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安保法制反対で喧伝される“危うさ”は本当か
【第11回】 2015年6月26日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
領空が侵犯されそうになると航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)をかける。その回数は、この10年で7倍近くに増えている
Photo:JASDF
安倍政権は通常国会の会期を戦後最大となる95日も延長して、安全保障関連法案の今国会での成立を目指していますが、国会での野党の主張やメディアの報道を見ていると、どうも当たり前の事実を置き去りにして安保関連法案の“危なさ”ばかりが強調されているように思えます。そこで今回は、安保関連法案の議論に絡む当たり前の事実を自分なりに整理してみたいと思います。
日本に迫っている危機の実態
まず今回の安保関連法案の必要性について考えてみると、国会で野党は「日本には危機が迫っているというが具体的に示せ」と質問していますが、これは数字が明確に示しているのではないかと思います。
どの国も、自国の領空が侵犯されそうになると、空軍機が緊急発進(スクランブル)して守ります。自衛隊のスクランブルの回数は、2004年度は141回だったものが2014年度には943回と、10年で7倍近くに増え、今や平均すると毎日2.6回です。ちなみに、以前は日本の領空に近づくのはロシア機が最多でしたが、この数年は中国機が急増しています。
また、尖閣諸島周辺領海への中国船の侵入も後を絶ちません。平均すると1ヵ月に3回、2〜3隻で日本の領海に侵入しており、それは昨年秋に安倍首相が周近平主席と首脳会談した後も減っていません。かつ、一昨年1月、中国艦船が海上自衛隊の艦船に対して火器管制レーダーを照射しました。実際には攻撃こそ実施されなかったものの、ミサイル攻撃の標的にされたのです。
これが現実です。自衛官や海上保安官はリスクに晒されながら任務を遂行しており、彼らの強い責任感によって日本の安全が支えられているのです。しかし、彼らの職務意識に頼ってばかりでは万全とは言えません。だからこそ、安保関連法案を整備して、国のシステムとして対応できるようにして、彼らのリスクも減らすことが必要なのです。
日米安保体制=米国依存でいいのか
そのためには日米安保体制を強くする以外にはありませんが、問題は、日米安保体制の下で米国に頼ってさえいれば良いのかということです。
朝鮮半島からの攻撃や東シナ海での衝突が起きた場合、日本としては米軍に頼らざるを得ません。その中で、米軍の艦船が外国から攻撃を受けたときに日本がそれを助けようとすると、これは集団的自衛権になるので、現在の憲法解釈ではできません。米国の艦船が破損され、兵士に死者が出ても、です。
果たしてそれでいいのでしょうか。「日本では憲法学者が憲法違反と言っているから手伝えないので、米国の兵士にお任せします」では、米国民の立場からは、そんな日米同盟などキャンセルしてしまえ、となりかねないのではないでしょうか。そうなったら、米軍なしの独力で日本を防衛しなければならなくなるので、北朝鮮や中国の思う壷です。
安保関連法案はそうならないようにするためのものであり、学説だけではなくこうした現実を踏まえ、すべての国民が自分の安全の問題として考えるべきではないでしょうか。
抑止力強化の必要性
ところで、安保関連法案は抑止力の強化を目指したものですが、そもそも抑止力とは何でしょうか。
紛争において相手の実力行使を防ぐには、相手に「日本に力を行使すると、逆に強い反撃を食らい、自分がひどい目に遭う」と思わせて止まらせることが必要です。
ただ、日本は専守防衛なので、自衛隊の能力に自ら限界を設けています。従って、相手を思いとどまらせるために、これを超えた軍事力が必要な場合には米国を頼ることになります。日米同盟により、日本は相手を抑止する力、即ち抑止力を備えているのです。
ところが、近年は中国が急速に軍備を増強しています。また、北朝鮮はノドン・ミサイルなどの兵器を日本に飛ばす力があるのに加え、サリンなどの化学兵器、ペストなどの生物兵器も持ち、更には核実験まで行なっています。
こうした事実を踏まえると、日本も抑止力を更に強化する必要がありますが、だからと言って、自衛隊が敵の本土の基地などを攻撃できる能力を持っていないことを考えると、防衛にかける予算や人員を増やすのは現実的ではありません。それよりも、日米同盟関係の下で後方支援など日本ができる役割を増やすことで、日米同盟全体の抑止力を強める方が現実的ではないでしょうか。
今回の安保関連法案は、まさにこうしたことを提案していると考えるべきではないかと思います。
憲法学者の主張は反対だが…
さて、安保関連法案を巡る国会審議が紛糾するようになったきっかけは、国会の憲法審査会で各党の推薦する3人の憲法学者が全員、今回の法案は憲法違反であると述べたことです。
それを以て野党は、法案は違憲であることを強調して反対していますが、これには違和感を持たざるを得ません。確かに専門家である憲法学者の意見は傾聴すべきですが、一方、憲法第81条で、
「最高裁判所は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」
と規定されているように、有権的な憲法解釈を行なう権限を有するのは最高裁判所だからです。
従って、憲法学者のみならず法制局長官経験者も憲法違反と述べていますが、だから今回の法案は違憲だと短絡的に考えるべきではないと思います。あくまでそういう参考意見があったということを踏まえ、政府の憲法解釈の一部変更が正しいかは国会でしっかりと議論されるべきです。
そして、「日本の平和を守り、国民の命とくらしを守る」ことが政府の最大の任務であることを考えると、既に述べたように現実の安全保障環境が変化して、現行憲法解釈が前提としている国民の命とくらしを取り巻く環境が変わったにも拘らず、「これまでの憲法の解釈を一切変更してはならない」というのでは、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(憲法第13条)を守るために憲法があるという考え方に、却って反するのではないでしょうか。
政府が最大の任務を達成するためであれば、憲法の基本法理の枠内に止まる限度において、憲法解釈を変えて良いと考えるべきではないかと思います。そうしないと、逆に政府がその任務を果たすことができず、国民の生命とくらしを守れない危険もあるのではないでしょうか。
自衛隊員のリスクが増大?
