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保坂展人世田谷区長(C)日刊ゲンダイ
保坂展人・世田谷区長が指摘「都構想より『区』の権限強化を」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/160046
2015年5月25日 日刊ゲンダイ
橋下大阪市長が仕掛けた大阪都構想は住民投票で否決された。その際、反対の論陣を張ったのがこの人、東京・世田谷区長の保坂展人氏(59)だ。国会の「質問王」から世田谷区長になり2期目。橋下は「東京都の23区が理想」と言ったが、「それは違う」と切り捨てた。だとしたら、理想の地方自治の形態とはどういうものなのか聞いてみた。
――大阪の住民投票の結果は良かったと?
そうですね。強大な権限がある政令市である大阪市を解体して、特別区を目指すのは、自治権の拡大を目指す時代の流れに逆行するものですから、反対が勝ったのは良い結果と受け止めています。ただし、選挙中、気になることはありましたね。
――どういうことでしょうか?
橋下市長は1月の市役所の会見でこう言っているんですね。「憲法改正は絶対必要。安倍総理にしかできない。大阪都構想の住民投票はその予行演習。憲法改正における国民投票と同じような形になる。大阪都構想と改憲。本当に総理に実現してほしいと思っています」と。ここまでの発言を、橋下市長自身がしているんですね。これは無視できない発言であると思いました。
――反対派が僅差で勝ちましたが、市長サイドの物量作戦はすさまじかったですね。
そうです。新聞折り込みは20日連続毎日だし、大阪に弁士として呼ばれて行って驚いたのがCMの量です。宣伝費用は4億〜5億円といわれていますが、それで済んだのか。大阪市内だけで双方で数百台の街宣車、1000個単位のマイクが使われたと思います。そうやって、互いにわんわん叫んでいるが、市民には何が問題なのかよく分からない。これまでの選挙戦とは全く違う光景でした。
――国会議員の選挙と違って、街宣車の制限がなくCMの規制も緩いんですよね。改憲の住民投票も似たようなものになる?
そうなるでしょうね。米国の大統領選のように際限なくお金をかける。イメージコントロールの手練手管が雌雄を決する。そういう意味での練習でもあったわけです。これまでも住民投票はありましたが、多くは米軍基地反対など、政府に対して批判的な住民サイドから仕掛けたもので、法的拘束力も明確にはなかった。権力側が仕掛け、カネをかけると、かくも選挙戦は様変わりする。
■人口88万人の世田谷区の権限は「村」以下
――権力側による住民投票の怖さを見せつけられた。その意味では大阪市民は冷静な判断を下したと思いますが、今回、わざわざ東京から行かれて、反対派の集まりに出られたのはなぜですか?
橋下市長は東京23区の特別区が素晴らしい、発展していると、こういう論調でしたので、大阪市民に実情はこうですよ、という事実を伝えなければいけない。そう思ったことが大きいですね。まず、用途地域など都市計画の決定権は特別区にはないのです。地方分権改革で、市町村には権限が下りてきましたが、特別区は除外されているんですね。世田谷区は人口約88万人で山梨県より多いのに、その権限は村以下なんです。
――政令市である大阪市は多くの権限を持っているのに、解体して5つの特別区にしたら、その権限を放棄し、府に渡すことになる。これが地方自治への逆行ということですね。
そうです。世田谷区は商店街を活性化するためにギャラリーやライブハウスを誘致したくても、用途地域が厳しく制限されているんで、東京都にお願いして、変更を認めてもらう必要があるんですが、その手続きも簡単ではない。これではまちづくりが迅速に進められない。
――お金も自由にならないんですよね。
実は区長である私も世田谷区の税収がどれくらいあるか、すぐには答えられないんです。推定で出すしかない。
――どういうことですか?
固定資産税、法人住民税などは東京都が徴収し、23区全体を調整しながら、再配分するシステムだからです。都が45%を吸い上げてしまうが、それが何に使われているのか不透明な部分もある。以前に財務省の主計官への陳情に立ち会ったこともありますが、財源を握る者は強い。都区も上下関係で決まっているような形に近くないか。都の職員のさじ加減で決まってしまうこともあるんですよ。
保坂展人世田谷区長(C)日刊ゲンダイ
――そうなると、二子玉川に楽天本社が移ってきますが、あまりメリットはありませんか?
社員の方や周辺で働く方が引っ越してきて、住民税を払っていただければ、税収は増えます。ただし、楽天は若い会社ですから、小さいお子さんもいるだろうし、これから子供がたくさん生まれる可能性があります。世田谷区は税収の多くを子育て世代に使っていて、手厚く支援している。そうしたインフラ整備にお金はかかるので、住民税は入ってきても、それ相応の出費も増えていく。
――世田谷区は豊かなのかと思っていました。
財政は厳しいですよ。人口が多いから支出する規模も大きい。そりゃ、区によって生活保護の比率も違うので、財政調整の必要性は認めています。ただ、それは都がやらなくてもいいのではないか。23区で自主的に調整できないか。そういう提案をしたことも過去にはあります。
――となると、どういう地方自治のあり方が理想的になるのでしょうか。
まず、大前提として、行政はニア・イズ・ベターで、身近にサービスを受ける窓口があった方がいい。その意味で世田谷区の88万人は多過ぎるので、区内をさらに5つに分けて、それぞれに総合支所を置いています。200人前後の職員がいて、保育園などのさまざまな住民サービスの相談窓口になっている。この5つの総合支所に権限と予算を下ろしていくという方向でやっていて、それは今度の区長選でも公約に掲げました。
――大阪都構想は24の行政区があったのに、それを5つの特別区にしようということですから、世田谷区がやろうとしているのはその逆ですね。
そうです。大阪市にある24の行政区は人口6、7万人から20万人です。それを5つの特別区にまとめたら、これまで行政区がカバーしてきたサービスやまちづくりの機能が遠くなる。どれくらい職員が残って、そういうサービスが続くのか。そこが重要なのに、その議論も曖昧でしたね。
■何でもぶっ壊せばいいという暴論
――しかし、世田谷区には権限がない。制約ばかりだと?
歴史を振り返ってみると、自治体の権限というのはもともとなかったんですよ。県知事だって、かつては国が任命し、官僚が就任した。東京都の区長もかつては都知事が任命していた。いろいろな権限を勝ち取ってきて、今は当たり前になってきたんですね。その意味で、80万人サイズの自治体が都市計画の権限の骨格をすべて都に任せている状況は時代遅れだと思います。お金についても、地方自治の予算は地方自治のために使われるのが基本で、住民の意思がしっかり届くところで使われるべきだと思います。特別区の機能を強化していくことこそ、目指すベクトルじゃないですか。
――そう考えると、今度の大阪都構想は乱暴な議論でしたね。もし通っていたら、大混乱になった。
非常に危ない議論だったと思います。石原都政の時もそうでしたけど、役所は何をやってきたんだ、という批判、不平、不満はあるわけです。それはそれなりに根拠があるのだろうけど、だから、一回壊してみよう、とハンマーを持ち出してくるのは危険です。一回壊して、ダメなら元に戻せばいい。そういう考え方は非常にイージーで、こうした風潮が蔓延しつつあることを危惧しています。
▽ほさか・のぶと 1955年生まれ。都立新宿高中退。教育問題のフリージャーナリストを経て、1996年衆院選初当選。3期務めて区長に転身。
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