25. 2015年9月25日 07:38:57
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変わる安保 リスクどう向き合う 2015年9月23日日本が初めて自衛隊を派遣したカンボジアの国連平和維持活動(PKO)で、初めての犠牲者が出たのは1993年5月のことだった。軽井沢で静養中だった宮沢首相のもとに、文民警察官として参加中の高田晴行警部補(当時)が死亡した、という連絡が入った。初のPKOで死者を出した衝撃は大きく、政府・与党からは「PKO活動を中止すべきでは」という声が上がったが、政府は派遣を続行した。宮沢氏は後に、当時のことを「東京にとって返す車の中で、そういうわけにはいかないと決心し、首相官邸に着くとすぐ河野(洋平)官房長官らに伝えた。日本の国際的な信用を考えたからだ」と振り返った。 安全保障関連法を巡る国会審議では、同法に基づき海外派遣される自衛隊員も「リスク」に焦点があたった。リスク増大を指摘する野党に対し、安倍首相は「リスクを低減させる努力を行う」などと答弁したがリスクそのものを巡る議論は深まらなかった。 日本と同様、侵略や敗戦の過去を背負うドイツは、1990年代以降、多くの犠牲者を出しながらも、数千人単位で連邦軍兵士を派兵・派遣してきた。北大西洋条約機構(NATO)における「軍事貢献」大国となったドイツは、要員のリスクとどう向き合ってきたのか。 2015年9月10日、ドイツ西部・ミュンスター。ドイツ連邦軍とオランダ軍が中核を占める北大西洋条約機構(NATO)即応軍本部は、緊迫した空気に包まれていた。 ウクライナ情勢を巡るロシアの脅威に対抗するため、NATOは即応体制の強化を進めている。同部隊でも、30日はかかるとされる部隊展開までの期間を5〜10日に縮めるため、大規模な演習が予定されているのだという。独連邦軍のフォルカー・ハルバウアー中将は、「世界のどこであっても、必要ならば軍事行動を実施できるよう、準備を整えておく必要がある」と語った。 戦後、基本法(憲法)で集団安全保障システムへの参加を認めたドイツは、再軍備とともにNATOに加盟。NATO域外への連邦軍の派遣は、長い間タブー視されていたが、湾岸戦争を契機に役割分担を求める声が国内外で強まると、コール政権は方針を転換し、独連邦軍はカンボジアPKOなどに参加した。 野党などは「憲法違反」と批判したが、1994年に連邦憲法裁判所が「集団安保システムの機能変化に応じ、連邦軍の活動範囲も変わるべきだ」との憲法解釈を示すと、国会論議の焦点は「違憲論」から兵士の「リスク」に移った。1995年の旧ユーゴスラビア・ボスニア紛争への派遣では、野党からの「もし兵士のひつぎが到着したら、どうするのか」との追及に、外相が「そうなった場合は、国防相とともにひつぎの傍らに一晩立ち続け、死者を悼む」と答弁する場面もあった。 2001年から始まったアフガニスタンでの平和維持活動では、タリバンとの交戦などにより、連邦軍兵士55人が死亡した。ドイツ国民は衝撃を受けたものの、政治レベルで撤収論が広がることはなく、議会下院は2014年12月、アフガニスタンから国際治安支援部隊(ISAF)が撤収して以降も、連邦軍850人を駐留させることを賛成多数で承認した。 独国会の対応について、政策研究大学院大学の岩間陽子教授(国際政治学)は、「与野党が機密を共有し、兵士のリスクについても議論して派遣地域などを決めていることが理由だ」と分析する。 安全保障関連法により、他国との連携による平和貢献の範囲は大幅に広がる。自衛隊の海外派遣については、ドイツ同様、国会の事前承認が前提だ。ドイツ国際政治安全保障研究所のマルクス・カイム博士は「紛争地で軍事的に行動することは、リスクを負うこと。派遣の際に最も大切なのは、政治がゴールを決めることだ」と指摘している。 *国際治安支援部隊(ISAF) 2001年12月の国連安全保障理事会決議に基づき、アフガニスタンの治安維持や国軍、警察の訓練を担当する多国籍部隊。2003年8月以降はNATOが指揮権を持った。国際テロ組織アル・カーイダや、同組織と連携するタリバンの掃討を実施。2010年のピーク時には約50か国が参加し、兵力は計約14万人に上った。