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2015年10月05日
日経が歓び、朝日も歓ぶ。読売、産経は微妙な温度差。まあ、産経の場合、国家主義と云う読者を抱えているだけに、日本の伝統文化を売り払うとまで言われているTPPだけに、立ち位置は微妙なものになるだろう。アメリカ賛歌をてらいもなく言えるのは、日経と朝日なのかな?毎日のサイトは、最近有料読者獲得の意志が強すぎて辟易したので、当分開かないことに決めたので不明。
正直、このTPPと云うのは、グローバル経済のさらなる拡大を目指している点と、AIIBでド肝を抜かれたオバマが、中国に貿易ルールまで作られたら、日米関係も終わるし、アジアから撤退せざるを得ない‥等と脅しをかけられて、「1%対99%」の強化策となる“TPP”への参加を余儀なくされたのだろうが、歴史的流れで見た場合、「日本と云う国」を売ることに等しいのだと感じる。筆者は国家主義者ではないが、愛国者であり、日本の伝統文化慣習を豊かな人間的ものとして愛しているし、一定の尊敬を持ってみている。
筆者のような伝統文化に固執する者をレイシスト呼ばわりする傾向もあるようだが、それは違うと思う。日本には、縄文の時代から、他国の文化や技術を学び、それを猿まねする段階を凌駕して、自己の文化にまで高める民族的資質があったわけだ。その精神が根こそぎ、強制的な世界的協定によってズタズタにされることは、日本人の意志が無くなることである。安倍晋三や野田佳彦は保守面をしているが、魂は日本人ではないのだと思う。中国に与する必要もないが、アメリカに隷属して21世紀が乗り切れるとは到底思えない。
資本主義と民主主義の衰退が叫ばれている中で、このグローバル企業と金融資本だけが勝利者になるような国境撤廃のような協定は悪である。それでいて、中国もロシアも入れない閉鎖的経済協定を締結させることで、地域の覇権を維持しようなんて、アメリカの腕力に負ける等、甘利が奮戦したなどと口が裂けても言うものではない。まあ、見ていろ、参議院選で自民公明を大敗させることが出来れば、国会批准まで持っていけない可能性も出てきている。
ビデオニュースドットコムによると、
≪集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案の参院の審議が大詰めを迎える中、最終局面で法案に重要な付帯決議がつけられていた。野党による問責や 不信任案などを連発したぎりぎりの抵抗が続くなかで行われた修正協議に対しては、「野党の分断工作」「強行採決と言われないための姑息な小細工」などと批 判を受けたが、実際は法案の核心に関わる重要な変更点が含まれていた。
修正協議は自民・公明の与党と、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の3野党の間で行われた。合意した修正内容を法案に反映させるためには 再度衆議院での採決が必要となることから、今回は付帯決議として参議院で議決したものを、閣議決定することで法的効力を持たせる方法が採用された。
3野党といっても、いずれも議員が1名から5名しかいない弱小政党であり、その多くはもともと自民党から分派した議員だったこともあり、野党陣営 から見れば敵に塩を送る行為との批判は免れない面はあったが、だとしても実効性のある修正を実現したことについては、名を捨てて実を取りにいったと肯定的に評価することもできるものだった。≫(ビデオニュースドットコム・抜粋)
と云う指摘もあり、仮に国会がまともに機能すれば、行政官僚の裁量行政で、簡単に海外派兵は出来なくなったし、集団的自衛権も行使することは厳しくなったようである。ただ、あくまで、正常に機能すればの話だが。
≪ TPP大筋合意へ 環太平洋に巨大経済圏 甘利氏「準備整う」
【アトランタ=坂口幸裕】環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する12カ国は4日午後(日本時間5日未明)、大筋合意に達する見通しだ。懸案だった医薬品や乳製品分野で米国やオーストラリアなど関係国の協議が決着する方向となった。甘利明経済財政・再生相が明らかにした。TPP交渉の大筋合意により 域内の大半の関税が撤廃され、アジア太平洋地域に世界全体の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大な経済圏が生まれる。日本の経済成長力の底上げを通じ、日本企業の活動や国民の生活にも追い風になる。 4日に現地で記者会見した甘利経財相は「医薬品・乳製品・自動車の原産地規制の残された課題について大きな前進があった」と説明。同日午後に「閣僚会合を開き、大筋合意を発表する共同記者会見を開く準備を整えている」と述べた。
