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今、「鎖国的安保主義」から決別する時
佐瀬昌盛氏に聞く「集団的自衛権の核心」
2015.7.1(水) 井本 省吾
国会で安全保障法制の論議が盛んだ。昨年7月に行った集団的自衛権の行使容認についての閣議決定を踏まえた議論で、野党やメディアは「戦争に巻き込まれる」「自衛隊員に犠牲者が出るリスクが高まる」といった批判を展開、国会に招致された憲法学者も「憲法違反だ」と反対している。世論調査でも反対論が根強い。
安倍政権の説明は不明確、不十分
長年、集団的自衛権の問題を追究してきた佐瀬昌盛・防衛大学校名誉教授は「今、なぜ集団的自衛権の行使容認が必要なのかについて、安倍政権の説明は不明確、不十分。とりわけ自衛隊員のリスクについてあいまいで、責任感が乏しい」と批判する。
その一方で、「日本は国内だけ防衛すれば後は何もしないという『鎖国的安保主義』に閉じこもってきた。これまではそれで通用していたが、限界が来ている」と指摘する。
背景には中国の軍事的脅威、北朝鮮の核武装、国際的テロ、サイバー攻撃の横行がある。もはや個別的自衛権だけではやっていけない。
「今や安保政策を開国に導く時」と説く佐瀬教授に「集団的自衛権問題の核心」を聞いた。
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佐瀬昌盛(させ・まさもり)氏防衛大学校大学名誉教授。1934年満州・大連生まれ。東京大学教養学部卒、同大学博士課程からベルリン自由大学留学。防衛大学校教授、拓殖大学海外事情研究所所長などを歴任。専門は国際政治、安全保障論。著書に「新版 集団的自衛権−−新たな論争のために」(一藝社)、「むしろ素人の方がよい」(新潮選書)、「いちばんよくわかる集団的自衛権」(海竜社)など。2006年瑞宝中綬章。
井本 世論調査をすると、「集団的自衛権の行使」に反対ないし慎重な国民が多い。
佐瀬 質問の仕方にもよります。「日本の周辺の公海で、一緒に活動しているアメリカの艦船が攻撃を受けた場合、海上自衛隊が反撃すること」「PKO(国連平和維持活動)で一緒に参加している外国部隊が攻撃された場合、自衛隊が武器を使って助けること」を認めるかどうか、といった質問では「認める」という意見の方が多い。
井本 国民が一番不安に思っているのは、米国の軍事戦略に付き合わされて自衛隊が地球の裏側まで戦闘に行く事態が発生することでしょう。集団的自衛権の行使を認めると、米国などの戦争に巻き込まれる危険が増すのではないかと。そういう可能性について質問すると「不安だ」と言う意見がぐっと多くなる。
佐瀬 政府はその点を一番丁寧に説明をしなければなりません。なのに、それが拙劣です。抽象的であいまいな答弁に終始して、一般庶民が納得行くような説明になっていない。説明が不足、ないし誤っていることの1つに集団的自衛を「日本が攻撃されていないのに、米国などの他国を防衛すること」と解釈している点にあります。
集団的自衛を正確に定義すると、関係国のためというより、共同の利益のために協力して守ることです。英語で言えば、“We defend ourselves.” 我々の共通の利益を一緒に守る、という趣旨がはっきりします。
「集団安全保障」と「集団的自衛権」はまったく別物
井本 サッカーで言うと、「フリーダム・クラブ」というチームに所属している日本や米国、オーストラリアの選手が一体になって、敵のチームの選手によって自陣のゴールポストにボールを蹴りこまれないよう全員で身体を張って防ぐということですね。
佐瀬 国連憲章はある国が破壊的、侵略的行為をとった場合、国連全体で制裁する「集団安全保障」という仕組みをとっています。
しかし、安全保障理事会の一致した決議がなければこの制裁はできず、実際には米ソ(現ロシア)など5大理事国が拒否権を発動するため、決議が成立しないことが多い。
「これでは効果的な防衛ができない」ということから生み出されたのが国連憲章第51条です。51条で「集団安全保障の措置がとられるまでの間、個別的または集団的自衛権を行使できる」と定めたのです。しばしば「集団安全保障」と「集団的自衛権」をゴッチャにした議論が見られますが、両者はまったく違います。
集団的自衛権はどの国連加盟国でも持てるし、どの国ともチームを組むことができます。日本政府は「自国と密接な関係にある」国を守る権利としていますが、定義として間違っています。ただ、実態としては密接な関係を持つ同盟国との間で行使されることが一般的です。日本の最大の同盟国は米国で、集団的自衛措置として日米安保条約が結ばれています。
ところが、日米安保条約の場合、通常の国同士の約束とは異なっています。集団的自衛は双務性が原則で、チームを組むメンバーが危なくなったら相互に相手を守る約束です。ところが、日米安保条約第5条は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め・・・共通の危険に対処するように行動することを宣言する」としています。
