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教科書に安倍首相の写真が15枚も! 政権お墨付き育鵬社の“歴史修正、改憲誘導”教科書が公立中学で採択続々
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2015.08.18. リテラ
育鵬社の歴史と公民の教科書
戦後70年談話では、米国に気を使って「おわび」「植民地支配」の文言は入れたものの、直接的な謝罪を回避して、戦争責任を希薄化した安倍首相。そのやり口を見てもわかるように、安倍首相が歴史修正主義を捨てていないことは明らかだ。
そして、日本の教育界では今、その戦前回帰の思想を持つ首相がお墨付きを与えた教科書が大きな存在感を持ち始めている。「育鵬社」という出版社が発行している歴史・公民教科書だ。
育鵬社はもともと、戦後の歴史教育を「自虐史観」と否定し、1997年に発足した「新しい歴史教科書をつくる会」の内部分裂により誕生。扶桑社の教科書事業部門を分離して2007年に設立された。
そして、11年には同社から最初の教科書が出版されたのだが、その出版記念シンポジウム「日本がもっと好きになる教科書誕生」では、当時、野に下っていた安倍氏が登壇。東京書籍の教科書を名指しで左翼的と批判したうえで、こう高らかに宣言した。
「私が安倍政権時代になしとげた教育基本法の改正、この教育の目標をきっちりと受け止めて今回、教科書をつくっていただいた。それが育鵬社の教科書であると確信を持って申し上げることができるわけであります」
それから4年。今年は4年に1度の公立中学校教科書採択の年にあたるのだが、その育鵬社の教科書が続々と採択されているのだ。
7月23日には東京都教育委員会が都内の中高一貫校10校、特別支援校において育鵬社の教科書を採択した。7月29日には同じく大阪府四条畷(しじょうなわて)市・神奈川県藤沢市、8月7日には東京・武蔵村山市などで採択が続いている。文部科学省によれば現在、育鵬社版のシェアは歴史が3.9%、公民が4.2%と、着実にその存在感を増しつつある。
一方、こうした状況に、6月2日には約90の市民団体が育鵬社の教科書内容に関する共同アピールを発表。教科書内容について「侵略戦争と植民地支配を美化し『戦争する国づくり』へ子どもたちを誘導」するものだと批判している。
いったい、育鵬社の教科書とはどんなものなのか。『新編 新しい日本の歴史』『新編 新しいみんなの公民』を1冊ずつ取り寄せて検証してみた。
■戦争の被害実態には触れず、憲法改正を正当化
育鵬社の歴史観が端的に表れているのが、歴史教科書のなかで二度の世界大戦について扱った章だ。
「太平洋戦争」という名称については「米英に宣戦布告したわが国は、この戦争を『自存自衛』の戦争としたうえで、大東亜戦争と名付けました」と当時の政府見解を借りて、戦争の正当化とも取れる記述がなされる。
戦時中の国民の暮らしを取り上げた章は「国民の多くはひたすら日本の勝利を願い合い、励まし合って苦しい生活に耐え続けました」など、あたかも国民が戦争をすすんで受け入れたかのように説明。一方で、原子爆弾の投下については広島・長崎ともに日付と死者数が簡単に記載されているだけ。2015年3月末時点で認定被爆者は18万人を越えていること、放射線の影響などにより現在でも後遺症に苦しむ被爆者が多く存在することなど、戦後の被害実態に関してはすっぽり抜け落ちてしまっている。
また、戦後発布された日本国憲法についてはこうだ。
「最大の特色は、(略)他国に例を見ない徹底した戦争放棄(平和主義)の考え方でした。しかし、占領が終わり、わが国が独立国家として国際社会に責任ある立場に立つようになると、憲法改正や再軍備を主張する声があがりました。この問題については、現在もなお多くの議論が行われています」
日本は先の大戦で310万人もの犠牲者を出しており、日本国憲法はその徹底した反省から成り立っている。平和主義はそのような理念の結晶とも呼べるものだが、上の記述では日本国にとって平和主義が「なぜ」必要だったのかを紹介しないまま、憲法改正や再軍備の話へとつながっている。これでは、あたかも現在の日本国憲法が時代遅れであるかのような印象を与えてしまう。
憲法解釈について述べた部分には、同社の立場がよりくっきりと表れている。憲法前文・9条では「国際紛争を解決する手段としての武力の行使の放棄」が定められており、「集団的自衛権の行使はできない」という従来の政府解釈が示された後、このような記述が続く。
「しかし、憲法前文の後半で「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と書かれており、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合に、日本が必要最小限度の範囲で実力を行使することは、憲法上許されるのではないかとの指摘があります」
「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」は「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」という憲法の前段落を受けた箇所だ。つまり、記述の前提にあるのは平和維持にかかわる世界的趨勢であり、件の箇所は他国への圧迫へとつながる利己的な国家主義への戒めとして解釈するのが正確だ。引用の方法が実に恣意的である。