大筋合意ができれば12カ国は来年初めにも協定に署名する。各国の批准手続きを経てTPP協定が発効する見通しだ。
TPPの主軸となる日米も4日中に2国間協議で合意する見通しだ。日本は米国産のコメを年7万トン受け入れる一方、日本製の自動車部品にかかる米国の関税(2.5%)は全品目の8割が即時撤廃される。 12カ国の閣僚は9月30日から米アトランタに集まり、難航していた医薬品、自動車、乳製品の3分野を中心に協議してきた。このうち最難関の医薬品のデータ保護期間で米国とオーストラリアが4日朝にかけて徹夜の交渉を続け、実質8年とする案でほぼ折り合った。8年のうち、3年は新薬承認のための期間とする ことができる選択制を導入する方向だ。
乳製品についても、大幅な市場開放を求めていたニュージーランドと、難色を示していた米国が折り合ったもようだ。「ニュージーランドが米国などと調整を本格化し、大筋合意までに決着できる見通しになった」(甘利氏)という。 一方、自動車の関税撤廃条件では部品の55%以上を域内で調達すれば、輸出の際にかかる関税をゼロとすることですでに一致している。
TPPの全31分野に及ぶ協定では、このほか域内の規制の透明化を進めることや、国有企業への優遇策を縮小・撤廃することも盛り込んだ。ベトナムやマレーシアで外資に対する規制が緩和され、日本企業はアジアに進出しやすくなる。医薬品のデータ保護に加え、著作権の保護や地域の特産品のブランドの保護など、強い知的財産権を認めた。労働者の保護や環境への配慮もうたうなど、これまでの自由貿易協定(FTA)にない広範なルールを定めた。
12カ国の経済規模の8割を占める日米協議では、日本が輸入牛肉や豚肉、鶏肉に課す関税を段階的に撤廃したり、引き下げたりする。ワインなどの関税も撤廃され、消費者は海外産の農産品を手に入れやすくなる一方、国内農家の経営には打撃となる。政府は国内対策を検討し、農業への影響を最小限に抑える。 TPPはシンガポール、チリ、ブルネイ、ニュージーランドの4カ国が結んだ自由貿易協定が始まりで、13年7月に日本が参加して、今の12カ国体制になった。これまで閣僚レベルや首席交渉官レベルの会合を重ねてきたが、医薬品の問題などが懸案となり、合意には至っていなかった。
日米が主導する形で貿易・投資のルールを決めたことは、経済・安全保障の両面で存在感を高める中国へのけん制にもなる。日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉など他の大型通商交渉にも弾みがつきそうだ。 ≫(日経新聞電子版)
最後に「マガジン9」と云うサイトを初めて知ったが、反TPPの人道主義者、山田正彦氏のインタビューが興味深かったので、参考掲載しておく。
≪山田正彦さんに聞いた(その1)
“反TPP”は、 私たちの暮らしを守る闘いなんだ
TPP(環太平洋連携協定)は、太平洋を囲む多国間での「ヒト、モノ、カネ」の流れを自由化するための経済連携協定。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコ、そして2013年7月に遅れて参加した日本をあわせた12カ 国が交渉に参加しています。これまで各国の思惑が入り乱れるなか交渉は難航してきましたが、主導権を握るアメリカからのプレッシャーも強く、いよいよ大筋合意に至るのではないかとも言われています。 TPPは、私たちの暮らし全般にかかわる協定です。しかし、秘密交渉のためにその詳細が知らされることはありません。TPPによって暮らしはどう変わる可能性があるのでしょうか? 今年1月、TPP交渉は違憲であるとして「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」を設立した、元農林水産大臣の山田正彦さんに話をうかがいました。
編集部 2015年1月に、「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」(以下、「TPP訴訟の会」)を設立されました。山田さんはこの会の幹事長でもあり、2010年に 農水大臣だった頃から、超党派議員による「TPPを慎重に考える会」を立ち上げるなど、ずっとTPPに反対の立場をとっていましたが、山田さんが感じてい るTPPの問題点について教えてください。
山田 TPPは「農業と経済の問題」のように思い込まされているけれど、実はそうではありません。TPPは、生活を大きく変えてしまう協定なんです。私はずっとそのことを訴えてきましたが、危機感がなかなか伝わっていないと感じています。
編集部 「生活を変えてしまう」とは、どういうことなんでしょうか?
