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「WiLL」2015年8月号(ワック・マガジンズ)
安倍首相が安保法制の“丁寧な説明”のため雑誌に…でも選んだのはヘイト雑誌「WiLL」(笑)
http://lite-ra.com/2015/07/post-1243.html
2015.07.03. リテラ
「安倍総理から『丁寧に説明する』という言葉だけが出ているが、丁寧に説明されたという実感は一度もない」
これは、国会で安保法制が違憲だと証言した憲法学者の小林節氏の言葉だが、各社の世論調査でも圧倒的多数が「政府の説明は不十分」だと回答している。
こうした批判を少しでも和らげようということなのか、安倍晋三首相自身が月刊誌で一連の安保法制についての説明するという企画が登場した。
〈総理が国民に訴える!「平和安全法制」私が丁寧にわかり易くご説明します〉
こんなタイトルに「第九十七代内閣総理大臣 安倍晋三」という署名の入った12ページにおよぶこの記事は、おそらく、7月中旬ともいわれる“強行採決”に向けたアリバイづくりの一環なのだろう。
その中身については後で詳しく紹介するが、しかし、驚いたのは、安倍首相が自ら執念を燃やす“重要法案”を国民に説明するために選んだ舞台が、花田紀凱氏が編集長を務める月刊「WiLL」8月号(ワック)だったということだ。
いまさら説明するまでもないが、「WiLL」は侵略戦争肯定や従軍慰安婦否定など歴史修正主義的主張だけでなく、ヘイトスピーチさながらの嫌韓・反中記事を掲載してきた極右雑誌だ。ちょっと書き出すのもためらわれるが、例えば毎号、こんな見出しが並んでいる。
「哀れな三等国、韓国!」「世界中で嫌われる韓国人とシナ人」「恥知らぬ韓国とは国交断絶」「韓国人は世界一の嘘吐き民族だ!」「何と哀れな国民か 韓国人でなくてよかった」「韓国こそ世界一の売春輸出大国だ」「去勢しないと性犯罪を抑えられない国」「『従軍慰安婦』は『韓流ドラマ』だ」「世界一の『性奴隷大国』韓国」「従軍慰安婦は韓国との“戦争”だ」「韓国には同情と哀れみを」「中・韓の武器は『嘘』と『捏造』」「習近平は“集金”平だ」……。
中身もすごい。〈日本国内では『嘘つき』は排除されますが、韓国ではタブー視されていません〉〈現在、韓国では精神病患者数が増加の一途を辿っており、自殺者も急増しています〉といった根拠不明の情報がこれでもかというほど出てくる。韓国人を十把一絡げにして“嘘つき”と罵るさまは、まさに特定の民族や人種への差別を扇動する“ヘイト雑誌”としかいいようがない。
ちなみに、2006年には「土井たか子は本名『李高順』 半島出身とされる」という2ちゃんねる情報をあたかも事実であるかのように書き、名誉毀損で訴えられ、一審から最高裁まですべて敗訴するということもあった。とても一国の首相が相手にする雑誌とは思えない。
雑誌だけではない。ワックの単行本や新書も嫌韓・反中のオンパレードだ。
『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(古田博司)、『ほんとうは、「日韓併合」が韓国を救った!』(松木國俊)、『あの「中国の狂気」は、どこから来るのか』(金文学)、『「反日中韓」を操るのは、じつは同盟国・アメリカだった!』(馬淵睦夫)、『虚言と虚飾の国・韓国』(呉善花)、『もう、この国は捨て置け! ──韓国の狂気と異質さ』 (呉善花 、石平)、『笑えるほどたちが悪い韓国の話』(竹田恒泰)、『中国を永久に黙らせる100問100答』(渡部昇一)、『韓国・北朝鮮を永久に黙らせる100問100答』(黄文雄)……。
安倍首相は世に数ある月刊誌のなかから、よりによってこうしたヘイト主張満載の雑誌を、大事な政策説明の場に選んだわけだ。逆に、安倍首相がこれまで自身の味方になるメディア、自身の思想と合致するメディアを自ら選別して、インタビューに応じてきたということを考えると、「WiLL」やワックの主張は、そのまま安倍の主張につながっているともいえる。
