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安倍首相はポツダム宣言を読んでいた!? 理解不能だったのは党首討論での集団的自衛権めぐる共産党の主張だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43454
2015年05月25日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
久々に国会で党首討論があった。ガチンコの国会討論なので、筆者は楽しみなのだが、最近、党首討論が少なく、寂しい。20日に行われた党首討論は昨年6月以来だった。
その中で、志位和夫共産党委員長との討論はちょっと見応えがあった。といっても、他のものがさえなかったので、相対的に面白かったという意味だ。
■安倍首相は「ポツダム宣言」を読んでいた!?
志位委員長は、「戦後の日本は1945年8月にポツダム宣言を受諾して始まった。ポツダム宣言は日本の戦争について間違った戦争だという認識を示している。この認識を認めないのか」と質した。
これに対して、安倍首相は「ポツダム宣言を受諾し、敗戦となった。その部分をつまびらかに読んでいないので直ちに論評することは差し控えたい。いずれにせよ、まさに先の大戦の痛切な反省によって、今日の歩みがある」と答えた。
このやりとりについて、一部では、安倍首相はポツダム宣言を知らなかったと揶揄する向きもあるが、それは誤りだろう。調べてみればわかるが、国会外ではよく発言している。しかも、つまびらかでないというのは「その部分」といっており、これを報じた新聞では「その部分」を省いており、適切な報道ではない。
このやりとりは、事前にこまかな質問通告をしないで党首討論が行われることを理解していないと、真相にはたどり着けない。
志位委員長の通告では、ポツダム宣言と書かれていなかったのではないか。その上で、志位委員長は、知らないと知らないことだけで総理として失格、かといって志位委員長の答えに乗ると、政治的に失格という、絶妙なポツダム宣言を持ち出したのだろう。
おそらく、志位委員長は、党首討論のやり方をしっていたので、細かな事前通告をせずに、「引っかけ質問」を作ったのだろう。これはなかなか策士である。
■「引っかけ質問」にかからなかった安倍首相
もしポツダム宣言第6条「日本国民を欺いて世界征服に乗り出す過ちを犯させた勢力を永久に除去する」を認めるかどうかの質問であることが事前にわかっていれば、「その部分」について、安倍首相は「つまびらかに読んでいない」という必要もなかったはずだ。
筆者であれば、天皇の終戦の詔勅中の「他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス」を引用して、「ポツダム宣言を全体としては受諾したが、日本の意図は侵略ではなかったと、連合国の理解とは必ずしも同じでなかった」、という答弁を書いたかも知れない。
実際、安倍首相も「私もつまびらかに承知をしているわけではございませんが、ポツダム宣言の中にあった連合国側の理解、たとえば日本が世界征服をたくらんでいたということ、と(志位委員長は)ご紹介になられました」と答弁している。安倍首相は、質問通告になかったと思われるポツダム宣言について、かなり正確に理解していると思う。
その結果、安倍首相は、志位委員長の「引っかけ質問」にもかからなかったといえる。
ここまでの志位委員長の「引っかけ質問」は、筆者としても楽しめたが、その次にでてくる「日本を海外で戦争する国に作り変える」という主張はまったく理解不可能だ。
■事実上集団的自衛権を行使していると日本は見られている
今国家で争点になっている安保法制は、集団的自衛権の限定行使を可能にすることを主な内容としている。集団的自衛権の限定行使以外にも、グレーゾーン事態への対応、周辺事態法等の改正、国際平和支援法の新規立法などもある。
本コラムでは、これまで安全保障について書いてきた(2014年5月19日「「飼い主を守る猫」でも行使する「集団的自衛権」に反対するマスコミの国際感覚の欠如」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39296 2014年4月28日「韓国やフィリピンの憲法にも戦争放棄の規定がある!各国憲法との比較から「集団的自衛権」を考える」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39129 )。
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それらをおさらいすると、自衛権を「個別的」、「集団的」と分け「個別的」はいいが、「集団的」はダメというロジックは国際社会ではないこと、海外において自衛権が、どこの国でも刑法にある「正当防衛」とのアナロジーで語られていて、言葉としてはともに同じ言葉(self-defense)ということ。さらに、日本の第9条のような規定を持っている憲法は、世界では珍しくなく、そうした国では集団的自衛権の行使は当然の前提であることだ。
海外から見れば、日本が集団的自衛権の行使は事実上すでに行っているとみられても仕方ない。実際、米軍に日本国内の基地を提供していること自体が、同盟関係で、集団的自衛権の行使はしないというこれまでの議論は日本の国内向けであり、国際的にはまったく無意味だ。
日米安保条約を知っている外国人だったら、それが日本だけでなく、極東の安全に既に寄与していることを指摘して、日本も同盟国として一定の軍事貢献もしているといってくる。極東のところは、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」(安保条約6条)にある。
■共産党の言い方は間違い
日本に米軍が存在しているのは、国民はみんな知っているが、実は国連軍もいる。米軍の横田基地に、国連軍後方司令部(United Nations Command-Rear)があり、日本は、オーストラリア、カナダ、フランス、ニュージーランド、フィリピン、タイ、トルコ、アメリカ、イギリスの8ヵ国と国連軍地位協定(日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定)を締結している。米軍の横田基地には、日本とアメリカの国旗とともに、国連旗がたっている。
