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ロシアの対ドイツ戦勝70周年記念式典でのプーチン大統領と習近平国家主席 photo Getty Images
南シナ海で何が起きようとしているのか? 「日米欧vs.中ロ」は一触即発
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43504
2015年05月29日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
南シナ海の緊張が激化している。5月20日には中国による岩礁の埋め立て・軍事基地化を警戒し偵察飛行していた米国の対潜哨戒機に対して、中国海軍が8回にわたって退去するよう警告する事件も起きた。米中はどうなるのか、そして日本は…。
■前CIA副長官が「中国との戦争やむなし」発言
米中間の緊張はいまや「戦争も避けられない」といった過激な声まで飛び出すほどだ。米中央情報局(CIA)のマイケル・モレル前副長官は20日、CNNのインタビューに答えて「南シナ海で中国の攻撃的行動が引き起こしている米中間の対立は、まさしく将来いつかの時点で戦争に突入する危険性を示している」と語った。
するとその5日後、今度は中国の共産党系新聞「環球時報」が「米国が中国に人工島の建設停止を要求するのをやめなければ、米国との戦争は避けられない」という論説記事を掲載した。米国と戦うことも考えて、中国は「注意深く準備すべきだ」とも指摘した。
まさに売り言葉に買い言葉のような展開である。米国の偵察飛行は公海上だったが、米国は近い将来、埋め立て現場から12海里以内にも進入する構えだ。そうしなければ「12海里以内は我々の領海」という中国の主張を認めた形になって、それは絶対に認められないからだ。
私は日米首脳会談直後に書いた5月1日公開のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/43155)で「今後の焦点は尖閣諸島ではない。むしろ南シナ海だ」と指摘した。それから、わずか3週間でこの展開である。
中国は26日に発表した国防白書で米国の名指しを避けながらも「地域外の国の南シナ海への介入」を指摘して「海上軍事闘争への準備」を呼びかけた。この調子だと、南シナ海を舞台にした米中の対立は一段と激化していくだろう。
緊張の現場は「南シナ海」だけに限らない。習近平国家主席はロシアの対ドイツ戦勝70周年記念式典に出席し、プーチン大統領と肩を並べて軍事パレードを観閲した。その直後、中国とロシアの艦隊が地中海で合同軍事演習を実施した。
地中海は欧州の裏庭である。ロシアによるクリミア侵攻以来、欧州はロシアを脅威とみなして、北大西洋条約機構(NATO)の軍用機を東欧やバルト諸国に派遣し厳戒態勢を敷いてきた。「これ以上のロシアの無法は許さない」という決意の表れである。
■中ロ海軍がまもなく日本海で軍事演習
一方で、英国をはじめ独仏など欧州各国は相次いで中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明した。なぜかといえば、4月1日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/42747)で指摘したように「欧州にとって中国は脅威ではない」という認識だったからだ。欧州は中国を相互に利益を得るウインウイン関係のビジネス・パートナーとみなしてきたのだ。
ところが今回、わずか3隻とはいえ中国の艦隊が地中海に登場した。こともあろうに、欧州の敵であるロシアの艦隊(6隻)と初めて合同軍事演習を繰り広げたのだ。欧州が受けた衝撃は少なくない。
もはや中国が欧州を脅かす可能性がゼロとはいえなくなったからだ。ロシアの立場で考えれば、欧州をけん制するうえで「中国の援軍」はだれより頼もしく映っただろう。
地中海だけにもとどまらない。中ロ両国海軍は8月、日本海で合同軍事演習をする予定だ。こちらは中国にとって願ってもない展開である。尖閣諸島をめぐって日本に圧力を加えるうえで「ロシアの援軍」を期待できるからだ。中ロの異常接近は双方が欧州と日本をにらんで、だれにも明らかなけん制のデモンストレーション(示威活動)になった。
ゴールデンウィークの首脳会談で安倍晋三首相とオバマ大統領が日米同盟の緊密さを高らかにうたい上げたと思ったら、中国とロシアは直ちに反応し、米国を出し抜くように地中海で欧州を飛び上がらせ「次は日本海だぞ!」と日本を脅かしているのだ。
こうした展開は中ロvs日米欧の冷戦復活を思わせる。
かつての冷戦は共産主義勢力が活発に動いたトルコ、ギリシャに対する米国の援助(トルーマン・ドクトリン、1947年)から始まり、旧ソ連が道路と鉄道を封鎖したベルリン危機(48年)で後戻りできなくなった。
