3. 2015年9月10日 08:55:26
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高橋洋一の俗論を撃つ! 【第128回】 2015年9月10日 高橋洋一 [嘉悦大学教授] 消費税還付の議論の前に、消費再増税を撤回せよ まずは消費税還付の論点を整理する 還付はいいがナンバーカード利用はやり過ぎ 消費税還付について、自民、公明両党は財務省案をベースに議論している。その財務省案とは、消費税率を10%に引き上げる際、食品などに軽減税率(複数税率)を適用する代わりに、事後的に還付するというものだ。ただし、還付額には上限があり、年間で4000円とされている。政府は今のところ、この財務省案をベースにした与党内の議論を見守るという。
財務省案では、マイナンバーの個人番号カードを、還付金を受け取るために必須としている。軽減税率対象品目を購入する際、マイナンバーカードの個人認証が必要となるわけで、言ってみれば、すべての食料品購入をクレジットカード決済と同じ仕組みにするようなものだ。 これには、様々な反応が出ている。そうした仕組みをすべての小売店に導入できるのか、還付金の上限が低い、などである。 もちろん、そうした問題点もあるが、これではまんまと財務省の意図に乗ってしまう。財務省は、マスコミが目の前の論点整理に追われて、もっと大きな問題点を見逃すことをよく知っている。そのために、技術的な論点を提示すると、本質的な論点がぼやけるわけだ。 財務省案は、マスコミ報道を見る限り、次の通りだ。 (1)2017年4月から10%へ消費再増税を行う。 (2)その際、「酒類を除く飲食料品」の消費増税分に相当する給付金を事後的に払う。 (3)給付金の事後支払いの際には、購入の際にマイナンバーカードを提示されたものだけを還付対象として、その上限を設ける。 まず、経済セオリーとしては、軽減税率はそもそも豊かな者へも恩恵があり、弱者対策に特化できない。その上、実務上は軽減税率の対象と非対象の区分けが難しいし、税務官僚に裁量の余地が大きすぎるので、弱者への負担軽減策としては、還付金のほうが望ましい。これから、(2)はいい。 (3)はちょっとやり過ぎだ。還付金については、実務上、(a)簡素な給付金、(b)領収書(インボイス)、(c)ナンバーカード管理があり、(a)から(c)へなるにつれて、実務コストが高まり、実施が困難になる。世界の多くは(b)であるが、それを飛び越して(c)までやるとは、驚いてしまう。これでは、ナンバーカード管理端末をすべての小売店に強制するようで、IT業者の回し者かと思う。ある新聞では、還付のための「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」の設立まで解説されており、この「(仮称)」でわかるように、役人がよくやる「天下り機関」の新設まで用意されているようだ。 本質的な問題は消費再増税そのもの 「中国ショック」と重なると絶望的な成長率に ちょっと前振りが大きすぎたが、最も本質的な問題は、(1)2017年4月から10%へ消費再増税を行う、である。 8月27日の前回本コラムで、「中国ショック」はリーマンショック級になる恐れがあると書いた。 中国の統計は、かつての社会主義国と同じように信用できない。いまだに経済活動の多くに政府が関与しており、統計数字が悪いと政府自らの責任になるので、統計改ざんが行われやすい。統計の多くは地方役人によって元データが作成されるが、数字が悪いと彼らの出世に関わるのだ。 ただし、輸出入は、相手国があるので、そう簡単にはごまかせない統計である。8月の中国の輸入は対前年同月比で14%も減少した。もっとも、これは今年7月までの傾向そのままである。輸入の伸び率とGDPの伸び率との間には、かなり安定的な正の関係(GDPが伸びているときには、輸入が伸びている)があるので、この輸入動向から、GDP成長率を推計すると、マイナス成長になっていると、筆者は思っている。 中国の成長減速がなくても、2017年4月の10%への消費再増税を行えば、日本の2017年度の経済成長率はマイナスになるだろうと、前回コラムで書いた。 政府の試算では、2017年度の実質GDP成長率は0.6%と見込んでいる。筆者の試算は、2014年度における消費増税の影響を機械的に2017年度に当てはめるだけであるが、▲0.2%である(図表1)。 これに、「中国ショック」が来ると考えると、ちょっと絶望的な経済成長率になる。前回コラムに書いたように、今回の「中国ショック」は実物経済の成長鈍化なので、じわじわと悪影響が波及してくる。これがリーマンショックのような金融危機を契機とするものとの違いである。
