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東京五輪招致ロゴ(「東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会 HP」より)
腐り切った東京五輪組織委という病巣 エンブレム撤回でも責任全否定、佐野氏擁護の闇
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11448.html
2015.09.08 文=新田龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト Business Journal
佐野研二郎氏がデザインした2020年東京五輪の公式エンブレムが、ベルギーにある劇場のロゴに酷似している疑惑が最初に報じられたのが7月29日。第一報から1カ月が経過し、今月1日には大会組織委員会が同エンブレムの撤回を決定した。
実は本事件は、日本の著作権に対する認識が世界から大いに遅れて孤立状態であることをグローバルに晒してしまった。
東京五輪における国内スポンサー企業は21社。そのうち13社は、8月末時点で自社HPやテレビCMなどでエンブレムを使用していた。しかし、トヨタ自動車、ブリヂストン、パナソニックなどは、最高位のスポンサー権を持ちながらエンブレムを使用していない。
その理由は、「著作権の怖さ」を理解していたためであろう。日本とは異なり海外は、著作権保護に関して極めて厳しい。もしうっかり著作権侵害を犯してしまえば、過去の使用分にまでさかのぼって損害賠償を取られてしまうのがグローバルスタンダードである。
今回模倣が指摘された件で、組織委や有識者と呼ばれる人物たちの対応は、国際的にみて最悪だった。模倣元とされているベルギーの王立劇場をバカにしたととらえられても仕方ないし、そうなれば海外の報道もベルギーに味方することだろう。
大会組織委は当初、次のような見解を示していた。
「(ベルギー側が)自らの主張を対外発信し続けたうえ、われわれの詳細な説明に耳を傾けようとせず、提訴する道を選んだ態度は受け入れがたい。われわれが権利を一切侵していないとする立場に変わりはない」
ベルギー側は「侵害を認めるまで裁判をやる」といっている。国際的には「似てれば侵害」であり、故意か偶然かは関係ない。大会組織委は事態の重大さをまったく理解できていないといえよう。
■著作権とは
本件は「商標権」や「著作権」への理解を深める上で極めて興味深い出来事だが、まず簡単に事件の経緯を整理してみよう。
(1)ベルギーの劇場ロゴのデザイナー、オリビエ・ドビ氏が「東京五輪のエンブレムは盗用だ」として、IOCを提訴。提訴相手はあくまでIOCであり、東京五輪の組織委や佐野氏ではない。
(2)IOCは「劇場のロゴは商標登録されておらず、問題はない」と主張。
(3)ドビ氏は「劇場は文化施設であって、商業施設ではない。従って商標登録の必要もなく、登録は行っていなかった」「商標権ではなく、著作権侵害を訴える」と主張。
ちなみに商標権も著作権も共に知的財産権のひとつだが、成り立ちは少々異なる。
まず商標権は、「特許権」「実用新案権」「意匠権」と共に「産業財産権」に分類され、然るべき省庁に登録申請を行い、審査に通ってはじめて認められる権利だ。これらは新しい技術、デザイン、ネーミングなどについて独占権を与え、模倣防止のために保護し、取引上の信用を維持することによって、産業発展を図ることを目的にしている。
一方で著作権は、著作者が著作物を創作したときに自動的に発生する。したがって、権利を得るためには手続きも必要ないところが、産業財産権とは違うところだ。
本件の取材を進めるに当たり、不思議な事態に直面した。国際商標登録や知的財産の実務者に取材を申し込んだところ、一様に拒否の回答を寄せられたのだ。そんななか唯一、匿名を条件に取材に応じてくれた専門家の証言を紹介していこう。
■専門家の証言
知的財産の実務者は契約時にNDA(守秘義務契約)を結んでいますし、狭い世界ですからマスコミの取材を受けると個人が特定される恐れが強く、ばれたら二度と仕事をもらえなくなります。今、マスコミに露出して解説をしている有識者の見解は、実務者の感覚とかなり相違があります。
