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[この一冊]世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠 ジョセフ・E・スティグリッツ著 税制や社会政策による格差解消
今日の米国社会ではきわめて深刻な所得格差が拡大し、トップ1%の超富裕層とそれ以外の人々では似ても似つかぬ暮らしを送っている。著者は、このような極端な不平等は、資本主義の経済法則から必然的に生まれたのではなく、誤った政治と政策によって生み出されたと主張する。トップ1%の最上位層が、自分たちに都合よく市場のルールをゆがめることで莫大な利益を手にし、その経済力で政治と政策に介入した結果、格差が拡大したというのである。
深刻な所得格差の拡大に注目し、今日の経済や社会に不安定や混乱をもたらしているとする点で、本書はトマ・ピケティ著『21世紀の資本』と同じ問題意識に立脚している。しかし、ピケティが格差拡大は資本主義経済で必然的に起こると考えるのに対して、本書では「えせ資本主義」が不平等の拡大の源泉だと考える。企業と金持ちによる搾取を可能とするルールを改め、機会均等を向上させれば、不平等の解消は可能と論じる。
伝統的な経済学では、経済全体のパイを拡大し、適切に分配すれば、貧困問題は解消に向かうと考えることが多かった。しかし、深刻な格差が存在する場合、全体のパイを増やすだけでは貧困層を救えない。むしろ、不平等を生み出す市場のルールをいち早く是正することが、「えせ資本主義」を終わらせ、市場に市場らしい振る舞いをさせる上で有効となる。著者は、今の米国社会では、租税政策や社会政策で人々に機会の均等を保障し、不平等を解消していくことが不可欠だと訴える。
日本では、一握りの超富裕層が富の大半を保有するという極端な所得格差は存在しない。その一方、国民の大多数より貧しい人々の比率を示す相対的貧困率は、先進国の中で非常に高い。とりわけ、子供の貧困率の上昇は、機会の均等という点で深刻な問題をもたらしている。財政危機にある日本で、著者が主張する財政支出の拡大がそのまま正当化されるとは思えないが、本書は日本の格差問題を考える上でも多くの示唆を与える。
本書の多くの部分は他の媒体で発表した多数の論文の再掲載であるため、類似の主張が繰り返し登場し、冗長な面がないわけではない。ただ、全体の論旨は明快で、その主張の一つ一つはもっともなものだ。また、全体を8つのパートに分け、それぞれのパートの初めに全体像が丁寧に説明されているため、流れはつかみやすい。日ごろは格差問題にそれほど関心のない読者でも、本書は一読に値する。
原題=THE GREAT DIVIDE
(峯村利哉訳、徳間書店・2100円)
▼著者はコロンビア大教授。01年に「情報の経済学」でノーベル経済学賞受賞。著書に『フリーフォール』『世界の99%を貧困にする経済』など。
《評》東京大学教授 福田 慎一
[日経新聞7月26日朝刊P.21]
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