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「ダメ政策」ばかり日本が選んでしまうワケ
竹中平蔵・慶応義塾大学総合政策学部教授に聞く(2)
2015年6月15日(月) 竹中 平蔵 、 中室 牧子
竹中平蔵・慶応義塾大学総合政策学部教授
教育政策にももっと、信念や価値観だけでなく実証分析に根差したKPI(重要業績評価指標)が必要ではないか。数々の国家的な改革に携わってきた竹中平蔵・慶応義塾大学教授に、同大学総合政策学部竹中ゼミの教え子だった気鋭の教育経済学者、中室牧子氏がざっくばらんに聞く2回目は、金融政策にも話が広がって…。
(構成は片瀬京子)
(前回から読む)
竹中先生にとっての「教育」とはなんでしょうか。
竹中:私は高校生のときに、倫理社会の北内先生の影響を受けて経済の勉強をしようと思いました。北内先生は東京教育大学、今の筑波大学を出たばかりの若い先生で、北内先生が宿直の時には、おかきとコーラを持って遊びに行ったものです。
そこで北内先生に「教育とは何ですか」と尋ねたことがあります。すると先生は、「そんな難しいこと俺にはよく分からないけれど、でも、教育とは胸を開いて希望を語ることだと思う」とおっしゃった。
1981年に米ハーバード大学へ留学しましたが、到着して1週間も立たない、英語が通じるか不安でたまらない4月のある日に、ボストンマラソンがありました。40キロ地点でランナーがやってくるのを待っていたら、ぱっと目に飛び込んで来たのは、日の丸をつけた選手でした。鳥肌が立つ思いがしました。
このレースは、瀬古利彦が海外で初めて優勝したレースだったのです。日本語で「頑張れ」と叫ぶと、周りにいた米国人は「You can do it.」と言っていた。これは、エンカレッジ、鼓舞ですよね。エンカレッジされた側は、「Yes, I can」と答えます。
教師にできることは「エンカレッジ」
私は今、教育をする側にいますが、教師にできることはエンカレッジだと思っています。知識を教えるのではなく、勉強する気になってもらうことが教師の仕事です。
教育の議論が難しい理由には、教育が聖域扱いされていることも挙げられます。これは医療と同じで、競争という概念を持ち込むとすぐに「人の命は金では買えない」といった原理主義的な議論になりがちですが、そういう意味ではありません。医療の世界でも、正しい競争をさせればいいのです。
ところが、センセイと呼ばれる人は競争が大嫌いです。どんな手術の事例がどれだけあって、成功確率はどれくらいかは、大半の病院が公表していません。ということは、私たちには病院を選ぶ規準がないということです。大学だって同じです。総理大臣を何人輩出したとか、都合のいいことしか言いません。
病院の場合、患者の入院日数が長いほど、その病院は儲かる仕組みになっています。優秀な医者がいる病院ほど、稼げないということです。
留年を繰り返す学生が多い方が稼げる大学のようですね。
教育に流れる「逆競争」のムード
竹中:つまり、逆競争の流れが働いているのです。一方で、週刊誌はどこの高校からどこの大学に何人入学したということばかり報じています。入ってからのことは触れません。たとえば東大ではどのような教育が行われているかという情報はないのです。
中室牧子(なかむろ・まきこ)氏
慶応義塾大学総合政策学部准教授
1998年慶応義塾大学卒業後、日本銀行、世界銀行を経て、米コロンビア大学博士課程修了(Ph.D.)、2013年から現職。専門は教育経済学。2015年6月、『「学力」の経済学』(ディスカバー・トウェンティワン)を発刊。
企業もまた、そういった情報を求めてはいません。最近は少しずつ変わりつつありますが、終身雇用・年功序列の中で、企業はどういった人を採用するでしょう。
答えは、“言われことを覚えられる人”です。ですから、偏差値が高い人は評価が高い。採用基準はもうひとつあって、それは“黙って言うことを聞く人”、つまり、体育会系です。だから東大の体育会系出身者は就職に強かったのです。ですから私は、大学も悪いけれど、企業も悪いと思っています。
終身雇用・年功序列という雇用システムが確立されたのは、戦後の非常に特殊な状況の影響です。しかし一方で、教育は文部科学省、雇用は厚生労働省で、そこはシームレスになっていません。
教育に関する統計についても同じことが言えます。「教育」には学校教育以外のものも含まれるはずですが、家庭や学校外の塾などの教育は文部科学省の管轄ではないため、文部科学省所管の統計にはそういった情報が含まれていないことが多いのです。海外では社会実験による教育効果の測定が一般的になっていますが、日本ではまだまだ批判が多いのが現状です。
竹中:しかし、実験経済学は非常に重要な分野です。マーケティングの分野ではもっと早い時期から始まっています。
大手以外にもいい映画があると発掘し、日本に紹介している配給会社がありますが、そこでは当初、映画の日本タイトルをアンケートで決めていました。映画好きの人を集めて、タイトルを提示しないまま観てもらって、最後に「どのタイトルがいいですか」とアンケートをとる。初期はこれで成功していました。これも実験ですよね。