同じように、いまの南シナ海の岩礁埋め立て・軍事基地建設問題は1つ間違えれば、中ロと日米欧のグローバルな対立に発展しかねない危険性を秘めている。というより、むしろ「南シナ海はクリミア半島を含めてグローバルに広がりつつある緊張状態を象徴するホット・ポイント」と理解するほうが正確ではないか。
だからこそ、いまは局地的に見えても、南シナ海の扱いがグローバルな緊張の行方を左右する鍵になる。そんな南シナ海危機に日本はどう対応するのか。
■自衛隊は南シナ海でどこまでやるのか
先の5月1日公開コラムで触れたように、日米が合意した防衛協力の指針(ガイドライン、http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/pdf/shishin_20150427j.pdf)は南シナ海を念頭に置いて「平時からの協力措置」の1番目に「情報収集、警戒監視及び偵察」を挙げて次のように記した。
〈自衛隊及び米軍は、各々のアセットの能力及び利用可能性に応じ、情報収集、警戒監視及び偵察(ISR)活動を行う。これには、日本の平和及び安全に影響を与え得る状況の推移を常続的に監視することを確保するため、相互に支援する形で共同のISR活動を行うことを含む〉
注意深く「アセットの能力及び利用可能性に応じ」、つまり「できる範囲でやりますよ」と書いているが、まさに今後は「自衛隊は南シナ海でどこまでやるのか」が焦点になる。中谷元防衛相は最近の日本経済新聞のインタビューで「日本を取り巻く情勢、日米間の議論などを踏まえて不断に検討していく課題だ」と答えている。
政府内には「尖閣諸島を抱えて南シナ海まで手を広げられるのか」という慎重論もあるが、実は自衛隊はすでに「下見」を始めている。海上自衛隊の対潜哨戒機P3Cが南シナ海周辺を飛んでいるのだ。
P3Cが初めて海外に出たのは2009年だ。ソマリア沖の海賊対策に自衛隊法で認められている海上警備行動として出動し、隣のジブチに設営した基地を拠点に警戒監視活動にかかわった。ジブチは事実上、自衛隊初の海外基地になっている。
ソマリア沖で活動を続けてきたP3Cは5月13日、日本に帰国途中、ベトナムのダナンに立ち寄った。この件は産経新聞が報じている(http://www.sankei.com/world/news/150514/wor1505140023-n1.html)。ほぼ同じ時期に外洋航海の演習中だった海上自衛隊の護衛艦2隻、直前には米海軍のミサイル駆逐艦もダナンに寄港している。
この飛来は中国の埋め立てに対する警戒監視活動と銘打ってはいないが、実質的に自衛隊による警戒監視の下見とみて間違いない。
P3Cは高性能を誇るが、いかんせん航続距離は6600キロにとどまる。日本最南端の沖縄・那覇基地から南シナ海までは2000キロだ。那覇から飛んで任務を遂行するには遠すぎる。どうしても現地近くに基地を設けて補給する必要が出てくる。
■P3Cはなぜベトナム・ダナンに立ち寄ったのか
そこで注目されるのが、ベトナムやフィリピンなど中国の脅威にさらされて、日米の支援を求めている国々なのだ。ベトナムやフィリピンの基地を自衛隊が活用できれば問題はなくなる。そういう展開をにらんで今回、P3Cがダナンに立ち寄ったとみていい。
日本はフィリピンとの間で1月29日、防衛協力強化を目指して覚書(http://www.mod.go.jp/j/press/youjin/2015/01/29a_memo_j.pdf)を交わしている。フィリピンのガズミン防衛相はその際、中谷元防衛相との会談で「強く日本の対応、姿勢を支持するとともに全力で協力する」と発言している(http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2015/01/29.html)。
フィリピンは1992年に米軍を追い出した後、中国の岩礁占拠を目の当たりにして2014年4月、米国と軍事協定を結び直した。クラーク空軍基地やスービック海軍基地を再び米軍に提供する。
そうなれば、自衛隊のP3Cがクラーク空軍基地を使えるようになるかもしれない。そもそもフィリピン自身が1月の防衛相会談で日本に中古の自衛隊P3Cを供与してくれないか、と打診しているのだ。このときはフィリピン側の運用能力の問題で日本が断っているが、自衛隊が来てくれるのなら、自分たちの技術習得に役立つのだから大歓迎だろう。
国会では安保法制見直しをめぐって「武力行使の例外拡大がどう」とか「自衛隊員のリスクがどう」とか議論されている。それが大事でないとは言わないが、現実に進行している南シナ海危機と水面下の自衛隊の対応こそ国民が知りたい話ではないか。
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