2014年12月末で戦闘任務を終了し、アフガンに治安権限を委譲した。 変わる安保 日米の連携「抑止力」に 半島有事やミサイル防衛 2015年9月24日 2015年8月20日、韓国と北朝鮮の軍事境界線で砲弾が飛び交った。北朝鮮の金正恩第1書記はは「準戦時態勢」を宣言し、数十隻の北朝鮮潜水艦が港を離れた。米韓連合軍も5段階の監視態勢を「3」から「2」に上げ、米韓が北朝鮮軍とにらみ合う事態となった。 2015年8月21日夜から山梨県鳴沢村の別荘で休暇を過ごすはずだった安倍首相は、急きょ予定を変更して都内で待機。防衛省も、自衛隊機を出動させて電波情報などを集め、米軍とも情報を共有して警戒に当たった。結局、この時は軍事衝突には至らなかったが、北朝鮮は2015年10月10日の朝鮮労働党創建70周年に合わせ、日本全土を射程に収める長距離弾道ミサイルの発射実験を行う可能性を示唆している。朝鮮半島情勢は「今そこにある危機」であり、日米の切れ目ない連携が問われる場面だ。 朝鮮半島の核危機を受けて1997年に改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)も、半島有事での日米連携がテーマとなったが、集団的自衛権を巡る憲法上の制約が大きな壁となった。協力分野を洗い出すための図上演習では、米軍相手にまかれた機雷の除去など集団的自衛権に抵触する活動はどれも断らざるを得なかったと、当時の海上幕僚監部防衛部長だった斎藤隆・元統合幕僚長は証言する。 安全保障関連法の成立に伴い、こうした制約は取り払われる。日本の国民生活が深刻・重大な被害を受ける「存立危機事態」と認定されれば、機雷除去はもちろん、弾道ミサイル発射を警戒中の米イージス艦や、半島から退避する日本人を乗せた米輸送艦の防護など、集団的自衛権行使を伴う協力が可能だ。 半島有事だけではない。巡航ミサイル開発に力を入れる中国に対しても、日米の一体運用が大きな「抑止力」となる。 2015年6月、米海軍横須賀基地(神奈川県)に最新鋭のイージス艦「チャンセラーズビル」が配備された。空中を監視する早期警戒機などの情報を瞬時に共有し、イージス艦単体では捉えられない水平線の先のミサイルを撃ち落とす新システム「NIFC-CA(ニフカ)」に対応した艦艇だ。今後は自衛隊も、集団的自衛権に基づきその一翼を担うことができる。実際、防衛省はニフカに対応可能な早期警戒機「E2D」の導入を進め、新たに建造中のイージス艦2隻にも、ニフカに関連する最新の情報共有システムを搭載する方針だ。 「米国は世論の国。近海で日本を守る米艦ぐらいは最低限(自衛隊が)守らないと、米政府が日米安保条約の義務を果たそうと思っても、(世論の反発で)果たせないかもしれない」 安保関連法の成立を目前に控えた2015年9月13日、自民党の高村正彦副総裁は法整備の意義をこう強調した。 *存立危機事態 憲法9条の新たな解釈に基づき、集団的自衛権の限定的な行使が認められる事態として安全保障関連法で規定された。米国など日本と密接な関係にある国が第三国から攻撃を受けたことによって日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合を意味し、自衛隊に防衛出動を命じて武力を行使できる。政府は主に、朝鮮半島有事のように日本への攻撃が差し迫った状況を想定しているが、中東・ホルムズ海峡の機雷封鎖のように、地理的に離れた場所でも被害が深刻・重大な場合は要件を満たしうると説明している。 「安全保障関連法案」成立前 「言うだけ平和」が国を滅ぼす 集団的自衛権なくば崩壊!? ミサイル防衛の現実 ここまで進んでいる日米データリンク 米艦が破壊されれば日本のイージス艦も 第2次安倍政権にとって最大の政治課題となった安全保障法制は、法案に内在する「集団的自衛権行使の限定容認」をめぐって違憲論等が噴出。2015年5月15日の法案の国会提出から審議時間116時間を超えたところで、国会内外での怒号の中、衆議院を通過した。議論の場は参議院に移った。 集団的自衛権の解釈は、国によって、必ずしも一致せず、日本政府の解釈も時代とともに変化してきた。