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ドイツで内外記者会見にのぞむ安倍首相(首相官邸HPより)
安倍首相が安保法制違憲論にインチキ反論! 日米密約の「砂川判決」もちだす卑劣さも
http://lite-ra.com/2015/06/post-1175.html
2015.06.10. リテラ
「日本人の命を守るためには(安保法制が)不可欠」
憲法審査会に呼ばれた憲法学者3名が揃って「違憲」と判断した安保法制だが、この人は相変わらず聞く耳をもっていないらしい。安倍首相は8日、ドイツでのG7サミット後の会見で安保法制について質問を受け、冒頭のように必要性を強調。さらに「憲法解釈の基本的論理は全く変わっていない」と、あらゆる論議を無視して「合憲」を主張した。しかも呆れるのは、次の一言だ。
「この基本的論理は、砂川事件に関する最高裁判決の考え方と軌を一にするものだ」
出た、砂川判決「合憲」論。安倍首相は昨年の集団的自衛権の行使容認の際にも砂川事件の最高裁判決を「合憲」の根拠としたが、今回は加えて自民党が党内議員に配布した「違憲」判断に反論する文書でも「憲法判断の最高の権威は最高裁」と記し、砂川判決を基に「集団的自衛権の行使は憲法に反するものではない」と主張しているという。
だが、砂川判決を「合憲」の根拠にすることには、憲法学者や弁護士といった専門家たちから「無茶すぎる」と批判が殺到している。
それもそのはずで、そもそも砂川事件とは、在日米軍基地に基地拡張を反対するデモ隊の一部が数メートルほど立ち入ったことで逮捕され、日米安保の刑事特別法違反で起訴された事件。これに対し、弁護側は米軍の駐留が憲法第9条が禁じた「戦力の保持」にあたると主張した。
最高裁判決では、結局、弁護側の主張は却下され、デモ隊は有罪になったが、この裁判で争点となったのは“米軍の駐留と旧安保条約は憲法9条に適合しているか”ということで、日本の集団的自衛権行使とはまったく関係のない裁判なのだ。
それどころか、砂川判決では、米軍の駐留を肯定するために、「憲法9条2項が保持を禁止した戦力とは(中略)わが国自体の戦力を指し」とのくだりもあり、自国の戦力保持禁止を謳っている。この判決文をもちだすなら、自衛隊そのものを否定しなければいけなくなるだろう。
それを自分たちの都合のいい部分だけを抜き出し、別の意味に解釈しているのだから、安倍首相の主張は乱暴きわまりないが、さらに、砂川判決をもち出すことにはもうひとつ大きな問題がある。
というのも、この砂川事件は、第一審の東京地裁で、安保条約に基づく米軍の駐留を憲法9条によって禁止される「戦力の保持」にあたるとして「違憲」という判決を受けていた(裁判長の名をとって「伊達判決」と呼ばれている)。
ところが、検察は高裁を飛ばして最高裁に跳躍上告。最高裁は一転、米軍は「戦力」に当たらないとし、「(9条によって)わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではな」いという判決を下した。
実は最高裁によるこの逆転判決の裏には“日本政府とアメリカの介入”が指摘されているのだ。
そのことを明らかにしたのは、2013年に出版された『砂川事件と田中最高裁長官』(布川玲子、新原昭治・編著/日本評論社)。同書によれば、米軍駐留を「違憲」とした伊達判決が出た翌日にあたる1959年3月31日の午後、東京・アメリカ大使館のマッカーサー2世駐日米大使からワシントンにある国務省のジョン・フォスター・ダレス国務長官へ一通の秘密電報が発信されたという。アメリカ政府解禁秘密文書の秘密区分で「極秘」に指定されているこの文書は、以下のように始まる。
〈(私、マッカーサーは)今朝八時に藤山(愛一郎・外務大臣)と会い、米軍の駐留と基地を日本国憲法違反とした東京地裁判決について話しあった。私は、日本政府が迅速な行動をとり、東京地裁判決を正すことの重要性を強調した。私はこの判決が、藤山が重視している安保条約についての協議に複雑さを生み出すだけでなく、4月23日の東京、大阪、北海道その他での極めて重要な知事選挙を前にした重大な時期に、国民の気持ちに混乱を引き起こしかねないとの見解を表明した。〉
当時、米国務省も国防総省も伊達判決にコメントするのは「不適切」とマスメディアに語っていたが、実際には、伊達判決の直後から密かに外交工作を行っていたことがこの秘密電報の文面からはわかる。
しかも、マッカーサー大使は藤山外相に、論議が長引けば〈左翼勢力や中立主義者らを益するだけ〉と戒め、跳躍上告することを促している。これに藤山外相は〈全面的に同意〉。実際、この藤山外相とマッカーサー大使の面会からわずか3日後には跳躍上告が決まっている。
その日のマッカーサー大使から国務省への「秘」電報には、このように書かれている。
〈外務省当局者がわれわれに語ったところによると、法務省は近く最高裁に提出予定の上告趣意書を準備中だという。(中略)政府幹部は伊達判決が覆されることを確信しており、案件の迅速な処理に向けて圧力をかけようとしている。〉
