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小泉進次郎氏(写真=時事通信フォト)
小泉進次郎の24時間拝見 −政界で歩くマナーの教科書と呼ばれる理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150601-00015373-president-bus_all
プレジデント 6月1日(月)9時15分配信
「日本には小泉進次郎がいる! 」近い将来、日本のリーダーになるであろう政界の若きプリンス進次郎を300回近く密着取材した常井健一氏が解き明かす。
■1 名刺交換 なぜ、毎回、同じやりとりを繰り返すか
世の注目を集め続ける小泉進次郎の魅力は、どこにあるのか。
政治の現場を取材する中で小泉進次郎に密着し彼の所作を丁寧に観察していると、ビジネスやマナーを考えるうえで学ぶところが多くあることに気づく。人の心をつかみ先を読む動き方、考え方が非常に参考になる。
政治家の世界、特に自民党という旧態依然とした組織の中では目立ちすぎると嫉妬が渦巻き、出る杭は打たれるのが常。それをうまく回避しながら、政界で圧倒的な存在感を示しているのが進次郎だ。
進次郎が最も大切にしているのは挨拶だ。与野党を問わず、また相手が議員でも秘書でも党職員であっても必ずしっかりと挨拶を交わす。これが彼の基本的な姿勢だ。立党60年目を迎えた老舗企業のような組織の自民党には、出世争いがあり損得計算が渦巻いている。その中で進次郎からは、相手の肩書に左右されず「若手と何かを成し遂げたい」「若手を励ましたい」という強固な意識が読み取れる。立場と年齢の上下が複雑に絡み合っている政治の世界で、一番目立たず立場の低い人の声を徹底してすくい上げようとする。
また、初対面の人と名刺を交換する際、一瞬立ち止まってまず相手の名前をしっかりと見る。そのうえで、「この苗字、珍しいですね。どちらの方ですか」「僕の名前(もしくは家族の名前)と似ていますね」というようなことを必ず言う。名前の話はまったく当たり障りがないし、言葉を2、3回交わすにはもってこいの話題だ。ずっと進次郎に密着していた私やメディアには毎回同じような光景を見せるわけだが、進次郎はまったく意に介さず愚直に「いつもの名刺交換」を繰り返す。初対面の相手への敬意を最大限に優先している証であろう。
■2 歩くマナー本 なぜ、マナーを守る人を、人は憎めないか
進次郎は「歩くマナー本」と呼んでいいほど、礼節を重んじる政治家だ。
記者たちが話しかけると、進次郎は必ず「○○さんのその質問に対しては……」と、名前を呼びながら返事をする。記者は大抵、足元を掬ってやろうとか批判的に書いてやろうなどという思いがあるが、こういう対応をされるとやや甘くなってしまう部分がある。また、批判的な記事を書く私のようなフリーの記者であっても自ら声をかけていく。こうされると悪い気はしないのが人の情けだ。なかなかできることではないが、受け手にならず自分から先に発信することが彼のポリシーである。記者に限らないが、「自分は彼に認知されている存在」「一度会った人を忘れない」と相手に印象づけ、人を取り込む技術に長けているのだ。
こうしたことを自分に対して実行してくれる人を、人はなかなか憎むことができない。一つの言葉が持つイメージや有用性といったものを常に頭の中に入れている。
自民党青年局のメンバーから「独身議連」をつくる提案をされたときは、
「いや、マスコミを賑わせるから、少子化対策議連にしましょう」
という発想が咄嗟に出てくる。「独身」というと合コンするようなお遊び的な議連に見えるが、「少子化対策」と言い換えるだけで、前向きな若手の政治活動が浮かんでくる。
実践も怠らない。2012年2月から、東日本大震災の起こった日である毎月11日に「TEAM-11」として、被災三県を訪れている。避難生活を余儀なくされている人たちと意見を交換し、地元のリーダーと懇談する。
進次郎の動向が伝えられる際、被災地発の報道になることが多いのはこのためだ。毎月11日は東京や地元の日程をできる限り断るという。岩手県大槌町で若い男性が彼にこう言ったことがある。
「政治家は都合のいいことばかり言うので会うのも嫌なんですが、進次郎さんはしっかり被災地を回っている。だから今日、ここに来ました」
彼を密着していて思うのは、愚痴がほとんど出ないこと。唯一あったのは「寝る暇もなく、自民党は人遣いが荒いんですよ(笑)」と冗談混じりに言ったこと。ぼやきであっても笑いに変えるところにも品格が出ている。
■3 身だしなみ なぜ、どんな天気でも髪形が崩れないか
※常井健一氏の取材をもとに編集部推定。プレジデント編集部=撮影
進次郎は選挙応援の際、ノーネクタイで臨むことが多い。2012年の決起集会では、「(自民党が大敗した09年の)あの夏の厳しい戦いを決して忘れちゃいけない。選挙というのは厳しい戦いであって、ネクタイ締めて、かしこまって、カッコつけて勝てるような甘い世界じゃない。そして、私の原点である初めての選挙で支えてくれたみなさんに対する感謝を、忘れてはいけないという(気持ちの)表れです」と語った。
国会活動など、ネクタイを締める場面でも、ブランドのロゴが使われているような柄を選ぶことはない。ワイシャツは基本が白、ジャケットも派手な色や形は避けてダークスーツを着用しており、清潔な印象とともに、ネクタイの柄や本人の表情に視線が集まる。