日本政府の最新の個別的・集団的自衛権の解釈は「個別的自衛権とは自国に対する武力攻撃を実力をもって阻止することが正当化される権利」「集団的自衛権・・・は、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力をもって阻止することが正当化される権利」(岸田文雄外相、衆院平和安全法制特別委員会2015年6月19日)だ。 今国会の衆院平和安全法制特別委員会では、日本の安全保障に関する興味深い見解が政府から示されていることには注目すべきだろう。 安保関連法案では自衛隊法76条に、自衛隊が防衛出動する場合について「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(存立危機事態)を付け加えようとしている。この部分が、集団的自衛権行使の限定容認に当たるとされているわけだが、2015年6月16日、同委員会で維新・木下智彦衆議院議員から「どうして集団的自衛権の限定容認が必要なのか」と質された安倍晋三首相は、北朝鮮を例に挙げ、「北朝鮮というのは、弾道ミサイルを数百発いまや配備をしている。それに、核兵器等の大量破壊兵器を載せる技術についても、進歩させている」との現状認識を示し、その対策としてのミサイル防衛について、こう述べた。 「日本はミサイル防衛システム、(中略)これはまさに、米国との共同対処に近いものになるわけでありまして、米国からの情報をもとに対応していくわけで、例えば、日本もイージス艦を持っているわけでございますが、米国も日本近海にイージス艦を展開させていく。そして、これはリンクすることができるわけで、こうした日米のイージス艦がお互いにリンクしながら、このミサイル防衛網を張っていくことによって、日本はより安全になっていく」 つまり、日本防衛のため、日米イージス艦同士を「リンク」させる可能性について言及したのだ。そして、日本防衛の重要要素となる「日米イージス艦のリンク」について次のように言葉を続けた。 「このリンクを突破する、(中略)それを破壊していこうということは、攻撃をする方の側は当然考えるわけでございます。(中略)それを破壊することは、まさに我が国への攻撃につながっていくとの判断も十分にできる」 日米イージス艦のリンクへの攻撃がありうるという見解を示したうえで、その場合は、日本への攻撃につながっていくとの判断もありうるとしたわけである。日本への攻撃につながっていくと判断される「事態」には、集団的自衛権の行使につながる存立危機事態も含まれるのかもしれない。 では、北朝鮮弾道ミサイルに対応する為の日米イージス艦はどんなリンクをすることになるのか。そもそも、このリンクとは何か。 それを理解するには、安倍首相が指摘した北朝鮮の弾道ミサイルの脅威から考察する必要がある。 ミサイル防衛の日米リンク 2014年2月から7月にかけて、北朝鮮は弾道ミサイルやロケット弾を8種類、250発以上発射した(聯合通信2014年7月31日付)。韓国国防部に拠ると、その中には7分間に日本が射程内となるノドン(最大射程1300q)2発を日本海に連射した例もあった。こうした事例を踏まえたのか、防衛費・防衛研究所の「東アジア戦略概観2015」には、「最悪の場合、250〜300基程度存在すると報じられているノドン・ミサイルがほぼ連続的に様々な地点から発射できるとことになろう」との分析が掲載された。「ノドン・ミサイル」に対応する弾道ミサイル防衛用のイージス艦は、迎撃ミサイルの装弾数はもとより、そのレーダーによる標的掌握能力や迎撃ミサイルの誘導能力によって、同時に対処できる弾道ミサイルの数が制約される。 北朝鮮が、弾道ミサイル戦術を採るとすれば、複数の弾道ミサイルに対し1隻の弾道ミサイル防衛用イージス艦で対処できず、複数の弾道ミサイル防衛用イージス艦で対処せざるを得ない。しかし、複数のイージス艦が、連射された複数の弾道ミサイルにバラバラに対処すれば、同一の弾道ミサイルに複数の迎撃ミサイルが向かったり、他のイージス艦が対処するだろうとして、結局、どのイージス艦も迎撃しない弾道ミサイルが出たりする可能性も否定できない。その結果、撃ち漏らした弾道ミサイルの日本着弾という最悪の事態が考えられる。 では対応策はあるのか。