの国産装備はアジアの安全保障にどのように貢献するのだろうか。 ハチの一差し戦法 そうりゅう級は、騒音が大きく、敵に探知されやすい欠点を抱える豪州の現役潜水艦「コリンズ級」とは反対に静粛性に優れている。コリンズ級の動向は容易に中国に把握されるが、そうりゅう級を捕捉するのは容易ではない。 元海上自衛隊幹部は「豪州は仮に中国から攻撃されれば、勝てないまでも相応の打撃を与える“ハチの一差し”戦法を抑止の基本としている。このための備えとして、侵攻してくる水上部隊を攻撃することを想定し、ただの制空戦闘機ではなく、戦闘攻撃機『F/A18Fスーパーホーネット』を配備している。もう一つが巡航ミサイル『トマホーク』を積んだ潜水艦だ。中国は、沿岸に近づいた潜水艦からトマホークで都市部を攻撃されることを最も怖れている。人心不安が政変に結びつきかねないためだ」と明かす。そうりゅう級は中国に対豪軍事行動を思いとどまらせる切り札になるというわけだ。 また、インドがUS2を導入すれば救難活動だけでなく、インド洋での潜水艦の活動を牽制する効果も見込まれ、日本のシーレーン防衛の助けになるとみられている。 米が注目、高速水陸両用車 一方、日米による装備の共同開発推進を求める声が出る中、注目されている案件がある。三菱重工が研究を進めている水陸両用車だ。自衛隊が調達を進めている水上速度7ノット(13キロ)の「AAV7」の3倍近い20〜25ノット(37キロ〜46キロ)で沿岸に到達できる。 「米軍が関心を持っており、両国で一致すれば共同開発につながる可能性がある」(防衛省幹部)という。共同開発が実現し、アジアの親密国向けに供給されれば、島嶼が多い太平洋の安全保障に貢献しそうだ。 パレードはショーケース 中国もアジア向けを中心に武器輸出を積極化し、輸出国への影響力を強めようとしている。 9月3日に北京の天安門広場で行われた抗日戦勝利70年軍事パレードでは、中国人民解放軍の陸上兵器の約85%もの映像を公開したとみられている。近隣国では、パレードには軍事力誇示だけでなく、「中国製武器の輸出先開拓に向けたショーケース」(印紙タイムズ・オブ・インディア)の狙いが込められたとの見方が出ている。 アジア太平洋地域の軍事産業に詳しいIHSジェーンのアナリスト、ジョン・グレヴァット氏(タイ・バンコク在勤)はフジサンケイビジネスアイの取材に対し、「中国の軍事輸出の狙いは戦略的影響力の拡大であり、利益は二の次だ。輸出先との間で、軍事や貿易などを含めた関係強化を図る手段と位置付けており、とくにインド周辺の南アジア向けでは中国の常套手段だ」と解説する。インドネシアの高速鉄道建設計画で、同国の財政負担や、中国が実施する融資に対しインドネシア政府の保証を求めないという破格の条件で中国が日本を破り、契約を勝ち取った根底にも同様の外交戦略があるとの見方を示した。 日本にとって今回のインドネシア高速鉄道の決定は、東南アジアの安全保障をめぐる中国包囲網形成にくさびを打ち込まれた形となった。 開発競争が激化 防衛装備供与を介した外交戦略の重要性が増すのに伴い、装備の開発競争も激化しそうだ。 北京のパレードでは「空母キラー」とも呼ばれる世界唯一の対艦弾道ミサイル「東風21D」が注目を集めたが、意外にも専門家の間では「空母機動部隊は1日平均で800キロは移動する。中国が陸上からこうした長射程のミサイルを命中させられるようになるには、なお時間がかかる」(元自衛隊幹部)など評価は低い。米海軍大学が定期的に海外の専門家を招き開いている中国の装備に対する評価でも「『米国に追いつくには10年以上かかる』との見方が大勢を占めている」(日本の参加者)。それでも、こうした会合では「対策を本格化する必要がある」と、慢心を戒める意見が出始めているという。 グレヴァット氏は「中国はこれまで武器輸出先として米国による輸出先とは違う国をターゲットとしてきたが、武器の性能向上を図る中で、今後は日本や欧米各国が応札する国際入札への参入を目指すことになるだろう」と語り、武器輸出市場で先進国と中国の競争が激化するとの見方を示した。 