山田 この協定が結ばれれば、日本の国会で決める法律よりも協定が優位に立ちます。実際に、2012年に発効した米韓FTA(※)によって、これまでに63もの韓国の法律が変えられてしまいました。
なぜなら、米韓FTAにも、TPPと同じくISD条項(※)というものがあるからです。これによって、TPP協定に反する立法により海外投資家や企業が 「損をした」とみなされれば、国家を訴えることができます。実際に、カナダ、メキシコ、アメリカで締結されたNAFTA(北米自由貿易協定)以降、この ISD条項による企業からの訴訟が増加しています。
編集部 ISD条項による訴訟には、どんなものがあるのですか?
山田 有名な話では、カナダ政府が人体に有害な神経性物質MMTを石油製品に混ぜることを禁止したところ、MMTを製品に混入していたアメリカの石油会社が 「利益を損ねた」としてカナダ政府を訴えて、政府が最終的に1000万ドルの和解金を払ったというものがあります。メキシコでも、アメリカの廃棄物処理会 社に、地下水が汚染されるとして埋め立てを禁止したところ、政府が訴えられて1670万ドルの和解金の支払いを命じられています。
審理は非公開で控訴もできないうえに、強制力があります。そして、これまでに米国政府は敗訴したことがないと言われています。偶然なのかもしれませんが…。そんな条項を日本は本当に受け入れていいのでしょうか。
(※)米韓FTA: 米国と韓国の間で結ばれた自由貿易協定。韓国では野党が激しく反対し、反対するデモ隊が逮捕されるなどしたが、2012年3月に発効。 (※)ISD条項:国や自治体が、市場参入規制や国内企業を保護したとみなされる場合に、外国投資家に国家を訴える権利を与える。ISDS条項とも呼ばれ る。日本国内での問題であっても、国内法に基づいた国内裁判ではなく「国際投資紛争解決センター」などの国際仲裁機関で判断が下される。
「安全な暮らし」よりも、企業の利益のほうが優先!?
