17. 2015年5月30日 02:32:01
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安保ポイント解説 中国の海洋進出 背景 法改正なぜ必要政府が最重要課題と位置付ける安全保障法制について、国会論議に即して分かりやすく解説する。 今回の安保法制の背景には、急激に軍備を増強し、威圧的に海洋進出を行う中国の存在がある。日本の安保政策はこれまで、対応できない事態が起こるたびに、後追い的に法整備を行ってきた。これに対し、2015年5月26日から国会審議が始まった安全保障関連法案は、今後想定されるあらゆる事態に対し、柔軟な対応を可能にするものだ。安倍首相は同日の衆院本会議で、「国民の命と平和な暮らしを守りぬくためには、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う法制の整備が必要不可欠だ」と強調した。 安保政策の最初の大きな転換は、1991年の湾岸戦争だった。日本は1人1万円程度、計約130億ドルの財政支援を行ったが、国際社会から「汗を流さない国」などの批判を受けた。この時の反省をもとに、国連平和維持活動(PKO)協力法が整備された。 次の転機は、北朝鮮が核兵器開発の意思を示した1993年の朝鮮半島核危機だった。法制を検証した結果、日本周辺で戦争が起きても、日本は何もできないことが明らかになり、周辺事態法を整備。米軍への輸送や補給などの後方支援が可能になった。同時に、日本への武力攻撃が起きた場合の有事法制についても、整備が進んだ。 2001年9月11日の米同時テロの後、米国などによる対テロ戦争が展開された際には、日本はその都度特別措置法を作り、インド洋での給油やイラクでの復興支援活動のために自衛隊を派遣した。 今回の安保関連法案は、こうした安保政策の見直しを、包括的に、大胆に進める内容だ。日本の安全に関しては、集団的自衛権の限定的な行使を可能にする。米軍などとの連携をより強め、日本への攻撃を未然に防いだり、外国の紛争が日本国民の生命・権利を根底から覆すことがないよう、備えを強化する。 国際的な平和の確保についても、活動地域や武器使用に関する法的制約を憲法の範囲内で大幅に緩和した。紛争国と戦う米軍や多国籍軍に対する後方支援も、随時、実施できるようになる。自衛隊の海外活動は大幅に拡充されるが、行うかどうかは、日本自身がその都度、決定する。首相が掲げる「積極的平和主義」を実践できるかどうかは、時の政府や国会の判断にかかっている。 *安全保障関連法案のポイント 日本の平和と安全 平和安全法制整備法案(現行10法を改正する一括法) △自衛隊法⇒自衛隊による在外邦人救出などを可能に △武力攻撃・存立危機事態法(武力攻撃事態法から改称)⇒集団的自衛権行使を可能に △重要影響事態法(周辺事態法から改称)⇒重要影響事態での他国軍への後方支援拡充 国際社会の平和と安全 △国連平和維持活動(PKO)協力法⇒PKO類似の「国際連携平和安全活動」への参加。駆け付け警護など任務拡大 △国際平和支援法案(新法)⇒国際的な紛争に対処する多国籍軍の後方支援 安保ポイント解説 国民の危機事態を想定 集団的自衛権どんな時に行使 今回2015年5月の安全保障法制の柱の1つが、集団的自衛権の限定的な行使を容認した点だ。集団的自衛権とは、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、密接な関係にある他国が攻撃された場合、武力で反撃することができる権利のこと。政府は長年、憲法9条の下で許される「必要最小限度の実力行使」を超えるとして、「権利は有するが行使はできない」との解釈を示してきたが、2014年7月の閣議決定でこうした解釈を変更。集団的自衛権の行使を可能にする「武力攻撃・存立危機事態法案」を国会提出した。 同法案では、日本人の命や平和な暮らしが明白な危険に晒されたケースなどを存立危機事態と呼び、他に適当な手段がない場合、武力行使が必要最小限を超えない範囲で集団的自衛権を使えると定めている。 どのようなケースが存立危機事態にあたるのか。 安倍首相が挙げているのが、中東の紛争などで石油危機が生じるケースだ。首相は2015年5月26日の衆院本会議での答弁で「単なる経済的影響にとどまらず、生活物資の不足や電力不足によるライフラインの途絶が起こるなど、国民の生死に関わるような深刻、重大な影響が生じるか否かを総合的に評価する」と述べた。 日本近海で警戒監視にあたったり、日本人を含む避難民を運んだりしている米艦船が攻撃を受けた場合も、集団的自衛権に基づいて米艦船を守れるようにするべきだとしている。首相は同日の答弁で、北朝鮮を念頭に「我が国近隣において米国に対する武力攻撃が発生。攻撃国は我が国をも射程に捉える相当数の弾道ミサイルを保有し、我が国に対する武力攻撃が差し迫っている」状況を例示した。 安保ポイント解説 「事態」増加で判断複雑に 安全保障関連法案を巡る国会審議では、新たに追加された「事態」をどう認定するかが焦点の1つとなっている。 事態とは、自衛隊が出動できる状況をあらかじめ定義したものだ。最も深刻な事態が「武力攻撃事態」。他国が日本を武力攻撃している状況で、個別的自衛権に基づいて自衛隊が反撃する。その前段階が「武力攻撃切迫事態」「武力攻撃予測事態」で、他国が日本を攻撃する準備を行っている場合などが想定される。これらは現行法で定められている。 今回の法案で新たに追加されたのが、集団的自衛権の行使を可能にする「存立危機事態」だ。武力行使の新3要件で「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義された。事態が認定されれば、日本が直接攻撃を受けなくても、米国などと一緒に相手国に反撃できる。 有事に当てはまらないケースでも2つの事態が新たに設けられた。他国軍への後方支援を可能にする「重要影響事態」と「国際平和共同対処事態」だ。 重要影響事態は、現在の「周辺事態」から地理的な制約をなくしたものだ。これまでは朝鮮半島有事を想定していたが、中国の海洋進出など国際情勢の変化に伴い、南シナ海やインド洋、ホルムズ海峡での活動も必要となる可能性が出てきたためだ。共同対処事態は、国連決議に基づいて活動する多国籍軍を支援するケースで、海上自衛隊がインド洋で行った洋上給油などの活動を想定してる。 一方、事態が増えたことで認定判断は複雑化した。複数事態に該当するケースも想定される。野党はこうした点を追及する構えで、2015年5月28日の国会審議でも民主党の辻本清美氏が「武力攻撃切迫事態と存立危機事態の違いは何か」などと迫った。 *増える事態 現行 個別的自衛権 ・武力攻撃事態 ・武力攻撃切迫事態 ・武力攻撃予測事態 他国軍への後方支援 ・周辺事態 新たな枠組み 個別的自衛権 ・武力攻撃事態 ・武力攻撃切迫事態 ・武力攻撃予測事態 集団的自衛権 ・存立危機事態 他国軍への後方支援 ・重要影響事態 ・国際平和共同対処事態
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