なにより恐ろしいのは、日本の首相がこうした書物を好んで読んでいるという事実である。
本サイトではすでに報じているが、今年初めにアップされた2011年度の政治資金収支報告書によると、安倍の政治団体「晋和会」が「WiLL」の発行元のワックから年間84万円分もの書籍を購入していたことがわかっている。蜜月は、それだけではない。安倍首相を支持する自民党若手の勉強会で「沖縄差別」「マスコミ恫喝」の放言を吹きまくった作家の百田尚樹氏と安倍の“出会い”をつくったのも、実は「WiLL」だったのだ。
きっかけは、2012年9月号で百田氏が〈安倍氏には是非とも、もう一度総理になって日本を建て直してもらいたい。僕は安倍晋三再登板に期待する!〉(文中の漢字はママ)と持ち上げたこと。直後に、安倍サイドから「お会いしたい」とオファーがあり、意気投合して10月号に対談が掲載された。1年後の13年10月号には“総理に返り咲いた”安倍と百田氏のヨイショ対談が再び載り、直後に百田氏がNHK経営委員に選ばれる。そして、同年12月号は〈総力大特集 世界の嫌われ者、韓国〉と並んで〈百田尚樹 特別書き下ろし45枚!「安倍晋三論」〉が。最後は、これらの対談や論文を元にワックから安倍と百田氏の共著で『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』なる単行本まで出る始末だ。
こうして見ると安倍首相と「WiLL」、もしくは「WiLL」的思想の尋常ならざる関係がよくわかるだろう。実際、昨年8月に国連の人種差別撤廃委員会から日本政府に対して、ヘイトスピーチに関しては毅然と対処し、法整備を促すようにとの見解が出されたときも、安倍首相は「現行法の適切な適用と啓発活動が重要だ」などと言って、法整備には慎重だった。勉強会の言論弾圧発言に関しても、谷垣禎一幹事長が関係議員を処分したことについて安倍首相は不満を漏らしていたという。
いくら取り繕おうと、安倍首相のヘイト的極右体質は、こうしたメディアの選択に表れてしまうということだろうか。
そもそも、「WiLL」の読者なんてほとんどゴリゴリの右派で安保法制に異論をもつ読者なんていないはず。丁寧に説明しなければいけない相手は、その外にいると思うのだが……。
いや、でも中身を読んでみると、こんなものを載せてくれるのは「WiLL」しかなかったのかもしれない。何しろ、これまで国会で答弁してきたことを“丁寧に”文章化しただけで、語っていることは専門家の指摘や客観的データによって、とっくにインチキがばれてしまったことばかりなのだ。
たとえば、バカの一つ覚えのように「わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しています」と繰り返すが、具体的に出てくるのは相も変らず(1)北朝鮮のミサイル、(2)尖閣諸島問題を始めとする中国の海洋進出、(3)スクランブルの回数が10年前の7倍、(4)ISILなど国際テロの脅威――の4つだけ。反論するのもバカバカしいが、北朝鮮や中国といえども米軍の重要拠点になっている日本を直接攻撃することはあり得ない。それはアメリカに対して宣戦布告するのと同じだからだ。万々万が一、攻撃されても当然、個別的自衛権で対応できる。
スクランブルの回数増加については以前、本サイトでも詳述したが、完全なまやかしだ。確かに2014年のスクランブルは943回で10年前の04年の141回と比べると7倍弱だが、それは04年がスクランブルの最も少ない年だったからだ。それより以前は毎年600回〜900回がザラだった。こんな数字は、防衛白書を見れば誰にでも確認できる。さらに、テロは軍事力で防げないのは常識で、今後、自衛隊が米軍の後方支援を担うようになると、むしろ反米テロ勢力の矛先が日本に向かう可能性が高くなる。前提からして支離滅裂だ。