日本が攻撃されたら米国は日本防衛の義務を負うが、日本は米国防衛の義務を追わないという片務的な内容になっているのです。
憲法9条を巡る誤解も
井本 その代わり、沖縄はじめ日本各地に多大の米軍基地を置く自由を与え、米国の世界軍事戦略を円滑に進めやすくしています。
日米が防衛協力体制を見直し、新指針発表 「歴史的変革」
日米両政府は今春、防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定した〔AFPBB News〕
佐瀬 その点はともかく、日本は同安保条約で米国を防衛する義務は負っていないが、その行使を禁じられているわけではありません。
したがって「憲法9条があるから集団的自衛権を行使できない」というこれまでの内閣法制局の見解は間違っているのです。
日本国憲法の誕生は国連憲章の制定よりも1年5カ月ほど遅い。国連憲章の方が先発法規です。憲法98条は国際法規の遵守をうたっており、日本は1956年の国連加盟の際も憲章に何の留保もつけなかった。その国連憲章が集団的自衛権の行使を容認しているわけで、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定したゆえんもそこにある。
井本 しかし、日米安保条約の片務性は今も変わっていません。水面下で米国から「双務的にせよ」と言う要請が来ているかもしれませんが、表向き条約の変更は議論されていません。また、今回の安保法案11本には「集団的自衛権」という言葉が入っていない。
同法案では「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆られる明白な危険がある」「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使にとどまる」ということを「自衛のための武力行使の新3要件」と定めています。
ここまで厳しく制限すると、従来の個別的自衛権でほとんど対応できる。そこで「わざわざ国民が不安視し、野党が問題にしてやろうと手ぐすね引いている集団的自衛権の議論に踏み込むことはないだろう。現行の個別的自衛権のまま安保法案を提出すれば違憲論議を回避して、円滑に法案を通せたはずだ」という意見が保守派の間から聞かれます。
激変する国際情勢、自衛隊員のリスク増加こそ丁寧な説明を
佐瀬 なるほど。ずる賢いアイデアですね(笑)。ただ当面はそれで良かったとしても、長期的にそれで通るのか、ということです。私は政府の具体的な政策や外交について精通していませんが、今後の国際状況の変化を考えると、集団的自衛権で対処しなければならない場面が増えそうだと感じています。
その際にも「切れ目のない対応」ができるよう集団的自衛権を行使できる形での法整備が必要だという政府の考えは納得できます。よく言われるように中国の軍事力増強や南シナ海、東シナ海への侵略的行為に対処できるようにしなければならないし、北朝鮮の行動も不安です。加えて、国際的テロリズムが広がっています。
これに対処するために各国の協力が必要です。2001年9月11日の米国へのテロ攻撃後、アフガニスタン攻撃を実施した時は多くの国連加盟国が参加し、日本同様それまで海外派兵に慎重だったドイツも国防軍を派遣しました。憲法9条があるので他国に自衛隊を派遣できないとは言いにくい状勢が強まっています。
昨今はサイバー攻撃という新しい脅威も持ち上がっています。サイバー攻撃は瞬時にして多数の国のコンピューター(多くはパソコン)を経由して発生する。個別的自衛権だけで対処するのは事実上、不可能です。集団的自衛権の行使が求められる新型脅威で、日本はこの共同対処に積極参加することが求められています。
その一方で、米国は財政悪化から軍事予算を削減、「世界の警察官」としての立場から降りようとする内向き志向が強まっています。東アジアの安全保障の枠組みに米国をとどまらせ、日米安保条約を有効に機能させるためには、当該地域において日本が集団的自衛権を行使することをはっきり表明することが大切になってきている。
井本 その辺の具体的な説明が、現政府に不十分?
佐瀬 そうです。中でも説明不足なのが自衛隊員のリスク増加でしょう。もちろん今回の法案が成立しても、新3要件で行動を制限していることから政府の防衛方針は今までとあまり変わらず、日本周辺から日本の自衛隊が出て行くことには慎重な姿勢を堅持するでしょう。
しかし、集団的自衛権の行使容認を閣議決定した以上、「憲法9条があるから」とこれまでは拒否してきた国際社会からの海外派遣要請を断りにくくなってきたことも否めません。
今後は自衛隊の出番がふえて隊員の犠牲者が出るリスクは高まる。これはやむを得ない。それなのに、「リスクは今までと同じ」と強弁する政府の答弁は問題です。
井本 「リスクが高まる」と言うと、「それみろ、日本が戦争に巻き込まれる危険が高まるじゃないか」と世論が反発することを恐れているのでしょうね。日本政府はずっと自衛隊を海外に出さない方針をとってきました。自衛隊員が殺傷されると政府批判が上がるのではないか、と怖がっている?