初の中国国産空母か IHSジェーンは1日、衛星写真の解析を基に、中国が大連の造船所で国産空母建造に着手した可能性があるとのリポートを発表した。中国はロシアで起工された空母「遼寧」を運用しているが、中国の国産空母建造は初。完成すれば太平洋での中国の軍事的脅威は一段と高まる。 防衛省は中国の脅威に備えた装備の改変を急いでいる。自衛隊の装備について米国からの調達を一挙に増やし、2015、16年度予算でV22オスプレイや水陸両用車をはじめとする米国製装備を大量調達することを決めた。これは米軍の海兵隊をモデルにし、尖閣諸島(沖縄県石垣市)など島嶼部の防衛を強化するとともに、米軍との装備共通化で抑止力を高める狙いがある。 安全保障問題に詳しい専門家の一人は「これは東シナ海での勢力圏拡大を狙う中国が一番いやがること。実は、これとは逆の事をやったのが民主党の鳩山政権。日本の国土が脅かされる事態になった」と解説する。 鳩山政権(09年9月〜10年6月)が「対米従属からの独立」を唱え日米関係を冷え込ませた結果、後継の野田政権下で日米同盟による日本周辺の防衛体制に空白ができ、10年9月には尖閣諸島(沖縄県石垣市)で中国漁船衝突事件が発生。日本による国有化を経て日中間の緊張を生み出す端緒となった。これに続き10年11月にはメドベージェフ露大統領(現首相)が露大統領として初めて北方領土を訪問。12年8月には李明博前大統領が竹島(島根県隠岐の島町)に上陸するなど露韓がそれぞれ日本領土の実効支配を強化する動きを招いた、というわけだ。 専門家の間には、防衛装備の面での日米同盟強化を一段と加速すべきだとの声が高まっている。(佐藤健二) ◇ 防衛装備庁 フランスの国防省装備総局(DGA)をモデルに自衛隊向け防衛装備の調達や研究開発に関連する部門を統合して設立された防衛省の外局。装備品の取得、防衛生産基盤の維持・強化、研究開発、装備や技術の海外移転を主要任務としている。ただ、フランスや韓国などの組織が担っている輸出振興は行わない。発足当初の陣容は1万人を超える英仏の組織に比べ約1800人と極めて少ない。装備ごとに専門家が開発段階から一貫して統括する「プロジェクト管理」と呼ばれる手法で合理化やセキュリティ確保を目指している。 2015.10.6 07:00 【防衛装備庁発足(2)】 「日本装備の技術は洗練されている」 課題はコスト 求められる海外での実績作り http://www.sankei.com/premium/news/151006/prm1510060005-n1.html 川崎重工業が開発した海上自衛隊の哨戒機「P1」。英国が導入を検討している(防衛省提供) http://www.sankei.com/premium/photos/151006/prm1510060005-p1.html 防衛産業が欧米との共同開発や輸出をはじめとする海外事業拡大に本腰を入れ始めた。英国向け哨戒機をはじめ有望案件がめじろ押しだ。しかし、こうした取り組みの背景には、内外市場での海外メーカーとの競争激化という切実な問題がある。国際事業拡大に向けたハードルは予想以上に高く、官民が一体となった生き残り策が求められている。 初の事業拡大宣言 「従来の枠組みにとらわれずに事業規模拡大を目指す。防衛装備移転三原則をてこに海外展開する」 国内防衛最大手、三菱重工業で防衛事業を統括する水谷久和・防衛宇宙ドメイン最高経営責任者(CEO)は今夏のアナリスト説明会でこう宣言した。同社が公に防衛事業拡大方針を表明するのはこれが初めてだ。 同社が米レイセオンなどと共同開発した艦対地ミサイル「SM(スタンダードミサイル)3・ブロックIIA」は6月、発射試験に成功。実質的に日米が共同開発に取り組んだ主要装備品の初の案件となった。同CEOはこれに自信を深め、同様の共同開発案件を発掘し、事業拡大に弾みをつけたい考えだ。 