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安倍政権は「都合のいい神話をつくっている」と池澤夏樹氏(C)日刊ゲンダイ
作家・池澤夏樹氏が危惧「筋交いがない日本という家は潰れる」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/163141
2015年8月31日 日刊ゲンダイ
■平和の民族が明治以降、カン違い
「日本の三権分立は死にかけている」と朝日新聞のコラムで書いた。実際、憲法判断を放棄している司法、さながら大政翼賛会と化している立法府。民意は無視され、憲法破壊が公然と進んでいるのだから、ひどいものだ。沖縄や憲法問題に真っ向から取り組んできた作家に、安倍政権の危うさと日本の行く末を聞いてみた。
――安倍政権が言う積極的平和主義って、何だと思われますか?
戦争主義ですよ。つまり戦力を誇示し、威嚇と恫喝によって周囲を黙らせることでしょう。
――しかし、多くの日本人はいまだに安倍政権の勇ましさを支持しているように見えます。日本人って、そういう民族なんでしょうか?
実は3.11の東日本大震災をきっかけに日本という国、日本人に大きな関心が湧いてきたんです。1年ほど東北に通って、惨憺たる場所を見たり、時にはボランティアの手伝いをして、国土について調べ、日本人はどうしてこんなところで生活してきたのかを考えました。日本は島国で、異民族支配を知らないで済んできた。そのせいで、少しトロいというか外交下手のところもある。自分たちが起こした戦争ですら、自然災害のように早く忘れてしまう。何なんだろう、日本人って。どういう人たちなのか、を知りたくなった。そのためには日本文学を読むのが一番いいのではないかと。
――それで「日本文学全集」(河出書房新社)を編集し、古事記の現代語訳から取り組まれた?
そうです。日本人を知るために全集を始めたんです。知らないから、必死で勉強しています。各巻で解説を書いていますし、古事記には苦労しました。
――日本人は平和志向の民族のように感じますが、違いますか?
基本的には平和の人たちです。島国で単一民族とはいわないが、ほぼ同じ言語で似たような文化を育んできた。戦になってもどこかでリミッターがあるんですね。蒙古兵のような、ひたすら殺すというようなパターンにはまずならない。殺しても幹部だけだったり、どこかで落人として生きていける余地があった。女子供、民間人まで虐殺したのは「島原の乱」くらいです。あれは幕府にとってキリシタンが異民族に見えた。一種の恐怖心ですね。それ以外は、どこかで抑制が働いた。それが明治以降で慣れないことをしてやけどをした。
――長い歴史の中で明治以降の一時期がおかしかったと?
日本は戦争は上手ではないんです。外で勝ったのは日清戦争だけ。日露は事実上、引き分けですからね。
――それなのに列強に伍すとか言い出して。その勘違いを安倍首相も引きずっているように見えますね。
日本は大国意識を持たないほうが幸せです。明治はよかったと言いますが、そうでしょうか。ある時期までは植民地にされる恐怖から富国強兵を目指したが、その後、次の目標がなくなってしまった。それでおかしなことを始めていく。東大教授の加藤陽子さんが毎日新聞で、南満州鉄道の利益は5000万円ぐらいだったが、平和を選んでいたら日中貿易は10億円の利益が出たはずという分析を紹介し、当時の日本には実利の視点が欠けていたと語っていました。
――冷静さを全く欠いていたんですね? でも今の政権はそうした反省、分析を置いといて、ただ単純に「強い日本を取り戻す」みたいに叫んでいる。
自分に都合のいい神話をつくっている。都合の悪い事実はなかったことにしている。今に、「アジアの解放」なんて再び言い出すんじゃないか、と危惧しています。
――朝日新聞のコラムで三権分立が壊れかけていると。民主主義のもろさを書かれていましたが、実際、憲法もないがしろにされてしまった。
国とは柱や梁や屋根があるものだと思っていました。国家と書くぐらいですからね。しかし、日本の家は筋交いが入っていなくて今や平行四辺形。潰れますよ、いずれ。
池澤夏樹氏は「結局、全部が米国」と指摘(C)日刊ゲンダイ
■新自由主義は「悲しい流しそうめん」
――9条のことだけでなく、95条(一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票において、その過半数の同意を得なければ、国会はそれを制定することができない)も問題にされていますね。95条の精神によれば、沖縄に基地を造る以上、住民投票が必要なのに、そうしない。裁判所も司法判断を逃げてしまう。
結局、全部が米国なんですよ。基地問題、安保法案、原発の後ろにも米国がいる。沖縄国際大学に米軍のヘリが落ちたときも、すぐに米兵がその場を封鎖してしまって、日本の警察は現場検証もできなかった。絶対におかしいのに、日本は地位協定の改定を申し入れない。ドイツも韓国も地位協定を変えているのに、日本はしない。この間、ウィキリークスが暴露した盗聴問題にしてもウヤムヤ決着ですから、ひどいものです。
――その米国は戦争することによって成り立っていると書かれていた。
戦後、しなかったことがないくらいに戦争をしています。戦争しなければ国を維持できない。ここがヨーロッパの国と違うところです。
――だとすると、安保法制の意味、米軍が辺野古の基地にこだわる理由も、戦争屋の理屈ということになりますか?
