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山本一郎です。適正な納税を行う国民の鑑です。
ところで、井上伸さんという「国家公務員一般労働組合執行委員」を名乗るかねてから面白いと思っていた人が興味深いエントリーを掲載していたのですが。
老人の投票権剥奪し老人の老人による老人のための政治なくせという辛坊治郎氏や池田信夫氏らの大ウソ(ヤフーニュース個人 井上伸 15/05/25)
この中で、シルバーデモクラシー関連の議論において、辛坊治郎さんや池田信夫さんの指摘する内容を「大ウソ」であると酷評している内容がありまして、これはこれで面白い内容だと思いました。確かに、大阪市の市民投票の結果を論じるにあたり、結論先行の部分が感じられるところではあります。
一方で、井上さんが「大ウソだ」という根拠がなぜかOECDの発表している世代別の相対的貧困率でして、これをひいてきて「日本は高齢者に対して冷たい国だ。なぜなら、高齢者の相対的貧困率は他国に比べて高い。だから、高齢者は弱者であって、政治的にも実態も高齢者天国ではない」という謎のロジックが展開されています。
でも、相対的貧困率って、所得で決まるのであって、資産は見ないんですよね。
国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問(厚生労働省)
「国民所得の中央値244万円の半分以下の所得しかない」という相対的貧困率は高いけど、高齢者世帯の1世帯あたり資産額は2,400万円ほどあるわけです。
40歳未満だと保有資産は平均600万円もないのにね。
家計調査報告(貯蓄・負債編)−平成26年(2014年)平均結果速報−(二人以上の世帯)
この辺は、経済関連を見る上でイロハのイですが。
勤労世代の所得が多ければ、相対的貧困率の根拠となる中央値も高くなるので、人口ボーナスの終わった日本は相対的貧困率自体は高く出ます。
せいぜいいって、高齢者の中にも資産を持っている人とそうでない人がいる、だから貧富の格差を解消しましょうね、という話に過ぎません。
別に井上伸さんの仰ることも見ようによっては間違いではないけれど、日本の場合は少なくとも金融資産が高齢者に偏在して、若者に資産がまわらないので世代間格差があり、貧富の格差が拡大する原因となって、教育や育児に資金が回らず国力低下の原因となって活力が無くなっているのは事実だと思うんですよ。
世帯主の年齢別貯蓄総額分布をグラフ化してみる(2015年)(最新)(ガベージニュース 15/05/21)
井上伸さんの話が欺瞞を含む可能性があるとすると、井上さんがおられる「国家公務員一般労働組合」は個人的には興味深く意義もある組織だと思いますが、一方で「平均的所得」である244万円をはるかに超える、平均661万円の年収を貰っている国家公務員の皆さんの労働組合でもあります。
国家公務員給与、7年ぶり引き上げ 平均年収661万円(朝日新聞 14/10/7)
個人的には、国家公務員には立派な方がたくさんおられ、頑張って働いておられると思うので、働きに見合った然るべき給与を取られるのは何ら問題ないと考えます。しかしながら、その労働を守る側の人間が高齢者が持っておられる金融資産を隠して、所得のみしか計算しない相対的貧困率を持ち出して「シルバー民主主義はない」と主張するのはイデオロギー色に過ぎると感じます。さすがに、それは言い過ぎです。
詳しくは、国立社会保障・人口問題研究所の阿部女史が説明している内容が議論の根幹であると思いますし、当該機関ではきわめて優れた研究が多数存在していますので、ご関心のある方はご一読いただければ問題の状況や本当に格差の対象となって救われるべき層がどこであるか、容易に理解できることでしょう。
「母子家庭」「20代前半男性」「子ども」に際立つ日本の貧困 国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩部長が解説(ハフィントンポスト日本語版 14/9/25)
井上さんの仰ることも理解はできるのですが、一般的な経済状況の分析を見る限りでは日本経済において「持てる高齢者」に富が偏在しているのは事実です。一方で、その「持てる高齢者」も持った理由ははっきりしている(頑張って働いて、富を蓄えたから安心した老後を送っておられる)のも事実ですので、彼らから無原則に富を引き剥がすのも民主主義・法治国家の採るべき方策ではありません。ここをご納得いただきながら富をうまく若者に移転し、政治的にも抑圧されがちな若い層や子育て層に社会的影響力をもってもらえる仕組みを考えることが必要だと考えます。
また、私としては一連の問題は辛坊治郎さんや池田信夫さんのような「世代間分断」論もきちんと踏まえたうえで、子供の貧困にもっとフォーカスを当てるべきだと思います。
長らく井上伸さんの記事も読ませていただいて、感銘を受け尊敬することも多々ある中で、一部の内容については筆が走られることもあろうかと感じたところですので、ぜひ多層的で科学的根拠に基づいた議論をしていただきたいと強く願うところでございます。
きちんとした議論を積み重ねて、次の世代により良い日本社会を引き渡すのがいまここにいる私たち日本人全員の責務であると考えておりますので、井上伸さんはもちろん、辛坊治郎さんや池田信夫さんにおかれましても引き続きのご健筆を祈念しております。今後ともよろしくお願い申し上げます。
