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フランスに学ぶ地方自治議論  「大阪都構想」の議論は海外にもある 無投票続出の地方選を救う教訓は 山縣有朋の「住民自治」
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投稿者 rei 日時 2015 年 6 月 10 日 08:28:11: tW6yLih8JvEfw
 

フランスに学ぶ地方自治議論
「大阪都構想」の議論は海外にもある(上)

――【続】無投票続出の地方選を救う教訓は 山縣有朋の「住民自治」にあり

日本の地方選挙の投票率が低い原因は、それが地方政治を左右し、さらに国政につながるという期待を、住民が持てないことにある。日本と比べて、欧州はどうなのだろうか

前回、わが国の地方選挙の投票率が低い問題を取り上げた際に、フランスでは投票率が高い(75%程度)ことをご紹介した。しかしながら、同じ欧州でも英国は低い投票率(35〜40%程度)に悩んでいる。そこで今回は、そんなフランスと英国を比べた上で、わが国について振り返ってみることとしたい。

(注1)本稿の記述は、主として『地方自治』第653号、第797号−801号、及び、山下茂明治大学教授(元自治省)の『比較地方自治』1992.9、『体系比較地方自治』2010.10によっている。

フランスの高い投票率の
背景にあるもの

 フランスの地方選挙の投票率が高いのは、それが「地方政治を左右し」、さらには「国政にもつながる」実態を持っているからである。まず、「地方政治を左右し」という点は、フランスの地方選挙がもつ安定した執行部を成立させる独特の仕組みを基盤としている。たとえば、市町村(コミューン)の選挙では、各党の候補者名簿への投票が行われるが、多数派には必ず2分の1の議席が配分される仕組みがある(多数派プレミアム)。首長は、選挙後の市町村議会で互選されるが、そのようにして多数派となった党派の候補者名簿の筆頭者が選ばれる。

 そして、そのようにして選出された首長が議会の多数派の上に安定した執行部を組織して地方政治に当たるわけであるが、日本のような国による財源保証がないので、その執行部のやり方によっては、その地方の税金が毎年でも引き上げられることになる。そのような形で、地方政治が選挙によって左右される仕組みがビルトインされているのである。

 次に、「国政にもつながる」という点に関しては、地方自治の担い手と国政の担い手(政治家および官吏)の兼職が認められていることがある(注2)。国民議会議員の90%が地方議会議員を、45%がコミューンの首長職を兼任している。かつてのシラク元大統領は、同時にパリ市長であった。サルコジ前大統領も、大学在学中にパリ郊外のヌイイ=シュル=セーヌ市の市会議員に最下位当選したことを振り出しに、1988年に国民議会議員、1993年に予算相などを歴任して、2007年に大統領になったのである。

(注2)我が国でも、戦前には地方自治体の首長が国会議員を兼職していた。たとえば、 安倍総理の祖父、安倍寛氏は昭和12年から山口県油谷町長と衆議院議員を兼務していた(『週刊新潮』2003. 10. 9])。なお、英国でも国会議員が地方議会議員を兼ねることができるが、その例は少ない。

 そのような仕組みについて、山下茂・明治大学教授は、政治に意欲のある若い人が「比較的出やすいコミューンから始めて、県や州、そして国会へ、欧州議会へと、新しい立場に挑戦し、活動範囲を拡大するには好都合である。生誕や学歴での『エリート』ではない人が政治家としての階梯を上ることにも活用できる」としている。そのようなフランスの地方議会は、民主主義の学校のお手本とも言うことができよう。

「憲法改正」も厭わない
フランスの大胆な地方分権改革

 フランスの地方自治体は、後に見る英国の場合と異なり、幅広い分野を担当しているが(注3)、かつてはむしろ国からの厳重な監督の下にある中央集権的なものとして知られていた。それを象徴していたのが、強大な権限を持つ内務省であった。ところが、そのような仕組みの下でも、必要なら憲法改正も行いながら、大胆な地方分権改革を行ってきたのがフランスである。

 最初の大胆な改革を行ったのは、ミッテラン大統領であった。ミッテランは、1982年、国の権限を地方に委譲すると共に、それまでの国による事前の後見的監督を事後の監督に変える抜本的な改革を打ち出した。それは当時の憲法院が、フランス憲法に定める国の行政的監督の責任が果たせなくなるとして違憲としたほどのものであった。それに対してミッテランは、司法的な監督を活用する折衷案によって改革を断行した。

