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2015/09/27
<アベノミクス相場を取り巻く風向きは変わり始めている。
<600兆円、実現性に疑問>
新3本の矢のうち、第1の矢である「強い経済」政策。安倍首相は名目GDP(国内総生産)600兆円という目標を掲げた。7月に公表された政府の中期財政試算において示された「経済再生ケース」では、年率3%の名目成長を続けて2020年度に594兆円になると試算しており、全く新しい数字が出たわけではない。しかし、その実現性に対し、多くの市場関係者が疑問視している。
同ケースでの経済成長率は名目3%だけでなく実質2%が前提。消費者物価指数(CPI)は2%近傍で中期的に推移する姿を描いている。だが、中国をはじめとする新興国経済が転機を迎え、世界的にディスインフレ圧力が強まるなかで、これらの高い目標を達成するのは容易ではない。前提成長率が実質1%弱、名目1%半ばの「ベースラインケース」では、2020年で552兆円にとどまる。
子育て支援や社会保障の充実という新しい第2、第3の矢の方向性は、市場でも賛同の声が多い。内需が弱々しいのは将来への不安があるためだ。人口問題や年金問題が解決に向かえば、国内消費も上向きの力が働きやすい。しかし、市場が求めているのはその具体策。総論だけでは、市場は期待さえも織り込めない。
政策の整合性にも疑念が生じている。子育て支援には資金が必要だ。少子化対策を成功させたフランスでは、大胆な財政出動による手当が功を奏した。保育所の充実などインフラ整備も欠かせない。社会保障を充実させるにも資金面の手当てが必要だろう。
しかし、安倍首相は一方で17年4月の消費増税は予定通り実施するとしている。第2、第3の矢と財政再建をどのように両立させるのか、その「解」はまだ見えない。
<金融緩和、市場の注目は「旧」第1の矢>
市場の強気派が期待するのは、新第1の矢に埋もれてしまった旧第1の矢、金融政策だ。旧3本の矢の検証のないまま、新政策方針が打ち出されてしまったが、金融緩和、財政出動、成長戦略の3政策うち、「市場にとって」最も効果的だったのは日銀による2度の金融緩和策であったというのが投資家のコンセンサスとなっている。
25日の市場で、新3本の矢への評価も高まらず、日経平均<.N225>は一時マイナスに沈んでいた。しかし、安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁が同日昼に首相官邸で会談したことが伝わると、追加緩和期待が高まり、一気に300円高まで上昇。その潜在的効果をあらためて示した。
しかし、その市場ですら、追加金融緩和によって日本の潜在成長率が高まったり、輸入インフレではない物価上昇が起きると期待する声は少ない。「外国人投資家はアベノミクスというコンセプトで日本経済を語らなくなっている。もっぱら話すのは、コーポレート・ガバナンスなどミクロ政策」とシティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は言う。
アベノミクス相場の第1ステージを2012年11月から今年6月までとするなら、ドル/円<JPY=EBS>は80円から125円、日経平均<.N225>は8660円から2万0950円まで上昇した。
それをけん引したのは外国人投資家だが、2015年の日本株売買はトータルで売り越しに転じている。足元の株安の割に、ドル/円が120円台で底堅く推移しているのは、米利上げ観測というドル側の要因があるためだ。
<企業業績、揺らぐ「心の支え」>
「投資家の心の支えであった企業業績が怪しくなってきている」と、しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏は指摘する。1ドル120円の水準が維持されれば、今年度も10%程度の増益が期待できる。しかし、あくまで為替以外が同じであればという前提付きだ。外需が大きく減速したりすれば、その限りではない。
米重機メーカーのキャタピラー<CAT.N>は24日、2015年の業績見通しを下方修正、2018年までに最大1万人の人員削減を実施する方針を発表した。日本でも25日の市場で、好業績銘柄の代表格だった日本電産<6594.T>が業績警戒感から5%超の大幅安となった。
大和証券・投資戦略部シニアクォンツアナリスト、鈴木政博氏の集計では、東証1部企業の業績予想修正は、9月に入ってから4週連続で下方修正が上方修正を上回っている。内需企業は上方修正がまだ多いものの、グローバル企業での下方修正が目立つという。
世界的な金融緩和と景気回復を追い風としていたアベノミクス相場。しかし「風」の向きは変わりつつある。日本の経済や企業の足腰がまだ弱い中で、逆風に立ち向かうのは容易ではない>(以上「ロイター」より引用)
長々とロイターの記事を引用したのは一部のマスメディアとはいえ、やっとマスメディアにも安倍政権の経済政策に対して疑問が呈されるようになったからだ。安倍氏の経済政策に対する控えめな批判記事をすべて是認するわけではないが、国民にアベノミクス煽り一色だったマスメディアの論調がやや正気を取り戻してきたのは歓迎すべきことだろう。