実はそれこそが「リンク」であり、リンクを基盤として日米で複数のイージス艦を連携させ、統一的に運用する新たなイージス艦の能力だ。 2015年2月26日、米ミサイル防衛局はイージス艦を使った興味深い試験を実施した。DWES(重点分散交戦スキーム)という新機能の試験である。試験にはイージス駆逐艦3隻(カーニーDDG64、ゴンザレスDDG66、バリーDDG52)が参加。3発の弾道ミサイル標的が発射され、起動されたDWESは、瞬時に、どのイージス艦がどの弾道ミサイルを担当するかを割り振るとともに、迎撃のタイミングを最適な形で割り出し、ゴンザレスが2発、カーニーが1発の標的をシミュレーション迎撃したという。IHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー誌(電子版2015年2月25日)に拠れば、このDWES機能は、横須賀に前方展開している弾道ミサイル防御用イージス巡洋艦シャイローCG67にすでに、搭載されているという。その2か月余り前に当たる昨年(2014年)12月10日、フジテレビは、軍事評論家の岡部いさく氏とともに、横須賀に停泊中だったシャイローの艦内を取材。その際、艦長のモリス大佐にインタビューする機会を得た。その中で、モリス大佐は、自身が艦長であるとともに「空母ジョージ・ワシントン打撃群(艦隊)のイージスBMD(弾道ミサイル防衛)コマンダーであり、時に、米第7艦隊のBMDコマンダーにもなる」と自分の職務を明かした。その上で、イージス艦の頭脳に当たる戦闘指揮所(CIC)にある大きなモニタースクリーンの前で自身のヘッドセットを示しながら、自艦だけでなく、他のイージスBMD艦、海上自衛隊のイージスBMD艦にも、SM-3迎撃ミサイル発射を指示できることを明らかにした。つまり、イージスBMDコマンダーたるモリス大佐は、DWESで瞬時に提示される割り振りプランに基づき、連射された弾道ミサイルに対する迎撃を、個々のイージス艦に指示できるのである。これは海上自衛隊のイージス艦にも技術上、物理的には迎撃を指示できる、ということなのだろう。 日米イージス艦同士をリンクして行う弾道ミサイル防衛はDWESだけではない。将来においては、例えば、Engage On Remote(以下EORと略す)という技術も導入される。言うなれば弾道ミサイル迎撃を実施する際、「標的の追尾、狙いを付ける」作業と「迎撃ミサイル発射」とを別々のイージス艦がこなすことを可能にするのだ。 例えば、日本海側と太平洋側にそれぞれ複数の弾道ミサイル防衛用イージス艦が展開し、某国の弾道ミサイル連射に対して日本海側のイージス艦が迎撃ミサイルを撃ち尽くしたところで、日本の太平洋側エリアに向かって、さらに弾道ミサイル連射が行われたら、どうするのか。日本海側のイージス艦は、弾道ミサイルを追尾しているが、迎撃ミサイルはすでに無い。太平洋側のイージス艦には迎撃ミサイルがあるが、日本列島の尾根が邪魔して、そのレーダーの視界に弾道ミサイルを捉えて、追尾するのが遅れれば、迎撃の機会は狭まる。その時対処を可能にするのがEORだ。 日本海側のイージス艦が、そのレーダーで弾道ミサイルを追尾したデータに基づき、太平洋側のイージス艦に迎撃ミサイル発射を指示し、さらに、継続・累積した追尾データで迎撃ミサイルを誘導し、迎撃する可能性を高めることができるのだ。 米艦への攻撃で日本が危険に 当然、ここで重要になるのが集団的自衛権をはじめとする憲法解釈だ。EOR(Engage On Remote)で、技術的には迎撃精度が向上するかもしれないとしても、日本海側にいたのが米イージス艦で、太平洋側が海自イージス艦という場合、従来の憲法解釈に当てはめると日本は迎撃が可能なのか。特にいわゆる武力行使の一体化の観点から、EOR(Engage On Remote)やDWES(重点分散交戦スキーム)の仕組みは、どう解釈されるのか。 加えて、データリンクで日米のイージス艦が繋がっても、安倍首相が言及したように「リンクの突破」「破壊」があれば、EORやDWESは機能せず、連射された弾道ミサイルの迎撃は困難になりかねないが、この「リンクの突破」は、米艦への攻撃によってもあり得る。