山本一郎 個人投資家 投資業務とコンテンツ開発が仕事のメイン、独立17年め。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。仕事と家庭を両立させながら、40歳になんなんとする人生の節目を感じつつ一歩ずつ坂道を登って生きたいと思います。 やまもといちろうBLOG 山本一郎の最近の記事 「シルバーデモクラシー」問題における井上伸さん辛坊治郎さんや池田信夫さんの謎議論5月27日 22時20分 スマホがPCを越える日が来年早々にはやって来そうという話5月27日 21時18分 ドローン絡みで世の中がゴタゴタしているようです5月22日 12時6分 Android搭載のガラケーに未来はあるか? http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20150527-00046090/辛坊治郎氏が渡辺輝人弁護士の「辛坊治郎氏に贈る大阪市の住民投票結果の分析」などの批判によって少し軌道修正して、大阪都構想は「次世代の意思高齢者が押しつぶした」としながら、「日本の未来のために」「70歳以上は投票権剥奪すべき」という言説を「捨てたもんじゃない」などと評価しています。
また、池田信夫氏は、大阪で「老人の老人による老人のための政治」が横行しているとか、「高齢者、年金受給者には選挙権を与えるべきではない」などいうようなことを言ったり、それに乗じて、おときた駿東京都議会議員は「一定額の税金を納めた人でなければ、選挙では投票権を持てない仕組み」が正当で、「現代の日本で言えば、大半の年金受給者は納税者ではなくなり(消費税はあるけど)、主に税金を受け取る側の立場にあります。そのような受益者たちに意思決定権を与えてしまえば、社会がどうなるかなど推して知るべし…ということですね。」などと述べています。橋下徹氏が住民投票で負けてしまったことがよほど悔しいらしく、この際、世代間分断だけでも強めないとやってられないという感じですね。
こうした辛坊治郎氏、池田信夫氏、おときた駿東京都議会議員の言説だけ読んでいると、日本という国はいったいどれだけ“高齢者天国”“若者地獄”なのだろうかと思ってしまう人もいるでしょう。しかし、大阪都構想が高齢者の既得権益をひっぺがせして若者をハッピーにするものではなく、高齢者から若者から子どもまで“地獄”に導くものであることはすでに指摘しています。(※「大阪都構想ポシャり若者かわいそう?-竹中氏肝いり橋下改革で高齢者の既得権益ひっぺがせば若者ハッピー?」参照)
それから、日本の高齢者の現状において、「老人の老人による老人のための政治」が行われ、“高齢者天国”が生まれているような実態にまったくないことは国際比較すれば一目瞭然です。下のグラフは、OECDの直近のデータ(2011年)から、年齢階層別の日本の貧困率とOECD34カ国平均を分かりやすく比べてみたものです。
上のグラフにあるように、貧困率がいちばん高いのは、65歳以上の19.4%で、ほぼ5人に1人が貧困状態に置かれているのが日本社会なのです。OECD34カ国平均は10.8%ですから、日本の65歳以上の貧困率はほぼ2倍以上という異常な高さにあります。「貧困大国アメリカ」と呼ばれるアメリカの貧困率と比べても、日本の65歳以上の貧困率だけがアメリカの18.8%より高くなっています。(※ちなみにアメリカの年齢階層別貧困率は、18歳未満20.8%[日本15.7%]、18〜25歳21.6%[日本18.7%]、26〜65歳14.6%[日本13.9%]、65歳以上18.8%[日本19.4%]。それと驚くのは、フランスの65歳以上の貧困率は4.5%なので、日本の19.4%というのはフランスの4.3倍も高くなっていることです。そうすると、日本より4.3倍も「老人のための政治」が行われているフランスの方が合計特殊出生率が日本より遙かに高く少子化を克服している事実からも、辛坊治郎氏や池田信夫氏らの言説がいかにデタラメであるかも分かると思います)
以前、「「ピケティの罠」の罠=世代間格差拡大が日本の格差問題とする大竹文雄氏のウソ」のエントリーの中で、世代間格差を強調して高齢者の社会保障から若い世代の社会保障に振り替えるという方向性も間違っていることを指摘しています。それから、下のグラフは、直近の内閣府「自殺対策白書」2014年版にある「年齢階級別の自殺死亡率の推移」です。ここ十年ほどは、29歳以下の若年層を除いて、漸減していますが、それでも50〜59歳の自殺死亡率がいちばん高く、次いで60歳以上の自殺死亡率が高くなっています。
こうした客観データを見ていくと、辛坊治郎氏や池田信夫氏などが言う「老人の老人による老人のための政治」など日本に存在しないどころか、先進主要国の中で最も「老人のための政治が不在」であることが分かります。日本は“高齢者天国”どころか“高齢者地獄”だし、加えて“若者地獄”が共存しているというのが客観的な事実なのです。少子高齢化などの漠然としたイメージを利用しながら、高齢者vs.若者などという世代間分断を煽る辛坊治郎氏や池田信夫氏などの言説は、所得の垂直的再分配が必要な社会保障を壊し、若者も高齢者も両方ともさらなる地獄へと突き落とす役割を果たすものだと思います。
月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『国公労調査時報』編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/20150525-00046027/
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