 その結果、それまで国(内務大臣)が任命する地方長官が適正と認めるまでその効果を生じなかった地方議会の議決などが、地方長官に送付すれば、その時点で効果を生じることになった。地方長官が、それを違法と認める場合には、2ヵ月以内(予算については1ヵ月以内)に行政裁判所に提訴して取り消してもらう(重大な違法がある場合には、執行停止の申し立てが行われる)のだが、そのようなケースは稀なので、ミッテランの改革が実質的に実現されたのである。

(注3) フランスの地方自治体は、自ら必要と思う分野について、地域内の様々な組織と協同しながら、また幅広く民間企業や慈善団体などの活動を支援する役割をも果たしつつ、地域の統治主体の役割を担っている。

 次の大改革はシラク大統領によるもので、憲法改正を伴うものであった(2003年)。憲法改正の主なポイントは、@憲法第1条に、共和国の基本理念として地方分権を盛り込み、A補完性の原則を定め(第72条2項)(注4)、B一定の制限の下に、地方自治体が実験的な取り組みを実施できるとした(第72条4項(注5)、第37条の1)ことであった。補完性の原則や実験的な取り組みは、従来の国による後見的な監督の考え方を抜本的に改めたもので、それらが違憲とされないように、憲法第1条に地方分権の基本理念までも盛り込んだというわけである。

(注4) 第72条2項「地方公共団体は、各々のレベルにおいてもっとも適切に遂行できる権限全体について、当該権限をもっとも適切に遂行することができる立場にある主体が当該権限を行う」

(注5) 第72条4項「地方公共団体またはその広域行政組織は、法令によりその旨認められる場合には、実験的に、特定の目的のために期間を限定して、当該権限の行使に関する法令の規定の適用を受けないことができる」

国民の期待に応えた分権改革
大阪都構想のような議論も

 そして、そのような改革は国民の期待に十分応えたものであった。2006年に行われた世論調査(IPSOSによる)では、「地方分権が十分なレベルにまで達した」とする者が31%で、「さらに推進すべきだ」とする者は18%に過ぎなくなった。それどころか、「行き過ぎ」とするものが45%にも上った。

 そのような世論の下、シラクを引き継いだサルコジ大統領は、新たな分権の議論は一休みすることとし、それに代えて、州、県、市町村の間で輻輳する権限と財源を整理する改革を打ち出した(2007年)。組織の見直しである。その議論は、現在のオランド大統領の下でも続いており、1つの分野に属する権限・財源を1つの地方行政主体(リーダー自治体)に帰属させることによって行政の効率化を図るべきだといった点についての議論が行われている。大阪都構想(大阪府と大阪市の統合で行政効率化を図る)のような議論が行われているのである。

大胆な改革を行っても大きく変化しない
英国の地方自治

 英国の地方選挙の投票率が低い根本的な原因は、英国の地方行政の所掌範囲が限定されており権限も小さいことである。英国でも、地方自治に関しては様々な改革が行われており、それらの中には、英国が成文憲法の国であったなら、当然に憲法改正になったような大胆な改革もあった。しかしながら、それらの改革も、英国の地方自治を活性化するにはいたっていない。

 そもそも、近代の英国の地方自治は、かつてそれがわが国で地方自治の母国と呼ばれていたことが信じられないような、極めて中央集権的なものである(注6)。国と市町村の間には、県や州のような中間的な組織はなく、住民が直接選挙する市町村長も存在しなかった(注7)。そのような仕組みの下で、中央の各省庁が、それぞれの分野ごとに直接、強力な監督を行っていたのである。各省庁の監督の下に、市町村会に分野ごとの委員会が設けられて行政が行われてきた(委員会制)。その背景にある考え方は、地方自治は本来国が持っている権限を限定的に地方に委任したものの集合体だというものであった(限定的権限付与方式)。

 emsp;委員会が各省庁の法律による委任の範囲を超えた行政を行うと、裁判所によって差し止めを命じられる(越権行為の法理:ウルトラ・ヴァイレース「比較地方自治」P281)。委員会が行うべき行政を行わないと、主務大臣が代替執行する(義務僻怠是正権限:default power)。地方自治体の条例制定にあたっては主務大臣の承認が必要とされ、そもそも個別的・具体的な根拠法なしには条例(bye−1aw)の制定はできないというのが英国の地方自治であった(注8)