この時点で、日本政府幹部が司法に「圧力」をかけていると、マッカーサー大使は外務省から聞かされている、というわけである。しかしなぜ、まだ跳躍上告の準備中にもかかわらず、政府は「伊達判決が覆されることを確信」していたのか。その背景は4月24日にマッカーサー大使が国務長官に宛てた「秘」公電を見れば明らかになる。
〈(判決の時期について)内密の話し合いで田中最高裁長官は大使に、本件には優先権が与えられているが、日本の手続きでは審理が始まったあと判決に到達するまえに、少なくとも数ヶ月かかると語った。〉
なんと、最高裁での逆転判決の鍵を握る裁判長・田中耕太郎長官自らが、マッカーサーと「内密」に談合を行っていたのである。あらためて言うまでもなく、評議による裁判中の情報は秘密にしなくてはならない(裁判所法第75条)。しかし田中裁判長は、その後もアメリカ側と度々密会を重ね、情報をリークしていたのだ。
その漏洩内容は恐るべきものだ。同年8月3日に米大使館から国務長官宛てに発信された書簡が、その一部を物語っている。
〈共通の友人宅での会話の中で、田中耕太郎裁判長は、在日米大使館主席公使(引用者註:マッカーサー大使のスタッフだったウィリアム・K・レンハート公使のこと)に対し砂川事件の判決は、おそらく12月であろうと今考えていると語った。弁護団は、裁判所の結審を遅らせるべくあらゆる可能な法的手段を試みているが、裁判長は、争点を事実問題ではなく法的問題に閉じ込める決心を固めていると語った。(中略)裁判長は、結審後の評議は実質的な全員一致を生み出し、世論を“揺さぶる”素になる少数意見を回避するようなやり方で運ばれることを願っていると付言した。〉
田中裁判長は、裁判の争点を直接的背景である日米安保条約における危険性の論議から逸らして法律解釈の問題に限定することで、速やかに結審を下す旨まで報告していたのである。
岸信介内閣が秘密裏に進めてきた安保改定の条約調印は60年1月19日。最高裁判決は59年12月16日に田中裁判長自身が言い渡している。安保改定の反対運動が盛り上がる前に「違憲判決」を覆しておきたかったのだ。
しかも、である。田中裁判長は判決1カ月前にもマッカーサー大使と密談し、その会話のなかで伊達判決の明確な否定と、米軍駐留に合憲判断によってお墨付きを与えることまで公言していたことが、米大使館から国務長官に宛てた極秘書簡によって明らかになっている。
〈田中裁判長との最近の非公式会談の中で、砂川事件について短時間話し合った。(中略)
田中最高裁長官は、下級審の判決が支持されていると思っている様子は見せなかった。それどころか反対に、それは覆されるだろうと思っている印象だった。しかし、重要なのは、15人のうちのできるだけ多くの裁判官が、ここに含まれる憲法上の争点につき裁定することだという印象を私は得た。この点に伊達判事が判断を下したのは、まったく誤っていたのだと彼は述べた。〉
さらに驚くべきことは、外務省はアメリカ側に裁判で弁護団にどのように反論すべきかまで相談をしていることだ。
このことについて詳述しているのは、昨年発売された『検証・法治国家崩壊』(吉田敏浩、新原昭治、末浪靖司/創元社)だが、同書によれば、最高裁での弁護側の答弁書には、日米安保による米軍の駐留と基地使用によって日本が直接関係のない武力紛争に巻き込まれる危険性が指摘されていた。これに対して検察側は、審理が不利にならぬよう、軍事行動のための基地使用の事実を否定する必要があった。そこで、最高検察庁から弁護団の指摘を聞いた外務省は、マッカーサー大使に相談。米解禁文書から発掘された文書には、〈ときに応じて日本の海軍施設を使うかもしれないが、日本の国内とその付近に配置された米軍とは見なされないし、日本を基地とするものではないということである〉という苦しい言い逃れが書かれている。また、こうしたなかでアメリカの国務長官の指示どおりに検察が虚偽の弁論を行ったことなども「秘」公電によって判明しているのだ。
このような密接なやりとりの果てに、田中裁判長は米軍の駐留を「違憲」とした伊達判決を覆した。そう、すべてはアメリカと、その顔色をうかがう日本政府のために。事実、判決の翌日にマッカーサー大使は田中裁判長の〈手腕と政治的資質〉を激賞する「秘」公電を国務長官に送っている。
これらはアメリカの情報自由法に基づいて開示された秘文書に記録されている、紛れもない“事実”だ。この公正ではないと明白になっている裁判の判決を、安倍首相はいま安保法制が「合憲」であることの根拠としているのである。
もはや茶番劇のような展開だが、笑うに笑えないのは、当の安倍首相本人は「これで押し通せる」と信じていること。逆を言えば、それほど国民はバカにされているのだ。
ならば、国民は突き返すべきだろう。「ふざけるな、お前のようなバカと一緒にするな」と。
(水井多賀子)
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