経団連は防衛装備庁発足を半月後に控えた9月中旬、防衛産業への支援を求める政府への要望をまとめた。 この中に盛り込まれたのが、米国など9カ国が共同開発し航空自衛隊も次期主力戦闘機として導入している「F35」について、エンジンなどのコンポーネントを輸出する構想だ。もともと、航空自衛隊向けは、国内外のメーカーが作ったコンポーネントを三菱重工の生産拠点で組み立てる計画だった。これに加え、輸出用コンポーネントの製造ラインを創設し、米国などに輸出する計画だ。 経団連はこのための支援を政府に求めている。防衛省は「防衛装備国際化に向けて産業界向け支援を一般会計で行うのは困難だが、財政投融資は利用できるのではないか」とみている。 欧州市場でも注目 防衛装備をめぐる具体的な協力案件は欧州との間でも進んでいる。豪州次期潜水艦の受注やインド向け海上救難艇「US2」と並び注目されているのが、川崎重工業が開発し、英国が導入を検討している自衛隊のジェット哨戒機「P1」だ。 英次期哨戒機は年内に要求基準が示され、来年5月の英総選挙後に選定結果が発表される見通しだ。「英政府は輸入、ライセンス生産、現地生産などあらゆる方式を検討している。財政難の中、お金のかからない方式になるのではないか」(防衛省幹部)という。 防衛省は7月、英国の求めに応じP1を英軍基地に派遣。「親密な英国といえどもP1を導入したいと言ってきた場合は技術の機微性を慎重に判断する必要がある」(幹部)としながらも、P1が選定されることに期待をかけている。 ただ、選定は米ボーイング製「P8ポセイドン」との一騎打ちとなり、競争の行方は予断を許さない。関係者は「P8はP3Cの後継機として米軍のお墨付きを得た格好で信頼度は高い。半面でコストも高い。このため英国が、P8の値下げ交渉の当て馬としてP1を使う可能性も否定できない」と指摘する。半面、「仮にP1が勝つようなことがあれば、P1の英仕様機を英国も一緒になって各国に売ってくれるため、相当なヒット商品になる」(同)とみられている。 また、日英政府は欧州製戦闘機が搭載する空対空ミサイル「ミーティア」をベースに、三菱電機の無線技術を生かしたミサイルを共同開発を検討することでも合意。実現すれば欧州との共同開発第一号案件となる。 戸惑うメーカー 実は、こうした輸出拡大や共同開発を急ぐ背景には差し迫った事情がある。国内外の防衛産業に詳しいコンサルティング会社グローバルインサイト(東京都千代田区)の長瀬正人社長は次のように解説する。 「防衛産業基盤を維持するため、国内企業からの調達を優先してきた防衛省が、安全保障環境の顕著な変化に対応し、米国製装備の調達による防衛力整備を急いでおり、海外企業も日本国内拠点を拡大している」。国内各社は待ったなしの競争に投げ込まれているというわけだ。 果たして日本の防衛産業は、厳しい国際競争を勝ち抜くことができるのか。米海兵隊パイロットや米国務次官補代理などを歴任した防衛産業の専門家、米コンサルティング会社、アヴァセント・インターナショナル(ワシントン)のスティーブン・ガンヤード社長は、産経新聞の取材に「日本の防衛装備は技術こそ洗練されているものの、コストは国際相場の2〜4倍と高い。質、価格両面で競争力をつけなければ国際化は難しい。これを実現する最良の方法は輸出拡大だ」と指摘する。 防衛装備の海外移転規制を緩和した防衛装備移転三原則で海外移転の規制が緩和されたとはいえ、利潤を上げるためだけの輸出は戒められている。それでも防衛各社には海外での事業拡大が必要だ。欧米企業に比べ防衛事業比率は極めて低く、撤退しても経営的には困らないものの、そうなれば日本の安全保障が立ちゆかなくなるからだ。 ただ、輸出を軌道に乗せるには、なお多くの課題がある。 防衛装備庁の堀地徹・装備政策部長は「メーカーには戦略がない。欧米各国が予算を削減する中、海外メーカーは東南アジアに市場を求めている。その中で勝ちに行く戦略が必要だ」と注文を付ける。 