(注6) 英国の地方自治は、地方が公衆保健衛生行政などの近代的な事務を所管するようになった19世紀の中頃から中央集権的化した(山下茂「比較地方自治」P280)。

(注7)市町村会の議長が名目的に市長村長と呼ばれることもある。

(注8)権限が関係省庁の法令によって明確に定められているので、地方団体間の事務配分や国と地方の事務配分が不明確だといった問題は起こらない(山下茂「比較地方自治」P251)。

>>後編『フランスに学ぶ地方自治議論「大阪都構想」の議論は海外にもある(下)』に続きます。

フランスに学ぶ地方自治議論
「大阪都構想」の議論は海外にもある(下)

――【続】無投票続出の地方選を救う教訓は 山縣有朋の「住民自治」にあり

>>(上)より続く

 しかしながら、このような委員会制に対しては、実質的な決定者が誰かがわかりにくく透明性に欠けるといった批判がなされるようになった(「英国の地方自治(概要版)−2011年改訂版−」)。

 そこで政府は、2000年に新たに地方自治法を定め、従来の委員会制に代えて、原則として、@市町村会から選出されたリーダーが内閣を組織して行政を担当するか(準議会内閣制)、A直接公選された首長が内閣を組織して行政を担当するか(直接公選内閣制、内閣は市町村会の議長によって組織される場合もある)を選択して導入することとした。結果は、@の準議会内閣制が299、Aの直接公選内閣制が11、従来と同じ委員会制が42となった(2011年11月現在)。

 また、2000年には新たな地域主義法(Localism Bill)を制定して、それまで厳しく限定していた地方自治体の権限、及び所掌範囲を拡大する方向での見直しを図った。地方自治体が、経済的、社会的、環境的福利の追求のために必要と考えられるあらゆるサービスを、一定の制限の下で実施できることとしたのである。

 2010−11年地域主義法では、さらに自治体に対して法令で禁止されていないいかなる行動をも行うことができる権限を「付与」することができることとした。一連の改革は、条例の制定にもいちいち中央省庁の承認が必要だとしていたこれまでの考え方を、抜本的に変更するものであった。

 このような改革については、「これにより、今後地方自治体の役割が重要になり、中央政権によるトップダウン式統制であった国との関係について、大きく変わる可能性がある」とするものがあった(自治体国際化協会、2011年版『英国の地方自治』)。しかしながら、その後も、大きな変化は起こっていないようである。筆者としては、英国独特の地方財政面からの制約が変わらない限り、大きな変化は期待できないと考えている。

英国の地方自治は
効率重視が最優先

 どういうことかというと、地方自治体が業務範囲を広げようとすれば、それには財源が必要になる。しかしながら、英国は地方に十分な財源を与えない中で、地方自治体の効率性ばかりを重視してきた歴史を持っているからである。

 1979年からのサッチャー改革においては、政府は、国の行政効率化方針に従わない大ロンドン市(わが国の東京都に相当)を廃止した(ブレア政権下で復活)。1988年には地方自治体の非効率なバス事業やゴミ清掃部門を立て直すべく、民間業者との競争入札を義務付ける法制を導入した(ブレア政権で廃止)。1992年からは、メジャー政権が、全地方公共団体に行政分野ごとの業績のベンチマークを公表する業績情報公開制度を導入してベスト・プラクティス政策(最も効率の良い自治体の仕組みを他に及ぼす)を展開した。

 1996年に成立した労働党のブレア政権は、それまでの保守党の多くの政策を見直したが、地方自治体に関しての効率性重視の基本方針は維持した。そして、現在のキャメロン政権の下では、北アイルランドやスコットランドの分離独立という問題の方に注目が集まっており、個別の地方自治体の権限や所掌範囲に関する議論は、あまり行われていないように思われる。

 英国の地方自治制度は、わが国では、その地方の「実際の税率が標準税率よりも高い場合、居住する自治体の歳出が国の定めた標準支出額よりも高いからだと納税者は理解できる(日本経済新聞『経済教室』斉藤慎大阪大学教授、中井英夫近畿大学教授、2002. 8. 22)」もので、納税者に自治体の効率性をチェックさせる優れた仕組みだと評価されている。