「鎖国から開国へ」安保政策を変える時
佐瀬 でも、「自衛隊が海外で何もしなければ国家と国民の安全は保たれる」というわけではない。例えば、2013年にアルジェリアのガスプラント施設でイスラム武装勢力による襲撃事件が起こり、プラントエンジニアリング会社である日揮の社員らが多数、殺害されました。
こういう痛ましい事件を防ぐため、危ない地域には事前に駐在武官を派遣し、現地の政府や中東事情に詳しい各国の駐在武官などと情報交換することが肝心です。日本の駐在武官は少ないうえに先進国に偏り、途上国は手薄です。また大使館での駐在武官の地位も低く、地位が高い各国の駐在武官とのアンバランスが目立ちます。
駐在武官が情報収集し危険が高まることを事前に察知すれば、すぐに自衛隊機を派遣し邦人を救出する。当時のアルジェリアで実際にそうできたどうかは分かりませんが、海外に駐在する日本人が増えている現在、自衛隊員の海外派遣が必要とされる機会は増えています。もちろん邦人警護について現時政府の協力は重要ですが、それだけでは限界があります。
自衛隊を危険な海外に出さないで、殺傷されることがなければ戦争は起こらない、だから自衛隊の活動を国内にとどめる。こういう考え方を、私は「鎖国的安保主義」と呼んでいます。何もしなければ安全と信じ込み、国際状況の変化に目をつぶっている。
でも、それでは海外駐在の民間日本人を守ることなく、殺傷されるようなことが起こってもいいのか。中国の脅威が高まって日本の安全が脅かされてもいいのか。また、国際テロなどについて日本は各国と一緒に防衛に乗り出さなくていいのか。経済大国としてそれで適切な国際貢献を果たせるのか。そうした日本は利己的と見なされて各国の不信を招き、長期的にかえって日本の安全が脅かされないか。そんな不安があります。
集団的自衛権「閣議決定は違憲」、無効求め提訴
「積極的平和主義」を掲げる安倍晋三首相だが・・・〔AFPBB News〕
今の国際状況を見れば、日本も「鎖国から開国へ」と安保政策を変える時期に来ている。安倍首相の言う「積極的平和主義」はそのことを指しているのでしょう。ただ、鎖国的安保主義が長く続いた国民の意識を変えるのは容易ではありません。
井本 政府はどうすべきでしょう。
佐瀬 日本を取り巻く国際状況や法案の中身を、できるだけ具体的に、丁寧に説明することに尽きますね。粘り強く。
ドイツ外相の重い言葉
かつてのドイツも日本に良く似ていてNATO(北大西洋条約機構)の外に国防軍を派遣するのを抑えていました。しかし、1990年代初頭の湾岸戦争時、国連の多国籍軍が派遣されたときドイツは同盟国から「自分だけ兵士を出さないのか」と批判された。これに懲りてその後のボスニア紛争時、時のコール政権はNATO領域外への国防軍派遣を決めました。
その際、野党の議員が「もし兵士の棺が到着したら、どうするのか」と議会で質問した。
これに対してキンケル外相は「そうなった場合は、国防大臣とともに棺の傍らに一晩立ち続け、殉死者を悼みます」と答弁したのです。その瞬間、議会は水を打ったように静まり返った。この姿勢が国民の間から評価され派兵が決まりました。
日本とドイツの事情には違いもあります。しかし、国民の不安を抑え納得させるのに肝心なのは、閣僚が前面に出て責任を負う態度を示すことでしょう。自衛隊員の安全確保については、政府が最善の手を尽くす必要があるのは言うまでもない。米国はじめ各国の批判があろうとも、部隊の安全を確保できない地域には隊員を派遣しないといった方針も大切です。
しかし、それでも派遣せざるを得ない場合があります。その際、内閣はどんな姿勢を示さなければならないか。ボスニア紛争時のドイツ閣僚は、それを身をもって示しているのではないでしょうか。
与党が多数を占める中で今回の法案成立は確実でしょう。しかし、世論は不安定です。国民に対し誠実に粘り強く説明を続けないと、足をすくわれることもあります。油断は禁物です。
法案成立後の日本の安全保障
井本 法案成立後の日本の安全保障はどうなりますか。
安保法案に「ノー」、人間の鎖で国会取り囲む
安全保障関連法案に抗議する国会周辺のデモ参加者ら〔AFPBB News〕
佐瀬 集団的自衛権の制限的行使に反対する人々は、「戦争に巻き込まれる」不安を口にします。日米安保条約成立時やPKO協力法の成立時もそうでした。
しかし、論より証拠です。日米安保条約の存在は抑止力となって日本の平和維持に役立っていますし、日本のPKO活動は国際的な評価を受けています。
集団的自衛権の行使容認も抑止力となって平和の維持に役立つと思われます。もとより、それは自衛隊の活動をはじめとして日本が地道な平和維持の努力を続けることで達成されるのです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44166
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