次に、国会で野党からよく指摘されるのが、安保関連法案が成立したら自衛隊員のリスクが増大するということです。そのリスクの関連でよく言われるのが、自衛隊員の自殺率が高いということですが、これも詳しく見てみると、実はそうでもないことが分かります。
イラク特措法に基づいてイラクに派遣された自衛官の総数約8790人のうち、2005年度から今年3月までに10年間に自殺した自衛官の数は29人です。従って、10万人当たりに換算すると年間約33.0人が自殺していることになります。
これに対して、同時期の自衛官の約95%を占める男性自衛官について同じ数字を算出すると35.9人になります。さらに、一般の20〜59歳までの成人男性では約40.8人となります。
これらの数字を比較すれば分かるように、一般の社会人と比べて自衛隊員の自殺率が高い訳でも、またイラクに派遣された自衛隊員の自殺率が高い訳でもないのです。
もちろん、だからと言って自衛隊員のリスクが増えないと言う気はありません。そもそも自衛隊員の任務遂行には必ずリスクがあります。有事のときは言うに及ばず、PKOや災害派遣などのこれまでの任務でも、自衛隊員は限界に近いリスクを背負って命がけでやってきています。かつ、今回の安保関連法案が成立すれば、新たに与えられる任務に伴って新たなリスクが生じる可能性もあります。
しかし、それらの新たなリスクは個別に精査して最小化されるべきであり、また自衛隊員のリスクを低減するためにも、国全体としての抑止力を高めることが必要ではないでしょうか。
本当に徴兵制が実現する?
最後に、国会で野党が指摘しているように、憲法解釈が変更されれば徴兵制が実現するおそれが本当にあるでしょうか。
これは、言いがかりも甚だしいと思います。徴兵制とは、本人の意志に反して兵役を強制されることですので、幸福追求権を規定する憲法第13条、意に反する苦役の禁止を規定する第18条などの規定の趣旨から考えて、憲法上許容されるものではないと解されるからです。徴兵制は憲法上許容されないのです。
加えて言えば、現代の陸海空の自衛隊は、極めて高度にハイテク化されており、高い専門性とスキルが必要になるので、自ずと自衛隊員の訓練にはかなりの時間と労力がかかることになります。厳しい訓練を耐え抜くには強い意志が必要となるので、徴兵制で強制的に集められた人にはとても耐えられるものではないことを考えると、徴兵制を導入する合理的な理由もないのです。だからこそ、米国だって徴兵制は導入していません。
メディアは客観的かつ冷静な報道を
以上、再確認の意味を込めて安保関連法案を巡る事実や考え方を整理してみましたが、領空侵犯の実態や自殺率のデータなど、ちょっと調べれば分かることがちゃんと報道で取り上げられず、野党やメディアが一方的に安保関連法案の危険性ばかりを喧伝するのには違和感を持たざるを得ません。
まあ、野党は与党の意志に反対するのが仕事みたいなものですから最後は仕方ないとしても、メディアまでがそれに乗っかるのはおかしいことです。メディアの仕事は物事に関する両論をちゃんと報じて、国民の側が自分で判断できる材料を提供することです。安保関連法案は日本の将来のために大事な法案ですので、メディアは客観的かつ冷静な報道を行なうようにしてほしいものです。
http://diamond.jp/articles/-/73911
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