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醍醐聰のブログ
2015年7月18日
NHK政治部記者に問いたい 〜あなた方は安倍政権のスポークスマンに成り下がったのか?〜
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/nhk-6f08.html
醜い政権肩入れ解説
安保関連法案は15日の衆議院特別委員会での強行採決に続いて、一昨日、衆議院本会議で可決され参議院に送られた。法案の中身と審議自体にも重大な問題があるが、ここではこの2日間のNHKのニュース番組に登場したNHK政治部記者の解説のあり方を取り上げたい。
7月15日のニュース7には政治部の吉川衛記者が、ニュースウオッチ9には同じく政治部の中田晋也記者が登場し、どちらもこの日に与党が安保関連法案の採決に踏み切った理由を解説した。また、7月16日のニュース7には政治部の長内一郎記者が登場し、安保関連法案の今後の審議の見通しについて解説した。
これら3人の政治部記者が異口同音に持ち出したのは「60日ルール」だった。延長した会期末までまだ2ヶ月残っているが、参院は衆院に比べ野党の勢力が強く、攻勢を強めることが予想される。そこで、与党は60日ルールを余裕を持って使える可能性を「保険」として残しておきたいという狙いから今日の採決になったと、まるで我が事のように政府・与党の思惑を解説してみせた。
また、今後の審議への注文といっても、「政府与党にはいっそう丁寧な国会運営や理解を得る努力が求められる」といった、安倍首相が好んで用いる常用句を使うだけの無内容なものだった。
実際、NHKのニュース番組も、衆議院での安保関連法案を通じて審議が深まったとはいえない、国民の理解が進んだとはいえないと語った。現に、NHKが今月10日から3日間行った世論調査の集計結果によると、
安全保障関連法案をいまの国会で成立させることについて、
「賛成」18% 「反対」44% 「どちらともいえない」32%
これまでの国会審議で議論は、
「尽くされたと思う」8% 「尽くされていない」56%
「どちらともいえない」28%
で、過半または相対多数の国民は安保関連法案の審議は尽くされていないとみなし、同法案が今国会で成立することを望んでいない。
であれば、NHKの報道番組に求められるのは、この先の審議日程に関する政府与党の思惑を解説してみせることではなく、国民が審議を尽くせていないと考えている論点を整理・解明して政府与党、広くは国会議員に提示し、熟議を促すことである。
山積する論点を提示し、熟議を促した全国紙
げんに、7月17日の『朝日新聞』は「怒りと疑問にこたえよ」という社説を掲載し、こう記している。
「議論すべきことは山ほどある。大多数の憲法学者の『違憲』の指摘に、政府は全く反論できていない。どんな場合に集団的自衛権を行使できるのか、安倍首相は『総合的判断』と繰り返すばかりで、要は時の政権に白紙委任しろということかと、不安は高まる一方だ。」
「そもそも、この違憲の可能性が極めて高い法案を審議するのは、最高裁に『違憲状態』と指摘された選挙制度によって選ばれ、その是正にすらまごついている人たちなのだ。
あなたたちは何を代表しているのか? この問いに少しでも答えたいなら『理の政治』を打ち立てるしかない。主権者は注意深く、疑いの目で見ている。」
そして、同日の『朝日新聞』朝刊(1面、2面)はその前日に明らかになった自衛隊の内部文書(イラクに派遣された航空自衛隊の活動を記録した文書)を分析し、サマワの宿営地に追撃弾やロケット弾による攻撃が10回以上発生していた事実、あるいは派遣先の現場では戦闘を想定し、隊員に対して最終的には「危ないと思ったら撃て」と指導をした指揮官が多かったという事実を紹介して、当時、政府が繰り返した派遣先は「非戦闘地域」という説明が「虚構」だったことを明かにした。こうした内部文書は、目下の安保関連法案について、「現に戦闘が行われていない地域」での治安維持活動等に限定されるという政府の説明の虚構性を裏付ける資料にもなっている。
『毎日新聞』も1面に「参院を『消化試合』にするな」と題する高塚保・政治部編集委員の論説を掲載。その中で、次のように記している。
「審議すればするほど、あいまいになっていったのが集団的自衛権を発動できる『存立危機事態』だ。」「『違憲』『合憲』論争にも決着はついていない。・・・・『違憲』の疑いは払拭できなかったどころか、増幅している。」
そのうえで高塚氏はこう結んでいる。
「政府は、参院が60日以内に議決しなければ衆院で再議決できる『60日ルール』の適用も想定に入れているようだが、もってのほかだ。徹底した議論が求められる。」
NHKの政治部記者が政府与党の思惑を代弁するかのように「60日ルール」で法案成立は決まりかのような解説を得々とするのと好対照である。
熟議よりも数の力、政権の思惑に軸足を置くNHK
実際、16日のNHKニュース7とニュースウオッチ9は、この日、安保関連法案が衆院本会議で可決されたのを受けて、これにより参院で採決が行われなくても「60日ルール」により、衆院で再可決が可能となり、法案が今国会で成立する公算が大きくなったと早々と伝えた。
しかし、論点の解説といっても定時のニュース番組の時間枠の中ではかなわないといえるかも知れない。では、十分な時間と紙幅を得た場面でNHKの政治部記者は安保関連法案の論点をどのように解説しただろうか?
