http://www.asyura2.com/15/senkyo190/msg/262.html
Tweet |
失われた20年インタビュー:藤井裕久・元財務相「恵まれない人に目を向けるのが政治の責任」
2015年08月04日
戦後初の本格的な政権交代を果たした民主党政権への期待は非常に大きかった。それだけに政権運営に失敗すると国民の失望を招き、若者たちは政治不信を募らせた。同党顧問の藤井裕久・元財務相は、「失われた20年」に非正規の若者たちを漂流させてしまった政治の責任を痛感している。【聞き手・尾村洋介、荒木功/デジタル報道センター】
−−バブル崩壊後、日本人が幸せな道筋を描くことが難しくなりました。
藤井さん GDP(国内総生産)だけが世の中とは思いませんが、GDPに関する限り赤字(マイナス)になったことはいつかというと、一番悪いのは先輩なので言いにくいけど橋本龍太郎の首相時代。三洋証券や山一証券がつぶれ、のちに破綻する長銀(日本長期信用銀行)も経営危機に陥った。このときに完全なマイナス成長になった。橋本さんが悪いというよりも、それまでの経済成長の最後の段階だったということなんですよ。あとはリーマン・ショックのときも赤字ですよね。それ以外は赤字になることはあまりなくて、民主党政権のときに東日本大震災が起こったがそれでもプラス成長だったんだよ。
しかしね、プラス成長だといいながら、世の中の人はみんなそうは実感できていない。そこにギャップがあるんですよ。「恵まれた人をより恵まれたようにするということが経済成長だ」という認識を持っている人がいますが、これは誤りなんだ。僕は今、民主党とは距離を置いているので、あえて僕と言いますが、恵まれた人はもちろんどんどんもうけてくださいと僕は思っている。だけど、政治というのは恵まれない人に目を向けてバランスを取ることだ、というのが僕の意見です。それができてないのが今の首相の安倍晋三という人なんですよ。
それまでは政治としてそれなりに一生懸命やってきたこともあるんだよね。僕は決して民主党のことをほめる気はない。できなかったことがいっぱいあるんだから。でも、できたこともあった。例えば、子ども手当は民主党時代にできた。それから高校授業料の無償化もちゃんとやった。「それしかできねえじゃないか」と言われれば確かにそれまでだが、恵まれない人たちに目を向けたことは間違いがない。
僕はね、恵まれた人がどんどん頑張ってくれることは正しいと思ってんだよ。しかし政治というのはそれをもっとサポートするんじゃなくて、恵まれない人に目を向けてそれなりのバランスを取るのが政治、経済政策じゃないかと思ってるんですよ。
−−2000年代の半ばごろから格差が大きな問題として意識されてきました。
藤井さん 非正規を増やすということについては大企業はいうまでもなく、中小企業の人たちも賛成なんですよ。なぜかといえば、もうかるからですよ。介護施設の人たちまでが賛成だという。こちらは、それしないとやっていけないというわけだよ。僕はね、もうかることは大事だけれども、それは他の手段であるべきであって、非正規社員を増やすことは決して日本経済を大きくすることにつながらないんだよと、中小企業の人たちに会うと常々言っている。非正規社員の人はあしたクビを切られるかもしれないのだから、積極的に消費なんかしはしない。日給をポケットに入れているんですよ。だからね、非正規社員を増やすことは日本経済には決してプラスにならない。業績にプラスになるかもしれないが、そんなものは一時的なものだよと言いたい。非正規社員の雇用政策は、社会のあり方として非常に重要な問題だと思ってます。
−−不安定な待遇で働く人たちはまだまだ増えると?
