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安倍首相の学生時代の友人ら「彼はそんなタカ派でなかった」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150612-00000012-pseven-soci
週刊ポスト2015年6月19日号
「安倍家」「岸家」という名門政治家血族の取材を40年以上にわたって続けてきた政治ジャーナリスト・野上忠興氏が『週刊ポスト』でレポートしている安倍晋三首相に関するノンフィクション。父・晋太郎氏の死の2年後の1993年、安倍氏は衆議院選挙で初当選を果たす。その後の安倍氏の歩みを追った。(文中敬称略)
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政治家の道を踏み出した安倍は、初当選からわずか10年で自民党幹事長、2013年(当選5回)で総理大臣へと上り詰めた。
大所帯の自民党の出世階段からいえば、当選5回は衆院の常任委員長か初入閣の可能性がある程度の年次だ。父の晋太郎も初当選(1958年)から14年目の頃は国対副委員長でしかなく、待望の初入閣(農林大臣)はそれから2年後の1974年、16年目のことだった。
1977年11月、晋太郎が福田赳夫内閣で官房長官に就いた直後の言葉を思い出す。所狭しと並んだ胡蝶蘭の芳香が漂う官房長官室でのことだ。筆者が「総理・総裁へのステップをまた1つ踏んだわけですね」と水を向けたところ、晋太郎は苦笑しながらこう返した。
「いやいや、(佐藤栄作まで首相を7人輩出している)山口県の人間は、政治家は総理大臣になって当たり前で官房長官て何なのという思いしか抱いていないよ。まだまだいくつも段階を踏んで自分を鍛えないと。これから、これから。総理・総裁なんておこがましいよ」
生前、晋太郎の謙虚さとバランス感覚には誰もが一目置いていたが、この外連味のない言葉と、安倍の政治家人生を重ね合わせると、その“落差”、つまり努力を重ねても報いられなかった「父」と、重要閣僚を経験せずに短期間に総理大臣まで駆け上がった「子」の政治家人生の違いに、どうしても思いがいく。
政界入りした安倍が、試行錯誤を繰り返しながら政治家としての信念や政策を自ら血肉としていく時間もないまま、「岸の孫」「晋太郎の息子」という七光りを背に浴びて、学生時代と同じように苦労もないまま、敷かれたレールの上を走ってきただけでは――と見るのは酷すぎるだろうか。
政治家になってからの安倍が、突如としてタカ派の言動を際立たせていく姿にも違和感を禁じ得ない。その契機が、小泉内閣の官房副長官だった2002年、早稲田大学での講演で言い放った核武装論だろう。
「自衛のための必要最小限度を超えない限り、核兵器であると、通常兵器であるとを問わず、これを保有することは、憲法の禁ずるところではない」
「核兵器は用いることができる、できないという解釈は憲法の解釈としては適当ではない」
その翌年に評伝刊行のため取材した安倍の学生時代の友人や恩師たちは、幹事長に就いた安倍の異例ともいえるスピード出世に驚くとともに、この発言に戸惑いを隠さなかった。
「安倍さんが岸総理の安保改定は正しかったと論じることはあっても、核武装を言い出すなんて。彼は、そんなタカ派ではなかったと思う」
そう一様に首を傾げた。
祖父の岸も首相時代、参院予算委員会で「核兵器とつけばすべて憲法違反だということは、憲法の解釈論としては正しくないのじゃないか」と答弁し、小型の戦術核の保有は違憲にあらずの見解を表明している。
筆者はこの頃から、安倍が岸の言葉や思想を借り、“タカ派のニューリーダー”として意識的に自分を装い始めたと考えている。
首相になってからも、安倍は中国からの批判に応えて「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいのならどうぞ」(2013年9月のニューヨークでの演説)と口にした。今国会での安保法制審議でも、野党議員に「早く質問しろよ!」とヤジを飛ばすなど、唯我独尊的な言動が一段と際立ってきた。
自民党内でさえ「数もあるから、どうしても傲慢になってしまうのだろうな」との声が聞こえてくる。
無論、政治家として「正しい」と信じる道を進むことは重要な姿勢であるが、これが本当に長い時間と勉強を元に練り上げた信念なのか、筆者には疑問が残る。
そして、強いリーダーであると同時に、反対意見に耳を傾け、自説を修正しながらコンセンサスを取り付ける議会制民主主義の鉄則をないがしろにして成功した政権はかつて一つもない。
「両岸」と言われた祖父・岸や、「外交はタカだが内政はハト」を信条にした父・晋太郎はその鉄則をわきまえた政治家だった。自説を曲げず「お友達とお追従に囲まれて『我が道』を行く」(自民党長老)ような安倍の振る舞いや政治手法は、国のトップの有り様として疑問符を付けざるを得ない。
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