そこで、NHK解説委員が担当する「時論公論」を検索すると、安保関連法案が国会に提出されて以降、法案審議の状況を取り上げた記事として、太田真嗣氏の次の解説がある。
時論公論「国会延長へ 与野党攻防の行方」
(2015年06月20日太田真嗣 解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/221339.html
記事のあらましは次のとおりである。
*安倍総理大臣は、戦後70年にあわせて総理大臣談話を発表することにしている。会期を8月上旬までとする案は、総理談話が国会で論争の種になるのを避けるため、その前に国会を閉じてしまおうというものである。しかし、最大の弱点は、関連法案の審議日程を考えると非常に厳しく、最悪の場合、時間切れになる可能性があることだ。
*会期を8月下旬、もしくは9月上旬まで延長する案は、法案成立を第1に考えた案で、関連法案は、衆議院通過後、参議院で審議されることになるが、参議院は与野党の議席数が拮抗しており、難しい国会運営となることが予想される。それを念頭に、かりに参議院で関連法案が否決、あるいは採決に持ち込めなくても、憲法の規定に基づき、衆議院の3分の2以上の賛成で再可決して成立できるよう、十分な時間を確保しておこうという計算もちらついている。与党側は、今後の審議状況や野党側の出方などをギリギリまで見極めた上で、具体的な延長幅を決める方針である。
まさに、論点解説というより「政局談義」というにふさわしい中身である。途中、法案を巡る論点に触れられてはいるが、最大の争点である集団的自衛権行使について、「歯止め不十分で、際限なく広がるおそれがある」と指摘する野党の主張と、「我が国の存立が脅かされる事態に限って行使を認めるなど、厳しい制限を設けている」とする政府の反論を並記するだけで独自の知見は全く示されていない。
外国軍隊への後方支援を行う自衛隊員のリスクも取り上げてはいるが、自衛隊の活動内容や活動範囲が広がることを踏まえ、「リスクが増えるのではないか」とする野党の追及と、「自衛隊の活動は常にリスクが伴っている。ただ、活動はあくまで戦闘行為が発生しないと見込まれる区域で行い、危険な状況になれば直ちに中止する」と説明する政府の主張を並記して、「議論は平行線のまま」で結ぶ、おざなりの「解説」である。
最後に、「後半国会の展望」を語って終わる太田氏の「解説」はどう見ても、言論機関のスタッフの論点解説と呼べる代物ではない。
次に、NHK WEB特集(2015年7月17日)に掲載された政治部・田中泰臣記者の解説記事を見ておきたい。
「安保法案 与野党の思惑と展望は」(政治部 田中泰臣記者)
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2015_0717.html
田中記者の解説を要約すると次の通りである。
*安保関連法案は当初は、集団的自衛権の行使がどこまで認められるのか、また自衛隊員のリスクが高まるのかどうかが主な論点となったが、6月に入って以降は法案が違憲か合憲かという「そもそも論」の議論が繰り広げられるようになった。
*政府側は、安全保障環境が厳しくなっている状況を踏まえれば、他国に対する武力攻撃であっても日本の存立を脅かすことが起きる可能性もあり、あくまで日本を守るため、集団的自衛権の行使を一部限定的に認めるものだとして、これまでの政府の憲法解釈との整合性は保たれているとしました。これに対し、民主党は「憲法違反の疑いが強い」、共産党は「憲法違反だ」などと攻勢を強め、対立は激化していった。
*今月14日、衆院特別委員会で法案の採決が行われ可決された。そして翌16日、衆議院本会議で自民・公明両党と次世代の党などの賛成多数で法案は可決され、参議院に送られた。この結果、与党は、仮に参議院で採決が行われない場合でも、9月14日以降に「60日ルール」を使って衆議院で再可決することが可能になるため、法案は今の国会で成立する公算が大きくなった。
*安倍総理大臣とすれば、安全保障環境が厳しさを増しているなか日米同盟をより強固なものにすることは不可欠であり、そのために必要な法案なので、いずれ分かってもらえるはずだという思いがあるものとみられる。また集団的自衛権の行使容認は、安倍総理大臣が、第1次安倍内閣の時から取り組んできた課題でもあり、みずからの手で成し遂げたいという信念もあるのだと思う。
*法案の審議は参議院に移るが、戦後日本の安全保障政策を大きく転換させる法案であるだけに、安倍総理大臣をはじめ、政府・与党が審議を通じてどのように国民の理解を得ていくのか、注視していく必要がある。
法案の論点よりも、法案審議の「行方」、法案成立に賭ける安倍首相の「思い」に軸足を置いた政局解説、安倍首相のスポークスマンの政府広報同然である。
NHK政治部の記者に問いたい
このようなNHK解説委員、政治部記者の「解説」を目の当たりにすると、こう問いかけずにはいられない。
Q1.あなた方が手掛けている「調査・取材」とは何なのか?
政府は出したがらないが、国民に知らせなければならない事実を追求することなのか? それとも政府与党の要人に付きまとい、彼らの腹の内を探る「ぶら下がり取材」なのか?
Q2.あなた方がジャーナリストとして目指すものは何なのか?
政治的アジェンダに関する熟議を促すことなのか? それとも「数の力」の赴くところを早や読みして政治的アジェンダの「落としどころ」をかぎ分けることなのか?
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