1997年以降の経済落ち込みは 本当にアジア金融危機が主因か 2017年の消費再増税は、1997年からのアジア金融危機による経済混乱を思い出す。1997年4月に3%から5%への消費増税があり、アジア金融危機でダブルパンチとなった。 1998年の経済成長率は、日本を含めたアジア各国でマイナスであった。このマイナス成長について、現時点での日本の学界での通説はアジア危機の影響である。もっともこれは、ほとんど当時の大蔵省見解を学者がなぞっただけだ。 実はその当時、筆者は大蔵省官僚として検討作業に少し参加した、当時の役所内の雰囲気は、消費増税の影響ではなく「アジア危機の影響にしよう」というものだった。筆者は、その雰囲気に違和感を覚えた。そして、その時に着目したのは、アジア諸国の経済変動だった。 もし、アジア危機のために経済苦境になるのであれば、震源地のタイや韓国と関係の深い国のほうが影響は大きいはずだ。しかし、日本の影響は、他のアジア諸国より大きかった。ちなみに、1998年の経済落ち込みは、日本も含めてアジア諸国で起こったが、翌1999年も日本だけはマイナス成長であった。一方で、他のアジア諸国は回復している(図表2)。 しかも、この図を見ればわかるが、アメリカ、中国、台湾は、タイや韓国との関係において日本と同じような状況でありながら、経済落ち込みになっていない。
さらに言えば、1998年の経済落ち込みを経験した国で、1999年の回復度合いについて、(1998→1999の経済成長率アップ)/(1997→1998の経済成長率ダウン)という指標で見ると、香港76%、インドネシア78%、韓国147%、マレーシア92%、フィリピン64%、タイ164%なのに対して、日本はわずか50%で最低である。 これは日本にアジア危機という外的要因以外に固有なものが存在することを示しているが、1997年4月からの消費増税以外にはなかった。 法律で決まっていても 再増税を回避する方法はある 以上のような問題意識があるので、(1)2017年4月から10%へ消費再増税を行う、には反対せざるをえない。 こう言うと、必ず、2017年の再増税は法律で決まっている、という声がある。確かに法律で決まっているが、実は、今年10月からの10%への消費再増税も法律で決まっていた。ところが、昨年11・12月の解散・総選挙で吹っ飛んだのだ。 この教訓は、もっと強調してもいい。何より、昨年総選挙をやらなかったなら、今頃は10月からの10%への消費再増税ということになり、中国ショックなどを控えて大変な目に遭っていただろう。総選挙は、安倍首相の英断であったが、日本経済を救ったとも言える。 マスコミは、消費再増税を支持していたので、総選挙に批判的だったが、今こそ感謝すべきであろう。何より、法律で決まっていても、政治でひっくり返せるのだ。総選挙の威力は大きい。消費再増税を強硬に主張していた野田毅・自民党税制調査会長も、解散したときに、自民党の公認が欲しいがために、あっさりと消費再増税の主張を引っ込めたくらいだ。安倍首相が、伝家の宝刀をうまく使った。 こう考えると、2017年4月の消費増税を回避するために、一つの有力な政治手法は、来年7月の参院選に合わせて衆院解散総選挙というダブル選挙である。もっとも、それをちらつかせながら、別の政治手法もありうる。いずれにしても、2017年4月の10%への消費再増税は決まっているという意見は、官僚レベルの話であり、政治的にはまったく白紙といっていい。 なお、今回は景気条項がないので、消費再増税は決定的という意見もある。これもまったく官僚答弁そのもので、昨年の消費再増税のスキップも景気条項を使ったものではない。そもそもスキップは法案を出さなければ意味ないので、景気条項は政治的には何の意味もない。 新聞は軽減税率の対象外 それでもマスコミは再増税を支持するか これまで、消費再増税を支持してきたマスコミはどうするのだろうか。財務省案には、新聞への軽減税率はまったくない。消費増税によって、景気が落ち込んだことも手伝い、新聞各紙の発行部数は激減している。公表されている発行部数には、配達されずに古紙として回収される「押し紙」も含まれている。一説によれば、公表数字の3割減が真の数字であるともいう。ネットを探すと、まったく読まれていない新聞紙が、「ペットのおしっこシート」として安く売られているので、よほど配達されない新聞紙は大量にあるのだろう。 マスコミが消費再増税を支持するのは、新聞が軽減税率の対象になって、価格上有利になるからだ。しかし、新聞が軽減税率の対象にならずに、消費再増税であれば、発効部数の減少に歯止めはかからないだろう。 もしマスコミが正論を述べたいのであれば、消費再増税そのものに反対すべきである。本コラムでは、2012年6月14日付けコラム「6・13 国会公聴会 私が述べた消費税増税反対の10大理由」など、消費税に関わる論点をかなり書いてきた。それらを参考にしたらいいだろう。 マスコミは、昨年の解散総選挙を批判し、消費再増税を主張していたが、豹変してもいい。 http://diamond.jp/articles/-/78228 |