一方の産業界には「企業が単独で防衛装備移転を図れるものではなく、国の適切な指導の下で初めて実現できる」(ジャパンマリンユナイテッド)との声がある。「政府の安全保障・外交戦略を見極めながら売り込みを行うのには限界がある」(経団連)というわけだ。 これに加え、企業には社会的イメージへの配慮もある。森本敏・拓殖大学特任教授(元防衛相)は「防衛各社にはいまだに『武器商人』のレッテルを貼られかねないとの警戒心がある」と指摘。この呪縛から解放するには、海外案件で実績を作り、日本の安全保障に貢献しているという実感を抱かせることが重要だとの考えを示した。 第2のトヨタに ガンヤード氏は「安倍政権は防衛産業のリスクを分担するとともに輸出拡大方針を鮮明にすべきだ。一方で防衛産業は国際取引を利益に結びつけ、国際競争に立ち向かう勇気を持たなければならない」と強調する。 元海上自衛隊司令官でジャパンマリンユナイテッド顧問の香田洋二氏は「現在の日本の防衛産業は国際化を目指していた1960年代初頭のトヨタ自動車と同じ。米市場に参入するといっても誰も信じなかったが、80年代にはカローラが米国でベストセラーになり、2000年代には米大手を抜き世界一になった。日本の防衛装備は実戦に投入された実績がないというハンディはあるが、防衛装備庁の体制を充実し、財政支援を含めた戦略を進めれば、トヨタと同様に国際化を成功させられる」と話した。(佐藤健二) 2015.10.7 07:00 【防衛装備庁発足(3)】 豪潜水艦受注が国産装備輸出の試金石 初動立ち後れの舞台裏 “日英同盟”も浮上 http://www.sankei.com/premium/news/151007/prm1510070004-n1.html 海上自衛隊の「そうりゅう」。オーストラリア次期潜水艦を受注競争の行方は予断を許さない(防衛省提供) http://www.sankei.com/premium/photos/151007/prm1510070004-p1.html 国産防衛装備の海外移転が成功するかどうかの試金石が「規模、影響力とも最大の案件」といわれるオーストラリアの次期潜水艦受注だ。日本製潜水艦は性能ではライバルの欧州メーカー製を圧倒しているものの、交渉では経験不足が露呈し、先行きは予断を許さない。難局を乗り切るには、海外企業との提携が必要との指摘が出ている。 政権交代は影響せず 「アボット首相が辞任へ」 9月14日夜、豪与党・自由党の党首選挙でアボット前首相がまさかの敗北を喫したと速報され豪次期潜水艦の受注を目指す日本側関係者に衝撃が走った。アボット氏は安倍晋三首相と強いパイプを持ち、三菱重工業と川崎重工業が開発し、海上自衛隊向けにほぼ年1隻のペースで建造している海上自衛隊の通常動力型潜水艦「そうりゅう級」(約4200トン)の採用を強く推していたからだ。 とはいえ、今回の政権交代が潜水艦選定の行方に影響するかは不透明だ。元自衛艦隊司令官でジャパンマリンユナイテッドの香田洋二顧問は「日本チームがアボット−安倍両首脳の関係に期待していたとしたらまったく甘い。それだけで決まるなどあり得ない。受注するには(ライバルの)独仏との競争に勝つ以外ないのだ」と強調する。 ただ、海外メディアの一部では、アボット氏の辞任前から日本による受注の形勢不利が報じられていた。入札の代わりに豪州政府が実施している「競争的評価プロセス」と呼ばれる選定手続きで、豪政府が重視する現地生産をめぐり、ドイツとフランスが早くから積極的な姿勢を見せていたのとは対照的に、日本の対応が大きく立ち後れたからだ。 この間の事情について防衛装備の国際取引に詳しい関係者は次のように明かす。 「豪州のそうりゅう級導入計画は、従来の武器輸出三原則見直しの流れの中で、日米豪の三極による同盟関係の拡大に重要だという密約のような雰囲気の中で出てきた。アボット政権に『何はさておき日本』と持ち上げられた日本には、漠然と『手持ちの潜水艦を出せばいい』というイメージしかなかった。