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大赤字の「マルチメディア放送」はなぜ続くのか
放送・通信業界は1000億円をドブに捨てても電波利権を守る
NOTTV(ノッティーヴィー)というサービスをご存じだろうか。NTTドコモと民放連などが2012年に始めた携帯端末向けの「マルチメディア放送」だが、今月発表された3月期決算では、当期純損失が503億円、累損は996億円に達した。
資本金は249億円なので、普通の会社ならとっくに倒産だが、まだ営業している。それはこのサービスをやっているmmbi(エムエムビーアイ)という会社の株式の60%をNTTドコモが保有し、巨額の赤字を補填しているからだ。そこまでしてこの赤字サービスを続けるのはなぜだろうか?
14年かかっってもアナログ放送を止めた「跡地」の使い道がまだ決まらない
NOTTVのロゴマーク
NOTTVの使っているVHF帯は、昔アナログ放送をやっていた電波である。デジタル放送をするなら、その空きチャンネル(東京なら5チャンネルや7チャンネルなど)で放送し、470MHz以上のUHF帯は新しい放送局に開放すればいい、と専門家は指摘していた。
ところがテレビ局は新規参入を妨害するためにUHF帯をふさごうとし、地上デジタル放送をわざわざUHF帯に移してやることにした。広告収入は増えないのに、これにかかる経費は無線局だけで1兆円以上だったが、そのうち3000億円以上を総務省が補填した。
これは電波法違反である。無線局の移設は無線事業者の経費で行うもので、世界のどこの国でも政府が補助した例はない。しかも国費を私企業に投入する(その利益は私企業のものになる)ことも違法の疑いがあるので、2001年度の予算査定で大蔵省が難色を示した。
そこで総務省は「VHF帯を空けて有効利用するので国民的な利益がある」という理由で、2001年に無理やりVHF帯の電波を止めることを決めた。このため全国で1億3000万台以上あったアナログテレビは粗大ゴミになり、VHF帯の電波は2011年7月にすべて止まった。
問題は、この「跡地利用」をどうするかだった。VHF帯は電波が広く届くので放送には適しているが、大きなアンテナが必要なので通信には向いていない。そこで総務省はこの帯域の一部を「マルチメディア放送」に割り当てたが、最初は40社以上が参入を申請して使い道が決まらなかった。
周波数オークションを阻止して外資を排除した総務省
民放連はVHF帯からUHF帯に移行したのに、「VHF帯は放送局の既得権だ」と主張した。しかし外資系のクアルコムは、アメリカでスタートしていた携帯放送サービスをVHF帯でやろうとし、「放送局が全国に数百の携帯基地局を建てるのは不可能だ」と批判した。困った総務省の電波部は通信業者を引き込もうと、ドコモに声をかけたのだ。
このころ同時に2.5GHz帯(今のWiMAXが使っている帯域)の審査も行われており、3つの枠に4グループが立候補して調整が難航していた。困った総務省は、2.5GHz帯の枠をドコモが譲る代わりに、VHF帯をドコモに与えるバーターを仕掛けたのだ。
この取引を当時もちかけられたNTTドコモの執行役員、夏野剛氏は「筋の悪い話だと思ったが、一応、社長に上げたら通ってしまった」という。当時の中村維夫社長は、この取引に乗る代わりに、スマートフォン(4G)に使う700MHz帯を無償でもらう密約を総務省としたのだ。
4Gには多くの通信業者が名乗りを上げており、ソフトバンクの孫正義社長は「電波をたくさん持っているドコモより、電波の少ない当社に優先的に周波数を割り当てろ」と主張していた。そこでドコモはVHF帯で総務省に恩を売って電波を確保し、総務省はVHF帯でうるさい外資を排除するためにドコモを利用する取引が成立したわけだ。
こういう「空気」を読んで、日本の業者はVHF帯の一本化工作に乗ったが、クアルコムはKDDIを引っ張り込んで一本化に抵抗した。当時の民主党政権も「周波数オークションでフェアに決着をつけろ」と指摘したが、そんなことをしたら密約を破ることになるので、総務省は必死で抵抗した。
衆議院議員会館で公聴会が開かれ、民主党の議員が「電波監理審議会が技術を選べるのか」と質問したのに対して、総務省情報流通行政局の大橋秀行総務課長は「審議会に対して諮問し答申をいただきますけれども、評価は私どもの方でいたします」と、審議会が形だけであることを正直に告白した。
彼の言った通り、電監審はわずか2時間の審議でドコモ=民放連グループに免許を与える答申を出した。そのときドコモは「1000万台が採算分岐点。5年後に5000万台が普及する」という事業計画を出していた。
しかしNOTTVの13チャンネルを使う委託放送業者の申し込みはなく、結局mmbiが自分で13チャンネルを使うことになった。13部屋の賃貸マンションを売り出したら、誰も借りなくて大家が全部借りたようなものだ。
おかげで3年たった今年3月の契約者数は、わずか175万人。スマホで無料動画がいくらでも見られる時代に、月額420円も払ってテレビ番組を見る人が増えるとは思えないので、赤字はさらに拡大するだろう。
テレビ局と新聞社を黙らせる総務省の「電波社会主義」
ただ、昨年も6400億円以上の経常利益を出したドコモが500億円ぐらい損しても、利用者には何の影響もない。問題はこんな無意味なサービスに、貴重な電波が浪費されていることだ。
下の図は、総務省の公表している電波の利用状況だ。民放の使っていた170〜205MHzは「公共・一般業務(移動)」ということになっているが、まったく使われていない。その下のNHKの使っていた95〜108MHzは、電波を止めることが決まってから14年たっても、いまだに何に使うのかさえ決まっていない。
VHF帯の利用状況(出所:総務省)
要するに、全国のテレビ電波を無理やり止めて空けたアナログ放送の跡地は、がら空きなのだ。この帯域だけでも放送に利用すれば、新しい技術(H.264など)なら30局以上のテレビ局が放送できる。さらにUHF帯の空き帯域(ホワイトスペース)を有効利用すれば、合計100チャンネル以上の放送ができるのに、ほとんどの周波数は使われていない。
これは総務省が周波数オークションを拒否し、電波を社会主義的に割り当てるからだ。民主党政権の時代に総務省はオークションの導入を決めたが、自民党政権に元に戻してしまった。全国のテレビを止めた電波の跡地は、誰にも使われないまま放置され、その時価は2兆円以上と推定される。
自民党の勉強会で百田尚樹氏の発言が問題になったが、そのとき彼は「テレビの広告料ではなく、地上波の既得権をなくしてもらいたい。自由競争なしに50年も60年も続いている。自由競争にすれば、テレビ局の状況はかなり変わる」とも指摘したのだが、これはテレビ局も新聞社も報じない。
日本のような民主国家で、露骨な言論弾圧が行なわれることはありえない。それより問題は、電波利権を梃子にしてテレビ局と(その系列の)新聞社を黙らせる総務省のような「暗黙の言論弾圧」である。それを批判することは大手メディアには期待できないので、ネットメディアがその役割を果たすしかない。
2015.6.30(火) 池田 信夫
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44180
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