編集部 海外投資家の利益に反するかどうかが、国内法よりも重要になるということですね。
山田 そうです。米韓FTAでも、韓国の「エコカー減税」の実施が、CO2排出量の多いアメリカ車の販売に支障となるために延期させられています。韓国では、 地方自治体で学校給食に地産地消の食材を取り入れようという動きがありますが、これもアメリカなどの食品会社の参入を阻むものとしてISD条項で訴えられる可能性があるといわれています。
安全な暮らしを守るために「水や食品の安全基準を大事にしよう」、「食品添加物をやめよう」と国内で決めたとしても、それが企業の利益に反するものだと認められたら、弁償しないといけません。「これを決めたら訴えられるのでは…」という心配から、国も自治体も身動きができなくなりかねないでしょう。そうなれば、司法主権、立法主権、行政主権が奪われてしまうのと同じこと。つまり、間接収用ができるということです。このことの深刻さが伝わっていません。
編集部 TPPによって、添加物や遺伝子組み換えの表示義務など、食品の安全基準が下がってしまうのではという懸念もありますね。
山田 アメリカの議会では、いま「アメリカの農産物が日本で売れないのは国産表示があるからだ」という議論があるそうです。もし本当に、国産表示や遺伝子組み換え食品表示などがなくなれば、どうやって子どもたちに安全・安心なものを選んで食べさせることができるのでしょうか。TPPでは21項目24分野と、幅広い内容が交渉されています。食の安全だけじゃなくて、労働、金融、医療、教育、インターネットの著作権、薬の特許など、身近な暮らしにかかわることすべてが変わってしまう恐れがあるんです。
「知る権利」を侵害したまま、進められるTPP交渉 編集部 TPP訴訟の会では、どういった点を違憲だと考えているのでしょうか。
山田 TPPによって、海外投資家や企業の利益が、国民の生命や平和を守る国内法より優先されかねません。それによって憲法25条の平和的生存権が脅かされるということがあります。それから13条の幸福追求権の侵害。福井県などの住民が訴訟を起こし、関西電力大飯原発3、4号機の運転を差し止めた裁判では、判決の根拠に人格権の侵害が指摘されています。TPPでも同じことがいえるはずです。
そしてTPPのいちばん大きな問題に、秘密協定ということがあります。締結後も4年間の秘密保持義務があり、交渉内容は明かされません。国民には内容を知らせないまま、批准後にTPPの内容にあわせて法律も変えていくことになるんです。
米韓FTA締結当初、韓国のコメだけは例外として自由化からは守られたといわれていました。最低限の決められた量だけ輸入する代わりに、輸入の自由化を防いだのです。しかし、実際には、今年から韓国でもコメは関税化されました。これで、他国からの輸入が可能になったのです。いまは高い関税をかけているけれど、もしかしたら20年で関税撤廃という約束なのかもしれない。秘密協定だから、どうなっているのか分からないのです。つまり将来にわたってどういう被害を受けるのかが、国民にも、国会議員にもまったく知らされない。こうしたTPPの秘密交渉は、憲法21条で保障されている「知る権利」の侵害にあたるはずです。
TPP訴訟の会には、イラク派兵違憲訴訟(※)を起した元立教大学教授の池住義憲さんも副代表として参加しています。この違憲訴訟でも、広く一般の方に原告として参加してもらいたい。いまは、まるで政府が主権者みたいに振る舞っているが、日本は紛れもなく立憲民主国家。主権者は、私たち国民なんです。
(※)イラク派兵違憲訴訟:イラクへの自衛隊派遣は違憲だとして訴えた裁判。ネットを通じて賛同する市民1000人以上が原告となった。この訴訟に、 2008年4月に名古屋高裁は「大規模な掃討作戦が展開されているイラク・バグダッドへ、航空自衛隊が武装した米兵を輸送する活動を行なっているのは、憲 法9条1項に違反する」との判決を下した。
編集部 訴訟では、交渉の差し止めを求めていくということでしょうか?
山田 5月頃には訴訟が起せるよう、弁護団で訴状の準備を進めているところです。裁判ではTPP交渉の差し止めと、TPP交渉もしくはTPP自体が違憲である ことの確認を訴えていきたいと思っています。ただし、違憲確認請求と、交渉差止請求だけでは、「訴えの利益なし」(※)とみなされる恐れがあります。
大筋合意が現実的になれば、日本の国家主権が侵害され、国民の生命、健康、自由、財産、幸福追求の権利が侵害されるとして、国家賠償法に基づいた損害賠償請求を行なうことを考えています。国家賠償請求は、国や公共団体に属する公務員が、「1)違憲違法な行為をして、2)国民の具体的な権利を、3)侵害す る」という3要件が満たされた場合に、国が公務員に代わって損害賠償を払わなくてはいけないというものです。判例では国民の権利が侵害され、または侵害される恐れがあるだけで、その原因行為を差し止めることができるとなっています。
まさに今の私たちの権利はTPPによって侵害の恐れが生じていると言えます。その審査の過程で、TPPが違憲であると判断してもらおうというのが狙いです。
(※)訴えの利益:裁判によって、その紛争を解決するに値するだけの利益・必要性。原告の請求に対して、判決をすることが、当事者間の紛争解決に有効・適切であるとみなされないと、訴えは却下されることがある。
医療や教育、食糧は、市場原理主義ではいけない
編集部 知るほどに不安が大きくなるTPPですが、そんなに不平等な協定に日本が参加することに、メリットがあるのでしょうか?