藤井さん このままいくと、もっと増えますよ。私は、安倍さんはね、戦後のいろんな不満をより増強する方向に持っていってると見ています。そしてそのことはね、必ず昭和初期の再来になるというふうに思っています。僕が生まれる1カ月前に首相の犬養毅が殺されたんですよ。その数カ月前には井上日召が首謀した血盟団事件があって、大蔵大臣だった井上準之助、三井の大番頭、団琢磨も殺された。これらは何だったのかというと、みんな「格差」なんですよ。今時は「失われた20年」といわれますが、それぞれみんな努力をしていたと思うんだけど、結果として格差が拡大していますね。僕は失われた20年というのは格差の拡大の世界だと思っているんです。安倍首相がとっている政策がこれをより拡大させる方向に向かわせているのじゃないかと思っている。井上日召のような人が出てくるとね、またテロが起きます。やっぱり格差社会だったんですよ、あのときも。
−−格差については考えなければいけません。
藤井さん 日本の経済の成長は1%でいいじゃないかと思ってます。中国が少なくともGDPでは日本より大きくなったという事実は、率直に認めなければいけない。日本はもう成熟社会に入っているんだ、完全に成熟に。一方、中国は高度成長社会なんだ。日本だって池田内閣のときには高度成長社会だったが、今でもまだ「池田内閣と同じことをやりたい」なんて言ってるやつはおかしいんだよ。成熟社会は成熟社会としての道を歩まなきゃいけない。安倍さんのグループでも潜在成長率は1%未満だと言っている。僕の仲間である経済の専門家たちも、やっぱり1%はいかないだろうと言っている。ところが、1%にいかないっていうのに、また高度経済成長に戻ろうとしているのが、安倍さんの経済成長戦略の間違いの根本です。日本をまた上げようとすること自体が無理なんですよ。少子高齢化なんですよ。少子高齢化ということは働く人が減り、(年金などを)もらう人が増えるということなんです。それは成長率には必ずマイナスです。
それをなるたけ直していくための手段は、私は二つあると見ている。一つは、今なるだけ働ける人が安心できるようにしなきゃいけないということ。雇用政策です。もう一つは、国境の壁を低くする経済政策なんですよ。私はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に賛成です。安倍政策の中で、数少ない私の賛成事項なんです。国内は当然少子高齢化で伸びない。それを伸ばすには外に出る以外ないんです。軍事力と結びつけるのではなく、経済合理性で海外に出て行きなさいと。中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)にも僕は賛成です。外に向かっては、軍事力にあらざる、国境を低くして外に出て行く経済政策。国内では非正規社員を作って格差を拡大するのをやめるような政策。この二つです。
−−藤井さんは1932年生まれで、大蔵省(現財務省)に入省し、政治家になる前は高度経済成長期の大蔵官僚として働いていました。
藤井さん 僕らは、月に200時間から300時間のサービス(残業)、それをやりましたよ。給料に算入してもらったのは10時間ぐらい。ブラック職場ですよ、今なら。役人だけじゃなくて、そのころは会社員だってみんなサービスやらされてます。自営業者だって遅くまで働いてました。そのころの僕たちが何でこんなばかな働き方をするかっていうと、結論は一つなんですよ。ヨーロッパに追いつき追い越せ−−これだけだったんです。GNP(国民総生産)がね、まず昭和41(1966)年に確かフランスに勝った。42年にイギリス、43年に西ドイツに勝った。
西ドイツに勝ったことは本当によく覚えている。43年というのは佐藤内閣でした。そして、このあたりが変わる時期だったんですよ。池田勇人首相は高度成長、所得倍増計画、月給倍増ですよ。次の佐藤栄作首相は、やっぱり政治家として少し池田とは違うということも言わなきゃいけなかった。それで、経済社会発展計画と言ったんです。「社会」という言葉を入れたんです。そこで実際に児童手当を作った。次の田中角栄首相もそれは同じ。田中さんは福祉に力を入れた。GNPで西ドイツにも勝ったこと、そこがやっぱり転機だったと思ってます。
その後、日本は国の進む方向を明確に示せなくなった。福田赳夫内閣のとき、G7(先進7カ国)で「機関車論」というのが出てきて、ドイツと日本は機関車になって世界の経済を回せと言われた。福田さんは「おい、じゃんじゃんやって伸ばせ」と言って7%成長を目標にしていましたけど、全然できない。福田さんが悪いんじゃないんだよ、すでに社会情勢が変わっていた。そのころから、実は日本は成熟社会に向かっていたんですよ。
−−成熟社会に移り変わり、さらに少子高齢化が進んで、グローバル化で追い上げられているのが今の日本の状況です。その中で企業は、非正規労働者の割合を増やすなどして対応してきたと思うのですが。
藤井さん 対応した? 対応したということは、それはいじめたということですよ。特に大企業です。非正規社員を選ばなきゃ、俺たち食っていけねえというまでになってますから。社会全体が非正規社員を作る、格差社会を作ることに貢献しているんですよ。
−−だけど、それでいいのでしょうか。
藤井さん だから、そこには雇用政策が必要であるということを申しあげた。それからみなさんは反対かもしれないけれど、外には出て行く。国内は少子高齢化で無理なんですよ。働く人は減って、(年金などを)もらう人は多い。少子高齢化社会は潜在成長率が低いんです。もう山に登る時代じゃないですよ。ゆっくりゆっくり、高度経済成長時代の先輩たちがやったことの結果を多くの人に均霑(きんてん、同じ程度にみんなで恩恵を分け合うこと)させようという社会なんですよ。それができてないからこの20年が何が何だかわからなくなっていると私は思っている。
−−橋本政権から小泉政権につながっていく規制緩和の考えについては?
