http://www.asyura2.com/15/senkyo192/msg/582.html
Tweet |
今年最大の政治課題である安全保障関連法案を巡り、与野党のみならず、憲法学者や国際政治学者が活発な議論をしてきた。意外に少ないのが、経済界からの声だ。外交・安保政策は経済活動にも影響を与える。政府の教育再生会議委員などを歴任してきた葛西敬之JR東海名誉会長と、駐中国大使を務めた丹羽宇一郎前伊藤忠商事会長に聞いた。
政府の裁量大きく不安 前伊藤忠商事会長 丹羽宇一郎氏
――安保法案の評価を。
「政府の裁量権が大きい。白なのか、黒なのか、はたまた灰色なのか。ときの政権が決めることができる。『これは戦争につながる法案だ』とわざわざ明言する政治家はいない。しかし『現状では』と限定が付く。『現状』は絶えず変わり得る。10年後に戦争が始まりそうなときに『法律にそう書いてある』となるのが怖い」
「憲法学者の8、9割が違憲の疑いがあるという。疑いがある人とない人でタウンミーティングをしたらどうか。先の大戦が侵略かどうかになると『歴史学者に委ねる』というのに、安保法案では憲法学者の声を聞かないのはおかしくないか」
――集団的自衛権の行使の限定解除は適切ですか。
「行使するならば憲法を改正すべきだ。『9条をこんなふうに直したい』と衆参両院の3分の2の多数で発議し、国民投票にかける。そして憲法改正の趣旨を踏まえて安保法案をつくる。手続きをきちんと踏むべきだ。先に法律をつくって、違憲なのかどうかはっきりしない、憲法解釈で何とかなるというのは、立憲主義として間違っている。内閣によって解釈がころころ違ったら海外で信用をなくす」
――憲法改正には反対していないのですか。
「イエスでもノーでもない。必要があれば直す。で、何を変えるのかだ。そこをしっかり議論していかないといけない。戦後70年も現憲法でやってきた。国民的議論もないままで改正はできない」
――政府は東シナ海で中国のガス田開発がさらに進んでいると発表しました。
「2008年に中間線付近のガス田は日中が共同開発することで合意した。中国が10何カ所も勝手に開発していたならば、なぜずっと黙っていたのか。7月になってわかったのではないはずだ」
――黙認していたことになりますか。
「なるだろうね。そういうことは棚に上げ、中国がこんなことをしていると突然言い出す。このあいだまで安保法案は北朝鮮とイランに焦点を当てていた。イランが核問題で米欧に歩み寄るという話になったら、急に中国を想定して議論を始めた。これからの日中関係を考えたら、決してプラスではない」
――南シナ海は緊迫の度を強めています。
「あそこは相当前からもめている。関係国同士の話し合いを呼びかけるのが日本の役割だ。それに南シナ海の状況が『日本の存立が危ぶまれる事態』になるのか」
――日中は政冷経熱という言い方をよくしました。
「外交上のさまざまな問題にこだわっていたら日中関係がもたないので、民主導で経済を熱くして政治の氷を溶かす。これが政冷経熱だ。短期的にはあり得ても、長期的には政治と経済は不可分だ」
――日本は世界の安定にもっと国際貢献しなくてよいのですか。
「政府の誰も『後方支援は危ない』なんていわない。いったら、そのための法律なんてつくれないから。イラクに派遣した自衛隊員のうち、21人が自殺した。人道支援のための宿営地でも砲弾が撃ち込まれる。戦争しているときに応援に駆けつけたら、それこそどこから弾が飛んでくるかわかったものではない」
――抑止力は高めた方がよいのではないですか。
「外国に『日本は専守防衛なので手を出してこないが、こっちがちょっかいを出すと痛い目に遭う』と思わせる装備を持たなければダメだ。例えば、最新鋭の潜水艦だ。音が静かで突然バンと撃つ。ミサイルを敵が驚くほど正確に撃てる。数をそろえるだけでは意味がない。無人飛行機を使いこなすのも相当の訓練がいる。軍拡競争では勝てない。日本にはいまやそんなにカネはない。ケ小平がかつていったように爪を隠して磨くことが大事だ。どうして日本人は正論をいうと、すぐわーわーいうのかな」
「いま中国は日本のことを日本とでなく、米国と話そうとしている。間もなく習近平(国家主席)が訪米する。オバマ(大統領)が急に中国と手を握ることもありうる。かつてキッシンジャー(元国務長官)がやったみたいに、我々の知らないところでジャパン・パッシングが進んでいるのではないだろうか。それなのに米国の後について『中国包囲網をやります』なんていっている。日本の外交はあまりに正直すぎる」
にわ・ういちろう 名古屋大卒。伊藤忠商事社長、会長を務めた。経済財政諮問会議民間議員や駐中国大使などを歴任。76歳
=======================================================================================================
※参考:日経新聞の記事と順序が入れ替わっていることをお詫びします。
抑止力、より重要な時代 JR東海名誉会長 葛西敬之氏
――憲法学者の発言が法案審議の流れを変えました。
