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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/245872/100100007/?P=1
難民支援の実績を台無しにした安倍首相の「あの」一言
「トップの発するメッセージ」として3つの問題
米ニューヨークの国連本部で演説した安倍晋三首相。日本として安保理の常任理事国入りをめざす考えを表明し、積極的に国際貢献していくと宣言したものの、結果的に国際メディアが注目したのは、「日本は難民より国内問題が先」というメッセージでした。
幼子を連れ一家で命からがら逃げてくる大量の難民。その様子を報じ続けている世界のメディアを通じて発信される日本のメッセージとして、本当にそれは意図したものであり、かつ、ふさわしいものだったのでしょうか。
実際に何をどう伝えていたのかを細かく見ていくと、受け止め方に大きなギャップを生む表現の存在にたどり着きました。今回はこの問題をいつものように動画を見ながら、考えてみたいと思います。
ネット動画はアイデアの宝庫、それでは今週もいってみましょう。
○伝えられるメッセージの内外格差
日本時間9月30日朝、NHKがニューヨークから生中継もした安倍首相の記者会見。そこで外国人記者による質問への答えに、大きな注目が集まりました。
国際メディアはこれについて、
「安倍首相:日本は難民支援の用意はあるが、受け入れはしない」(ワシントンポスト/AP通信)
「安倍首相、日本はシリア難民受け入れより国内問題の解決が先」(ロイター通信)
「日本、シリア難民受け入れの前に、国内問題の対応が不可欠と話す」(英ガーディアン)
などといったタイトルで報じました。詳しくはハフィントンポストにまとめられています(安倍首相「難民受け入れは?」と問われ「女性の活躍、高齢者の活躍が先」)。
これに対して、日本国内の報道は当初、このメッセージを大きくは捉えませんでした。
「安倍首相:内閣改造「10月7日」を明言…「骨格は維持」(毎日新聞)」
など会見後の報道は国内政治の話がメインで、会見では資金援助と安保理の常任理事国入りについて語ったことに触れた程度でした。
もっともこの難民問題への対応については、記者会見に先がけて行なわれた国連総会における安倍首相の演説に含まれており、記者会見で初めて内閣改造の情報が明らかにされたこともあって、そのような扱いになったことは想像に難くありません。
実際、国連の演説で安倍首相が、日本として、難民問題に注目し、今年は約790億円(昨年実績の3倍)の資金を拠出して援助することを表明。日本が安全保障理事会の常任理事国入りを目指す考えを明らかにしたこと自体は、その前の段階で報じられています。
国際メディアの報道の影響もあったのか、翌日になって国内でも難民問題を社説で取り上げはじめました。
首相国連演説 難民支援を多角的に強めたい(読売新聞)
安倍国連外交 何が発信できたのか(毎日新聞)
日本も他人ごとでは済まない難民問題(日本経済新聞)
昨年は5000人にのぼった難民申請に対して、11人しか難民と認定されていないことなどを紹介しつつ、「首相は演説の最後を、「積極的平和主義」を掲げ、国連の安全保障理事会を改革し、常任理事国として貢献していきたいと締めくくった。その意欲に比べ、発信したメッセージは内向きでさびしい」(毎日新聞)などと印象を伝えています。
しかし日本として考えた時の大きな問題は、安保理の常任理事国入りをめざして積極的に国際貢献を果たしていくと宣言する一方で、国際メディアからは「日本の首相は難民よりも国内が先だと語った」と報じられてしまうことをどう考えれば良いのか、ということです。
○問題の発言を見てみましょう
本当に、世界に向けて、「難民よりも国内問題が先だ」と伝える意思があったのかどうか。
「問題の発言」を実際に見てみることにしましょう。
2015 09 30 安倍首相内外記者会見(ニューヨーク) 2
ここで、ロイター通信の記者は次のような質問をします。
― シリア難民の問題について伺いたいと思います。新たにイラクやシリアの難民に資金援助を行うと発表なさいました。日本が一部の難民を他の国と同じように受け入れる可能性について、お考えをお聞かせください。
これに対して、安倍首相は次のように答えます。
― 「今回の難民に対する対応の問題であります。これは、まさに国際社会で連携して取り組まなければいけない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々はいわば移民を受け入れる前にやるべきことがあって、それは、女性の活躍であり、あるいは高齢者の活躍であり、そして出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります。同時に、この難民の問題については、日本は日本としての責任を果たしていきたいと考えております。それはまさに難民を生み出す土壌そのものを変えていくために、日本としては貢献をしていきたいと考えております」
