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五輪エンブレム撤回に追い詰めた「ネット捜査」の功罪 森元首相に責任論も…
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150902/dms1509021900011-n1.htm
新国立競技場に続く、五輪エンブレムの使用中止。公表から約1カ月で国家的事業の組織決定を覆したのは、ネット社会の徹底した疑惑追跡だった。ネット上には「ネット民大勝利!」との言葉が踊る一方、制作者の佐野研二郎氏(43)に対する個人攻撃も過熱し、ネットの功罪が浮き彫りに。決断を遅らせ傷を広げた運営側の責任は明確にされず、新国立問題とうり二つの玉虫色の決着となった。
「ネット民大勝利!」「ネットがマスメディアと大手広告代理店に勝利した」…。1日に使用中止が報じられると、ネット上のサイトには、歓喜ともいえるコメントが次々と書き込まれた。
新潟青陵大学大学院の碓井真史(まふみ)教授(社会心理学)は、「ネット上で、類似作品や写真の無断使用など次から次と発覚した。検証には相当多くの人が参加したとみられる。それなりの専門性を持った人もいたと思うが、素人でも力を合わせると、プロでも簡単にできないことができてしまうということ。ネットの集合知で、事実が明らかになったのはすごいことだ」と話す。
検索サイト「グーグル」では画像ファイルを入力すると、類似の画像が表示される機能があるなど技術の進歩もあった。「STAP細胞論文問題でもネットが先行した。リアルな世界では権威ある人を批判することはリスクを伴うが、ネット上は権威に関係なく自由に発言でき、その成果だ」と碓井氏は続ける。
一方で、個人攻撃がエスカレートしたことも事実だ。佐野氏は1日、メディアへの批判とともに「もうこれ以上は、人間として耐えられない限界状況」と深刻なネット被害を訴えた。個人の会社のメールアドレスが話題となり、連日中傷のメールが送られてきたほか、記憶にないショッピングサイトやSNSから入会確認のメールも届いたという。家族や無関係の親族の写真がさらされる事態にもなった。
碓井氏は「この人は悪い人となると、何を言っても構わないとリンチのような状況が起きる。リアルな場面では警察が介入して止めることができるが、ネット上ではある方向に動き出すと、止められない怖さがある」と指摘する。
佐野氏にはもちろん非はあるが、対応が後手に回った運営側の責任はうやむやのままだ。
「結局、誰に責任があるのか」。1日の大会組織委員会の会見ではたびたび質問が飛んだが、元財務次官で組織委の武藤敏郎事務総長は、「さまざまな人がかかわった。どこか一カ所に責任を負わせるべきではないと思うし適切ではない」と歯切れの悪い回答に終始。「選んだのは審査委員会。状況に対処して新しいものを作っていくのがわれわれの責任」と繰り返した。
遠藤利明五輪相は2日の衆院文科委員会で、「組織委、審査委員会、デザイナー、三者三様の立場で責任がある」との見解を示した。
そんな中“戦犯”にあげられているのは、元首相で組織委の森喜朗会長だ。関係者の間では、新国立問題に続き、エンブレムまで白紙撤回することで森氏に恥をかかせられないとの配慮が働いた、とする見方が少なくない。森氏は1日、取材陣に囲まれ「残念な結果になった」と問われると「何が残念なんだ」とムッとした表情で語った。
森氏の辞任を求める声は高まっており、スポーツ評論家の玉木正之氏は「遅きに失したが、新国立問題に続いて見直しの方向に進むのは評価できる。国家的プロジェクトで問題が相次いだのだから、森氏は責任をとるべきだ」と語る。
エンブレムのデザインは今後、公募をやり直して選考する。迷走を続ける東京五輪が再び国民の支持を得られる日はくるのか。
[ZAKZAK(夕刊フジ) 2015/9/2]
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