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“やっぱり日本人サイコー!”とまくしたてる本のサンプル
もはや愛国ポルノ!? 空疎な“日本人はスゴい”論連発で大ブームの日本礼賛本トンデモランキング
http://lite-ra.com/2015/08/post-1368.html
2015.08.08. リテラ
日本人が過去に向き合い、反省と悔恨を心に刻む季節。しかし、メディアのブームはまったく逆の様相を呈しているらしい。テレビをつければ、「日本人がすごい!」「外国人も日本を絶賛」という日本自慢の番組がやたら放映され、書店には日本人礼賛本がずらりと並ぶ。
『ドイツ大使も納得した、日本が世界で愛される理由』(フォルカー・シュタンツェル/幻冬舎)、『やっぱりすごいよ、日本人』(ルース・ジャーマン・白石/あさ出版)、『JAPAN CLASSそれはオンリー イン ジャパン』(ジャパンクラス編集部編/東邦出版)といった外国人目線で日本人を褒めあげる本。さらには、右派系知識人や保守派の評論家が気持ち悪いくらいの日本賞賛を繰り広げる本も目立つ。
「太平洋戦争で日本は負けたが精神では勝っていた!」
「東日本大震災直後の日本人の思いやりや互助の精神は素晴らしい!」
「お客を選ばずにどんな人にも応対する『おもてなし』の精神を世界は見習うべきだ!」
どうも保守系文化人と出版社は、ネタが尽き、ブームが過ぎつつある「嫌韓」本の代わりに、今度は“日本人礼賛”本を売り出し中のようだ。
しかし、日本人は素晴らしい!と結論ありきで本を出しているために、話がやたらオーバーだったり、事実関係を歪めたりしているものも少なくない。
プライドを慰撫するためにひたすら気持ちよく日本と日本人を褒めまくるだけの“愛国ポルノ”と化してしまっているのが実情だ。
そこで、今回はここ1年で出版された保守系文化人たちの「日本人礼賛」本二十数冊を一気読み。そのなかからトンデモ発言をランキングしてみた。ではいってみよう。
★第5位 「『日本のランチメニューは本当に素晴らしい!』と来日したイギリス人は皆、口を揃えて絶賛します。(略)何よりも500円前後で買える“ベントウ”」
井形慶子『日本に住む英国人がイギリスに戻らない本当の理由』(KKベストセラーズ)
■自分は優雅な英国生活を送りつつ日本で500円“ベントウ”を絶賛する出稼ぎ商法!?■
40年前からイギリスと日本の間を往復し、数十冊ものイギリス関係の書籍を出版。英国生活情報誌の編集長でもある井形氏だが、このところイギリスよりも日本が素晴らしい、という本を出版し、ヒットを連発している。
たとえば、昨年出した『日本に住む英国人がイギリスに戻らない本当の理由』では「日本では、24時間(略)営業のコンビニエンスストアが全国各地にあり、遅くまで開いている飲食店も多数あります。しかも、どこでも日本式の丁寧なサービスを受けられるので、ストレスフリーです」とその利便性を認め、日本では「塾」と「部活」「門限」が良質な教育環境を作り出していると大絶賛。そして返す刀で「イギリスでは塾や部活がありませんので、子どもたちは大人の目の届かないところで多くの時間を過ごします」とし、将来に希望が持てない子どもたちはドラッグの道へ進み、「さらにドラッグほしさに盗みや恐喝などの犯罪に走ってしまう」と批判、「イギリスより日本教育が勝っている」と結論づける。
ところが、この井形サン、かつてはまったく別のことを言っていた。代表的な著書『古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家』(大和書房2000年)では、イギリスとは違い「コンビニ、ATM、自動販売機などがそこら中にあるため」に「日本の伝統的な景観は確実に崩れてしまった」と嘆いていた。そして。子育ても受験勉強に見られるように「日本人はあまりに既成の価値観や情報に『こうするべき』と縛られ、こざかしく生きているのではないか」と警鐘をならし、日本の凶悪犯罪の増加の一因ではないかと指摘していたのだ。
食に関する話も同様だ。井形氏は『日本に住む英国人が〜』では、冒頭に紹介したような、日本の食の礼賛、そして500円前後で買える“ベントウ”を絶賛している。
東京では「そば、うどん、ラーメン、パスタ、カレー、寿司、定食など、安さとバラエティの豊富さは、イギリスの比ではありません」。ランチタイムの弁当も、イギリス人が「一度弁当屋に行けば、その種類の豊富さと内容に誰もが感動します。イギリスのサンドウィッチと日本の弁当を比べたら、中身も価格も食事としてのバラエティも圧倒的に上で、とてもかなわないと舌を巻くのです」というのだ。
