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マスコミの幼稚化も指摘する(C)日刊ゲンダイ
評論家・森田実氏が指摘「橋下徹氏は極右幼児性ニヒリスト」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/163735
2015年9月14日 日刊ゲンダイ
■気に入らないものを手当たり次第に破壊
安保法案の審議が大詰めを迎える中、路線対立の末、維新の党から“創業者”の橋下徹大阪市長が離党した。今後、橋下氏は安倍首相に近い新党をつくるとみられるが、政界引退を表明しながら新党とは言動がメチャクチャだ。長年政界を見てきた政治評論家の森田実氏は既に3年前、著書「『橋下徹』ニヒリズムの研究」でズバリ、橋下氏の危うい本質を言い当てていた。
――維新の党の分裂騒ぎでは橋下さんの発言が毎日のように変わり、一体、何が起きているのか訳がわかりませんでした。
あれほど無責任に発言がくるくる変わる政治家は、普通は大手マスコミから叩かれ、潰されるものです。ところが橋下さんだけは別格扱い。マスコミが許してきたので、言いたい放題が助長され、今回のように分裂する、しないで前言撤回しても批判されない。おかしなことです。
――橋下徹という政治家はどんな人物だとお考えですか。著書では「ニヒリズム」とおっしゃっていましたが。
橋下さんは「極右」で「幼児性」を伴った「能動的ニヒリスト」だと思います。ニヒリズム(虚無主義)の圧倒的多数は「受動的」なんです。何もせずに、世の中なんて潰れてしまえばいいとひねている。歴史的には「左翼」が多く、一般大衆が虐げられている状況を改善するため、虐げている者たちをやっつけようというのが出発点でした。社会主義者や共産主義的な思想の人たちの一部が「左翼ニヒリスト」になったのです。一方、「能動的ニヒリスト」は、積極的に自ら秩序をブチ壊そうとする。「右翼ニヒリスト」は、絶対平和主義や戦争をしない戦後体制を壊す。民主主義や国民第一はけしからんという考え方。これに橋下さんの場合は「幼児性」が加わります。
――幼児性とはどういう特徴ですか。
第1に、わがまま。前言を簡単に撤回する。発言とは別のことをどんどんやってしまう。子供が「あれが欲しい」と泣きわめくようなもので、欲しいものは我慢しない。第2に、礼儀を知らない。礼儀の根底にあるのは、自分以外の周囲の人に対する最低の思いやりです。礼儀は形だけのものじゃないかと言うけれども、少なくとも対人関係を重視する思考が伴う。つまり礼儀というのは、大人にだけ備わっているもので、子供にはありません。幼児が権力を握って、極右になり、手当たり次第に自分の気に入らないものを破壊している。それが橋下さんです。併せて、橋下さんに同調し、味方しているマスコミも幼稚化が著しい。
――マスコミも幼稚化している?
マスコミは社会にとって一種の教育機関です。文化や学問、理想など、さまざまな考え方を供給する役割がある。ところが、ある時期からマスコミはその使命を放棄した。理想を失い、行き当たりばったりになり、権力の流れに身を任せるようになった。自分の力で立つことをやめ、幼児の特徴である「甘え」の論理がはびこるようになった。大新聞の社員は会社に甘え、会社は広告を出稿する企業や政府に甘える。その構造の中で育ってきた人たちが、マスメディアを支配している。そこに、橋下さんの幼児性を見抜けないメディアの堕落もあると思います。
――堕落したメディアが橋下さんを「カリスマ」にしてしまったということでしょうか。
それに加えて、社会の欲求不満が橋下さんを押し上げた面もあります。日本全体が衰退していく中でも、大阪は衰退の色が濃い地域です。豊臣秀吉の時代は、大阪は日本の中心だった。大阪の人には、関東大震災の後は大阪が東京を支えたんだ、という誇りもある。だから、今はそれがないがしろにされているという、何ともいえないフラストレーションが大阪の人にはあるのです。特に主婦層や中小企業の経営者などが橋下さんの強力な支持者です。
■安倍首相と橋下市長は“双子”の同志
沖縄に学ぶべきと森田実氏(C)日刊ゲンダイ
――そんな橋下さんに、安倍首相はエールを送り続けています。
