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元行革担当相村上誠一郎むらかみ・せいいちろう/1952年生まれ。東京大学法学部卒。86年の初当選以来、10期連続当選。行政改革・規制改革担当大臣などを歴任(撮影/工藤隆太郎)
自民現職唯一の反対派が吠える「高村、谷垣両氏とは議論にならない」〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150624-00000005-sasahi-pol
週刊朝日 週刊朝日 2015年7月3日号
国会を騒がせている安保法制。「高村、谷垣両氏とは議論にならない」というのは、自民現職唯一の反対派、元行革担当相の村上誠一郎氏だ。
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政治家の間で「Wバッジ」と言われる人がいます。国会議員と弁護士のバッジの二つを持っている国会議員のことです。今の党執行部にも3人のWバッジがいます。この人たちが、法律の専門家なのに、今回の安保法制について正しい意見を言わない。それどころか「カラスは白い」と言わんばかりの詭弁を述べている。
6月9日の党の総務会で、私は、今回の法案は政治家の良心と信念に関わる問題だから「党議拘束を外すべきだ」と発言しました。そうしたら、高村正彦副総裁が私に向かって、「砂川事件の最高裁判決を読んだことがあるのか」と言う。何て失礼なことを言うのかと怒りを感じました。
砂川判決は、在日米軍基地が憲法上許されるかが争われた裁判です。集団的自衛権が争点ではないことは、誰でも知っている。当時の弁護団も、「砂川判決から集団的自衛権を読み取れる目を持った人は、眼科病院に行ったらいい」と言っているのです。私は、「砂川判決が根拠だと言っているのはあなただけだ」と言った。すると、高村副総裁は「私のほうが学者よりも勉強している。学者の話を聞いて国が守れるのか」と。
弁護士である谷垣禎一幹事長にも、何度も意見しました。「このままでは違憲訴訟が起きて、違憲判決が出る可能性がある」と話すと、「違憲訴訟が頻発するとは思わない」という。議論にならないわけです。
なぜ、こんなことがまかり通るのか。一つは、2013年12月の特定秘密保護法成立で、政府に都合の悪い情報は出てこなくなった。メディアは自分たちの問題なのだから、このときにもっと問題点を指摘すべきでした。さらに、14年4月の国家公務員法の改正で600人の官僚幹部人事が官邸に握られた。これで官僚たちは、政権に対して正論も本音も言えなくなった。いずれも私が問題だと指摘してきたことですが、それを見過ごしてきたから、外堀はすでに埋まっていたのです。
自民党の議員も小選挙区制になってから誰も意見を言えなくなりつつある。小選挙区制度の導入で、候補者の公認権と資金を党幹部が一手に握ることになり、党執行部に反対意見を言いづらくなっているからです。ある中堅議員は、「集団的自衛権の行使は、憲法改正をしてから認めるのがスジだ」と言う。だが、誰も表では発言できない。そこに危機を感じています。
かつての自民党政権が出す法案は、タテ・ヨコ・ナナメ・筋交いに質問されても、完璧に答えられるものしかなかった。ところが、今回の安保法制は、どこから質問しても、まともな回答が返ってこない。これで違憲判決が出ればどうなるか、と法案説明者に聞いたら「安保法案は失効する」と言う。そんな危ない法案を、なぜ出せるのか。
中谷元・防衛相の国会答弁が迷走していると批判されています。これは当然なんです。彼は安保政策に通じていて、昨年12月に防衛相になる前までは「集団的自衛権は憲法を改正しなければ認められない」と話していたのですから。つまり、自分の本心とは異なることを言わざるをえないから、野党の質問に対して答弁に齟齬(そご)が出るのです。
私が危惧しているのは、こういった憲法解釈の変更によって憲法の基本的原則が変えられる前例を作れば、時の政権による恣意的な憲法解釈変更によって、憲法がねじ曲げられてしまうことです。これは、政府の統治を憲法の下で行う「立憲主義」や「三権分立」に対する挑戦です。次は「基本的人権の尊重」や「主権在民」といった民主主義の原則も、解釈改憲で恣意的に変更できるようになる。
亡き父・村上信二郎は、吉田茂内閣で自衛隊の前身となる「警察予備隊」の設立に携わりました。父が防衛政策について言っていたことがあります。一つは、「防衛予算は少なければ少ないほうがいい」。焦土と化した日本を復興させるために、軍事予算をできるだけ減らし、経済の再生に集中すること。そのために、憲法9条や日米安保条約をうまく使い、米ソ冷戦下における日本への軍備拡大の要求等をうまくかわしてきたのです。もう一つは、「自衛隊員の安全には万全を期せ」。今回の安保法制では、「自衛隊が命を懸けて地球の裏側まで行くのは当然だ」と話す政治家がいる。戦争に行くのは、われわれの世代ではありません。20歳前後の若い人たちです。若い人たちの立場を考えない政治家が多すぎる。
第2次世界大戦を経験した故後藤田正晴さん、故梶山静六さんや、野中広務さんといった政治家が現役だったら、こんな法案は絶対に出させなかった。「おやめなさい」の一言で終わっていたはずです。それが、安倍政権を取り巻く人たちは、神をも畏れぬ態度で、安保法制を進めている。今の日本は危機的状況です。
(本誌・西岡千史、牧野めぐみ、古田真梨子)
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