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政府は、国民の民度を超えられない
竹中平蔵・慶応義塾大学教授インタビュー(下)
2015年6月22日(月)竹中平蔵、中室牧子
竹中平蔵・慶応義塾大学総合政策学部教授(写真=陶山勉、以下同)
教育政策にももっと、信念や価値観だけでなく実証分析に根差したKPI(重要業績評価指標)が必要ではないか。数々の国家的な改革に携わってきた竹中平蔵・慶応義塾大学教授に、同大学総合政策学部竹中ゼミの教え子だった気鋭の教育経済学者、中室牧子氏がざっくばらんに聞く最終回は、これからの日本の教育にあるべき姿を探っていく。
(構成は片瀬京子)
(前回から読む)
これからの日本の教育はどうあるべきでしょうか。
竹中:教育とは、経済学でいうところの公共財です。ただ、公共財にはピュアな公共財と、クワージ公共財があります。Quasi、つまり準公共財です。小学校で読み書きや算数を教えるのは、それがないと社会が機能しないからです。だから、初等教育は純粋な公共財です。
しかし、高等教育を受ける人は、社会に貢献することだけでなく、自分の所得を上げることにも重きを置くので、高等教育を受けることは私的投資です。つまり、高等教育はピュアな公共財ではなく、準公共財です。
では、準公共財の存続には何が必要かというと、競争です。この分野にこそ、競争がなくてはなりません。
準公共財に必要な、競争とセーフティネット
準公共財には、競争のほかに必要なものがもう1つあります。それは、セーフティネットです。たとえば米国にはコミュニティ・カレッジがあります。これは公立の2年制の教育機関です。高校卒業時には大学に合格できなかった生徒がここへ通い、頑張って実力を付ければ、アイビーリーグにだって進学できます。実際に、進学のシーズンになると、大学がコミュニティ・カレッジにブースを出して、優秀な生徒を勧誘します。このような敗者復活のチャンスが、セーフティネットです。
ところが今の日本には、競争も、それからセーフティネットもありません。
米国ではコミュニティカレッジの質を上げるために、あまたの研究が行われています。私が博士号を取得したコロンビア大学は、コミュニティカレッジのデータセンターとなっています。こうした動きとは対照的に、日本では大学もそして政府もデータの公開には消極的で、国民の税金によって収集されたデータは、政府の占有財産ではなく、国民の財産であるという認識がありません。
竹中:個人情報の管理さえしっかりすれば、データは提供してもいいと思います。
最近、国会などでも、公教育の質の低下が議論になる時があります。
竹中:日本はGDP(国内総生産)も下がっていますからね。国力全体が下がっているから、教育の質も下がっているのでしょう。
中室牧子(なかむろ・まきこ)氏
慶応義塾大学総合政策学部准教授 1998年慶応義塾大学卒業後、日本銀行、世界銀行を経て、米コロンビア大学博士課程修了(Ph.D.)、2013年から現職。専門は教育経済学。近著に『「学力」の経済学』(ディスカバー・トウェンティワン)。
一方で、その質の低下が、全体に生じているのかと言われると、データを見る限りでは必ずしもそうとは言えません。国際的に比較可能なデータをみても、学力上位の子どもたちは増加しています。要するに、格差が拡大しているのです。
竹中:所得の分布の変化と、ほとんど一致していますね。
現行制度では世界のニーズに対応できない
その通りです。
竹中:ですから、義務教育における公教育の役割は極めて重要です。私は和歌山の商売人の家に生まれ公立の小中高に通いましたが、このように教育の機会が与えられている、つまり、教育の大衆化が徹底されているという点では、日本の教育システムは素晴らしい歴史的役割を果たしてきたと言えると思っています。
しかし今の日本の教育は、大衆化の次の段階へと進まなくてはなりません。世界の最先端で活躍できるようなグローバル人材が求められるようになったのにも関わらず、現状では制度がそれに対応していません。だからそれを家庭の資源で補うことになり、所得のある家庭とそうでない家庭で差が生じます。
日本の教育はことさら「平等」を重んじます。しかし、私はこの「平等」のもたらす結果について改めて考える時が来ていると思っています。親の所得や学歴など、家庭の資源に大きな格差があるのに、学校で平等な資源配分を行えば、格差は拡大していくだけです。
その矛盾に多くの人が気づいていないのです。少人数学級は費用対効果の低い政策だと言いましたが、一方で少人数学級政策は、貧困家庭出身の子どもには大きな効果があったことがこれまでの研究の中で明らかになっています。全国の小学校1年生「全員」に少人数学級を実施するのではなく、就学援助が高い学校に教員の加配を行うなどをすれば費用対効果は十分に高かったかもしれません。
