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サマワで携帯した小銃を返却する女性隊員=クウェート市郊外の米軍キャンプバージニアで2006年7月15日、岩下幸一郎写す
<陸自>イラク派遣「戦死」想定 連絡体制など準備
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150813-00000006-mai-pol
毎日新聞 8月13日(木)10時30分配信
陸上自衛隊が2004〜06年にイラク南部サマワで実施した人道復興支援活動で、「戦死」を想定して準備していた対応の詳細がわかった。死者が出た場合には3時間以内に家族に連絡する体制を整備。死に直面した隊員のため、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の対策チームを日本から急派する体制もとった。安全保障関連法案の国会審議では自衛隊員のリスクをめぐる議論が深まらないままだが、派遣される側の自衛隊は10年前から死に備えていた。
08年5月に自衛隊がまとめた内部報告書の「イラク復興支援活動行動史」によると、死者が出る状況を「不測事態」と表現。家族への通知の責任者を部隊長に指定し、留守宅の連絡先を事前に2カ所把握した。連絡時間を3時間以内としたのは、報道機関から初報が伝わることを防ぐためで、部隊と陸上幕僚監部、防衛庁(当時)本庁も参加して訓練も実施した。
「死あるいは惨事と接する活動」「多数の死体、変死体と接する活動」で隊員が受けるストレスを「惨事ストレス」と規定。発生時には自衛隊中央病院(東京)から、精神科医の医官1人、心理幹部(カウンセラー)1人の「メンタルヘルス支援チーム」を派遣するとしていた。行動史は、イラク派遣を知らされた両親がうろたえた例などを挙げ、「軍事組織においては隊員は身の危険を顧みず任務を達成することが求められ、家族にもその覚悟が求められるが、現実にはそうではない面があった」と指摘。「自衛隊がやや曖昧にしてきた『家族の意識改革』醸成措置を行うべきである」と記述し、家族にも覚悟が求められるとしている。
そのうえで、遺族に支払う弔慰金(賞じゅつ金)の増額や、瀕死(ひんし)の重傷を負った場合の叙勲規定の新設などを求めた。
また重傷者を現場から運び出す手段がないため、ヘリを自前で確保するよう求めた。「戦闘発生現場での患者救出輸送が可能な防護性のある救急車(装甲救急車)」の整備も提言している。【前田洋平】
◇
戦後70年これまで・これから:第9回 「国家と死」をどう考えるか(その2止)
http://mainichi.jp/shimen/news/20150813ddm010040029000c.html
毎日新聞 2015年08月13日 東京朝刊
◇自衛隊員、不安と緊張 「死」見据え対応模索
厚さ数センチの装甲板が、記者の乗る自衛隊車両と内戦の続く外界を隔てている。先月24日、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)を展開する南スーダンに取材で入った。装甲付きの車両はPKO向けの特別仕様で、防弾チョッキとヘルメットが積まれていた。
自衛隊がインフラ整備に従事する首都ジュバの治安は落ち着いている。だが、現地情勢は何の前触れもなく暗転する。2013年12月には市内で突然戦闘が起き、自衛隊の宿営地そばに多数の避難民が押し寄せた。銃声が響き、一時は全隊員が小銃などを装備し、万が一に備えたという。
「任務中の死」を考えたことはあるのか。「危険は感じない」「リスクを減らすための訓練を重ねてきたので不安はない」。みな判で押したような答えを返すが、本音も交じった。「宿営地に帰ると、やはりほっとします」
震えが止まらない。風邪のような症状だった。
自衛隊が「戦死」を想定して臨んだイラク人道復興支援活動。04年春に陸自医官として参加した尾立(おりゅう)貴志医師(54)は派遣中、心身に変調をきたした。
南部サマワの宿営地に夜間、何度か迫撃砲が撃ち込まれた。着弾時、就寝していたコンテナハウスに「ドーン」とごう音が響き、跳び起きた。「威力は大きくなく、恐怖を感じることはなかった」と振り返る。
ところが、任務でイラクを一時離れてクウェートに滞在中、床に就くと背筋がこわばり、悪寒を覚えた。熱もせきもない。変調は2晩で落ち着き、サマワへ戻った。「のちに急性ストレス障害(ASD)の症状だと分かった」と振り返る。
尾立さんは1992年カンボジアPKOにも参加したベテラン医官だったが、イラクには特有の緊張感があった。カンボジアでは通常、拳銃は携帯しなかったが、イラクでは実弾を込めて常に所持していた。サマワでは気が張っていたが、恐怖や衝撃は無意識に刻まれ、クウェートで気が緩み症状が出たとみられる。イラクでの「任務中の死」はどの海外派遣よりも現実味を帯び、緊張を強いていた。
自衛隊が「戦死」と向き合い始めている。
