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著者は、新安保法制を夏までに成立させるとした米国への約束と3千名規模の二階訪中団派遣を安倍総理が犯した2つのミスとしている。
一つ目の“ミス”は、国内で物議を醸すことがわかっていながら、必要のない期限付きの約束を米国に対しわざわざ行った意味を考えれば、安倍政権の新安保法制に対する“真意”が見えるはずだ。
端的に言えば、米国に要求されて新安保法制に取り組んでいるが、実のところは乗り気ではないというサインである。
二つ目の“ミス”とされるものも、安倍政権の使命の一つは対中関係の改善であり、二国間交渉で経済関係を深めている米中のことを考えれば、米国に弓を引く行為にはならない。
安倍政権としては、米国を基軸としながらも、中国・ロシア・インドなどとの関係をより深めていきたい。そして、それが対米牽制になるとも考えている。
安倍政権は既に、米国に心中立てしたからといって、かつてのようにいい目にあえるとは思っていないである。
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「安保関連法案」で安倍総理が犯した2つのミス[ダイヤモンド・オンライン]
北野幸伯 [国際関係アナリスト]
【第15回】 2015年7月14日
4月末の米議会演説で戦略的勝利をおさめたのもつかの間。安保関連法案に関する強硬姿勢でそっぽを向く国民が増え、安倍総理は窮地に陥っている。わずか数ヵ月のあいだに、安倍内閣が犯した間違いについて、解説する。
安倍内閣の支持率が急落している。朝日新聞が6月20、21日に実施した世論調査によると、内閣支持率は1ヵ月で6ポイント低下し、39%になった。7月4、5日に実施した毎日新聞の調査では、不支持が支持を上回り、第2次安部内閣発足後、初めて逆転した。
支持率が下がっている理由は、「安保関連法案問題」である。直接的な理由は、衆院憲法審査会で憲法学者3人が、安保関連法を「憲法違反」と指摘し、政府がそれを事実上「無視」していること。また、自民党若手議員の勉強会で、法案に批判的なマスコミへの圧力を支持する発言が相次いだことなどだろう。しかし、この問題は、長期的視点で見ると、もっと根が深い。
過去数年の劣勢を一気に逆転
安倍演説で「戦略的勝利」をした4月
「私たちの同盟を、『希望の同盟』と呼びましょう。米国と日本、力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所にしていこうではありませんか。希望の同盟。一緒でなら、きっとできます」
4月29日、安倍総理は絶頂にあった。米議会における「希望の同盟」演説は大成功。オバマ大統領は、ホワイトハウスのツイッターに「歴史的な訪問に感謝する。日米関係がこれほど強固だったことはない」と書き込んだ。
しかし、ここに来るまでの道は、平坦ではなかった。2012年12月に第2次安倍内閣が誕生した時、日中関係はすでに、「尖閣国有化問題」(12年9月)で「最悪」になっていた。
12年11月、中国は、モスクワで仰天の「対日戦略」を提案している。その骨子は、@中国、ロシア、韓国で「反日統一共同戦線」をつくる A日本の北方4島、竹島、沖縄の領土要求を退ける(つまり、沖縄は中国領) B米国を「反日統一共同戦線」に引き入れる――である(中国、対日戦略の詳細はhttp://diamond.jp/articles/-/66110)
この戦略に沿って中韓は、全世界で「反日プロパガンダ」を展開し、大きな成果をあげた。13年12月26日、安倍総理が米国のバイデン副大統領の「警告」を無視して靖国を参拝すると、世界的「日本バッシング」が起こる。
中韓に加え、米国、英国、EU、ロシア、オーストラリア、台湾、シンガポールなどが、靖国参拝を非難した。この時、安倍総理は「右翼」「軍国主義者」「歴史修正主義者」とレッテルを貼られ、世界的に孤立した。
しかし、14年3月、ロシアがクリミアを併合すると、日米関係は好転する。「対ロシア制裁」に、日本の協力が必要だからだ。そして15年3月、今度は「AIIB事件」が起こった。英国、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国などが、続々と米国を裏切り、中国主導のAIIBに参加していく。
その中で、日本だけは、米国以外の大国で唯一「AIIB不参加」を決めた。これで、米国にとって日本は、「英国よりもイスラエルよりも大事な国」になった。そして、4月29日の「希望の同盟」演説。オバマがいうように、日米関係は、これまでにないほど「強固」になったように思えた。
中国の戦略は、「日米分断」である。
よって、日本の戦略は、「日米一体化」である。
安倍総理は、「希望の同盟」演説で日米一体化を成し遂げ、「戦略的勝利」をおさめた。しかし、「2つの失敗」を犯したことで、現在は再び苦境に陥っている。
再び苦境に陥った安倍総理
「2つの失敗」とは何か?