在日米軍基地のうちキャンプ座間、横田空軍基地、横須賀海軍基地、佐世保海軍基地、嘉手納空軍基地、ホワイト・ビーチ地区、普天間海兵隊基地が国連軍施設に指定されている。
国連軍司令部のほうは韓国にある。こうした国連軍の体制は、1953年7月に朝鮮戦争が休戦となり、休戦協定が発効した翌54年2月以来である。朝鮮戦争は今でも休戦状態であり、終戦ではない。
これだけ、国連にビルトインされている日本が、国連憲章で認め、日米安全保障条約でも明記されている集団的自衛権の権利だけで、行使しないという論法が、国際社会で通用するはずない。
今国会で提出されている安保法制は、そうした国際社会の理解への国内法制のキャッチアップの過程でしかない。これをもって、戦争のための法案というのは、あまりに現状を知らなすぎる議論だ。今の自衛隊の戦力では、海外に部隊を派遣し作戦を行う戦力投射(power projection)能力はなく、侵略戦争を絶対にできない。
これだけで、「日本を海外で戦争する国に作り変える」という共産党の言い方は間違いである。
■侵略された例は南ベトナムしかない
集団的自衛権について、日本のマスコミは、戦争に巻き込まれるという考え方がある。筆者が留学で学んだ国際関係論では、集団的自衛権のほうが、防衛コストが安上がりになり、戦争にまきこまれないということだ。
コストの点から言えば、現在米軍の日本への防衛をすべて日本だけでの自主防衛で受ければ膨大なコストになることは明らかだ。いろいろな試算があるが、20兆円以上も必要という。
マスコミの論調は、第二次世界大戦後に起きた紛争や軍事介入の多くは、集団的自衛権行使を口実に使われることが多いというものだ。
そうした介入のケースではなく、侵略されたケースでみれば、アメリカとすでに同盟条約を結んでいた国が第三国から侵略された例は、南ベトナムしかない。しかも、侵略は北ベトナムであり、これが第三国とはいいがたい。集団的自衛権は抑止力があるので、自ら仕掛けていかないのであれば、戦争に巻き込まれる可能性が低いのが、国際常識だ。
むしろ歴史を振り返ると、集団的自衛権は多数国の判断で行使することが多いが、個別的自衛権は一国のみで判断して行使するので、より危険であるとされている。このため、戦後、西ドイツは個別的自衛権が認められずに、NATOの下での集団的自衛権しか認められなかった歴史がある。
先のベトナムの例は、いろいろと示唆に富む。
■なぜ中国は南沙諸島を埋め立てられたのか
中国が南シナ海で進める埋め立て問題で米中が対立している。南沙諸島は、南シナ海南部に位置する島、岩礁・砂州からなる地域だ。島といっても、きわめて小さく、一般に人が居住できる環境ではない。しかし、この場所は海洋資源のほか、軍事的な要衝にもなっているので、中国、台湾、ベトナム、フィリッピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張している。
中国は、この地域に後発で入ってきた。今、問題になっているのは、南沙諸島のファイアリー・クロス礁である。ここは、1988年に中国がベトナムから武力奪取した。今や3000メートル級の滑走路や水深の深い港を建設中であり、既に南沙諸島で最大級の面積となっている。
また、南沙諸島のミスチーフ礁は1995年から中国が占拠しているが、これは、1992年からアメリカ軍がフィリッピンから撤退していたのを見計らって奪取し、建築物を構築して実効支配に及んだものだ。中国は、自国の漁師の保護を建前としている。
いずれも、アメリカとの安全保障がない、または事実上機能していない状況から、中国の進出を許している。国際社会はパワーのぶつかり合いであり、どこかが引くとかならず争いが生じるが、その典型である。
ファイアリー・クロス礁における中国の埋立スピードは急ピッチで凄い。昨年8月には、ほとんど何もなかった岩礁であるが、今年3月には長さ3000メートル、幅200〜300メートルの人口島がほぼ完成している。
なぜ、ファイアリー・クロス礁なのかといえば、ベトナムから奪ったところで、今は、アメリカとベトナムの間には安全保障条約はない。だから、アメリカは手を出せないと踏んだのだろう。
■集団的自衛権は、防衛コストが低い
この建設費は1兆4000億円といわれている。単純な比較はできないが、ほぼ同じ規模の関空第一期工事の建設費は1兆5000億円だった。関空の場合、沖合5キロで水深が深くきわめて高コストで海外からはクレージーと言われたが、岩礁の埋立という比較的コストがかからないにもかかわらず、異常に高いコストをかけて、中国はファイアリー・クロス礁の埋立をすすめている。
そこで、中国がここに軍事拠点を作るのではないかという懸念を国際社会でもたれている。
ただし、アメリカも黙っていない。「岩礁に砂をいくら積み上げても、領有権は築けない」というのが、アメリカ政府の見解である。
20日、海軍の哨戒機P8AにCNN記者を同乗させ、ファイアリー・クロス礁の映像を放映させた。その中で、中国当局との交信模様。例えば中国側からの「You go(出て行け)」という発信も伝えた。
今のところ、アメリカは、中国に対して領有権を認めず、公海上の航行は自由というスタンスを強調している。今は中国が領有権を主張するところには入らないが、そのうち進入するだろう。もしアメリカとベトナムとの間で安全保障条約があれば、もっと早くに強い態度であっただろう。
アメリカはフィリッピンとの間で、日米安保条約と類似した米比相互防衛条約を締結している。同条約は、フィリピンのみならず太平洋地域をもカバーしている。太平洋地域には南シナ海も含まれるので、アメリカの今後の活動は、米比相互防衛条約での集団的自衛権行使を背景とするものとなろう。
こうして、歴史や近隣の事例をみれば、集団的自衛権は、防衛コストが低く、戦争に巻き込まれる可能性が低く、さらに戦争を仕掛けにくい体制であることがわかる。
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