ところが、豪州にはそのまま買うという発想はなく、日本は準備不足のまま、虎視眈々と受注を狙っていた独仏との競争に直面することになった」 防衛装備庁初代長官に就任した渡辺秀明長官は1日、関係省庁に旗振り役がいないとの指摘が出ているとの指摘に対し、「豪州からの情報を(関係省庁で)共有し、適切に対応していきたい」と語り、巻き返しを図る考えを示した。 性能面の優位動かず 豪潜水艦には2つの評価基準がある。安全保障上の要求にどこまで応えられるかという潜水艦の性能評価と、豪造船産業や雇用にどれだけ貢献できるかという政治的な評価だ。 このうち、潜水艦の性能をめぐる競争では、そうりゅう級の優位は動かないとみられている。中国が豪潜水艦による中国本土沿岸からのミサイル攻撃を警戒し、探知能力を向上させるなか、「ステルス潜水艦」とも呼ばれるほどのそうりゅう級の静粛性は大きな強みだ。 また、豪潜水艦には米国製戦闘指揮システムと米国製ミサイル「トマホーク」を搭載する計画だが、「米軍幹部によると、戦闘指揮システムは電力消費が大きく、一部の通常動力潜水艦からは電力不足のためトマホークを発射できないかもしれないという。そうりゅう級(4200トン)は対応可能でも、原潜バラクーダを改造した仏DCNSの通常動力潜水艦(5000トン級)は艦体が大きすぎて電池容量が不足する可能性がある」(元自衛隊幹部)とみられている。 ドイツは輸出用小型艦「214型」(潜水時排水量2000トン)をベースに大型艦「216型」(同4000トン)を新たに設計・建造する計画だが、214型は「ピカピカの一流品ではなく、主に途上国で数をそろえるための低コスト装備」(同)。これに加え、退役予定の豪現役潜水艦「コリンズ級」も小型艦を大型化したしわ寄せで、静粛性が損なわれたという経緯があり、豪側がドイツの計画に不安を抱く可能性も否定できない。 政治的競争に立ち後れ 一方の政治的対応をめぐっては、独仏が今年の早期からロビー活動を始めていたのに対し、日本の官民チームは8月下旬になり、初めて豪関係者向けに現地生産を含めた計画案のプレゼンテーションを行うなど、大きく水を空けられている。 ライバルの1社、独ティッセン・クルップ・マリンシステムズ(TKMS)は、自社が受注した場合は豪政府系造船会社、オーストラリアン・サブマリン・コープ(ASC)を買収して現地生産を行い、従業員の雇用を継続する計画を発表。豪政治家に強くアピールした。 香田氏は「“大三菱重工”といえども海外での防衛装備の商談には新人で、“リングの外のボクシング”での勝利は難しい。日本はまず、安全保障上の要求に沿うリング上のボクシングに勝つ必要がある」と話す。 経験不足をカバーするため海外企業とタッグを組む必要があるとの指摘も出ている。 国内外の防衛産業に詳しいコンサルティング会社、グローバルインサイト(東京都千代田区)の長瀬正人社長は「海外への防衛装備移転に際し、情報収集やプロジェクトに参加する際に海外パートナーとチーミングを行うのは世界の常識」と語り、提携の重要性を強調した。 現地からの報道によると、英BAEシステムズの豪州法人や英バブコック・インターナショナルなど豪州国内で関連事業を展開している英国勢が、日本側に提携を打診しているという。実現すれば、一定水準の技術力を持つ英企業を仲介役にして潜水艦の建造ノウハウを豪州側にスムーズに移転したり、日本からでは難しいサポートを英企業に委託する可能性がある。 対豪供与の形態としては、そうりゅう級をベースに開発した豪州仕様の潜水艦を日本国内で建造し、輸出する選択肢もあるが、この場合、ほぼ年1隻のペースで建造している自衛隊向けの建造に影響する心配があり、建造過程で英企業と提携するのは「日本にとっても理想的」(関係者)とみられている。 「失敗すれば日本の防衛産業の国際化が20年は遅れる」といわれる豪潜水艦受注。日本の総力を挙げて結果につなげる必要がある。(佐藤健二)
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