実をいうと、1つ目の失敗は、「希望の同盟演説」の中にある。(太字筆者。以下同じ)
<日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう。
戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます。>
「この夏までに、成就させます」。これは、安倍総理が米国に「約束」したのだ。この約束が、「1つ目の失敗」である。
なぜか?当たり前のことだが、約束は「守らなければならない」。つまり演説後、4ヵ月で「安保関連法案」を成立させる(「夏までに」というと、「夏に入る6月までに」という解釈もできるが、ここでは「夏中に」と考えることにする)。
だから、急がなければならない。急ぐと、あせる。あせると、国民への説明が不十分になる。野党への根回しがイイカゲンになる。それでも「なんとか米国との約束を果たさねば」と必死になると、言動が「強引」「独裁的」になる。反対するマスコミが憎らしく思え、「懲らしめてやれ!」と思ったり、そう発言したりする議員が出てくる。結果、国民が、ますます内閣への疑念と嫌悪感を強めていくという悪循環になっている。
そして、総理は、「米国との約束を果たすため」に急いでいるというのも重要なポイントだ。この態度は、いかにも「属国的」だ。実をいうと、国民は皆「日本=米国の属国」であることに気がついている。しかし、国政の長には、「自立した国のトップ」としてふるまってほしいのである。
2つ目の失敗は、「中国との関係改善」である。二階俊博・自民党総務会長率いる約3000人の使節団が5月22〜24日、中国を訪問した。習近平は5月23日、使節団の前に姿を現し、日本に「ラブコール」を送った。
<「朋あり遠方より来る、また楽しからずや。
3000人余りの日本各界の方々遠路はるばるいらっしゃり、友好交流大会を開催する運びになった。われわれが大変喜びとするところだ。>
なぜ日中関係改善が、「失敗」なのか?この時期、米中関係はどうなっていたのか、思い出してほしい。
<米中激突なら1週間で米軍が制圧 中国艦隊は魚雷の餌食 緊迫の南シナ海
夕刊フジ 5月28日(木)16時56分配信
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。
軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。>
これは、5月28日の夕刊フジ。つまり、訪中団が、習近平と「日中関係改善」について話し合ってから、わずか5日後だ。実際、「習近平ラブコール」の日、既に米中関係は十分悪化していた。その時、米国の「希望の同盟国」であるはずの日本は「3000人」の「大訪中団」を送り込み、「戦略的互恵関係」について協議していたのだ。
日本に猜疑心を覚えた米国
「二階訪中団」が裏目に
この状況、米国のリーダーの目にはどう映るだろうか?「安倍の演説は、ウソなのではないか?」「日本は、米国を『バックパッシング』しようとしているのではないか?」と考えるだろう。
前回も書いたが、もう一度、おさらいをしよう。大国が敵と戦う戦略には、大きく2つある。
1. バランシング(直接均衡)…自国が「主人公」になって、敵の脅威と戦う。
2. バックパッシング(責任転嫁)…「他国と敵を戦わせる」こと。自国が直接、戦争によるダメージを受けずに済む。
この場合の「バックパッシング」とはつまり、「日本は、米中を戦わせて、自分だけ漁夫の利を得ようとしている」ということ。もちろん、日本側にそのような「狡猾さ」はない。ただ単に、「中国と仲良くしたい」と考えただけだ。しかし、米国は、そうは取らないだろう。
安倍総理は、「希望の同盟」演説で、日米同盟を改善させたのだから、しばらくは「米国への一途さ」を示すべきだった。もちろん、中国を挑発するのは論外だが、「3000人の訪中団」はやりすぎだろう。この訪中団で、「希望の同盟演説」で醸成された米国側の「日本愛」は、かなり冷めたと見るべきだ。
第2の失敗「日中関係改善」が引き起こした、もう一つの現象は「国民が『安保関連法案』の意義を理解できなくなった」ことだ。
「集団的自衛権行使」を実現するための「安保関連法案」。反対派と賛成派の論理は、真っ向から対立している。反対派の論理は、「米国の戦争に巻き込まれる」である。米国は、21世紀に入って、アフガン、イラク、リビア(=北アフリカに位置)で戦争をしている。そして、13年にはシリアと戦争直前の状態になった。現在は、少し関係が改善しているが、イスラエルロビーのプッシュで、イラン戦争が起こる可能性も否定できない。
つまり、「米国の戦争に巻き込まれる」というのは「中東戦争に自衛隊が送られることへの恐怖」といえるだろう。
一方、賛成派の主張は、「尖閣、沖縄を狙う中国と対抗するために、日米関係をもっと緊密にしなければならない」。つまり、「中国の脅威があるから、安保関連法が必要だ」という論理だ。ところが、習近平のスピーチとスマイルで、日中関係が改善してしまった。これは、「安保関連法案」の視点からすると、「対中国で必要」という賛成派の主張への大きな打撃である。
「安保関連法案を通さなければならない時期」に、なぜ大訪中団を送ったのか、とても理解に苦しむ。
強行採決すれば祖父と同じ道?
