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安倍政権は集団的自衛権を合憲とする根拠として、砂川事件の最高裁判決を挙げている。しかし、これは完全に的外れな議論だ。砂川判決をまともに読めば、これが集団的自衛権の是非を判断したものではないことは一目瞭然である。
ここでは、慶應大学名誉教授の小林節氏のインタビューを紹介したい。
『月刊日本』8月号
小林節「主権を放棄した砂川判決」より
http://gekkan-nippon.com/?p=6934
砂川裁判の最高裁判決は無効だ
―― 安倍政権は自民党の高村副総裁を中心に、「集団的自衛権は合憲だ。根拠は砂川裁判の最高裁判決だ」と主張しています。憲法学者という立場からお話を伺えますか。
【小林】 とても驚いています。私が学生のころも教授になってからも、そんな理論は学んだこともなければ教えたこともありません。砂川裁判の最高裁判決が集団的自衛権を認めているという考えはあまりにもナンセンスです。しかも弁護士資格を持つ高村さんが言い出したので、二重三重にびっくりしています。司法試験に合格した人ならば、こんなことは言わないはずなのですが。
最高裁判決は「(憲法9条によって)わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではない」としています。与党はこの箇所を振りかざして「最高裁判決は個別的自衛権と集団的自衛権を区別していないから、どっちも認めているのだ」と主張し、安保関連法案を正当化しています。
しかし、これは真っ赤なウソです。昭和34年当時、占領後間もない敗戦国の日本が外に出ていくことは全く想定されていませんでした。それに、そもそも裁判というのは事件になった事実しか判断しないものです。砂川裁判でいえば、昭和33年9月にデモ隊の一部が米軍基地内に立ち入ったところ、日米安保条約に伴う特別刑事法違反で逮捕されるという事件が起きたので、裁判所は憲法9条と駐留米軍の関係を問題にして、駐留米軍の合憲性についてのみ判断しています。
つまり砂川裁判では日本が駐留米軍を受け入れることの合憲性が問題になったのであって、日本が他国防衛のために海外に出ていく集団的自衛権の合憲性は問題になっておらず、何の判断もなされていません。砂川裁判において集団的自衛権は想定外かつ問題外だったので、最高裁判決と集団的自衛権は無関係です。安倍政権の主張は非合理であり、成り立ちません。
一方、最高裁判決には安保関連法案に釘を刺すような箇所もあります。たとえば「統治行為論」という考え方です。これは「一見極めて明白に違憲無効」ではない限り、国家統治の基本に関わる高度に政治性を有する問題については、司法審査の対象にすべきではないという理論です。つまり、民主主義国家である以上、戦争と平和のような国家の命運に関わる問題は、選挙を経ていない15人の最高裁の裁判官が決めることはできない。そういう重大な問題は一次的には内閣と国会、最終的には主権者国民が決めるべきだということです。
最高裁判決の論理からすれば、憲法学者の9割以上が違憲だとしている安保関連法案は「一見極めて明白に違憲無効」の疑いがあります。また一次的に決定権を持つだけの安倍政権が最終的に決定権を持つ国民の声を無視して、国家の命運にかかわる安保関連法案を勝手に進めるのは不当です。西修さんや百地章さんなど、政権に近い憲法学者は補足意見まで引用して集団的自衛権を正当化しようとしていますが、補足意見はあくまでも補足意見です。参考までに記載されたもので先例としての拘束力はありません。
結局、彼らは最高裁判決の都合の良い部分だけをつまみ食いして、都合の悪い部分は食べ残しているのです。これは牽強付会というものです。
―― 米国立公文書館が発表した資料によって、田中耕太郎最高裁長官がマッカーサー米大使やレンハート米主席公使と密会し、米軍を違憲とした伊達判決を破棄すると約束していた事実が明らかになっています。
【小林】 三権の長がアメリカの大使や公使に面会して、事前に判決を約束するなど言語道断です。この時、日本は事実上主権を投げ捨て、独立を放棄したのです。最高裁判決は司法の独立を奪われた判決であるため、司法権の名に値しません。最高裁判決自体がそもそも「一見極めて明白に違憲無効」ですよ。砂川裁判の元被告の人たちが再審請求を求めていますが、至極当然のことです。
安倍政権は「独立国家として集団的自衛権を認めるのだ」と意気込んでいますが、そのために独立国家の主権を侵害した最高裁判決に頼るのは自己矛盾以外の何物でもありません。(以下略)
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