右手の袖口から覗くのは、青年局特製の被災地支援グッズである、「継続は絆なり」と書かれた白のシリコンバンド。胸元のリボンで政治的主張を強調する政治家は多いが、見えなそうなところで主張するのが進次郎流。左手首にはいつも高級ブランド物ではない腕時計をつける。こうした細かいところにも、身近な存在に感じてもらうためのさりげない気遣いが感じられる。
遊説先ではどんな悪天候でも髪形が乱れることはない。恐らくジェルとスプレーの合わせ技で固めているのだろうが、鏡を覗いて気取っている素振りは舞台裏でも見せない。橋本龍太郎元総理はヘアクリームでガチガチに固めた髪形、父・純一郎元総理は奇抜な「ライオンヘア」で強烈な個性を印象付けたが、額の右半分だけを見せる進次郎氏の七三分けも清新さと毛並みの良さを印象付ける要素となりつつある。
■4 ジジ殺し なぜ、ダメな上司を立てるのか
青年局で上司だったのが組織運動本部長の竹下亘衆議院議員。ある会合で進次郎はこんなことを言った。
「竹下登先生に『組織しながら選挙する。選挙しながら組織する』『汗は自分でかきましょう。手柄は他人にあげましょう』という名言があります。僕もそういうことができる政治家を目指しているんです」
事前に竹下登のことを徹底的に調べ上げ「これは! 」という一節を覚え、弟の亘議員をしっかりと立てるわけだ。
選挙演説でこんなこともあった。「地方創生担当政務官の小泉進次郎です」と言う際に、必ず「石破茂大臣の下で」という一言を付け加える。さらに、「何か提案するときも石破大臣は、『じゃあやってみて』と非常に仕事がやりやすい上司なのです」と言う。これで人々の頭の中には、今ではすっかり影の薄くなった石破氏がインプットされるというわけだ。自分の言葉がどれだけメディアに乗り伝えられるかを理解しているから、上司を立てつつも自分の存在感を示すことになる。
先輩や上司との付き合い方で、こんな優れたテクニックも用いる。党の重鎮である大島理森衆議院議員に、「先輩、何かいい本ありませんか」「おまえにはこれを勧めるよ」、とそんなやり取りがある。次に会ったときには自然と意見交換をし、違う相談まで持ちかけられるようになる。大物議員にしても教えを請われれば気分がいい。「先日、進次郎が僕のところに来て、何かいい本はないかと言うからあの本を渡したんだ」と地元で言えば、大いに受ける。これは究極のジジ殺しだ。
ビジネスの世界でも、先輩にいきなり「あの会社の営業の仕方を教えてください」と、個別具体的な依頼をしても難しい。そこで、進次郎にならって本を媒介にしてプライドをくすぐることで人間関係をつくり、そこから相談やお願い事などの各論に入ってはどうだろうか。うまくいく可能性はグッと高まるはずだ。
■5 自己演出 なぜ、会議に1秒も遅れないのか
昨年12月、総選挙の演説で福島県相馬市に行ったときのこと。地元のおばちゃんたちがおにぎりと豚汁を用意してくれていた。進次郎は「旨い、旨い」とマイクを通して言う。ただ、次の遊説地へ移動しなくてはならず時間がない。そこで彼が、
「じゃあこれ、車の中で食べるから持ってっていいですか」
と言うと、どっと沸いて盛り上がるのだ。普通の政治家なら2、3口食べて「ごめんなさい、時間がないから」と言い訳がましくなるが、進次郎はまったく別の行動を取る。彼がやるとわざとらしさが見えないところもいい。そこでファンがまた増加するのだ。
今年の正月にも横須賀でサッカーチームの初蹴りイベントに参加した。そこでも炊き出しのカレーを振る舞われたが、少し食べた後で皿を持って立ち上がり「車の中で食べよう」と言った。ここでも好感度は大きくアップした。
進次郎が自民党青年局長時代、青年局の昼食会が毎週金曜日に開かれていた。そこで彼は若手議員に国会での作法を教えていたのだが、
「会議には1秒も遅れてはいけない。議連は時間にうるさい。1秒遅れてもうるさく言われるから気をつけてください」
「会議が重なって中座することもあるが、自分のしたい質問だけして、答弁を聞く前に退室するのはよくない」
「委員会で質問するときは、カメラのほうを向かずに大臣を見ること」
という実用的なアドバイスをしている。ぶら下がり取材のときでも、一切カメラ目線にはならず質問者の目を見て話す彼は、どんな場面でも、目の前にいる人に対して非礼にあたるかどうかを常に考えている。
移動中にも、寝ることはほとんどなく資料に目を通し、現地の案内役を質問攻めにして予習する。入念な下調べは、やはり訪れる土地の強みを知り、初対面の人々とも一瞬で心の距離を縮める演出なのである。 (文中敬称略)
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小泉進次郎氏プロフィール
1981年4月14日生まれ。AB型。88年、関東学院六浦小学校入学、以来中学・高校・大学と関東学院。2009年、衆議院議員初当選。13年、内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。趣味は、野球、サーフィン、ゴルフ、読書、落語。嫌いな食べ物は、生のトマト。幼稚園時代のクリスマスプレゼントは山盛りのヤクルト。疲れたときは栄養ドリンク「レッドブル」。
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ジャーナリスト 常井健一 構成=青柳雄介 写真=時事通信フォト
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