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高見勝利・上智大学大学院教授(C)日刊ゲンダイ
“憲法の意見番”高見勝利氏が警鐘「徴兵制も現実の話になる」
http://nikkan-gendai.com/articles/view/news/162325
2015年8月2日 日刊ゲンダイ
「戦争法案」に対する、国民の反対の声が日増しに高まっている。憲法学界の重鎮で、05年まで国会図書館憲法担当専門調査員を務めるなど、国会の「憲法のご意見番」でもあった高見勝利上智大学大学院教授に話を聞いた――。
■「違憲の安保法案は国会を通してはいけない」
私もこの法案がとても合憲とは思えません。なぜなら、条文を見ても判例を見ても憲法制定時からの議論を見ても、集団的自衛権がこの憲法で認められているという根拠が何ひとつとしてないからです。
自民党の高村副総裁は砂川事件最高裁判決が根拠だと言いました。周知だと思いますが、あの判決を集団的自衛権を認めたものと読むのは明らかな間違いです。こうしたデタラメな判例の読み方や、内閣法制局長官の首をすげ替えて「違憲」を「合憲」と言いくるめるような乱暴なやり口を見ていると、徴兵制の問題も心配になってきます。
今のところ政府は徴兵制は憲法18条で禁止されている「その意に反する苦役」に当たるから違憲と言っていますが、これもまた信用できるかどうか。
「その意に反する苦役」が裁判員制度に関する事件で争点となり、11年に最高裁判決が出ました。裁判員は国民主権の理念に沿って司法の国民的基盤を強化するものだ、その職務は司法に参加する国民の権限だなどとして合憲としたものです。一定の辞退制度さえ整えておけば、この理屈で徴兵制も合憲とされかねないのです。石破茂さんも以前徴兵制は合憲と言ったことがありますが、砂川判決と集団的自衛権よりも、この裁判員制度合憲判決と徴兵制の方がよほど距離が近い。安保法制によって自衛隊員の生命の危険が増せば志願の隊員が集まらなくなる。徴兵制も現実の話として出てくるでしょう。
内閣法制局の権威はすっかり地に落ちてしまいました。これまで内閣法制局が論理的に一貫した解釈で法案の憲法適合性を審査してきたから、内閣が出してくる法案には見るからにヘンテコなものはなかった。従来の法制局見解からして、徴兵制なぞありえないと思っていたが、その保証もなくなってしまいました。「法制局が権威を回復するには100年かかる」と言う識者もいます。代替システムが必要ですね。
ひとつの可能性として最高裁判所による勧告意見の仕組みが考えられます。日本では裁判所が法律の合憲性を判断するのは訴訟が起きてからという「付随的違憲審査制」をとっています。ですが同じく付随的審査制をとるカナダには訴訟になる前に政府の照会に応じ最高裁判所が法律の合憲性を審査する制度がある。日本でも可能か検討の余地があると思います。
もうひとつは国会内で法案の違憲審査を専門的に行う「憲法委員会」を作ることも考えられます。
法案審議は参議院に移っています。参議院も本当に「良識の府」であるならこんな明白に違憲な法案は裁判所の判決を待つまでもなく、国会を通してはいけない。与党は「対案を出せ」などと政策論の方向に議論を引きずり込もうとしていますが、野党はこれに乗ってはいけない。あくまでこの法案自体を、違憲であるという原点からズタズタに論破していくことが必要だと思います。
▽たかみ・かつとし 1945年生まれ。74年東大大学院法学政治学研究科博士課程修了。九州大学教授、北海道大学教授、国立国会図書館専門調査員などを歴任。
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