安倍総理が危機を脱出する方法
では、安倍総理は、これからどう動けばいいのだろうか?問題の本質はなんだろう?論点は大きく分けて、2つに整理される。
1つ目は、安倍総理が米国に「安保関連法案を、夏までに成立させる」と約束したこと。もし約束が守れなかったら、どうなるのだろう?元外務省国際情報局局長・孫崎享氏の著書「アメリカに潰された政治家たち」(小学館)は、こんな印象深いフレーズからはじまる。
<皆さんは、「日本の総理大臣」は誰が決めているのか、ご存知でしょうか?>(「アメリカに潰された政治家たち」8p)
<国民の与り知らぬところで何かが起き、いつのまにか総理の首がすげ替えられることは日本ではよくあります。しかも、政権が代わるたびに、日本におけるアメリカのプレゼンスが増大しているのです。(中略)
そして、そのときに失脚した政治家は、おしなべてアメリカを激怒させる“虎の尾”を踏んでいました。>(同上10p)
孫崎氏は、要するに「日本の総理大臣を決めているのは米国だ」と主張している。本当かどうか確認することはできないが、市井の「陰謀論者」ではなく、元外務省国際情報局局長の言葉であることが重要だ。そして国民も、「親米派の内閣は長続きするよね」と感じている(例、中曽根内閣、小泉内閣)。
つまり、安倍総理は、米国との約束を破ることで、政権が崩壊することを恐れているのではないだろうか?(もちろん、総理の心の内面までわかるはずもないが)
2つ目は安保関連法案を強行採決することで、さらに支持率が下がり、政権が崩壊すること。自民と公明は、安保関連法案を強行採決して成立させることができる。だが、それをやると、「独裁的だ」「やはり軍国主義者だ」との批判が高まり、安倍内閣は崩壊に向かうかもしれない。
ちなみに、安倍氏の祖父である、故・岸信介元首相は1960年5月19日、「新安保条約」を強行採決した。しかし、2ヵ月後には総辞職している。安倍総理も、祖父と同じ道を行くかもしれない(あるいは、強行採決して支持率が下がっても、サバイバルする方法を見つけるかもしれないが)。
もう一度整理すると、
1、米国との約束を破れば、安倍内閣は崩壊するかもしれない。
2、しかし、国民を無視して「強行採決」すれば、民意によって安倍内閣は崩壊するかもしれない。
要するに、「止まっても崩壊」「進んでも崩壊」だ。もちろん、必ずそうなるわけではないが、非常に舵取りが難しい局面であることは間違いない。
筆者が安倍総理にお勧めしたいのは、日本国民と米国、両方によい道である。たとえば、こんな会話だ。
日本:「親中派の巻き返しが激しく、約束は果たせない」
米国:「強行採決したらどうなるか?」
日本:「強行採決は可能だが、それをやると国民の反発が高まり、退陣に追い込まれる可能性がある」
米国:「あなたが辞めたらどうなるか?誰が次の総理になるか?」
ここで、「3000人訪中団を率いたバリバリの親中派・二階氏が最有力候補だ」と伝えるのだ。すると米国は、「二階氏が総理になると日本はどうなるか?」と質問してくるだろう。総理は、「鳩山・小沢時代のごとく、日米同盟はメチャクチャになるだろう」と伝える。
要するに、「約束は守れないが、私が総理を続投しなければ大変なことになる」と主張するのだ。「小鳩時代の悪夢再現」を恐れる米国は、納得してくれるのではないだろうか。こうして時間を確保した総理は、腰をすえて「安保理関連法案」成立に取り組むことができる。
国民への説明と野党への根回しをより丁寧にしていくことで、「独裁」「軍国主義者」という批判を和らげることができるだろう。
P.S .ちなみに筆者は、「安保関連法案」を支持している。それは、「集団的自衛行使容認」を支持するのと同じ理由である。総理の「手法」に不満な方も、是非こちらの記事(http://diamond.jp/articles/-/55118 )を参考にしていただきたい。
http://diamond.jp/articles/-/74860?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor
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