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第81代総理大臣を務めた村山富市氏(C)日刊ゲンダイ
20年ぶり演説の村山富市元首相 「国民に主人公意識芽生えた」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/162463
2015年8月10日 日刊ゲンダイ
「村山談話」を骨抜きにするのか。安倍首相の戦後70年談話に注目が集まる中、91歳の元首相が積極的に動いている。先月24日には若者たちの国会前デモに登場。背筋をぴんと伸ばし、安倍政治を批判した。元首相を突き動かしているものは何なのか?
――国会前の街頭で演説されましたけど、20年ぶりだそうですね。
「戦後50年談話」を20年前に出してすぐ総理を辞めましたから、街頭演説はそれ以来です。国の形を変えてしまう安保法案は国民全体の問題ですから。若者も年寄りもありません。
――現場に立ってみて、いかがでしたか。
1960年の安保闘争のことを思い出しながら、話をしましたけれど、あの時とは全然違います。安保闘争は労働組合や全学連などが主体となった。思想団体によって、組織されたデモでした。今のデモは自然発生的に湧き起こっている。安保法案の中身や国会の審議のひどい状況を見て、「これでいいのか」「日本はどうなるのか」という不安に駆られた若者たちが、居ても立ってもいられなくなって集まっている。そんな学生たちに刺激されて、主婦や年寄りも集まっている。安保闘争の時とは集団の雰囲気が全然違うと感じました。
――初めての純粋な民衆の怒りですね?
日本人には「長いものには巻かれろ」という追随主義がある。だから、反対運動が一時的に盛り上がっても、いつのまにか冷めてしまう。だけど、今回は違いますね。みんな性根を据えてかかっている。だって、これだけ多数の憲法学者が違憲と言っているんですよ。内閣法制局長官は法の番人なんですよ。歴代の長官がやっぱり、これは違憲だと言っているんでしょ? 国会の審議を見ても、まともに答弁してないじゃないですか。自分の言いたいことをペラペラしゃべっているだけで、質問に答えないから、何を言っているのかさっぱりわからない。もうそりゃ、ひどいです、見ていると。こういう状況を見て、国民が立ち上がったと思うんですね。
――このままじゃすまない?
来年は参議院選挙があるし、やがて解散・総選挙もある。国民の怒りは選挙までずっと続くと思いますよ。安保法制の問題は、日本人の意識を変えた。「我々が主人公だ」「我々が国の方向を決めるんだ」という意識が芽生えた。本当の意味で、日本に民主主義が根付く機会になると思います。
■「70年談話」で世界を納得させられるのか
――安倍首相は戦後70年談話でも、村山談話を変えようという意欲を見せている。これについてはどうですか?
今の若い人たちは戦争を知らない。学校教育で近現代の歴史を教えていないからです。なぜ、教えないか。あの戦争はよかったのか、悪かったのか、国の方針が定まっていないから教えられなかったんです。これではいかんと、私の内閣の時に整理をした。それが「村山談話」です。あの時、自民党の半数は反対だった。だけど、談話を出すことが歴史的な役割だと思った。日本は歴史的にも、地政学的にも、アジアの一員です。韓国や中国とは3000年もの交流の歴史がある。まして今は、経済的にお互いの依存度も高い。隣同士が対立し合って、得なことは何もない。通じ合って、助け合って、お互いに発展していくのは当然です。しかし、ケジメをつけていないから、近隣諸国は「日本が再び過ちを繰り返すんじゃないか」という不安を持っている。そこで、「談話」で厳しい反省をしたのです。歴史的な事実を率直に認め、悪かった、もう過ちを繰り返さない、と日本の方向性を打ち出したのです。あの談話が出てから、韓国も中国もASEANの国も、そして米国も、これでよかったと、納得していたのですよ。
――ところが、安倍首相が、談話を見直すようなことを言い出した。
第1次安倍内閣の時は「村山談話を継承する」と言っていたのに、第2次になったら、「村山談話のすべてを継承するわけではない」「侵略の定義は定まっていない」というような発言をして、「70年談話を出したい」と言うものだから、「何を考えているのか」と思われているのが今の状況です。安倍さんは、50年の村山談話でも60年の小泉談話でも言ったことは、3度も言う必要ないじゃないかと言い出している。で、後段部分で「積極的平和主義」を主張したいと思っているのでしょうが、それでは世界は納得しない。過去の歴史についてどう思っているのか、が問われているわけですからね。
7月24日には20年ぶりの街頭演説を行った(C)日刊ゲンダイ
――安保法制と積極的平和主義をセットにして考えると、安倍内閣が目指している危うい方向性が見えてきます。
平たくいえば、日本は「平和憲法があるから戦争には加担しない」ということでやってきた。しかし、これからは「許される範囲で戦争にも参加して、国際平和のために努力をする」。そういう積極的平和外交を談話の後段で強調したいのだと思います。そのためには、前段であまり反省を言うと、後につながらない。だから、日本の歴史を塗り替える。憲法の解釈も変える。これが安倍さんが目指す戦後レジームからの脱却。岸信介元首相の精神を引き継ぐものですが、そんなことで国の方針を変えるなんて、許されません。
――そういう安倍さんの姿勢は岸家の野望というか、国民のためというものが感じられません。総理大臣って、そんなものじゃないでしょう?
自分の主義や主張に国民が反対すると、国民の方が間違っていると。これが安倍さんの見解じゃないですか。いい例が靖国参拝です。第1次内閣では外交問題が絡むからと参拝しなかった。しかし、再び総理に選ばれたら、「(第1次の)総理の時に靖国神社に参らなかったことは痛恨の極み」だと演説し、いち早く参拝した。日中関係を比較すれば、第1次政権の時より第2次政権の方が悪化している。なのになぜ、参拝するんですか。自分が満足できれば、国はどうなってもいいのか。そういう考え方は総理として間違っていると思いますよ。やはり、国のために、国民のために、どうあるべきかを謙虚に考えて方針を決めていく。「国民の意思がどうあろうとも俺はこう考える」というやり方は、独裁政治です。
■解散・総選挙で国民世論は結集する
――安保法制を通さないと、日本は攻め込まれてしまう。そんな主張もしていますね。
中国が大国になれたのは戦争をしなかったからですよ。中国は戦争なんてしない。覇権を求めない。米国だってそうです。核を持っていたって、使えない。そういう時代なんですよ、今は。日本は平和を求める国として70年間やってきた。そういう考えを持っている国を世界中につくっていく。日本はその裏付けとなる。そういう役割を果たすことが日本の使命じゃないですか。
――安保法案によって、国民に「我々が主人公だ」という意識が芽生えても、野党の受け皿がなければ、どうしようもない。その辺はどうですか?
かつて細川(護煕)さんが日本新党の旗を掲げ、国民世論が結集して政権が代わった。解散・総選挙で、再びそういう現象が起こってくるんじゃないか。立憲主義を守れ、という動きがある。若いみなさんが決意して、新しい旗を揚げて立ち上がる。国民の世論もそれに結集していく。そうなれば、ひとつの大きな力になっていく。
――立憲主義を守るか否かは、明確な争点になりますね。
私もそりゃ、命がけで後押ししたいという気持ちです。それが今や生きがいですよ。
▽むらやま・とみいち 1924(大正13)年、大分県生まれ。72年、衆院議員。93年、日本社会党委員長。94年、第81代総理大臣。
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