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付加価値を生む事業活動を行っている富裕層にはとどまってもらいたいが、金融資産の利得で高収入を得ているひとであれば、資産もろとも国外に出て行ってもらってかまわない。
個人金融資産の「キャピタルフライト」は、国民経済や財政にほとんど影響を与えない。
記事は、スウェーデンを例に、「富裕層の国外脱出が進めば国内消費が停滞し景気にも悪影響が出る。富裕税を減らし国内にとどまってもらうしかない。苦悩の末の選択」と説明しているが、一人あたりの消費額は少なくともボリュームが桁違いの中低所得者の税金など公的負担を増大させる方が、より大きく“国内消費が停滞し景気にも悪影響が出る”。
こんな低レベルの説明で富裕者優遇策を正当化しているような日経新聞は、FTを傘下にするよりFTの傘下に入ったほうがいいかもしれない。
このまま行けば近い将来そうは言っていられない経済状況になるが、現時点では、低中所得者のみならず高所得者にも増税する必要はない。
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[税金考]気になる光景
(1)それぞれの反乱 富裕層増税 もろ刃の剣
「お孫さんを養子にとられたらどうでしょう」。東京近郊に住む80代の女性は知り合いの税理士のこんな提案に面食らった。
女性が保有する1500坪の土地の評価額は約33億円。50代の長男と長女が負担する相続税は計18億円に上り、払い切れない分は代々受け継いできた土地の売却か物納を迫られる。
長男とその息子(22)が「親子」から「兄弟」に変わる養子縁組が成立すれば法定相続人が1人増え基礎控除が増える。節税効果は約7500万円。家族のかたちを変える養子縁組届を出す方向が今春固まった。
国境越える反発
政府が富裕層の増税を相次ぎ打ち出している。50%だった相続税の最高税率は1月から世界最高水準の55%に。所得税の最高税率も40%から45%に上がった。
反発は国境を越える。「もう日本にはいられない」。10億円の資産を持つ都内の元税理士(56)は近く日本を脱出する。移住先は富裕層を税優遇するマレーシア。クアラルンプールに約8千万円で豪華なマンションを購入し夫婦で暮らす。
日本は株式などの売却益に2割課税するが、マレーシア、シンガポール、ニュージーランド、香港はゼロ。相続税もかからない。この4カ国・地域に永住する日本人は1万4千人となり10年で2倍近くに増えた。
世界が羨む長寿社会を実現した日本。その維持費用もかさみ国の借金は年30兆円ペースで増えている。懐に余裕のあるお金持ちにもう少し負担してもらわないと財政が回らない。富裕層増税はその一手だが、行き過ぎると副作用がある。
2012年に発足した仏オランド政権は年100万ユーロ(約1億3500万円)超の所得に75%の高税率を課すと決めたものの、富裕層が猛反発し2年間の時限措置に修正した。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの最高経営責任者がベルギー国籍を申請。人気俳優のジェラール・ドパルデュー氏がロシアの市民権を取得するなど頭脳や才能の流出が深刻になったためだ。
高福祉高負担で知られるスウェーデンは04年、相続税を廃止した。富裕層の国外脱出が進めば国内消費が停滞し景気にも悪影響が出る。富裕税を減らし国内にとどまってもらうしかない。苦悩の末の選択だった。
日本も出国税
グローバル化の進展で企業が国を選ぶようになったこの30年、欧州を震源地とする法人税率の引き下げ競争が世界に広がった。富裕税を巡る欧州の攻防は、国を選ぶ個人が増えるなかで相続税や所得税の下げ圧力がじわじわ強まっていることを示す。日本が無縁でいられるとは限らない。
日本政府は7月から1億円超の有価証券を保有する人が海外移住する際、株式の含み益などに課税する出国税を導入した。吉と出るだろうか。08年に出国税を導入した米国では「国外離脱者が3倍に増えた。一定のお金さえ払えば恥ずべき行為ではなくなったためだ」(ルーベン・アビヨナーミシガン大教授)と言う。
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日常の風景に溶け込んだ税金を巡る攻防。その底流を現場から探ってみたい。
[日経新聞7月26日朝刊P.1]
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グローバル化の試練 個人課税、各国の連携に壁
「所得税はグローバリゼーションを生き抜けるか?」。米財務省顧問も務めたミシガン大学のルーベン・アビヨナー教授のブログが話題だ。
所得税は稼ぎが良いほど多く負担する累進課税が常識だ。貧富の格差を和らげることで社会の安定を損なわないようにする狙いがある。
累進課税の前提には、企業と違って人間は住む国を選ばないはずだとの考え方がある。だが、富裕層の税負担が重くなりすぎると、軽い税負担で優秀な頭脳や才能を引き寄せようとする国に移住する人が増える。
「各国の連携が不可欠だ」。所得税制を巡るアビヨナー教授の提言は、富裕層への資産課税強化で国際協調を進めるべきだとするフランスのトマ・ピケティ氏らの考えと共鳴する。
連携への道のりは遠い。経済協力開発機構(OECD)加盟国の相続税の最高税率は単純平均で15%。最高の日本からゼロ%までバラツキが大きい。課税は国家主権の核心だ。税財源の奪い合いの側面もあり各国の足並みは乱れがちだ。
小林慶一郎慶大教授は「グローバル化の流れは今後も深まる。長い目で見れば各国の自主的な課税の余地は狭まる。財政政策の展開が難しくなる分、金融政策で経済を支えようとする度合いが一段と高まるだろう」と見ている。
[日経新聞7月26日朝刊P.3]
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