ここで私は、2014年のダボス会議の悪夢を思い出しました。
安倍首相は、2014年1月のダボス会議の際、「日本と中国は武力衝突に進んでしまう可能性はないのか?」と聞かれ、その答えによって国際メディアに「日中衝突」と大きく報じられた過去があります。
この時は、もちろんそういう意味でもなく、そう伝える意図もなかったにも関わらず報じられてしまったもので、国内ではその後、通訳の問題や外国人記者の無理解などが原因と考えられるなどとし、「なぜそんな報道になるのか理解できない」と大きな問題に発展したのですが、私は単純に「伝え方が悪い」ということを「安倍首相も失敗した リーダーに不可欠な「食べやすい言葉」とは」というコラムに書いて指摘しました。
今回もよく似た問題が起きています。
原因は、元々の意図と伝わるメッセージの間に、大きなギャップが生まれる表現を使っている、ということです。平易に言えば、「答え方が悪い」ということです。
○難民は人口問題か人道問題か
具体的にどういうことかを見ていく前に、難民問題について動画で少し学んでおくことにしましょう。
英語の動画ですが、日本語のテロップが表示されるようになっています。
内容はこうです。
2015年夏、ヨーロッパは第二次大戦後最大の難民問題に直面している
主な理由は、シリアから難民があふれ出ていることである
長らくシリアを治めていたアサド政権が不安定になり、内戦が広がった
IS(ISIL)がその間に勢力を拡大、化学兵器の使用、大量虐殺、拷問、戦争犯罪が市民に対して繰り返された
そして国民の1/3が国を追われ、400万人が難民になった
多くは近隣国の難民キャンプにいるが、国連機関はこの規模の難民にとても対応できない
結果として難民キャンプは大量の人であふれ返り、ケアが十分に行き届かず、飢餓や疾病などで絶望的な状況となり、難民の一部がヨーロッパに亡命の道を求めはじめた
当初、ヨーロッパは難民の受け入れに消極的であり、難民がたどり着いた国にもそれぞれ国内に大きな問題を抱え、難民を受け入れる余裕はなかった
世界の認識が変わったのは、トルコの浜辺に打ち上げられた少年の死体が見つかったという1枚の写真によってだった
「もう悲劇は見たくない」として、ドイツは2015年、80万人の受け入れを表明。これはEU全体が2014年に受け入れた総数を超える規模である
EU諸国にも働きかけが広がっている
このあと、難民受け入れに対する一般的な懸念と現状についても整理されています。そして、難民は自分たちとほとんど変わらない人間で、現実的な受け入れ能力としても、もちろん人道的な観点からも、見捨てるわけにはいかない、と訴えています。
さまざまな報道をもとにまとめられた解説動画であり、国際報道から生まれる平均的な問題意識や位置づけを理解する上で参考になります。
ここで重要なのは、近隣諸国も決して余裕があって難民を積極的に受け入れているわけではなく、あくまで「人道的な観点」から「もう悲劇は見たくない」として受け入れを始めている、ということです。
少子化という「人口問題の解決」のために難民を受け入れているわけではないのです。
○安倍回答の問題点
さて、これを踏まえた上で安倍首相の発言に戻ります。
「日本が一部の難民を他の国と同じように受け入れる可能性について、お考えをお聞かせください」
これが質問です。
上の事情を踏まえて、一言で言えば、「人道的な観点」から日本がどんな積極性を見せるのかが、「最も国際社会が知りたい」日本のメッセージというわけです。
そしてこれに対して安倍首相は言いました。
「今回の難民に対する対応(中略)は、まさに国際社会で連携して取り組まなければいけない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々はいわば移民を受け入れる前にやるべきことがあって、それは、女性の活躍であり、あるいは高齢者の活躍であり、そして出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります」
この回答は、トップの発するメッセージとして、3つの観点で問題があります。
1つは、認識のギャップです。
人道問題と受け止めている国際メディアを相手に対して、人口問題という観点を示したこと。そして難民は優先順位が低いことを極めてドライに伝えてしまったこと。おそらくこの認識の違いは、大きなショックを与えたであろうと感じます。
2つめは、「シリアの難民の問題」と指定して質問されたにも関わらず、命の危険にさらされて他の選択肢がない難民と、主に自由意志でやってくる移民を含めて答えていること。
なぜここで一般的な移民問題について回答するのか、質問がきちんと理解されていないのではないかという不安・不信感を持たれます。