竹中:灘が有名なのは、偏差値が高いからですよね。そして、偏差値を高くしたければ、30人学級にする必要なんてありません。受験予備校の東進ハイスクールのようにすればいいのです。まだまだ世の中は、灘から東大へ行って財務省へ入るのがいいというような価値観があるし、親も、グローバル教育だなんだと言いながらも、関心があるのは我が子の偏差値の最大化で、本音では東大に入ってほしいと思っています。
子どもらの生きる時代があまりに自分たちが生きてきた時代と違っていることに、戸惑う保護者も多いようです。私のところへも、子どもを持つ保護者の方から、いつから教育投資をすべきなんだろうか、塾へ通わせるべきなんだろうかという切実な悩みをご相談いただくこともあります。
竹中:私はこうしてやってきたということと、しかし時代は変わったということの間に立っているわけですよね。そして定性的な噂によって「公立より私立」「早めに受験」と判断していき、それによって、良い学校はどんどん良くなり、悪いところは悪くなっていきます。
親が子どもに引き継げる最大のものは何でしょうか。財産は引き継ぐことができますが、そこには相続税がかかります。しかし、税のかからないものを引き継ぐこともできます。それは、知的資産です。
1億円のお金を相続しようとしたら、それなりに相続税がかかります。しかし、1億円を教育に投資し、知的資産に変えると、そこには課税されません。であれば、1億円を使って家庭教師を付けて、アイビーリーグの大学へ進学させようと考える親も出てくるでしょう。これはつまり、相続税のあり方が間違っているということもできます。
フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏は累進資本課税を強化せよと言っています。
竹中:日本は既に、世界最高の資産課税をしています。そのうえで、相続税の上限を50%から55%にしようとしています。すると、富裕層は海外へ出てきますし、金銭を知的資産へと替えて相続していきます。相続税は平等化を図るためのものなのに、機能していないのです。ですから、格差を拡大したくなければ、これ以上相続税を上げてはなりません。これ以上上限を上げるのは、頑張ってお金を儲けている人へのいじめです。
マーガレット・サッチャーはかつて「金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない」と言っています。なかなか辛辣で、彼女が日本の政治家だったなら問題発言とされていたでしょう。しかし、これは正しい。ですから、所得の再配分をするのなら、相続税から離れたところで考える必要があります。
日経ビジネスオンラインの読者の方のうちどの程度が、自分自身の所得税率を知っているでしょうか。そして、所得税率が10%以下の人の割合がどの程度かを、知っているでしょうか。イギリスでは、所得税率が10%以下の人は、全体の15%ほどです。アメリカでは3〜4割の人の所得税率が10%以下です。では日本はどうかというと、実に84%の人の所得税率が、10%以下です。
中間層は所得税をほとんど納税していない
ええっ。
竹中:これは、財務省が公開しているデータです。日本では中間層の人がほとんど所得税を納めていないのです。所得税が高いというのはウソ。この中間層の人たちが税率20%くらいの所得税を負担すれば、財政再建はあっという間にできます。しかし、政治家は絶対に、普通の人の所得税を上げるとは言えません。だから、幅広く課税するためにと消費税を上げるのです。
しかし、消費税は明らかに逆進性があります。それで社会保障という所得配分を行おうとするのは筋違いです。他の国は、所得税を財源に、社会保障の仕組みを維持しています。ではなぜ、この国ではそうではないのか。それは、政策リテラシーが低いからです。福澤諭吉先生が言われたように、政府は国民の民度を超えられません。政策の質を高めたければ、国民が賢くならなければならない。
だから福澤先生は、『学問のすゝめ』を書かれたのです。
傍白:
今回の竹中教授との対談でつくづく感じたことは、日本の教育を取り巻く問題は、教育だけに限った、独立した問題ではないということです。日本の政策決定における「科学的根拠」の不足、そして学校教育を終えた後の「出口」である労働市場の接続、世代間、そして世代内の資源配分などとは切っても切れない関係にあります。教育というものを俯瞰して考える非常に良い機会となりました。(中室牧子・慶応義塾大学総合政策学部准教授)
このコラムについて
教育ってそういうことだったのか会議
経験論ばかりが跋扈する、世間の教育改革の論議。教育は誰もが当事者で、誰もが経験に基づいた評論家になりがちだ。
個人の経験ではなく、世界の事例や実証研究、大局観を持った教育政策を実現するにはどうすればいいのか。
竹中平蔵・慶応義塾大学総合政策学部教授と、その教え子である若手教育経済学者の中室牧子氏が、政策の観点から、対話形式で掘り下げていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/281668/061000001
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