米エール大学の著名経済学者であるイアン・エアーズ教授の著書『Super Crunchers』(邦訳:『その数字が戦略を決める』)も一見何の意味もないようなタイトルですが、いくつか用意されたタイトルの候補の中から、ウェブサイトでのABテストの結果によって決められたと言われています。
竹中:それが問題になることもあります。今、日本のジャーナリズムがそうなっているのです。記事の中身をゆがめるような、ウケるタイトルを付けるでしょう。
確かに、読んでみたら全く違う内容だったということはありますね。
竹中:先日も雇用制度の自由化について「解雇の自由化」と書かれ、それを特区で行うというアイデアには「解雇特区」と書かれました。もちろんこちらはそんなことは言っていない。悪意に満ちたタイトルです。このインタビューにはどんなタイトルが付くのか、楽しみです。
バブルは崩壊してから分かるもの
せっかくなので経済の話も伺いたいのですが、今は、バブルなのでしょうか。
竹中:バブルについてはいくつか名言があって、米連邦準備理事会(FRB)元議長のアラン・グリーンスパンは「崩壊したとき初めてそれがバブルと分かる」と言っているし、米シティグループのチャック・プリンスは「音楽が鳴っている間ダンスはやめられなかった」と言っています。頭では何かおかしいと思っていても、止めることが出来ないのです。
ですから、バブルを止める手段はありません。止められないのはリテラシーが低いからではなく、その方法が分からないのです。そして、バブルはあちこちで5年に1度ほど起きています。世界が過剰に流動的なため、1980年代後半はそのバブルが日本に押し寄せました。
90年代前半にはそれがアジアに移り、そして、97年のアジア通貨危機を引き起こします。バブルの波はその後ITへたどり着き、そして、2001年にはITバブルも崩壊します。次は、米国の不動産、そして2008年のリーマンショック。
ですから、今、何が起こってもおかしくない時期です。世界の株価の総額が世界のGDPに迫ろうとしているのですから、これはバブルではないかという怖さはみな、感じているところです。
ここにも歴史のアイロニーがあります。国際通貨基金(IMF)ができる前、この流動性をコントロールするために2つの案がありました。ケインズ案とホワイト案です。英国はケインズ案、つまり、世界の中央銀行で流動性を制御することを提案しましたが、米国はその責任を負わされたくないので、ホワイト案、つまり基金案を推しました。
このとき世界はドル不足を恐れましたが、結果はまったく逆になりました。米国が赤字をたれ流すことで流動性は増し、それが世界各国でいろいろな波乱を起こしています。今さらに流動性が増しているのは、パワーバランスが微妙に変化しているからかもしれません。
新興国に翳りが出てきて、一方で、米国が復活してきていて、金利を上げようとしています。ですから、通貨は当面米国に流れる可能性があります。これは仮に新興国でバブルが起きたときにそれをストップする流れです。
ですから、今は明示的な、大きく崩壊するようなバブルにはなっていないということかもしれません。これについてはエビデンスがあるわけでないですが、これまでの経緯から、推察することはできます。
米国では、教育政策の目標を決定し、その目標を決定するために費用対効果の高い手段は何かということを明らかにし、選択と集中を行います。これが教育政策の意思決定を行う際のグランドデザインだと思うのです。
米国では、マサチューセッツ工科大学(MIT)の貧困アクションラボなどが、教育分野における社会実験を実施し、個別の教育政策の費用対効果を比較するなどして、政策に貢献しています。
しかし、日本では社会実験は良しとされないばかりか、費用対効果の低いような政策を積極的に採用してきているというのは既に述べた通りです。私は今後の日本の教育政策は、ビジネスにおけるKPIと同様、教育の効果をきちんと定量的に測定し、それに基づく選択と集中を行わないと、国民の納得を得られないのではないかと思っています。
竹中:それを定着させるのが、中室先生の学者としての歴史的な使命なんですよ。
(次回に続く)
このコラムについて
教育ってそういうことだったのか会議
経験論ばかりが跋扈する、世間の教育改革の論議。教育は誰もが当事者で、誰もが経験に基づいた評論家になりがちだ。
個人の経験ではなく、世界の事例や実証研究、大局観を持った教育政策を実現するにはどうすればいいのか。
竹中平蔵・慶応義塾大学総合政策学部教授と、その教え子である若手教育経済学者の中室牧子氏が、政策の観点から、対話形式で掘り下げていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150603/283857
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