チェックの仕組みが強く
働きすぎることも良し悪し

 フランスでも、先に見たとおり、各自治体のサービスの違いによって税負担が異なることで同様のチェックの仕組みが働いている。そう聞くと結構なことのように思われるが、それも程度問題である(注9)。あまりにもそのメカニズムが強く働くと、地方自治体はその地域独自の施策を新たに実施しようにも、財源問題によってできなくなってしまうからである。

 山下教授は、本年2月に発刊された『英国の地方自治』の最後に、今後、英国地方自治の決定的な「没落」の伝記が書かれないことを祈り続けるとしている。それは、現在の英国の状況が、地方主権法がいくら地方に権限を付与しても、「中央政権によるトップダウン式統制であった国との関係」が大きく変わっていないことを踏まえての記述であろう。

(注9) 2000年度時点で、全354自治体の98%に当たる348自治体が超過課税を行っていた。

日本国憲法の地方自治規定の問題点
なぜわが国の地方選挙の投票率が低いのか?

 わが国の地方自治体は、地方選挙の投票率が高いフランスと同様に住民の生活全てにわたる分野を所掌している。また、フランスと比較しても相当の財源を国から付与されている。なのになぜ、わが国の地方選挙の投票率は低いのだろうか。

 その点については山下教授が、「日本の地方議会は『審議』機能しか果たしていない。そのような地方議会は、いわゆる先進国では我が国だけである。日本の地方議会は、諸外国の地方議会のような行政責任を負っていないのだ」としているところにカギがありそうである。審議機能しか果たさない地方議会とは「地方政治を左右」しない地方議会であり、そのような地方議会の選挙に住民が大きな関心を持つはずはないというわけである。

 そして、わが国の地方議会が審議機能しか果たさなくなってしまった理由の一つが、日本国憲法だというのが筆者の考えである(注10)。町村長についてまで直接選挙制を規定して、地方議会に行政責任をもたせなくしまったからというわけである。

 実は、前回ご紹介した、山縣有朋が創り上げた明治の地方自治制度は、立憲制の学校(今日で言えば「民主主義の学校」)となることを目指したものであった。そこでは、たとえば町村長の選出は、今日のフランスと同様に町村会によって行われていた。違いといえば、フランスでは、町村長が町村議会議員の中からの互選だったのに対して、かつての日本では、町村会議員に限らず町村の公民(注11)の中から選出されていたことであった。

(注10)地方議会が審議機能以上の行政責任を果たさない理由としては、地方議 会が地方の受益について、ほとんど増税責任を負っていないこともあげられる。その点については、かつて梶山静六官房長官が、その結果、「地方議会が税で住 民とつながらなくなっていて問題だ」としていた(『破壊と創造』2000年)。

(注11)満25歳(選挙権については20歳)以上の男子で、その町村に2年以上居住し、地租を収め、又は直接国税2円以上を収める者。

 とはいえ、町村長になるような人は、立候補しなくても町村会議員に選出されるのが一般的だったので、それは実質的には同じものであった。そして、そのような仕組みは、前回ご紹介した「出たい人より出したい人を」という選挙の一環だったのである。明治時代にできた「出たい人より出したい人を」という選挙が、今日できないはずはない。そのような仕組みにしていく条件整備としても、日本国憲法の硬直的な地方自治の規定の見直しが必要と言えよう。

世界初となる制度も模索
フランスは「民主主義の学校」

 なお、前回の記事掲載以降、5月には大阪の都構想についての住民投票が行われて否決された。フランスで、同様の議論が活発に行われていることは、先にご紹介したとおりであるが、フランスの県議会議員選挙では、議員の男女比率が等しくなるように、男女のペアに投票する世界初の制度の導入も行われている。民主主義の学校としての地方自治ならではの興味深い試みが行われているのがフランスなのである。

(注12)日本国憲法に関しては、今日、道州制を導入するための憲法改正の議論はあるが、そのような議論は地方自治を住民の手に取り戻し、地方自治を民主主義の学校にする(「出たい人より出したい人を」という選挙を実現する)ことにはつながらないと言えよう。

http://diamond.jp/articles/-/72980  

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