2. 2015年8月18日 06:48:37
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安倍内閣、支持率は持ちこたえる「チプラス現象」で30%割れ回避? 2015年8月18日(火)上野 泰也 (写真=AP/アフロ) 財政緊縮策の是非を問う国民投票で反緊縮派が予想外の大差で勝利したにもかかわらず、その直後にアクロバティックな政治的「Uターン」を行い、EU(欧州連合)など債権団の緊縮要求のほぼすべてを受け入れて最大860億ユーロの第3次金融支援に向けた基本合意を取り付けた、ギリシャのチプラス首相。
ギリシャ議会における財政改革法案の採決では与党議員の約3分の1が造反したが、ギリシャ国民の間でチプラス人気は引き続き高い。カパリサーチが実施した世論調査で、チプラス首相の支持率は60%を超えたという。 より一層の我慢をギリシャ国民に強いる妥協をしたにもかかわらず、チプラス首相への支持は落ちていないのである。なぜだろうか。 7月下旬の米紙ウォールストリートジャーナルに掲載された記事が、謎解きをしてくれる。理由は2つあるという。 まず、債権団との5カ月にわたる厳しい交渉で、チプラス首相が全力で戦ったのが評価されていること。 そしてもう一つは、自分たちの国を過去に長く支配したものの大きな経済危機を結局は招いてしまった旧2大政党や古い政治家の表舞台への復帰をギリシャ国民が望んでいないことである。仮に総選挙が今行われた場合、急進左派連合(SYRIZA)に投票するとした人は42.5%で、最大野党であり旧2大政党の一つである新民主主義党の21.5%に対し、ほぼダブルスコアになっているという調査結果が出ている。 過去の政権の失政に対する反感や失望が国民の間にあまりにも強く根付いている場合には、たとえ現政権の指導者の行動が期待に反する結果を招いたとしても支持率はあまり落ちないことが、上記のギリシャの事例からうかがえる。 株価と連動しなくなった安倍内閣の支持率 ここで考えてみたいのが、日本の安倍内閣のケースである。安倍内閣は「株価連動型内閣」と長く呼ばれてきたが、実際には株価動向と支持率はこのところ連動しなくなっている。 株高が続いても景気回復の実感がさっぱり出てこないことに多くの国民がすでに気付いているということもあるが、より大きな原因は、安全保障関連法案の衆院での強行採決と今国会で成立させることへの強いこだわりという、過半数の有権者が望んでいない行動を安倍内閣がとっていることへの批判である。 マスコミ各社が7月中旬から安倍首相の「戦後70年談話」が8月14日に出る前までに実施した世論調査では、第2次安倍内閣が発足して以降では初めて、支持率が不支持率を軒並み下回った<図>。 ■図:NHK世論調査 安倍内閣の支持率・不支持率 注:同じ月に複数回実施された場合は最後の数字を用いた。 (出所)NHK [画像のクリックで拡大表示] ◆NHK (7月10〜12日実施) 「支持する」(41%)、「支持しない」(43%) ◆共同通信 (7月17、18日実施) 「支持する」(37.7%)、「支持しない」(51.6%) ◆毎日新聞 (7月17、18日実施) 「支持する」(35%)、「支持しない」(51%) ◆朝日新聞 (7月18、19日実施) 「支持する」(37%)、「支持しない」(46%) ◆産経新聞・FNN (7月18、19日実施) 「支持する」(39.3%)、「支持しない」(52.6%) ◆読売新聞(7月24〜26日実施) 「支持する」(43%)、「支持しない」(49%) ◆日経新聞・TV東京 (7月24〜26日実施) 「支持する」(38%)、「支持しない」(50%) ◆毎日新聞 (8月8、9日実施) 「支持する」(32%)、「支持しない」(49%) ◆NHK (8月7〜9日実施) 「支持する」(37%)、「支持しない」(46%) ◆時事通信 (8月7〜10日実施) 「支持する」(39.7%)、「支持しない」(40.9%) 世論調査の結果には数%の誤差がつきものであるほか、回答選択肢に「わからない」や「関心がない」を入れるかどうかといったテクニカルな面からの結果の違いもあるわけだが、調査結果の数字をそのまま見た場合、支持率が最も低くなったのは毎日新聞の8月調査の32%、不支持率が最も高くなったのは、産経新聞・FNNの7月調査の52.6%である。 