48. 2015年7月01日 11:38:01
: EVWEHNadIA
批判ための批判などでいたずらに時間を浪費している暇はない。2015.7.1 05:02 【正論】 南シナ海めぐる米中角逐の背景 東京国際大学教授・村井友秀 http://www.sankei.com/column/news/150701/clm1507010001-n1.html 最近の南シナ海における米中の対立を(1)中国はなぜ南シナ海へ進出するのか(2)米国はなぜ中国の南シナ海進出に反発するのか−という視点から考察する。 ≪国内向けの人気取り政策≫ 近年になって、中国が積極的に国外で軍事力を行使する目的は、深刻化する国内矛盾によって高まっている共産党に対する国民の不満を国外に転嫁するためである。 国内矛盾を国外に転嫁する責任転嫁理論は、高度な教育を受け豊富な情報を持っている国民が多数を占める国ではうまく機能しない。しかし、中国人は国外からの情報を遮断され、多くの国民は高等教育を受ける機会に恵まれていない。したがって、中国は責任転嫁理論が機能する国家である。 資本主義経済を拡大する共産党という根本的な矛盾を、中国共産党は資本主義や共産主義を超越した民族主義という概念を前面に押し出して解決しようとしている。 もともと中国共産党は日中戦争の中で「抗日民族統一戦線」という民族主義的スローガンを前面に出し、「日本軍国主義に屈服した民族の裏切者である国民党」を打倒して政権を取った政党である。中国共産党は侵略者を打倒した中華民族の英雄という教育を受けた国民は、共産党が民族主義を鼓吹することに違和感を覚えない。 責任転嫁理論は国民の敵愾(てきがい)心を煽(あお)って国民の不満を外敵に向ける国内向けの人気取り政策であり、戦争することが目的ではない。もし、戦争に負ければ政府の人気は地に堕(お)ちることになる。 したがって、責任転嫁理論がうまく機能するためには、(1)軍事衝突が発生しても負ける可能性がない(2)積極的な対外進出に正当性がある−という条件が必要である。 (1)の条件を満たすためには、軍事強国と対決することは避けなければならない。(2)の条件を満たすためには、外国を侵略するのではなく奪われた中国固有の領土を回復するという理屈が必要になる。 1952年に中国で発行された中学生用の歴史教科書によれば、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ネパール、シッキム、ブータン、ビルマ、ベトナム、ラオス、カンボジア、台湾、琉球、朝鮮、ロシアのハバロフスク州、沿海州、樺太などが、帝国主義者に奪われた中国の領土である。 ≪軍事力のない東南アジア≫ 中国は、米軍が中国軍を圧倒する軍事力を保持していることを理解し、米軍との直接衝突を避ける傾向がある。したがって、「奪われた領土」に含まれる周辺国家にとって、米国との関係は安全保障上のキーポイントである。 また、米国に次ぐ軍事大国であり軍事力行使を躊躇(ためら)わないロシアとの軍事的対決も中国は避けている。中央アジア諸国は軍事小国であるが、ロシアと関係が深く、中央アジア方面への軍事的進出はロシア軍の介入という大きなリスクを覚悟しなければならない。軍事大国であり軍事力行使を躊躇(ちゅうちょ)しないインドに対する軍事的進出もリスクは大きい。 他方、海での勢力拡大は、陸上での勢力拡大よりも目立たずコストが低いと中国は考えている。東シナ海に進出した場合の相手は日本であり、南シナ海に進出した場合の相手は東南アジア諸国である。日本は大きな軍事力を持っているが、戦争する意志薄弱な国である。東南アジア諸国は中国に抵抗する軍事力を持っていない。但(ただ)し、日本と米国の間には軍事同盟があり、日本を攻撃すれば米軍との直接衝突になる可能性がある。 他方、東南アジアに嘉手納や横須賀のような大規模な米軍基地は存在しない。したがって、中国軍は最もリスクとコストが小さい南シナ海へ進出しているのである。 ≪米国撤退の可能性は低い≫ 米国の国家戦略の基本は超大国の地位を守ることである。米軍の能力にも限界があり、世界の全ての場所で軍事的優位を保つことは難しい。しかし、世界の貿易の9割以上が通過する世界の海で制海権を保持することは可能である。 世界の主要都市は海に近く、海上から攻撃することができる。太平洋や大西洋は米海軍の独壇場であるが、東シナ海や南シナ海は周辺諸国の軍事力の手が届く海である。世界の貿易の3割から5割が通る東シナ海や南シナ海は、周辺諸国が米海軍の制海権に挑戦する可能性がある海なのである。 中国は、南シナ海の域外国である米国が南シナ海の問題に介入すべきでないと主張している。しかし、世界の海を支配している米国から見れば、米国は南シナ海の域外国ではない。南シナ海が中国の海になれば、米軍が自由に行動できない海はないという米国の軍事戦略の基本が崩れることになる。南シナ海は米国にとってあまり影響のない周辺的な国益ではなく、重要な戦略的国益なのである。 したがって、米国が世界の海を支配する超大国でありたいと望む限り、南シナ海から撤退する可能性は低い。事態を放置すると、世界の海を支配する超大国の地位を失うと感じれば、米国は戦略的国益に見合う犠牲を覚悟して南シナ海に介入するであろう。(むらい ともひで) |