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「壁耳」特ダネの衝撃力 「この道」以外の選択肢を
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2015/07/19/post-181.html
サンデー毎日 2015年7月19日号
倉重篤郎のサンデー時評 連載61
「壁耳」というのをご存じか?
文字通り、壁に耳あり、発言にはご注意を、ということだが、新聞業界では、密室会合を取材する際に記者たちがまさに壁に耳を当てて、室内でのやりとりを聞き取る行為を指す。
壁耳の対象になるのは、自民党本部や国会内での会合が多い。構造上の問題からである。会合の行われている部屋に近づけること、ドア越しや通風口など、どこかにすき間があって中の発言が漏れ聞こえてくることが必須の条件だ。
不自然な姿勢で長時間、細心の神経を使ってメモを取り続けるのは、結構苦役である。声の小さい人、早口な人は聞き取りにくい。記者の中にも得手不得手があった。私は根気が続かず下手くそだったが、同僚の中には床際の細いすき間に耳を預け寝ころんだまま巧みにメモを取る職人もいた。とても子どもにはこの姿を見せられないね、と言い合ったものだ。
ただ、権力の本音トークを把握する手段としては有効だ。法を犯すわけでもない。言葉は生きている。会合終了後に丸めたブリーフや会見があったとしても、肉声のリアリズムにはかなわない。
この泥臭い職人芸のような世界から久しぶりに特ダネが生まれた。自民党の若手会合での報道統制発言である。安倍晋三政権に批判的な報道に対して、広告を止めて兵糧攻めにせよ、とか、沖縄の2紙をつぶせ、とか、とても自由と民主を看板にした政党とは思えない暴言がスクープされた。
現場の記者が壁耳しなければ出てこなかったネタである。改めてメディアの仕事の原点は、現場でのファクト(事実)収集力だと思った。ファクトに対する専門家の分析・加工力がいかに優れ、ITによる伝播(でんぱ)力がいかに発達しようと、大本の確かなファクトなしにニュースは生まれないのである。
さて、この壁耳ネタ。政局に与える影響は意外や、大である。
第一に、安倍政権の運気の低落である。数があれば何でもできるとの驕(おご)りの表れか。先の憲法3学者「違憲」発言あたりから、政権党として良かれと思ってやったことがうまくいかなくなっている。
◇垣間見える 祖父岸信介元首相に似た今国会で、のヒロイズム
「違憲」事件は、改憲を自らのライフワークにしている安倍氏のために、少しでもその改憲日程を前倒ししようという関係者の善意と過失が生んだハプニングである。若手会合は、秋の総裁選をにらみ安倍無投票再選を完璧にせんとする別動隊の初会合であった。
振り返ると、安倍政権はこれまで運が良すぎた。3年前の総裁選で3番手当選を果たしたのもそうだが、それ以来、三つの国政選挙で立て続けに勝利、五輪誘致に成功し、禁じ手といわれた異次元金融緩和で(現段階では破綻なく)景気を刺激し、特定秘密保護法制定、武器輸出解禁といった国権強化策を次々と打ち出してきた。
ただ、政権運営もまた人生と一緒である。凪(なぎ)があれば荒波もある。追い風があれば逆風もある。ちょうど今その潮目の変化が現れつつある。山高ければ谷深し。バブリーな強運の後に来るものに政権として備えなければならない。
第二に、自民党内のいびつな萎縮である。若手会合問題では主催者格の議員が党の役職(青年局長)を更迭され、党全体に対してもテレビ出演や外での意見表明について自粛、もしくは慎重対応するようお触れが回っている。これは、自由闊達(かつたつ)な言論を保証する、という自民党の伝統にそぐわない。
衆参両院合わせて400人の自民党議員を一律に縛れるものでもない。不満は内向し、政局の火種として蓄積する。新安保法制について党内論議を尽くしていない上、さらに口を封じられると、政権の称揚する選挙区に向けた懇切丁寧な説明もままならなくなる。長期国会となったことで秋の内閣改造党人事が小規模になりそうなことも、政権の求心力を削(そ)ぐだろう。
第三に、語るに落ちる、というか、新安保法制、辺野古新基地問題という安倍政権が抱える二つの安保懸案の本質が、まさにメディア、世論対策であることを自ら白状したことである。世論の支持を増やすためにその障害になるメディアをどう扱うか、という発想だ。もともと、安倍政権は内閣支持率に敏感だ。支持率低下は織り込み済みとはいうものの、すでに50%を切った支持率がさらに下がり不支持率と逆転した場合にそれに耐えられるのか。
メディア対策では、もう一つ失策を重ねた。朝日、毎日、東京という政権批判派3紙は別にして、報道統制ということでは、貴重な安倍応援団である読売、産経という2紙まで敵に回してしまった。
もっともこれらのことで安倍政権の基本方針が変わるわけではない。安倍氏には、新安保法制をこの国会で成立させるという選択肢しかないのである。対米公約であるだけではない。60年の安保改定時の、祖父岸信介元首相に似たヒロイズムが垣間見える。世論との綱引きの中で、維新の取り込み、強行採決の機がはかられるであろう。
この政局の行く末は、正直言って読めない。強行突破に成功するかもしれないし、支持率を急落させ退陣を迫られるかもしれない。
野党に一つ要望したい。安倍氏が示す「この道」以外の選択肢をわかりやすく提起することだ。それは四つの柱からなる包括的政策だ。(1)安保環境の変化とそのために必要な抑止力をどうとらえるか(2)その抑止力を米国とどうシェアすべきなのか(3)日本側に必要とされた抑止力(基地受け入れも含め)のうち沖縄と本土との間でどう公正にシェアすべきなのか(4)抑止力を考える際、歴史認識や外交力をどう位置付けるのか。
時間はたっぷりある。参院選の勝負はそこになるのではないか。
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