尖閣諸島にしたって、今さらフォークランド紛争みたいなバカな戦争はできませんよ。それなのに、アメリカが辺野古の基地建設にこだわるのは、海兵隊の既得権益を放したくないのだと思います。
――経済政策にしても、日本は米国流のグローバルスタンダードというか、新自由主義を全面的に受け入れている。
企業が儲かれば庶民にも恩恵が行くというトリクルダウン説ってあるでしょう。僕はあれを「悲しい流しそうめん」と呼んでいます。下流の方でいくら待っていても何も流れてこない。沖縄については「後ろ手で縛られた回転ずし」と書きました。目の前を富のようなものが流れていくけど、沖縄の人は手を出せない。結局、この国は主権在民ではなく、主権在企業なんですよ。すべては企業のお金の尺度になって、企業が栄えて、国はどんどん劣化していく。人間にとって幸福とは何かを、頭から考え直さなければいけないと思います。
――ところが、この政権は人文科学なんて大学のカリキュラムに必要ないという考え方ですよね。
内田樹氏が「今の大学は品質の揃った卒業生を作るファクトリーだ」と書いていたのが当たっています。過激なことを教えると親が怒ってくるそうです。本来、大学とはとんでもないことを言うヤツを揃えることに値打ちがあったのに。
――ヨーロッパではピケティやトッドといった学者が出てきて、新自由主義見直しの動きがあるんじゃないですか?
宗教や哲学の力は、まだ残っているし、神の意思にかなうようによりよく生きるという建前がありますから、個人個人がどこかで、人はどう生きるべきかを考えているような気がします。
――フランスではデモが当たり前と聞きました。
政府が高校の制度を変えようとしたら、フランス全土の高校生が町ごとにデモをしたことがありました。一斉の指令ではなく、シュプレヒコールもなくて、ただ、町の中をぞろぞろ歩いて、抗議した。役人もやります。むしろ率先してやる。官公庁の職員は身分が保障されているのだから、率先して意思表示すべきだという自覚があるんです。
――日本もデモが根付いてきましたね。
やっと日本もデモができる国に戻ったという感じです。積極的意思表示というのはそれだけで力がありますからね。SEALDsの動きも落胆で終わらないようにしなければならない。ただし、デモを拡散しているSNSというツールには危ない側面もあります。これまでインテリは勉強し、一応の理屈を用意してから発言をした。だから、論争にもなった。ところが、SNSはきちんと整理された意見ではなく、その場の思い付きや感情が連結されて、炎上したりする。こういうメディアの特徴は知っておくべきです。
――冷静なオピニオンリーダーが必要ですね?
主権在民の世界において、インテリは国民という王様に仕える顧問という立場であると思っています。王様に読む意思がなくても、リポートを出し続けなければいけないと思っています。
▽いけざわ・なつき 1945年生まれ。「スティル・ライフ」で芥川賞。「マシアス・ギリの失脚」で谷崎賞。個人編集の世界文学全集に続き、日本文学全集も刊行中(いずれも河出書房新社)。朝日新聞に連載中の「終わりと始まり」が新書で話題に。
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