さらに3つめ、決定的に問題なのは、「人口問題として申し上げれば」という条件付きの表現になっていることです。
具体的な問題に対する問いに対して、条件付きで答えるのは、トップのコミュニケーション上、タブーの1つです。結論が決まっておらず、積極性のない、信頼度の低い、逃げの答えに受け止められるからです。
結果として、受け止め方にも大きな差が生まれてしまう表現になります。
もちろん、日本語表現としては、「仮にこの点から見た時には」とか「この観点から言えることは」という、条件を仮に想定した時の考え方を示す表現に受け止められますが、国のトップの表現として翻訳される場合には、必然的にニュアンスが変わります。
国会答弁ではテクニックとして有効に機能しても、国のトップが国際社会に向けて発信する場で使うものではありません。
これを受けて、質問した記者のロイター通信が伝えた記事はこうです。
「安倍首相はこう答えた。難民問題は人口問題(an issue of demography)である。難民を受け入れる前に、女性や高齢者による活躍が必要であり、出生率も上げねばならない。移民を受け入れる前にたくさんやることがある、と」
○先に質問に一言で答えること
では、どうすれば良かったのか。答えはシンプルです。
「難民受け入れの可能性は?」と聞かれて、誤解のない回答は、
可能性は「ある」
可能性は「ない」
何とも言えない
の3つしかありません。
これ以外の言葉を並べても、スムーズに受け止めてもらえないのです。
今回、積極的に国際貢献を果たす意思があることを表明していますから、難民受け入れについてもその方向性に沿ったアプローチを期待されます。
その話の流れの答えで考えると、「国内問題が解決してから考える」という答えは非常にあいまいですが、基本的には「可能性なし」と受け止められたのでしょう。
期待した側には随分ガッカリな答えです。
ガーディアンは、冒頭から皮肉たっぷりに書いています。
「日本は難民の受け入れを検討する前に、国民の生活水準を向上させねばならないのだ」
○国連演説の訴えが吹っ飛んだ
実際の国連総会での演説の内容を追うと、記者会見でのこの一言が、演説の内容を台無しにしていることがはっきりします。
国連総会では、難民の問題について、日本が果たしうる役割や場面について細かく、情感たっぷりに伝えています。
― 一枚の写真に出会いました。ある難民女性の、カバンの中身を写した写真です。手荷物をたった一つだけ持って難を逃れるとき、人はカバンに、何を詰め込むのか。ダマスカス南方にあるパレスチナ難民キャンプを逃れ、ゴムボートで地中海を渡った二十歳(はたち)の女性、アベーサ(Aboessa)は、多くを持ち出せませんでした。写真に写っているのは、生後10ヵ月の、娘のものばかりです。靴下の替えが一足。一つの帽子と一ビンのベビーフード。眺めるうち、私の目は、ノートのような何かに釘付けになりました。
ビニールで大切に包み、水がかかっても大丈夫なようにしてあるノートをよく見ると、それは、私たちがシリアの難民キャンプで配った「母子健康手帳」だったのです。
日本では、懐妊を知った女性は手帳を貰います。母子の健康を長く記録するノートで「母子健康手帳」といい、この制度は70年以上続いています。手帳が書き留めた身長や体重を見て、わが子の成長に目を細める母のうち一体誰が、その同じ子が、成長したのち、恐怖の使徒となるのを望むでしょう。手帳は母の、「わが子よ、健やかなれ」と願う、祈りの記録です。それは力を帯びる。この子に、命を粗末にはさせじと、母親に念じさせる力です。
絶望や恐怖を生む土壌を、母の愛で変えたいと願えばこそ、私たちは、パレスチナや、シリア、ヨルダンの難民キャンプで、母子健康手帳を配ってきました。
そんな願いのこもった手帳を、脱出行(こう)のさなか、大切に持ち続けた女性が確かにいた。
これまでの日本が行なってきた支援や取り組みが、国連コミュニティが新たに設けた開発目標にしっかり組み込まれたこと、目に見える形で効果として表れてきたことなどを語っています。
難民の問題について日本がどうしてきたか、どうしたいと考えているかはこのスピーチの中にしっかりまとめられています。
なのに、記者会見で最も伝えたいはずの難民支援について、演説の内容を反映した答えができなかった。
国内では、今回の訪米中に金融関係者に向けて、経済重視のメッセージを伝えるべく、「エコノミー、エコノミー、エコノミー」とスピーチしている様子が繰り返し報じられました。
「経済問題の認識を伝えるための機会として申し上げるならば」、成功だったのかもしれませんが、
「3度も国連で演説する貴重な機会を得た首相が国際社会に貢献する意思を発信するメッセージと、その効果という観点で申し上げるならば」、まったく残念でなりません。
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