市場が関心を抱いているのは、安倍内閣の支持率が30%や20%といった節目の水準を今後割り込むかどうかである。30%割れは「黄信号」であり、首相の政治的求心力の低下が与党の内外でどのような動きにつながるかを注視する必要がある。20%割れは「赤信号」で、その内閣はもはや「死に体」と言われることが過去多かった。 この局面で筆者が掲げている予想は、安倍内閣の支持率は30%割れを回避するだろうというものである。 それでも踏みとどまる安倍内閣 安倍内閣は、菅義偉官房長官を中心とする正副官房長官会議を軸にして巧みな政権運営(危機管理やダメージコントロール)を行ってきており、それが突然まったくワークしなくなるとは考えにくいことが、理由の1つ。焦点となった安倍首相の「戦後70年談話」では、支持率がこれ以上下がることのないよう、内容にかなり神経を使った節がある。 中国や韓国との関係を悪化させないために盛り込むことが必要だと事前に言われていた表現は、結局「全部入り」になった。このことにより、原発が再稼働したことによる支持率へのダメージの打ち消しを図ったのだろう。 そしてもう1つの理由は、冒頭で述べたチプラス・ギリシャ首相の相変わらず高い支持率の背景にあるのと同じようなものが、日本の政治にもあるのではないかという点である。 安倍内閣の支持率がここまで下がっても、野党の支持率は上昇力が弱い。特に民主党の支持率は10%前後にとどまっており、同党が政権の座にあった時期の失政に対する不信感が国民の間ではなお根強いことがうかがわれる。 「『失われた20年』と言われる閉塞した社会状況の中で、多くの国民が政治を変えたいと願って民主党に投票し、政権交代が実現しました。にもかかわらず、民主党政権は、沖縄県の普天間基地を県外に移すという約束を守ることができませんでした。また、『コンクリートから人へ』というキャッチフレーズのもとでダム建設を中止したり子ども手当を創設したりしたものの、いずれも途中で断念に追い込まれました」。さらに、東日本大震災と原発事故でも対応のまずさが指摘されるなど、「失政続きだった民主党政権に国民は落胆し、『どの政党に任せても同じだ』と感じて、選挙で政治を変えられるという希望を失いかけているのかもしれません」という見方もされている(岩本裕『世論調査とは何だろうか』)。 また、自民党内でもこれまでのところ、9月に行われる同党の総裁選に安倍首相に対抗して出馬することを表明した政治家はいない。 アベノミクスはまだ続く ほかに適当な選択肢が見当たらないと考える人が少なくないので、安倍内閣の支持率には下がりにくい面が、間違いなくある。共同通信の7月調査で安倍内閣を支持する理由で最も多かったのは、「ほかに適当な人がいない」(31.4%)だった。NHKの8月調査では、「他の内閣より良さそうだから」(39%)である。 消去法的な理由によって支持率が下支えされつつ、安倍内閣がこのまま長期政権を築く場合には、「アベノミクス」を推進する政治的な力は決定的に失われたと判断して日本株売り・円買いを海外投資家が加速させるシナリオは、実現の可能性が低いリスクシナリオの一つにとどまることになる。 また、安倍首相の自民党総裁任期の特例的な2年延長が実現することを前提に、東京五輪が開催される2020年夏頃まで日銀の「量的・質的金融緩和」はあと5年ほど続くだろうとみている筆者のシナリオにも、修正の必要はないということになる。 首相の「戦後70年談話」が発表された後、8月14〜15日に実施された共同通信の世論調査では、安倍内閣の支持率は43.2%に上昇。不支持率は46.4%に下がった。 (※ 筆者都合により、来週は休載となります) このコラムについて 上野泰也のエコノミック・ソナー 景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/081700009/?
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