「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が〜」以下は国会に提出された改正案のなかで新設された存立危機事態のことを示していると思われる。しかし、「他国に対する武力攻撃が発生した場合」や「必要最小限度の実力行使」はどのような基準で判断されるのか。「ホルムズ海峡での機雷の敷設」と繰り返す安倍政権だが、実際には政府のより主観的な判断で武力行使がなされる危険性が世間からさんざん指摘されている。
『新編 新しいみんなの公民』より
欄外ではセーラー服を着た女子中学生のイラストが吹出しで「憲法改正について世の中の人はどう考えているのかな」とつぶやいているが、右隣には憲法について「改正するほうがよい」が約半数(51%)という結果を示す読売新聞・世論調査結果のグラフつき。印象操作以外の何物でもないだろう。
■安倍政権のための安倍政権による教科書
念のため、関東近郊の中学・高校で社会科の授業を担当する現役の教員数名にも、育鵬社の教科書を読んでもらった。
都内の高校で非常勤をつとめる26才の女性教員は、公民の教科書冒頭に記載された曽野綾子のコラムに眉をしかめた。グローバル化をテーマにした章なのだが、にもかかわらず「人は1つの国家にきっちりと帰属しないと、『人間』にもならないし、他国を理解することもできない。『地球市民』なんていうものは現実的にはあり得ない」と、国家に帰属できない人々を全否定するかのような内容に「外国にルーツを持っていたり、難民である子どもたちへの想像力が欠けている。国際化が進む状況のなかで、時代遅れにもほどがある」と話す。
同じく、関東の私立中学・高校で社会科を担当する49才の男性教員は、歴史の教科書のなかで幕末や明治期に来日した外国人による日本批評を紹介したページに注目する。「医学者ベルツが見た日本」のなかでは、ベルツが文明開化を急ぐ当時の日本が「何と不思議なことに、現代の日本人は自らの過去についてもう何も知りたくはない」などと伝統を顧みないことを批判していたと紹介されるのだが、男性教員は、これは「典型的なオリエンタリズム(西洋中心主義)」だと指摘する。「文明開化を始めた日本を嫌がった『非西洋は非西洋のまま変わるな』というメッセージ。今日では帝国主義だとして世界的にも批判されていることで、授業で教えれば高校生でも問題点を指摘できると思う。にもかかわらず、そうした見解を喜んで受け入れていることにびっくりした」。
現場の教員たちに戸惑いが広がるなかで、育鵬社の教科書が採択を続けるのはなぜか。「週刊金曜日」(金曜日)15年6月5日号によれば、その背後にはやはり安倍政権が進めてきた教育改革と支援があるという。
公立小中学校の教科書は、学校を所管する地区内の市町村教育委員会により採択されるが、安倍政権がつくりだした新制度では教育委員長と教育長を一本化。首長の権限が強まっている。そのなかで、安倍政権が全面的にこの育鵬社の教科書支援に乗り出しているのだ。
同誌は今年5月13日、4年前と同じ六本木ヒルズで開かれた最新版育鵬社教科書の出版記念集会の模様をレポートしているが、記事よれば、安倍首相本人こそ姿を見せなかったものの、安倍首相の盟友中の盟友と言われる参議院議員の衛藤晟一・首相補佐官も登壇し、次のような趣旨を述べたという。
「安倍政権は、日本の前途と歴史教育を考える議員の会(教科書議連、1997年〜)の議員が中心になって誕生させた。第三次政権の中核は議連メンバーが占める。安倍首相と『慰安婦』問題を追及し教育基本法を改正した。もう一つが教科書だ」
「この素晴らしい育鵬社の教科書を採択できるように努力したい。私どもの考えと近い首長を選んで、そこで教育行政がきちんと行なわれるように、その意思を受けた教育長が選任されなければいけない。教育長と首長がどういう教科書を採択するか、決める権限がある。いよいよ本番だ。教科書採択にかかっている」
また、育鵬社教科書の執筆者で、安倍首相の私的諮問機関・教育再生実行会議の委員である八木秀次氏もこんなスピーチをしたという。
「安倍内閣のもとで教育再生をどんどん進めている中で、結果を出さなければ恥ずかしい。育鵬社の教科書がどれだけ採択されるのかによって、安倍内閣の教育改革の真価が問われる」
実はこの育鵬社の公民教科書には、与野党での国会議論の様子、国会内閣総理大臣指名……などなど、ことあるごとに安倍首相の写真が掲載されている。その数、なんと15枚(!)。ほかにも重要人物がいるなかで、時の首相の写真だけをこれだけ掲載するのはあまりにアンバランスである。
『新編 新しいみんなの公民』より
もし自分が中学生であったらこのくどさに逆ギレしそうだが、ようするに、この育鵬社の教科書は安倍政権による安倍政権のための教科書なのだ。
今回の教科書採択は各地区で8月末までに決定されることになっているのだが、こんな独裁国家のような偏った教科書を本当に子ども達に読ませていいのか。全国の教育関係者の皆さんにはぜひ再考してほしいところだ。
(福岡みずき)
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