安倍首相は、こうした状況を指して「我が国への攻撃につながっていくとの判断も十分にできる」としたのだろうか。 日本が武力攻撃を受ける前の米艦防護は「集団的自衛権の行使としてみなされる」(2015年7月3日衆院平和安全法制特別委員会)との見解を示している。日本への武力攻撃以前の米艦防護が、集団的自衛権行使にあたるからできないということなら、敵の米艦攻撃に依る「リンクの突破」を日本はみすみす見過ごすのだろうか。そして仮にそうするなら、その次に生起される事態の責任は誰が負うのだろうか。ことは日本列島住民の生命が掛かった問題でもある。 日本周辺で弾道ミサイルを保有するのは、北朝鮮だけではない。2015年6月29日、衆院平和安全法制特別委員会で、民主党・長島昭久議員の「我が国に対するミサイルの脅威をどのように見積もっておられますか」との質問に対し、中谷元・防衛相は、「中国が保有する弾道ミサイルのうち、我が国を射程に収めるものにつきましては、DF-3、DF-4、DF-21といった中距離弾道ミサイル、またDF-11、DF-15、DF-16といった短距離弾道ミサイルがあり・・・」と中国の弾道ミサイルの名前を具体的に指摘した。さらに「巡航ミサイル、これはDH-10を保有している他、核兵器や巡航ミサイル搭載可能なH-6爆撃機を保有しておりまして、これらは弾道ミサイル戦力を補完して我が国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力になるとみられております」と述べ、事実上、中国の巡航ミサイルを脅威と指摘した。 核弾頭も装着可能とされるDH-10巡航ミサイルは、海面上を低く這うように飛ぶミサイルだ。移動式の発射装置が約50両配備され、1両に3発が搭載可能。一般論だが、ジェットエンジンを使う巡航ミサイルは、ロケットエンジンを使用する弾道ミサイルより速度は遅いが、高性能の巡航ミサイルは極端な低高度を飛べるため、標的とされた側にとっては、水平線に隠れ、探知・追尾が難しい。イージス艦が低空を飛翔する巡航ミサイルを見つけて迎撃ミサイルを発射しても、届く頃には水平線の向こうに隠れてしまっていることもあり得る。戦闘機は24時間飛び続けることはできない。 では、対抗手段はあるのか。これに有効と考えられているのもデータリンクで日米を結ぶことだ。 中谷防衛相は同委員会で「防衛省といたしましては、ミサイルから国民の生命財産を守るべく万全を期すために、E-2Dといった装備品の活用を含め、NIFC-CAといった米軍の新しいコンセプトの検討も踏まえ・・・」と発言。NIFC-CA(海軍統合火器管制ー対空)の検討を視野に入れていることを示した。 中谷大臣の口から唐突に出てきたNIFC-CAとは何か。これもまたイージス艦の能力を使用する新しい仕組みだ。航空自衛隊は、平成27年度予算に新型の早期警戒機、E-2Dアドバンスド・ホークアイを計上しているが、本家・米海軍のE-2Dは、低空域も見える強力なレーダーを備えているだけでなく、そのレーダーが生み出したデータを複数のイージス艦のレーダー・データと共有するCEC(共同交戦能力)という機能を持つ。この能力を使えば、複数のイージス艦やE-2Dのレーダーのデータが相互に共有され、1隻、1機では見通せない低高度の空域を含む、巨大な視野を持つ”眼”を作ることができるのだ。この眼が巡航ミサイルを捉えれば、最も適切な迎撃ポジションにいるイージス艦が、たとえ、それ自身のレーダーには標的が映っていなくても迎撃ミサイルを発射。巨大な眼の標的追尾データに基づき、ミサイルを誘導できる。迎撃ミサイルが新型のSM-6なら、標的の向きが変われば飛翔コースも変更できる。これがNIFC-CAだ。巡航ミサイルには、地上を攻撃するDH-10のような対地巡航ミサイルと艦船を攻撃する対艦巡航ミサイルがあるが、NIFC-CAは、そのどちらにも有効な迎撃手段と考えられている。 日米協力の現実 ただ、NIFC-CA(海軍統合火器管制ー対空)はもともと米空母艦隊の防衛を目的として整備されているものであり、日本の運用は見ようによっては、いわゆる「米艦防護」の手段に当たるかもしれない。安倍首相は、日本が武力攻撃を受ける前の米艦防護は「集団的自衛権の行使とみなされる」との見解を示している。