山田 財界や多国籍企業はやりたがっていますよ。あなたが大企業に勤めているなら、もしかしたら多少のメリットはあるのかもしれません。けれど、ほとんどの国民にとってはデメリットのほうが大きいでしょう。
アメリカではNAFTA締結前、自由貿易で輸出が伸びて雇用が増えるといわれていました。しかし実際には、倒産したメキシコ人農民が安い労働力として 入ってきて、20年間で500万人が失業し、4000もの工場がメキシコに移転していきました。アメリカのNPO団体「パブリック・シチズン」のメン バー、ローリー・ワラック氏によれば、アメリカの給与水準は下がり続け、43年前の水準にまでなっているといいます。深刻な格差社会になっています。日本でもTPPをやれば労働者の移動が自由になり、アメリカや欧米が抱えるような問題が生まれていくでしょう。
編集部 アメリカの国民はTPPをどう受け止めているのでしょうか。
山田 アメリカでは国民の8割近くがTPPに反対しています。ニュージーランドでも400万人の国民のうち、1万4千人がTPP反対運動をやっているんです。 でも、人口1億人の日本では、なぜか反対運動が盛り上がっていません。メディアが抑え込まれていて報道しないというのもあるし、秘密交渉で、国民は何が行なわれているのかわからないというのもあるでしょう。
アメリカ政府は、日本に「米韓FTA以上」のものを求めるとはっきりと言っていますが、じゃあその韓国はいまどうなっているでしょうか。いま、韓国では若者が就職できず、格差は開き、医療費もこの3年間で倍近くにあがってきたと言われています。そして、農業者の7割が廃業を決意しています。多国籍企業や外国投資家のような1%のために、残りの99%が犠牲になる。それが新自由主義、グローバリゼーションなんです。
僕はそれに反対しています。教育、医療、食糧とか水とか空気とか、そうしたものは社会的共通資本として守らなければならないものです。そこに市場原理主義をいれてはダメなんです。 (構成/中村未絵・写真/塚田壽子) (その2に続きます)
その2
TPPが妥結しなくても、すでに法整備は進んでいる
――前回は、TPPの問題点と違憲訴訟についてうかがいましたが、TPP妥結にむけて、実はすでにさまざまな法整備が進んでいるといわれていますね。
山田 そう。TPPの妥結にかかわらず、実は日米二国間の並行協議で、法整備は着々と進められています。僕は五島列島の出身だけど、離島には電車やバスがあまりないでしょう? だから、みんな家に何台も軽自動車をもっているんです。でも、最初にTPP交渉が始まったとき、日本はアメリカから、軽自動車の製造を やめろと言われたんですよ。そうじゃないとアメリカ車が売れないからね。日本政府は、なんとか軽自動車の税金を普通車並みにすることで、アメリカと折り合ったのです。それでまず、軽自動車の税金が今年から1.5倍になったという訳です。そうやって政府は準備をどんどん進めていっているのです。
いま、日本では非正規雇用が労働者の約4割にまで達しています。TPPの並行協議ではこうした派遣労働がさらに強化されるでしょう。こうした動きのしわ 寄せを受けるのは若年層です。いま政府は、国家戦略特区での混合診療の解禁、残業代が支払われない高度プロフェッショナル労働制などをやろうとしています。これはTPPで交渉されている内容そのものなんだと思います。
昨年から、アメリカ企業のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)が日本郵政と業務提携して窓口でがん保険の販売を開始しました。さらに、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ3社の株式が今秋にも上場するという計画も発表されています。もし外資がそうした株をもつようなことになれば、百数兆円といわれる郵便貯金が投資資金となって、リーマンショックのときのように紙くずになってしまうのではないでしょうか。何でもアメリカの言いなりになっています。すでにTPP実現へ向けて、かなり進み始めているんです。
日本が目指すべきは、ヨーロッパ型の家族農業
編集部 「TPPで強い農業をつくり、競争力をつけるべき」と言う人も少なくありません。
山田 メディアがそう言っているからね。でも実際には、農業はつぶされますよ。農水省だって、TPPに参加した場合、日本の食料自給率は現行の39%(カロ リーベース)から27%程度に低下すると試算しています。政権は農業所得が倍増するといっているけれど、海外をみればそうなっていないことがわかるはず。 アルゼンチン、ブラジル、インドでは、「収量が増えるから」と多国籍企業が特許をもつ遺伝子組み換え種子が広まりました。その結果、種や農薬を購入し続けるための借金に苦しんでいます。
編集部 日本の農業はどんな姿を目指したらいいと考えていますか?