〈平和安全法制に関しては「違憲ではないか」という批判も多く見られます。そうした批判は当たらないということを、きちんとご説明したいと思います〉と言いながら、根拠に出してくるのは相変わらず砂川判決なのだ。
〈基本的な論理は、砂川事件に関する最高裁判決の考え方と軌を一にするものです〉という聞き飽きたフレーズを繰り返すもので、こちらも何度も言うが、砂川事件は在日米軍基地の違憲性を争ったもので、日本の集団的自衛権とは関係がない。
唯一、新しいのは〈憲法学者のなかには様々なご意見があって、いずれも学識に基づくご発言だと思います〉と言いながら、〈しかし他方で、砂川判決が出された当時、憲法学会の大勢は自衛隊も憲法違反との判断でした〉と、学者の見識を否定したことくらいか。
ならば言うが、砂川判決では米軍の駐留を肯定するために、「憲法9条2項が保持を禁止した戦力とは(中略)わが国自体の戦力を指し」とのくだりもあり、自国の戦力保持禁止を明確に謳っている。つまり、この判決を引き合いに出すなら、自衛隊そのものを否定しなければいけなくなるのだ。念のために付け加えるが、国会で「違憲」の見解を述べた憲法学者の長谷部恭男氏も小林節氏も自衛隊合憲論者だ。
いわゆる「自衛隊員のリスク」についても、行数を費やしているが、何が言いたいのかサッパリよくわからない。〈そもそも自衛隊員の皆さんは、(中略)日頃から苦しい訓練を積んでおられます。(中略)いままでも、自衛隊員は危険な任務を担ってきました。(中略)同時に、災害においても危険な任務が伴うのだということは、より多くの国民の皆様にご理解いただきたいと思います〉。まず災害と戦争を同列に並べるのはいつもの手口だ。
〈リスクは認めています。(中略)批判する方たちは「リスクが増えるからやめろ」と言いたいのかもしれませんが、では、リスクがあるものは全てやめていいのか。(中略)自衛隊員は自ら志願して危険を顧みず、職務を完遂することを宣誓したプロフェッショナルとして誇りを持って仕事に当たっています〉。要するに結論は、志願してやってんだから死ぬのは覚悟の上だろう、と本音ではそう考えている。だが、決して口に出そうとはしない。
その他、当サイトで論破し尽くした論点の繰り返しなので省略するが、これほどグダグダな法案なのに、与党で25回(も?)協議を重ねたものだから〈私たちとしてはベストなものであると確信しておりますので、法案を撤回するという考えはありません〉と高らかに宣言し、“この夏までに”成立をめざすというのだ。その理由は、昨年7月に閣議決定をして、12月にはその決定に基づいた法整備をすることを公約に掲げて国民の審判を受けたからだという。〈法整備の方針を閣議決定したうえで、選挙で公約に掲げて国民にお約束した以上、選挙直後の通常国会で実現を図ることは当然のことではないでしょうか〉。
バカを言うな。安倍首相はあの選挙では、最初は消費税増税を先送りしたことについての審判を受ける選挙だと言い、解散時の会見では「この解散は『アベノミクス解散』であります。アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります」と、そう強調していたではないか。会見での発言はいまも官邸のホームページでチェックできるが、その後の質疑応答も含めて、「安保法制」などという言葉はひとことも出てこない。
こうした矛盾を葛藤なく言い切ってしまえるのが、安倍首相の恐ろしいところだ。ヘイトで極右思想な上に、このサイコパス――ハッキリ言って手のつけようがない。この危機的状況から日本を取り戻すには、今後、あらゆる選挙で「自民党以外」に投票するしかない。そう断言しておく。
(野尻民夫)
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