九州・沖縄を守る陸自西部方面隊は演習の一環として昨年秋、戦死者が出た際の対応を実際にやってみた。ひつぎや遺品を用意し、遺族役が遺体と対面する場面も設けられた。関係者によると▽女性の遺族には女性自衛官が対応する▽死亡時の状況などを遺族に説明する前に、機密情報を守る観点から説明内容を関係者で確認する▽遺族控室の仕切りは白色とし、心情に配慮する−−などの教訓を導いた。同方面隊広報は取材に「検証したが、葬儀まではやっていない」とし、実施の理由について「自衛隊が『戦死』を想定しないわけがない」と説明した。
◇リスク、具体論語らぬ政府
安保関連法案の国会審議で、安倍晋三首相は自衛隊の海外派遣拡大で日本の安全を確保すると訴えている。しかし、自衛官にどんな危険が伴うのか多くを語っていない。
野党は「戦闘に巻き込まれる恐れが高まる」などと指摘したが、政府は「任務が加わるのでリスクも高まるが、訓練などで低減させていくことができる」(首相)との答弁を繰り返してきた。維新の党の足立康史衆院議員が「自衛官が命を落とすことは想定しているのか」と尋ねた際も、中谷元防衛相は「そういうことが起こらないよう最善を尽くす」と答弁。繰り返し問われ、「隊員の死亡に備え、遺体の移送などに必要な準備は行っている」と加えたこともあった。
自衛隊員の危険という敏感な問題には触れたくないというのが政権の本音だ。ただ、自衛隊出身の議員を中心に、正面から問うべきだという質問も出ている。
元自衛官の自民党・中谷真一衆院議員は「私は3人の仲間を訓練で失った」と経験を語ったうえで、「なぜ自衛官がリスクを取るのか。それは、任務を完遂した時に国民から『ありがとう、よくやった』と言われるのが喜びだからだ」と訴えた。
◇「私たち」を主語に考えたい=社会部編集委員・滝野隆浩
衆院特別委で安保関連法案の採決が強行された7月15日の午後、私は東京・市ケ谷の防衛省メモリアルゾーンにいた。取材の日を間違えたことに気づき時間を持て余して足が向いた。8月になって猛暑の記録をつくる東京は、その日も暑かった。
富士山の形をした正面の自衛隊殉職者慰霊碑が白くまぶしい。右手にある休憩所に逃げ込んだら、青色の端末機があった。殉職者1851人のデータを見ることができるらしい。防衛省担当記者として追悼式は何度も取材したが、ここにこんな端末があるとは知らなかった。
タッチパネル式で名前から検索できる。階級、所属部隊、そして殉職日。<仲間の信頼は厚く……><旺盛な責任感を持って日夜訓練に励み……>。人物紹介は素っ気ないのだが、左上の白黒写真を見ていたら胸がつまった。何度も検索を繰り返して、気がつけば1時間たっていた。
慰霊とは記憶と誓いである。ふさわしい場に足を運び、亡き人の名を呼びながら忘れないと誓うことだ。夏空、慰霊碑、せみ時雨、そして端末機……。夏は日本人を厳粛な気持ちにさせる。
自衛官が任務中「戦死」したら、この慰霊碑に入るのだろうかと思ってみる。「イラク復興支援活動行動史」が明らかにするように、部隊は迫撃砲やロケット弾、即席爆破装置(IED)による攻撃を受けた。そこは「戦場」だった。宿営地に撃ち込まれた弾の跳ねる角度がほんの少しズレていたら。爆破装置のタイミングがわずかでも遅れていたら……。将来、端末機の写真はカラーや動画になるのか。ふとそんなことまで考えていた。
5月末、日本記者クラブでの安保法制に関する講演で、斎藤隆・元統幕長は「戦死者にどのように向き合うか考えておく必要がある」と述べた。「これまで出していないが、ラッキーだったことに甘えていてはいけないと思う」。OBを含め自衛官が公式の場で「戦死者」について明言したのは初めてだろう。そういえば私は春先、国立追悼施設についてどう思うか、と陸自将官OBに聞かれた。彼は「靖国神社の問題は過去に対する問いかけだけど、我々は近い将来のことを考えているんだ」と言った。
幹部OB、そして現役自衛官たちの心に何かが起きていると感じる。たぶんそれは、創設以来、彼らが抱いてきたわだかまりに端を発している。「事に臨んでは危険を顧みず」と入隊時に宣誓した自分たちの死を、国民はどう受け止めているのか。これまでは何となく、ラッキーにやってこられた。しかし、これからは違う、と。心を揺り動かしているのは、もちろん、安倍政権の安保法案である。
戦死について考えるべきは「彼ら」ではない。私たち国民のほうだ。命の危険がある海外任務だからやめろ、というのか。リスクがあってもやってほしい、というのか。「私たち」の主語で、いまこそ徹底的に考え、合意を目指すべきなのだと思う。【防衛大卒、55歳】
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グラフィック・日比野英志/編集・レイアウト川端智子
ニュースサイトの「戦後70年」特設ページは、http://mainichi.jp/feature/afterwar70/
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