「国際社会の構成メンバーは主権国家であることを基本理念として憲法は書かれている。したがって個人が基本的人権を持つのと同じように、国際社会において主権国家は『自然権としての生存権』を持つ。その具体的な表れが『自衛権』であり、主権国家は自衛のために必要な限度において武力を行使できるというのが最高裁の判断である。同じく憲法の基本理念である平和主義、国際協調主義と表裏一体であり、自衛権は集団的・個別的を問わず憲法の前提となっている」
「徴兵制に道を開くという人がいるが、21世紀の防衛システムは先端的な技術と熟練した技能を持つ専門家の世界であり、兵員の養成には長期間の教育と経験を要する。徴兵制は役に立たず、復活はあり得ない」
――集団的自衛権の行使を認めると他国の戦争に巻き込まれるとの声があります。
「『安保法案は戦争への道を開く戦争法案だ』というのは現実を見ない思考停止の議論だ。1960年の日米安保条約改定のときも同じ言い方だった。反対運動の勢いは比較にならないが、『以前どこかで同じような風景を見た』との既視感を禁じ得ない。それから50年以上、日本は平和と繁栄を謳歌してきた。日米同盟の抑止力のおかげだ」
「米ソ冷戦体制は相手を破壊し尽くせるような大きな力を持って対峙した結果、戦うことなしに終わった。つまり抑止力が働いたのである。これからの世界はまだ見えていないが、重心が大西洋を挟んだ欧米から、太平洋を挟んだ米国、中国、ロシアに移りつつあることは確かだ。太平洋の西端で大陸と向かい合う日本の安保環境は厳しくなっている。米国との同盟による抑止力はいままで以上に切実に必要になった」
――米国は内向き志向になっていませんか。
「グローバリゼーションという形で米国の経済的利益は世界に広がっている。内向き志向では国益は守れない。横須賀に第7艦隊、沖縄に第5空軍や海兵隊がいるのは、日本のためだけでなく、米国のために必要だからでもある」
「ただ、米国の優位も絶対的なものではなく、日本も補完的な役割を担うことを期待するようになった。自らが貢献することなしに米国に頼り切ることのできる時代は過ぎ去った。日本が持てる能力に応じて協力しなければ同盟は機能しない。積極的平和主義は21世紀という時代の要請である」
――念頭にあるのは中国の脅威ですか。
「日米は、民主主義、自由主義、法治主義という価値観を共有しているが、一党独裁の中国は異なる。海対陸という地政学的要素もあり、中国は潜在的脅威と言える。この潜在的脅威を顕在化させないためには、抑止力が必要である。そのためには価値観を共有する米国と組むしかない」
――政治的に緊迫すると、経済関係に影響しませんか。
「日米が揺るぎない同盟で結ばれていると思ったとき、中国は初めて紳士的でリーズナブルな隣人になる。それは経済関係にも良い影響を及ぼすだろう。抑止力を持たない国は地域紛争に巻き込まれ得るということをこれまでの歴史が証明している。尖閣諸島問題も、米国が『安保条約の適用範囲』と繰り返し明言したので、あの程度で止まっている。当面は南沙諸島の方が深刻だ。中国と日本、あるいはロシアと日本との間の平和で安定的な関係を維持するには、日本と米国が一枚岩だと示す必要がある」
――集団的自衛権を限定解除でなく、フル解除した方がよいと思いますか。
「憲法の基本理念は普遍的であるが、国際情勢、輸送・通信や武器システムなどは技術の進歩とともに変わる。憲法の解釈もこれに順応しなければならない。重要なのは憲法の基本理念を動かさないことであり、日米の信頼関係を固めることである。いま与党がやろうとしていることが現時点でのベストだと考える」
――環太平洋経済連携協定(TPP)がなかなか合意に至りません。
「TPPは環太平洋諸国の経済的な繁栄のためのインフラである。日米同盟の経済的基盤でもある。60年安保が20世紀後半の日本の平和と繁栄をもたらしたように、TPPは21世紀のアジア太平洋の平和と繁栄に不可欠であり、早晩合意されるだろう」
かさい・よしゆき 東大卒。国鉄の分割民営化を進め、JR東海社長、会長を務めた。内閣府宇宙政策委員長など公職も多い。74歳
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
〈聞き手から〉衝突だけが政治ではない
ふたりの論客の言い分は正反対ではあったが、いずれも歯切れよく、聞きがいがあった。外交上の配慮から表立っていわないが、安倍政権が安全保障において中国を念頭に置いているのは永田町では周知のことだ。両氏ともその前提で話しているので、国会中継を眺めているよりも簡潔かつ明瞭に、何が論点なのかがわかっていただけたのではないだろうか。
葛西氏は世論調査の数字だけで法案の是非を論じるべきではないとの話もした。丹羽氏は法案に反対するデモの盛り上がりにもっと注目すべきだとの考えだった。
今回の安保法案を巡っては政策の中身の是非と同時に、ものごとをどう決めるのがよいのかという論争も引き起こした。日本の民主主義の発展にはよいことである。
政府・与党は間もなく法案を参院で採決し、成立させる方針だ。有権者にわかりやすい論戦を提供できなかったという意味では与野党双方に責任がある。ぶつかり合うだけが政治ではないはずだ。
(編集委員 大石格)
[日経新聞9月6日朝刊P.11]
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK192掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。