何よりも実体経済に対する的確な政策が何もないアベノミクスに煽られるだけだった三年近くのロスタイムは日本経済に深刻な影を落としている。日銀の異次元金融緩和と円安という金融政策のみの「経済対策」は裏返せば安倍自公政権としては何もやっていないということだ。実際に安倍氏が口先で「第一の矢だ、第二の矢だ、第三の矢だ」と仰々しく発表した政策は何も実施されていない。
その反面、財政支出だけは「財源」なくも果敢に実施された。大盤振る舞いの公共事業はかつての経済成長のエンジンどころか呼び水にすらなっていない。かえって民間建設土木事業費の高騰を招いているだけだ。
そして消化不良の公共事業費は財政当局へ返金されることなく、官僚たちの判断でボコボコ作られた基金は官僚たちの使い勝手の良い財布に化けている。当然ながら、それらの負担は国民への増税で賄われている。それでも国民が怒りをあらわにしないのは政治家たちの無為無策と、そのことに関するマスメディアの報道の少なさが原因ではないだろうか。
一時的に出生率が上向いたが、それは民主党政権による「子ども手当」への期待があったからだろう。少子化対策に即効性はない。政策が打ち出されて、何年か後でなければ出生率は上向かない。なぜなら子供が誕生するには女性が妊娠しなければならないし、その限りで一年間のタイムラグが出る。しかも妊娠するためには若い男女の出会いと、子供を育てようとする合意が形成されなければならないからだ。
実施されたのが半額の1万3千円だったとしても、子ども手当を国が支給する、という政策は画期的だった。それが政治家たちの「未来への投資」だという覚悟もなく、マスメディアによる「財源なきばら撒き」だという批判の大合唱の下に「子ども手当」は潰えてしまった。何とも愚かなマスメディアと政治家たちだったことだろうか。そして再び、安倍氏が少子化対策を口にしているが、具体的な政策は提示されていない。「未来への投資」に対しても安倍氏は口先でゴチョゴチョ言えば済むとでも考えているのだろうか。
経済政策はさらに深刻だ。アベノミクスはアホノミクスで実質的な政策として、この三年近くの政権の間に何もやっていない。「経済特区構想」は経済の牽引役として不完全だが、機能として不全ではない。少しは効果が見込めるが、それですら地域決定の話も聞かないし、どのような産業振興をどの程度の規模で行うのかも提示されていない。
提示されていないから実施段階には到っていない。経済効果が出るまでさらにタイムラグが必要だが、国民は安倍氏の口先の政治と今後何年付き合わされるのだろうか。ただ、防衛関係に関しての予算増と米国などへのオスプレイ高額買い入れなどで気前よく札束を支払っているが、オスプレイで日本の国防がどれほど強化されるというのだろうか。それは自衛隊を海外の紛争地へ運ぶ「戦争法」の実施のための道具購入の一環でしかない。
2020年に600兆円のGDPを実現するためには毎年3%以上の経済成長が必要だ。それが到底できないのは常識ある経済学者の見方だ。さらに2017年4月に消費税が10%に増税されれば、今ですら対前年比マイナスに陥っている消費経済がさらに落ち込むのは目に見えている。
経済の主力エンジンたる個人消費を冷やして、それでも日本経済は拡大する、と600兆円のGDPを目標に掲げる安倍氏は経済が全く何も解っていない愚者なのか、それとも承知の上で口先で主張する大法螺吹きなのかのいずれかだ。
中国経済が崩壊しつつある現在、それを見越した投資が国内で行われるべきだが、そうした先を見通す能力を安倍自公政権に求めるのは木に登りて水を求めるようなものなのだろう。私は安倍自公政権成立当時から「Uターン投資減税」を主張し続けてきた。国内産業の空洞化を止めることと空洞化した産業基盤を取り戻さなければならない。中国という巨大な「組立工場」と「素材製造」経済国が崩壊している現在、日本が再び部品製造から製品組立までの産業基盤の再構築を図らなければならない。
ある大手企業が白物家電から撤退する、とのうわさが流れているが、それが本当だとしたら、その判断は真逆だ。世界市場に大量に溢れている「安かろう悪かろう」の中国製品はやがて姿を消す。その穴を埋めるのは他の後進国で組み立てた製品ではなく、日本製の品質の良い信頼性の高い製品だ。そのために国内投資を早くから促進しておく必要があった。
国際分業論を唱える連中は手早く企業の最大利益を求める企業経営者たちを愚者にする悪魔の囁きをする連中だ。それにより短期的に国内産業は空洞化したし、長期的に見れば生産技術の継承が途切れる大失態を犯していることに気づくだろう。
生産現場を持たない工業技術の進化はない。カイゼンも生産現場からもたらされてきてものだが、日本国内生産現場と中国へ進出した生産現場との相違を肌で感じていない経営者がいるとしたら、彼は生産現場に足を運ばない愚かな経営者でしかない。企業体質を落としたくなければ、組立工場も国内に置いておくべきだ。そうした自明の理すら解らない経済評論家が大きな顔をしてグローバリズムや国際分業などを吹聴しまくった。なんと馬鹿げた時代を日本は過ごしたものだろうか。国民も少しは正気を取り戻して、国民の生活が第一の政治を行う政治家を選出しようではないか。
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