山田 日本は、ヨーロッパ型の家族農業でいくべきだと僕は思います。かつてはアメリカだって、日本と同じように生産調整をしていたんですよ。ニクソン政権時代にバッツ農務長官が、「食糧はミサイルと同じく武器なんだ」と、補助金で増産させて各国に輸出し始めたんです。補助金つきのアメリカの食糧が入ってきては勝てないから、当然、各国は関税を高くするでしょう? そしたら、「関税を下げろ!」と。それが、アメリカのFTAやTPP交渉なんです。
いまやアメリカは企業型農業で、働く人のことはまったく考えられていません。しかし、フランスの農家収入の8割は所得保障なんですよ。たとえばスイスで、ハイジの世界みたいに斜面でやっているような農業だけでは食べていけないでしょう?アメリカの機械化農業とは規模が違うからです。でも、スイス政府は、標高3千メートル以上のところで酪農や農業をやる人に所得保障を出して農家を保護しています。なぜかといえば、それは、環境保全のためであり、領土保全のためでもあり、食の安全を守るためであり、国を守る食糧自給率の維持のためだからです。
私が農林水産大臣をしていたときは、農家への直接支払いで所得保障を行ないました。そうなれば若い人が農家に戻るようになります。家族と離れて都会に出て安い給料で暮らさなくても、故郷に残って生活をしていけるという設計をしたんです。いまの自民党はこれに反対だけれどね。 狙われているのは、農協の預貯金90兆円
編集部 JA全中(全国農業協同組合中央会)の改革もTPP反対運動を抑える意図があったのでしょうか。
山田 TPP阻止運動をつぶすだけでなく、郵政民営化のときのように、農協の金融と共済と営農の3分割が狙われています。農協改革はJA全中の監査権限撤廃で決着だとメディアはいっていますが、そんな問題ではない。農協には、日本の都市銀行2位となる預貯金90兆円があるんです。営農など利益のでないところは見捨てられて、利益のあるところは外資が口をあけて待っている。
韓国でもそうだったんです。私が訪韓した3年前は、まさに農協の三分割が協議されている最中でした。米韓FTAの前は、農民が10万人、20万人とすごい抵抗運動を行なって、死者まで出ています。僕は日本でも農協が危ないと訴えていたけれど、運動は広まりませんでした。いずれ生活協同組合法にも手をかけてくるかもしれません。協同組合みたいな考え方はないんですよ。全部株式会社化なんです。
韓国の農業はいま非常に厳しい状況です。農協も7兆ウォンの赤字を出していて、政府から補助金の代わりに株式会社化を迫られていると言われています。要するにアメリカの言いなりになっているんです。日本もそう。これじゃ、改憲なんかしなくても憲法が無意味なものになってしまう。とても独立した国とは思えない。
編集部 4年間の秘密保持期間が過ぎて、TPPの内容が明らかになったときに、私たちが「NO」という手段はないのですか?