今回、東京五輪のエンブレム決定に関与している広告代理店A社(仮名)は、実は以前から数多くの事件を起こしています。ある医薬系の大企業が大規模なCI(コーポレート・アイデンティティ:企業イメージの統一)を行った時、A社が秘密裏に作業を進め社名変更を発表する記者会見を行ったのですが、その社名をライバル会社が既に商標登録していたという大事件が発生したのは有名な話です。結局、業界自体が世界から嘲笑の的になりかねないため、秘密裏に商標を譲渡したそうです。
また、こちらも世界的に有名な大企業の話ですが、A社が関与し何十億円もかけてCIを変更したところ、「業種が『物流』に限定されるような社名を冠したロゴ」をつくってしまった。その会社は歴史も長い大企業なので、業種は物流だけではなく、旅客輸送や不動産など多岐にわたりますから、当然新ロゴの使い勝手は最悪なわけです。しかし社内決済は通っている手前、経営陣の責任問題になってしまっては困るので、株主にもバレないように秘密裏に過去の商標のCIに戻しているそうです。ほかにも類似の事件はたくさんありますが、いずれもA社は傷を負っていません。
日本より中国のほうが、知的財産権に関してはよっぽど進んでいます。それは特許「庁」という役所の存在からもわかることです。所詮、経済産業省の下部組織にすぎません。中国では特許権・商標権・意匠権・著作権をそれぞれ独立した行政組織が管轄しており、取り締まりの権限があります。
もっとも注目すべき点は、著作権を管轄する国家版権局に強力な権限を持たせ、著作権を守ろうとする意識が強いことです。中国は著作権を登録すると、行政担当者が著作権侵害と疑った場合は著作権登録者の指定した業者以外の通関手続きを全部止めてしまう。とても強力な対策が打てるのです。
一方、日本の文化庁の著作権登録は、たとえば本やCDであれば、タイトルや表紙やジャケットだけを登録し、中身までは登録していません。よって、日本国内で著作権侵害を取り締まろうとしても中身がわからないため、警察はよっぽど著名なものしか取り締まることができません。
しかも、著作権に関係する企業が単独で外国の著作権侵害対策をしようとすると、文部科学省の天下り団体であるJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)などから「勝手に動くな」と圧力がかかる。それに沿わないと仲間外れにされるなどの嫌がらせをされてしまうんです。以前、JASRACが中国の音楽配信サイトへの対策について、民間企業に圧力をかけて自分たちで対応しようとしたのに、対応方法がわからずアメリカに助けを求めたこともありました。結果、取り締まりができないままで日本の音楽業界は壊滅状態です。
■利権の構造
以上の証言にもあるとおり、文化庁が著作権の内容まで登録し、「グローバル基準」で取り締まりを行っていれば、このような事件はそもそも起こらなかったはずだ。著作権とはそもそもどんな権利なのかよく理解されないまま、「まったく同一か、著名な作品以外はパクり放題」という独自の状態を長い間続けてしまっていたツケが、今回まわってきたともいえる。
エンブレムを撤回した大会組織委の武藤敏郎事務総長が記者会見で説明した内容は、次のようなものだった。
「選考委員、大会組織委員会に責任はない」
「国民に理解されなかったことが、この結果を招いた」
「デザイナーの佐野氏は被害者」
「スポンサーの皆さんには迷惑を掛けた」
「ベルギーの劇場のロゴとはまったく違うという確信は変わらない」
「盗用はないという佐野氏の説明や専門家の判断を了承した」
「(責任問題については)誰が悪かったというものではない」
「佐野氏は取り下げを申し出たことで、責任を果たした」
「選定委員会は適切な判断を示した」
この会見によって、今回のケースは文科省−文化庁−JASRACといった天下り利権構造が長年温存されることで、起こるべくして起こった事件であることが明確になったといえよう。佐野氏が擁護されているのは、その利権構造における忠実な下僕であるからにすぎない。
ベルギー側の主張を単なる「横槍」としてしかとらえないのは、いかにも日本的な考え方であり、世界ではベルギー側の主張がスタンダードである。東京五輪のイメージが悪くなってしまう前に、ベルギー側には訴訟を取り下げてもらう必要があるが、そのためには関係者全員に然るべき処分を与え、謝罪するしかないだろう。
そして、文科省が自分たちの天下り団体が潤うように都合よく著作権を用いていたやり方を根底から見直しすべきであろう。
(文=新田龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)
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