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国家の主権が侵された疑いが濃い。米情報機関・国家安全保障局(NSA)が、日本の政府や企業を対象に盗聴をしていたとの疑惑が明らかになった。
盗んだ情報などでつくられた機密文書の中には、日米の通商交渉に関するものもあったとされる。交渉を自国に有利に導こうとした疑念が拭えない。
言うまでもなく、日米は同盟関係にある。疑惑が事実なら、信頼関係は地に落ちる。米政府は真摯(しんし)に事実関係を調べ、説明しなくてはならない。
日本政府の反応は鈍すぎる。少なくとも機微情報が流出したのは明らかなのに、外務省幹部は当初「知らない」「聞いていない」と繰り返した。米国への遠慮の表れではないか。
日本政府は米国に徹底調査を求め、事実ならば謝罪と再発防止の確約をさせるべきである。
疑惑は、内部告発サイト「ウィキリークス」が公表した。2010〜11年の盗聴対象とされる35回線がリストに挙げられ、内閣府や経産省、日銀から、大手民間企業に及んだ。
盗聴だけでも許しがたいのに、盗聴情報などに基づき07〜09年につくった日本関連の機密文書は、英国やオーストラリアなどと共有できるようになっていたという。米国にとって日本は敵なのかと疑いたくなる。
米国による盗聴騒ぎは、頻発している。一昨年、ドイツのメルケル首相の携帯電話が長年盗聴されていた問題が持ちあがった。今年6月には、フランスのオランド大統領の携帯電話も盗聴されていたとわかった。
両首脳とも怒り、オバマ米大統領に直接抗議した。米側は対応を約束したという。
なぜ、同様の態度を日本がとれないのか。菅官房長官は「仮に事実であれば同盟国として極めて遺憾だ」と述べたが、独仏に比べ明らかにトーンが低い。
折しも、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉も大詰めである。TPPを含め、過去の外交や通商全般を通じ、盗聴の有無と、その影響について早急に調べなくてはなるまい。
皮肉にも安倍政権は、同盟強化を看板に、米国の求めに応じる姿勢が鮮明だ。とりわけ特定秘密保護法は、国民の知る権利に著しい影響を及ぼすにもかかわらず、米国などとの情報共有に必要だとして成立させた。
その当の米国から盗聴されていたとすれば、これほど従属的で不毛な外交関係はない。
言うべきことは言い、守るべき国益は守る。どの国であれ、そんな節度ある関係を築くことが主権国家として当然の姿だ。
8月4日 朝日新聞朝刊より
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