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「絶対にない」「断じてない」「いささかもない」――。安倍晋三首相が安全保障関連法案の参院審議で、こんな断定調を増やしている。法案に対する世論の不安を払拭(ふっしょく)するためとみられるが、「断定」の根拠はというと、いま一つはっきりしない。
■「戦争、巻き込まれることは絶対ない」「徴兵制全くあり得ない、今後もない」「専守防衛、いささかの変更もない」
首相は30日の特別委員会で、自民党の森雅子氏から集団的自衛権の行使を認めたことをめぐり、「戦争に巻き込まれることはないのか。世界の警察であるアメリカに言われたら断れないのではないか」と問われ、「戦争に巻き込まれることは絶対にない」と述べた。
あくまで日本の防衛のために集団的自衛権を使うのであり、それに関係ない戦争に自衛隊は出せないという説明だ。だが、首相が普段から「日米同盟」の重要性を強調しているだけに、野党や憲法学者は、米国に助けを求められれば何らかの理屈を作り、米国の戦争に加わることにならないかと指摘する。
さらに森氏が徴兵制を取り上げ、「子育て中のお母さんと話すと、『徴兵制になるんじゃないの』という声を聞く」とただすと、首相は「徴兵制の導入は全くあり得ない。今後も合憲になる余地は全くない。子どもたちが兵隊にとられる徴兵制が敷かれることは断じてない」と繰り返した。首相は「政権が代わっても導入はあり得ない」と言い切ったが、民主党幹部は「長年の憲法解釈を変更し、歴代内閣が使えないとしてきた集団的自衛権の行使を認めたのは首相で説得力がない」と指摘する。
また首相は、民主党の広田一氏から、日本が相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使するとされる「専守防衛」の原則について問われ、「基本方針であることにいささかの変更もない」と述べた。だが集団的自衛権が使えるようになると、他国への攻撃でも、日本の存立が脅かされる明白な危険があると、政府が判断すれば武力行使できるようになる。広田氏は「専守防衛の考え方が破棄される」と批判した。
(三輪さち子、小野甲太郎)
■<視点>説得力欠ける
首相が「断定調」を繰り返すのは、法案への国民の理解が深まっていないとみて危機感を募らせているからだ。首相周辺の一人は「攻撃は最大の防御だ」と語る。強気の答弁で野党の批判を封じ、国民の支持を得たいということなのだろう。
しかし首相がどう口調を強めようと、問題の本質は法案の「違憲性」と、どんなケースに集団的自衛権が適用されるかがあいまいな点にある。
多くの憲法学者が法案を「憲法違反」と指摘し、その根幹への不信感が高まっているのに、首相は集団的自衛権を行使する判断基準を聞かれると「総合的な判断だ」と繰り返す。政権の裁量を少しでも広げておこうと、あえて法案や答弁ぶりにあいまいさを残している。これでは憲法上も安全保障政策上も、行使が適切かわからない。
そもそも、長年の憲法解釈を一内閣の閣議決定で変更したのは首相自身だ。その首相が、いくら将来のことを「絶対にない」「今後もない」などと明言しても説得力に欠ける。
(石松恒)
7月31日 朝日新聞朝刊より
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