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「早く質問しろよ」問題 専門家「ヤジはある意味“仕返し”」〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150610-00000001-sasahi-pol
週刊朝日 2015年6月19日号より抜粋
「早く質問しろよ」──。安全保障関連法案をめぐる国会審議が白熱する中、安倍晋三首相の振る舞いが物議を醸している。6月1日、首相は改めて謝罪したが、“子供のけんか”を思わせる応酬は、専門家の目にどう映ったのか。その心理を読み解いてもらった。
「早く質問しろよ」。いら立った様子で安倍首相がそう叫んだのは、5月28日。かつて小泉純一郎元首相に「ソーリ」節を繰り返した辻元清美衆院議員(民主党)の質疑だった。3分間ほどかけて、中東での「機雷の掃海」が軍事行動の一環とされてテロリストに狙われたり、自衛隊員に死傷者が出たりするリスクが増えるといった指摘をし、「ちょっとだけよと行って、いつも大きな戦争に広がっていってるわけです。ですから総理はこうもおっしゃってますよ……」。そう言ったところだった。
首相の発言に辻元氏はしばらく沈黙。あぜんとした顔で、こう切り返した。「ご自身の答弁は延々とされてきたんじゃないですか」。
その少し前には、中谷元・防衛相への質問にもかかわらず自ら手を挙げ答弁席に向かう安倍首相を、「ソーリ、落ち着いたほうがいいですよ。どっしりしてください」と辻元氏がたしなめて、失笑が起きていた。
首相のヤジという敵失を見逃さず、“見せ場”に変えた辻元氏を「けんか上手」と評するのは臨床心理士で『アイドル政治家症候群』(中公新書ラクレ)などの著書がある矢幡洋氏だ。
「ヤジはある意味、“仕返し”だったのでしょう。その前に辻元議員に言われたことの中にカチンとくるものがあったのだと思います。安倍首相は党対党の議論の場という設定ではなく、自分と相手のどっちが強いかを競い合っているような感覚になってしまっているようです。自分の真意を伝えることよりも、個人レベルで自分と相手のどっちが勝ったのかということに関心がいきがちなのでは」
野党から抗議を受けた安倍首相は、こうわびた。「辻元議員がですね、時間がきたのに延々と自説を述べて、いわば私に質問をしないというのは答弁をする機会を与えないということでありますから、早く質問をしたらどうだということを言ったわけでありますが。しかしまあ言葉が少し強かったとすれば、それはおわび申し上げたいと思います」。早口で、言い終わると同時に答弁席から身をひるがえした。
著書『他人の意見を聞かない人』(角川新書)で、その典型が安倍首相であると指摘している精神科医の片田珠美氏は、こう話す。
「他人の意見を聞かない人の特徴に、自己正当化があります。それは、一に『利得』、二に自分の失敗や間違いの『否認』、三に『プライド』のためであることが多いのです。安倍首相の謝罪には、辻元さんが悪いと主張することによって自分の意見を押し通すことができる利得と、辻元さんが悪いからヤジをせざるをえなかった、と自分の過失を相対化することで否認。そして、自分のほうが辻元さんより上の立場なのだと示すプライド。自己正当化の理由の三つが全て当てはまります」
先の矢幡氏も、ヤジ直後の謝罪をこう読み解く。
「ただ『すみません』では引き下がれずに、反論に近いことを言ってしまう。誠意をこめた謝罪なら、サッと背を向ける前に一礼してもよいはずです。それをしないのは、彼にとってはやはり個人レベルのけんかであって、“負けた場面”だった。耐えがたい屈辱感で、一刻も早く切り上げることが先だってしまったのでしょう。自己愛的な性格傾向で、自分のかっこ悪い場面を好まないように見えます。非常に競争心が強く、負けたくない気持ちが強い、という見方もできます」
安倍首相は今年2月の衆院予算委でも「日教組!」と民主党の質問者にヤジを飛ばして後に謝罪していた。政治評論家の有馬晴海氏はこう話す。
「ヤジは、国会で答弁している人に対して『ウソを言うな』などと飛ばして答弁者に心理的に圧力をかけることで本音を引き出す効果を持っているので、どこかで認められてはいます。ただ、総理大臣はやってはいけない。国民から選ばれた議員が質問をする、ということは国民が質問をしているということ。遮って『早く質問しろ』とは、国民に対してウルサイと言っているに等しい」
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