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安倍総理は参院でも安保法案の採決を強行しようとしている。野党は強く批判していているが、残念ながらそれを食い止める力はない。なぜ日本政治はこれほど混沌とした状況に陥ってしまったのか。その原因は、70年前の敗戦にあるのではないか。保守であれ左翼であれ、あの敗戦をしっかりと総括してこなかったことが、今日の混乱を招いているのではないだろうか。
ここでは、戦後の保守と左翼の在り方を批判する京都大学名誉教授の佐伯啓思氏のインタビューを紹介したい。
『月刊日本』9月号
佐伯啓思「日本人は死者と向き合え」
http://gekkan-nippon.com/?p=7039
戦後日本は死者と向き合っていない
―― 70回目の8月15日を迎えます。『従属国家論』等で戦後日本を問うてきた佐伯さんにお話を伺いたい。
【佐伯】 今年は日本全体で、戦後70年ということが、つまり「戦後」という問題がこれまでになく意識されています。アメリカの衰退、中国の台頭という一連の外在的状況の変化に際して、戦後日本のあり方に対する疑問が出てきたのだと思います。だが、それでも「戦後」は終わりそうにない。そもそも戦後とは何だったのでしょうか。
戦後は、まずもってアメリカに与えられた「平和憲法」と「日米同盟」(日米安保条約)を基本構造とする時代です。そして左翼は平和憲法を、右翼は日米同盟を押し戴き、お互いに批判しあってきました。
しかし、 左翼は憲法9条のおかげで戦後日本は平和だったと胸を張りますが、その平和は少なからず日米同盟に支えられたものです。また反権力を掲げて日本政府に噛みつくものの、本当の権力者であるアメリカには一向に歯向かわない。
一方、保守は日本が日米関係を重視して経済大国になったことを誇りがちですが、その経済成長はある程度、平和憲法にもとづく吉田ドクトリン(軽武装・経済重視路線)に支えられたものです。何より保守は自主独立を目指すかのような顔をしながら、日米同盟に依存する形でアメリカに従属している。そして戦後は親米でうまくいった、これからもアメリカと一緒にやっていけばいいと考えている。自主独立はどこかへ消えてしまった。
結局、戦後の保守と左翼は戦後レジームというコインの裏表にすぎないのです。一見対立しているように見えますが、両者は補完的な存在です。そして相互に依存しているにもかかわらず、相手を批判しあい、戦後の平和と繁栄を誇りに思っている。戦後を肯定している。
しかし保守にしろ左翼にしろ、アメリカの手のひらで踊っていただけといっても過言ではない。欺瞞以外の何物でもないでしょう。
そしてこの欺瞞の最大の問題は、あえてこう呼びますが、「あの戦争」の死者と向き合えていないことです。
―― 詳しく教えて頂けますか。
【佐伯】 もともと戦後レジームは占領政策が創り出したものです。一般的に終戦日は1945年8月15日とされていますが、占領は戦争の最終局面です。戦争状態は占領中も継続しているのです。それゆえ終戦日は占領すなわち戦争状態が終わった1952年4月28日だと考えるべきです。
その意味で、日本人は戦争が終わっていないうちに、あの戦争は何だったのかについて自身で総括する間もなく、ある歴史観を植え付けられた。ポツダム宣言に端を発する東京裁判、ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム、日本国憲法という一連の占領政策を通じて、日本人の脳髄にはアメリカの歴史観が植え付けられたのです。東京裁判史観、自虐史観と呼ばれるものですね。この歴史観の特徴は、敗戦国日本が道徳上の責任まで負わされたことです。あの戦争は日本の間違った政治体制だけではなく、誤った封建的道徳が引き起こした侵略戦争だった、大日本帝国は悪だった、ということになる。
ここで我々はある問題に直面します。あの戦争では310万人の同胞が死にました。その生々しい記憶が残っている。死者の面影が瞼の裏にありありと残っている。にもかかわらず、生き残った人たちは彼らを侵略戦争の片棒を担いだ犯罪者、あるいは軍国主義者のせいで無駄死にさせられた犠牲者にしてしまった。ここから非常に強い「負い目」や「疚しさ」が生れます。
左翼は東京裁判史観を認めて「日本は彼らの犠牲のうえに民主化した、彼らのためにも平和憲法を守るのだ」と主張するが、彼らを侵略戦争の手先だと断じている。一方、一部の保守は東京裁判史観を否定して「あの戦争は侵略戦争ではなく解放戦争だったのだ」と日本の名誉回復を訴えますが、保守は親米というジレンマを抱えている。いずれも本当の意味で死者と向き合っておらず、死者に対する負い目を抱えている。(以下略)
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