橋下さんと安倍首相は同質だからでしょう。2人は“双子”ですよ。私は安倍首相も橋下さんと同じ「能動的極右幼児性ニヒリスト」だと思います。やりたい放題、言いたい放題。戦争もいとわず、戦後の安定した秩序を破壊しようとしているのですから。安倍首相の「積極的平和主義」は戦争をしたいというのを隠すための“包装紙”にすぎません。もうひとり、石原慎太郎さんも橋下、安倍の2人と共通項がある。「目の寄るところへ玉が寄る」という昔の古い言葉がありますが、同類は集まるのです。橋下さんが政治の世界に出てきて、まず結びついたのが石原さんですが、彼は元祖極右ニヒリスト。戦争をやれ、中国はけしからんというのが石原さんの主張。右翼のキーワードである反共を強く打ち出し、平和共存という戦後体制の考え方を壊そうとした。石原、安倍、橋下という系譜です。
――彼らのような極右ニヒリストが、日本社会で権力を持つのはなぜでしょう。
本質的には日本がいまだ米国の植民地になっていることと関係が深いと思います。左翼を嫌いな米国が極右的な思想を持った政治家を育ててきた。安倍首相は米国の対日政策の産物ですよ。戦争をしたがる政治家を育てることによって、半永久的に自衛隊を米国の下請け軍隊にさせる。集団的自衛権の解釈改憲と安保法案で、いまそれが成功しつつある。米国では共和党と民主党で政権交代がありますが、対日政策に関わっている連中はずっと代わっていないのです。アーミテージ(元国務副長官)、ジョセフ・ナイ(元国防次官補)、マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所アジア日本部長)ら、いわゆるジャパンハンドラーズが、もう30年くらいずっと携わっている。米国が対日政策の中で育て上げたのが安倍首相や橋下さん。そして、いまや安倍・橋下は同志の関係です。
――12月に大阪市長の任期が満了したら引退すると言っている橋下さんに対し、安倍首相は国政進出を促しています。
橋下さんは今度は国政の場に出てくると思います。結局、橋下さんがこの時期に維新分裂に動いたことは、安保法案成立への援護になりました。与党は維新の対案の扱いで頭を悩ませていましたが、維新の混乱で対案を無視する理由ができ、原案のまま通すことができるようになった。これはすごい恩義です。だから安倍首相は橋下さんを利用するとともに、橋下さんに借りができたわけです。その借りにどう報いるか。来年の参院選での連携です。安保法案で支持率が下がった安倍自民党にとって、参院選は最大のピンチになる可能性もありますからね。連携とともに、橋下新党は安倍別動隊になり得る。例えば自民党が議席を15減らしても、橋下新党が15議席を取ればつじつまが合う。“双子の兄弟”が同志として連帯していく。そういう流れになるのは必然だと思います。
――極右幼児性ニヒリストの2人が連携し、この国のリーダーとして君臨するなんて恐ろしいことです。
彼らは幼児ですから、指導者としての本質が備わっていない。ニヒリズムだから理想がない。日本人としてよって立つものがなく、米国の対日政策の手先になって戦争をしかねない人たちです。日本にとって大変な危機です。そこで、参院選に向け、いまモデルにすべきは沖縄なんですよ。
――沖縄ですか?
沖縄では自民党が、これまで通り東京の政府と米国にぶら下がって生きていこうとする勢力と、革新を含めた草の根に支持される翁長知事を中心とする勢力に割れた。そして翁長さんら「オール沖縄」はいま、米軍基地の辺野古移設反対の一点に絞って戦っている。争点を複数にすると分裂のもとですから、一点でまとまるのは賢い。しかも「沖縄アイデンティティー」を強く打ち出している。同じことを日本全体でやれるかどうかです。「ジャパンアイデンティティー」の下で、「オール日本」を形成し、民主党も解党して、安倍・橋下政権を拒否するという一点で結集する。全選挙区で「オール日本」の候補者を立てれば、参院選で自民党をコテンパンにやっつけることができると思います。そうすればこの国は救われます。
▽もりた・みのる 1932(昭7)年、静岡県伊東市生まれ。東大工学部卒業。日本評論社出版部長、「経済セミナー」編集長などを経て、73年に政治評論家として独立。精力的な評論、執筆、講演活動を続けている。現在、東日本国際大学の客員教授も務める。
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