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衆院平和安全法制特別委員会で質問に答える安倍晋三首相=5月27日、衆院第1委員室(酒巻俊介撮影)(写真:産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150602-00000554-san-pol
産経新聞 6月3日(水)10時35分配信
野党は相変わらずさんざんの体たらくで、党内を見渡せばこれという対抗馬が見当たらない。となれば、でんと構えているだけでおのずと9月の自民党総裁選は乗り切れそうで、安倍晋三首相はさぞ安穏としているだろう。ところが、ある自民党関係者によると、そうではないらしい。このところの首相は、党内の若手議員に不満たらたらだという。真意をくみとると、再選後の「3選戦略」にも絡むし、「安倍院政」を敷けるかにも絡む。なかなかしたたかな思惑が透ける。
過去2回にわたる衆院選で300近い議席を続けて獲得すれば、とくだん汗をかかなくてもそれなりのポストが割り当てられ、それなりの政治活動ができる。内閣・党支持率が下がる兆候はなく、次期衆院選も乗り切れそうだ。ましてや、野党に目を転じると、自民党を脅かす勢力には到底、なり得ていない。
自民党の若手議員には、程度の差こそあれ、こんな空気が漂っている。安定政権ゆえのたるみといえば実に皮肉であり、順風満帆に見える安倍政権の「陰」の部分である。「今はいいけれど、そんな甘い環境はいつまでも続かない」。ベテラン議員には、若手議員の危機感のなさを嘆く向きもある。
そんなざまには首相もいらだっているという。振り返るに、首相は、歴史教科書問題や北朝鮮による日本人拉致事件などへの取り組みは若手議員のころからしていた。政治家としての本分に従い、腰を入れた政治活動をしてきたとの自負のあるのだろう。今の若手議員がいかにも物足りなく映るのは致し方ない。
それもあって、党内には歴史認識をはじめ、憲法、外交・安全保障などいわゆる「安倍カラー」に彩られた政策を勉強するため、若手議員による新たなグループを発足させる動きが出ている。いつまでも安倍氏が首相の座にいられるわけもなく、退陣後もその意思を引き継ぎ、実現に向けて活動する素地を党内に醸成しようというわけだ。
もっとも、よくよくな事情も透けてみえる。というのも、党内にはすでに、リベラル色が強い「過去を学び分厚い保守政治を目指す若手議員の会」が発足しており、設立趣意書には「修正主義的な過剰なナショナリズムを排し、広範な保守政治を構築する」との方針を明示している。つまりは、「安倍カラー」とは一線を画すグループだとみてよい。
若手議員によるにわか勉強会の結成が相次ぐのは、総裁選に向けた駆け引きが水面下で活発化している証左とみて差し支えないだろう。「分厚い会」の発足メンバーは30人弱で、総裁選の推薦人20人という条件を満たしている。言われているように、野田聖子元総務会長が出馬すれば、支援に回る可能性があり、首相とすれば、無投票再選のシナリオが狂いかねない。
そんな政局の行く末を見越した思惑が、首相を支持する若手議員への不満につながり、新グループの結成に結びついている。なにせ、「分厚い会」に対抗するグループの結成には、「首相の意向が強く働いている」(別の自民党関係者)とされ、総裁選をにらんだ布石の一つなのは明らかだ。
そうは言っても、よほどの悲運に見舞われない限り、首相の再選は動かない。野田氏をはじめ、「ポスト安倍」に浮上している面々は、いずれも決め手に欠けている。それなのに、首相がこれほどまでに気をもむのは、総裁選の対応よりも、再選後の政権運営の道筋を描き切れない焦燥感と背中合わせだからだろう。今、しておかないと後でほぞをかむという、抜け目のない読みがうかがえる。
再選されて平成30年9月まで任期を務めるにしても、その間、時がたつにつれ、首相の求心力が低下するのは疑いない。政界とはそんな狡知(こうち)がまかり通るところである。ましてや、総裁の連続3選を禁止している総裁公選規程を改正する政治情勢はそう簡単にはつくれない。
「総裁選後の人事で、菅義偉官房長官とか重量級の側近を党務に就かせ、結成する新グループと協力し、党側から3選の流れをつくるしかない。官邸の意向で規程を改正するのは本末転倒で、すさまじい反対の声が吹き出してくる。その辺のさばきが難しい」
首相に近いある関係者はこう打ち明ける。新グループの結成には、「3選戦略」でまごまごしないよう、首相や周辺が繰り出した仕掛けという含みがある。
その一方で、再選後の任期を無難に務め、後継者が「安倍カラー」の政策を揺り戻すまねなどせず、さらなる高みを目指してくれれば首相も心安く、自身は首相経験者としてにらみをきかせることができる。
すんなりはまる適任者としてささやかれているのは、歴史認識など首相と近い稲田朋美政調会長である。女性で初めての首相となれば、高い支持率が期待でき、よしんば稲田氏が総裁を2期務めれば事実上、安倍政権が4期にわたることを意味する。まさに「安倍院政」である。
当然ながら、「そのとき」を見越し、地ならしをするのは新グループの面々という意味合いがある。となれば、人事では、「ポスト安倍」の有力候補と党内外に認知させるため、稲田氏を官房副長官に起用し、政権運営の何たるかを勉強させるのも一考だろう。官房長官への登用だってあっていい。
目先の対応ならば短い物差し事足りるけど、長いものは図れない。すべき手段を尽すことで、憲法改正などこうと信じる自身の政治理念をどう実現していくか。首相の日夜の苦心はひとかたではない。(松本浩史)
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