集団的自衛権の行使が認められなければ、NIFC-CAは導入・運用できない可能性も考えざるを得ない。 2015年6月18日、米海軍は横須賀にイージス巡洋艦チャンセラーズビルを配備した。記者会見したカート・A・レンショー艦長は「米海軍の中で、最もNIFC-CAについて経験を積んでいるのが我々だ」とし、NIFC-CAは米空母艦隊の防衛が目的としつつ「アジア太平洋のどの同盟国にとっても大事だ。日本の防衛にもとても重要」と発言した。 米海軍は、すでに、日本の防衛にNIFC-CAという新たな仕組みを適用すべく動き始めたのだろうか。だとすれば、NIFC-CAはチャンセラーズビル1隻では効果的防御をできないだろうから、日本側の装備整備も必要となる。中谷防衛相は、現在の中期防衛力整備計画で予算化される新造イージス艦について「CECにつきまして、当該イージス艦に装備をするということといたしております」と明言した。CECは、NIFC-CAの重要な基盤である。 日本はNIFC-CAをどうするのか。仮に集団的自衛権を容認しないとすれば、日本の防衛に活用し得るのだろうか。これまた、日本列島の住民の生命が掛かった問題ではないだろうか。 他国の危機は自国の危機 閑話休題、いわゆるNATOを中心とする国々の装備(アセット)は、基本的には、共通のデータリンクを使用していることが多い。これによって、大量のデータをリアルタイムで交換することが国籍を超えて可能になる。例えば、データリンクが共通の国同士では、自国の防衛のため、同じデータリンクを使用している他国の軍隊のレーダー、センサー等のアセットにリンクし、リアルタイムでそのデータを自国防衛に活用することが、物理的、技術的に可能になっている。 自国防衛がデータリンクを同じくする他国のセンサー等のアセットに大きく依存するという現実は、他国のアセットが機能しなくなれば、自国防衛も危機的状況に陥るということを意味し得る。防衛上、大きく依存している他国のアセットが攻撃を受け、そのアセットが機能しなくなれば、自国の防衛組織の機能もかなりダウンする。そんな場合、その他国のアセット防衛に加わらなくていいのか。それは、自衛権の上ではどのように判断されるのか。 言うまでもなく、これはNATOだけの問題ではなく、例えば日本列島住民の生命に関わるかもしれない課題である。少なくとも米イージス艦は、日本の安全を大きく左右する存在になるというのが現実だ。 最後に、日本周辺には技術上、日本防衛に利用できそうな日米以外のアセットが他にないのか考えてみたい。 例えば、韓国は、北朝鮮の弾道ミサイルに対処するため、独自のミサイル防衛システム、KAMDの構築を目指している。韓国は、日本より北朝鮮に近く、KAMDが正しく機能するものなら、日本のセンサーより早く、その飛翔を捕捉できることになる。韓国は、追尾していた弾道ミサイルが自国に堕ちないと判断すれば、その時点で追尾を止めて、次の発射に備えるかもしれないが、そのデータは、日本のセンサーがその弾道ミサイルを捕捉し、追尾するために、つまり日本防衛に有用かもしれない。また、米陸軍がTHAAD迎撃システムを韓国に配備すれば、そのレーダーが生み出すデータも日本防衛に寄与することだろう。また、台湾では、標高2400b以上の山頂に、高さ30b以上の巨大な早期警戒レーダー、EWRが建設されている。能力は公表されていないが、探知距離は3000qとも4000qともされ、事実ならば、ミサイル原潜基地がある海南島を含め、中国のほとんどが、このレーダーのカバーエリアということになってしまう。EWRは、弾道ミサイルだけでなく巡航ミサイル、ステルス機も探知できるとされている。韓国にしても、台湾にしても、これらのセンサーは自らの防衛のために構築したものだが、日本防衛という立場からも興味深いものだろう。現在の日韓関係や正式な国交のない台湾との関係からは、実現性のない事かもしれないが。 新たなる脅威に対し、開発された防衛手段が、集団的自衛権をはじめとする憲法解釈に抵触しかねない微妙なものならば、どのような選択をなすべきなのか。安保法制の審議では、十分に現実の防衛手段について議論は尽くされたのだろうか。繰り返すが、ことは日本列島住民の生命が掛かった問題でもあるのだ。 |