山田 ありません。というのは、もし変えるなら、残り11カ国すべてが承認しないといけないんです。政権が変わっても同じこと。TPPは国として決めるものだから。でも、そんな馬鹿なことがあっていいはずがない。
編集部 今後、予想される動きについて教えてください。
山田 当初、3月にも大筋合意と言われていましたが、まだ延びそうです。マレーシアやベトナムは国営事業があるし、知的財産権の分野ではマレーシアも非常に抵抗しています。しかし、各国はいずれ折れるんじゃないかな。あとはアメリカの議会で大統領に交渉権を与えるTPA法案(※)が通るか通らないかが鍵になっています。*筆者注:TPAは通過
現時点ではアメリカ議員の中にも反対している人は多い。でも、外国企業もアメリカの政治家に献金できるようになったから、今後どうなるかわからないね。 TPA法案が通らないと、議会の反対も強いからTPPそのものが流れる可能性もあります。大統領選が本格化する夏までにまとまらなかったら、その可能性は 高い。
(※)TPA法案:アメリカの憲法では、外国との通称の取り決めをする権限は、大統領ではなく議会にある。それでは交渉上不都合があるため、アメリカ議会が法律によって大統領に通商交渉の権限を与えるのが、TPAである。
編集部 TPPが妥結したとしても、アメリカ議会にはまだ「サーティフィケーション(承認手続き)」というものがあるそうですね。
山田 日本の国会議員でもそのことを知らない人がいるのですが、最近になってこの「承認手続き」を警戒する声が高まっています。アメリカ議会には、相手国の国内法や商慣習がTPPで決めた内容に合っているかどうかを審査する権利があるといわれています。もしTPP協定を結んでも、「日本はちゃんとやっていない」とアメリカ議会が判断すれば、アメリカの要求に合うように日本が変更をするまで、アメリカは批准しないということが可能なんです。アメリカが批准するために、さらに追加の要求を押し付けられる可能性があります。なぜアメリカだけがそんなことができるのか、それは分からない。巨大な勢力と軍事力があるからでしょうね。
編集部 どうやって反対していったらいいのでしょうか。
山田 交渉に参加している各国の国民は、TPPがおかしいというのはわかっています。日本だけが、まだそのことをわかっていません。だから、もっと伝えていか ないといけない。我々がまさに主権者なんだということを訴えていかないといけないんです。僕は今、出来るだけいろいろなところへ話をしにまわっています。 少人数でも集まってくれれば、時間のある限り弁護団で手分けして行きたい。日本でも反対の声があるんだと知らしめたいんです。
300円の印紙を貼れば、誰だって「TPPの秘密交渉の内容を明らかにしろ」と政府に情報公開を求めることができます。そうやってできることから参加してほしい。知るだけじゃだめなんです。実際に行動して、とにかく動いていかないと。そして、差し止め訴訟、国賠法で憲法違反だと認めてもらう。 主権者は国民。まだチャンスは残っている。
編集部 絶望的な気持ちになりそうですが、TPPが批准する可能性はどれくらいですか?
山田 いやいや。闘いはまだこれから。チャンスはあります。大筋合意して基本調印したとしても、批准までに1年くらいはかかります。それまでに原告を1万人くらいにして、全国的な組織にしていきたい。時間がたてば、TPPがうさんくさい協定だってことが、みんなにわかるようになるはずです。ニュージーランドでも、オーストラリアでも反対運動が起きています。日本の運動だけが低調なんです。各国の議員にも反対している人が多く、国際的な連携もとっています。まだ チャンスはあります。僕は、この協定が通るか通らないか、半々だと思っていますよ。いまの状況のままなら交渉は漂流するでしょう。ただし、日本政府もアメリカも必死だからね…。
TPPはいまの生活を守る闘いなんです。農業や経済だけじゃありません。それを僕はずっと訴えてきました。一人でも多くの人にTPPを自分の問題として考えてほしい。ぜひ訴訟にも原告として加わってください。
≫(マガジン9:構成/中村未絵・写真/塚田壽子)
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