しかし、これも井形サン、以前の著書『お金とモノから解放されるイギリスの知恵』(大和書房 2001年)では、「イギリス人は日本人ほど料理の中身にこだわらない」「ごく普通のシンプルな料理をおいしいとし、日々の暮らしの中で食べ続けられれば、それで充分と思う。これ以上の味や質の料理があることを知っていても、それは暮らしの中で追求すべきことではない」。「『まずい』か『おいしい』かばかり論じる」のではなく食事は人と交わることを重視すべきと日本人に再考を促していたのだ。
つまるところ、この10数年でまったく正反対の姿勢に転向したのだろうか。しかし、井形氏が実生活でイギリス嫌いになっている気配はなく、イギリス好きが嵩じて、最近、ロンドン郊外に住宅まで購入している。
つまり、自分は優雅なイギリス生活を送りつつ、日本の添加物まみれで、使い古しの油で揚げられた“500円ベントウ”を絶賛しているのだ。“今の日本は、欧米の生活が素敵、という本より、日本のほうがすごいという本を出した方が売れるから”という計算が見え見え。こういう出稼ぎ商法に騙されちゃいけない。
★第4位 「アメリカも中国もヨーロッパ諸国も国内問題が手一杯で、リーダーシップの発揮は国内向けの見せかけである。(略)その点、日本は国内問題がないから国際的に発言ができる」
日下公人『いよいよ、日本の時代がやってきた!』(ワック)
■日本は国内問題がない!? あまりにも楽観的な未来予測■
日本長期信用銀行出身の保守系(ガラパゴス?)エコノミストの日下氏。楽観的な未来予測をする類書多数の著者だが、今回の楽観的な未来予測の最たるものは「二〇一五年あたりから、日本の時代が始まる」というものだ。
「新たな『日本の時代』は(略)新しい道である。新しい道とは、たとえば『おもてなしの心』の入ったサービスが世界に広がることである」「この百年間は欧米崇拝だったが、そろそろ逆転するのではないか。それは『新文化の創造』という戦争である」
日本人礼賛本のありがちキーワードには、「和」の精神と並んで「おもてなし」がある。「お客を選ばずにどんな人にもおもてなし」をする「おもてなし」の精神を世界に普及(日本化)させようというのだ。
日下氏いわく、日本化を進めれば、世界的なリーダーシップがとれるようになる。しかも、日本はリーダーシップが発揮しやすい環境が整っている。というのも、冒頭の発言のように、「アメリカも中国もヨーロッパ諸国も国内問題が手一杯」だが、「日本は国内問題がないから国際的に発言ができる」というのだ。
日本には、福島第一原発問題も、沖縄米軍基地問題も、格差問題もないというのだろうか。
日下氏のプロフィールを見ていたら「原子力安全システム研究所最高顧問」という肩書きもあった。関西電力の原子力ムラの人脈ではないか。楽観的な未来予測が何をもたらしたのか、今もまったく反省がないらしい。
★第3位 「うちが世界最古の文明なのです。世界で最初にお酒を飲んだのは、我が日本でございます。ワインを飲んでいたと思われます。ブドウのかすが残っておりますので、ワイン発祥は我が日本がもっとも古い。つまり、1万2000年前から我が国は世界最古の国としてずっと続いているんですよ。それが誇りの持てる日本という国家です」
竹内睦泰『歴史問題をぶった切る 《最終解明版》』(共著者・倉山満、藤岡信勝/ヒカルランド)
■ワインの発祥は日本!? お笑い歴史修正主義者たちのトンデモ鼎談■
竹内氏は古神道の神主でもあり「古神道宗家・第73世武内宿禰」の称号を持つという受験界のベテラン講師。今回は、「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝、保守系コミンテルン史観でおなじみの憲政史研究者・倉山満と日本の歴史教育を論じ合っている。
「僕が日本史講師として腹が立っているのは、日本史は必修ではないということです。日本の歴史を考えるには、日本の神話を教えないとダメです。世界最古の歴史がある日本のアイデンティティを教えないと」と息巻くのだ。
「我が国は少なくとも1万2000年前に世界最古の文明を生んでいるのです。縄文土器は1万2000年前にありました。(略)中国は9000年前です。うちよりは3000年遅れています」と勝ち誇り、冒頭の発言のように、その世界最古の歴史のなかで、ワインの起源は日本なのだと明かす。
しかし、これでは、嫌韓本の著者たち(たとえば、皇族タレントの竹田恒泰氏)が得意のネタとしていた、「なんでも韓国が起源だ」と主張する「ウリジナル」現象を嗤えないではないか。ちなみに、竹内氏と倉山氏とをつないだのはあの竹田恒泰氏らしい。
★第2位 「二〇〇八年のリーマン・ショックの際、日本人の被害がもっとも少なかったと言われるのも、何となくいかがわしい金融デリバティブには手を出すのを控える人が多かったことによるものだと思います」