藤井さん 僕はね、規制緩和は必要だと思ってます。規制緩和をするともうかる企業があるなら、それはもうけなさいと。私たちの政策について、「あんたたちは構造改革は賛成だといいながら、また格差社会の是正を言う、これは矛盾じゃないですか」と批判する人もいる。いや、違うんです。構造改革でもうける人については政治家はそこはもう放っておいていいんです。そうじゃなくて、恵まれない人がどうしても出る。そっちに目を向けなさいと。これはイコールの話なんですよ。まるで平等ということはありえないんでね、人間社会は。能力のある人はうんともうけてください。規制緩和もやりましょう。しかし、そうなら恵まれない人が現実に出てくるんだから、政治はその人に目を向けるべきだということです。
ところが、安倍さんは恵まれた人をより恵まれるようにした。一番僕が許せないのは、法人税の減税です。法人税というのは全体の3割しか払ってないんだよ。そして、その3割しかいない人たちの穴まで埋めなきゃいけないということは、財政の健全化という意味で考えると、税金払ってない人からその分を取ろうということです、外形標準課税で。
−−バブル後の政権運営では、弱くなっていく人たちへの手当てが十分でなかった。
藤井さん そう思います。思いますが、民主党は子ども手当や高校授業料の無償化についてはそういう方向なんですよ。それは、私は正しいと思っていますが、残念だが、それが最後までしきれなかった。それがけしからんということは謙虚に受け止めないといけないと思いますが、そういう方向に努力をしていたことは間違いはない。
−−民主党への政権交代には、そういう期待もありました。
藤井さん 大きすぎたな。政権への最初の支持が熱狂的すぎた。背負った荷が重すぎた。
−−藤井さんは著書に「全員が勝者になれない。チャレンジして失敗する人、ほんの少しの差で負のスパイラルにはまりこむ人。むしろそういう人たちが多い。上昇する人は一握りしかいないんだから、そういう必要な人々の将来の不安を解消するのが政治の原点だ」と書きました。
藤井さん 政治とはそういうもんだと思います。
−−この20年間、自分たちばっかり損してきたと思わざるを得ない世代ができました。かつて政権を担った政治家としてそこを直そうとしてきた藤井さんに、何か語ってもらえませんか。今、この場に氷河期世代の彼らがいると思って。
藤井さん すまんな……。本当にすまんな、まずはな。政治は必ずしもあなたたちの方を見ていない。特に今は怖いな。今の政治は恵まれた人をより恵まれたようにすることが、経済をよくする道だと考えているみたいだ。ただね、それは違うと思っている政治家もいるんだよ。私たちも頑張るけれども、みんなが安心して働くことができるという、そういう実感を持っていない人たちが大勢いるということを、本当にすまないと思っている。政治家としてもう、それに尽きます。
■ふじい・ひろひさ 1932年、東京都生まれ。東大法学部卒。55年大蔵省(現財務省)入省。主計局主計官などを経て政界に転じ参院2期、衆院7期。自民党に所属したが、93年に小沢一郎氏らとともに同党を離党。細川護熙、羽田孜両内閣で蔵相、民主党政権の鳩山由紀夫内閣で財務相を務めた。2011年に民主党税制調査会長として消費増税を仕切った。12年に政界引退。
http://mainichi.jp/feature/news/20150804mog00m040004000c.html
- 役員報酬、法人税優遇広く ROE連動も対象に:活発な投資誘導が意図だろうが人件費圧縮などあくどい経営を誘発するだけかも あっしら 2015/8/07 04:14:36
(0)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK190掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。