馬渕睦夫『日本『国体』の真実 政治・経済・信仰から読み解く』(ビジネス社)
■会社は仏道修行の場、お金は穢れ ユダヤ陰謀論の次はトンデモ神道■
グローバリズムを徹底批判する数冊の本がベストセラーになった元ウクライナ大使だが、その思想的立ち位置は「グローバル化はユダヤ思想に基づく」というユダヤ陰謀史観。そのままではユダヤ人差別に直結しかねず、きわめて政治的にも思想的にも危ういものだ。そのせいもあってか、この最新刊では、日本人礼賛に焦点を当てたものにシフトチェンジ。
「わが国を襲っているグローバリズムという普遍主義に対抗するために、神道的な世界観が普遍性を持つように理論化することが必要」と、『古事記』『日本書紀』の世界から日本思想の根本に存在する「国体の本義」を考察する。
元大使によれば、聖書にもとづく欧米との大きな違いに労働観があるという。「欧米の労働観は神の掟に背いた罰」だが、「日本人にとって労働とは神事です。私たちの先祖の神々は高天原で労働をしておられたのです。したがって、今日私たちは働くということは、神々と同一化するという意味があるのです」と“労働神事説”を打ち出す。
さらに、「会社は仏道修行の場でもある」説も説く。「かつての日本式経営方式の下での(略)会社員は残業もいとわずひたすら仕事。すなわち仏道修行に勤しんだのです。会社に長く居残ることは苦痛ではなかったのです。会社は生活の糧を得る場だけではなく精神修養の場を提供してくれているのです。退職して会社を離れると、急に老け込むサラリーマンが少なくないと言われますが、会社はサラリーマンにとって家庭では得がたい修行ができる貴重な場所でもあったのです」とブラック企業が喜びそうな“労働仏道修行説”なのだ。
さらに、「高天原の経済活動の中に、金融は存在しなかった」ことから、「日本の場合、穢れ忌避思想から言えばお金というのは伝統的に穢れているのです。そのため日本は金融資本主義に対していつも距離をおいていた」として、冒頭のように言い出すのだ。
しかし、リーマン・ショックでも金融機関は(みずほフィナンシャルグループ、農林中金など)巨額損失を計上しているし、何よりもバブルのときに日本は金融資本主義に踊らされていたではないか。このトンデモ元外交官はこれまで、外交の場でどれほどのトンデモ日本イメージをまき散らしてきただろうか、心配になってくる。
★第1位 「身分や貧富を越えて人間はひとりひとり大切な存在なのだという民主的な価値観は、十七条憲法にすでに明記されていました。その価値観は日本の長い歴史を通じてずっと受け継がれてきました」
櫻井よしこ『日本人に生まれて良かった』(悟空出版)
■日本の民主主義と人権意識は世界に先駆けて十七条の憲法から生まれた!?■
安保法制推進でも大活躍の保守系ジャーナリストの櫻井よしこ氏だが、『日本人に生まれて良かった』のなかで、こんなトンデモ発言をしている。
「和」を尊重する聖徳太子の「十七条憲法」を紹介し、民主主義は戦後、アメリカからもたらされたものではなく、「わが国は古の昔から人々の言葉に耳を傾ける民主主義の寛容さを、国の統治の基本としていた」「日本文明は世界的に見てもとてもユニークで、美しく豊かです。日本についてよく知れば、それがひとりひとりの日本人の自信と誇りの源となる、強さの根源になると思います」と日本人を礼賛する。
しかし、十七条憲法の時代は、大豪族・蘇我馬子と物部守屋が激しく対立。蘇我馬子が崇峻天皇の暗殺を謀り推古天皇を擁立するなど、皇位をめぐる仁義なき抗争の時代ではなかったか。こうした時代に蘇我馬子とともに天皇中心の国家作りを目指した聖徳太子が制定したものが十七条の憲法で、単なる豪族、役人の心得にすぎないのだ。
なお、「身分や貧富を越えて人間はひとりひとり大切な存在なのだ」という十七条の憲法が出たあとに起こるのが、蘇我家が滅ぼされる、いわゆる大化の改新であり、大化の改新の一連の改革のなかで制定されるのが良賤の法だ。良賤の法は良民と賤民とを分けて、互いの通婚禁止などを定めたもの。その後の奴婢制度「五色の賤」という身分制度の固定化のもとになったもので、民主的な価値観などはどこにもないのだ。
「朝日の記事を読むと、あらかじめ考えたシナリオどおりに書いていると思われる記事が日常茶飯にあります」「イデオロギーの影があまりにも濃く全面に出る」(『WiLL』2月号「朝日問題で問われる日本のジャーナリズム」)と朝日新聞を徹底批判する櫻井氏だが、自らも日本人礼賛のイデオロギーにとらわれて真実が見えなくなっているのではないか!?
(小石川シンイチ)
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