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日本は本当に独立国か?通奏低音が聞こえてきた
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2015/05/31/post-102.html
サンデー毎日 2015年5月31日号
倉重篤郎のサンデー時評 連載56
新安保法制閣議決定後の安倍晋三首相の14日の記者会見を見て気がついたことがある。
第一に、リスクを語らない。自衛隊の活動範囲をこれだけワールドワイドに拡大する新政策である。確率論的には小規模戦闘の勃発や戦死者が出てくる可能性を為政者として十分予測しなければならない。軍事力行使拡大のダークサイドには触れず、抑止力向上に資する、とか、自衛隊の安全派遣を心がける、とか希望的観測のみを連ねるだけでは、説得力を欠く。
第二に、中国について語らない。何のための戦後安保政策の大転換なのか。その理由となった安保環境の激変とは何か。その8割が中国の台頭ではないのか。朝鮮半島の脅威はある意味オマケである。刺激するのを避けた、では通らない。今回の措置(日米指針・安保法制改定)が中国に対する軍事的抑止力としてどう効果的に働くのか、さらには、抑止力増強の悪循環をどう防ぐのか。考え抜いたものを国民の前にさらすべきだ。
第三に、巻き込まれ論の否定が大好きだ。1960年の安保改定時、92年のPKO協力法案成立時、いずれも戦争に巻き込まれると流布された言説があったが、これが「的外れ」であったことは歴史が証明している、というお得意のフレーズである。確か、防衛大卒業式(3月22日)の訓示では、「荒唐無稽(むけい)」という言葉を使っていたから、多少軌道修正したのかもしれない。ただ、本音は一緒だ。そこには安保改定反対闘争で倒された祖父・岸信介元首相への思い入れと、いわゆる戦後の左翼反戦運動に対する抜きがたい嫌悪がある。
逆に言えば、そこには、敵からも物を学ぼうという真摯(しんし)な姿勢、敵を味方に
しようという政治的包容力がない。軍事、戦争という取扱注意な領域に対する慎重な構えと、過去の戦争の歴史から引き出した知恵がない。何よりも、戦争との接近度において60年、92年の政策変更とは全く中身の違うものだと分別する知性が欠落している。恐るべきことである。
◇一片の地位協定が憲法以上の重みでこの国を支配している
むしろ、今改定を機に二つの「戦争巻き込まれ議論」をきちんと検証しておく必要性を感じている。対中国という意味では、米国の方が、同国からすれば国益上関心の薄い日中間の領土紛争に巻き込まれる可能性を心配している。対世界という意味では、世界津々浦々の米国が関わる紛争に、自衛隊が後方支援部隊として投入され、結果的に戦闘行為に巻き込まれるのではないか、との懸念を払拭(ふつしよく)できない。いずれも根も葉もない杞憂(きゆう)ではないと思うが、いかがか。
ついつい、安倍会見に深入りしてしまった。ただ、安倍氏の理屈、説明能力がこの程度である、ということは、これから始まる国会論戦の一つの参考になるだろう。この国会、最後は数の力で一気呵成(かせい)に勝負がつくだろう、といかにも政治記者らしき予測をしていたが、論戦がしっかりとかみ合えば意外な展開もありうるかもしれない、と思えてきた。ますます、野党の役割は重要性を増してくる。
さて、国会論戦のお役に立てるため、もう一つ、深い視座を提供したい。前泊(まえどまり)博盛沖縄国際大学教授(54)の編著作『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(2013年、創元社)による。
前泊氏は元『琉球新報』記者で、04年には外務省の機密文書「日米地位協定の考え方」をスクープし、石橋湛山(たんざん)記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した人物だ。
その特報過程での外務省との攻防が興味深いし、痛快である。
「考え方」は、日米地位協定をどうやって運用するか、についてケーススタディーを網羅した外務省内の裏マニュアルだ。その存在について外務省側は一貫して否定してきたが、前泊氏はとうとうその内部文書の入手に成功する。
『琉球新報』は04年1月1日の元旦紙面で機密文書が存在する、という第一報を打った。さらに1月13日紙面では文書全文を公開した。
外務省幹部の抗議は語るに落ちるものだった。
「外務省に数冊しかない機密文書をこともあろうか、20万部(同紙の発行部数)も印刷してばらまくとはどういうつもりなのか」
リークの犯人探しも行われた。「教えてくれ。守秘義務違反で飛ばしてやる」との電話も入った。だが、前泊氏も対策は取っていた。文書を7年寝かせてネタ元をカムフラージュしていた。しかも、歯には歯を。米総領事館のパーティーでは、圧力をかけてきた外務省幹部に歩み寄り大声で「この間は貴重な情報をありがとうございました」と相手をあわてさせた。
決定的だったのは、文書執筆の担当事務官まで割り出したことだ。執筆当時外務省条約局条約課事務官だった丹波實氏(後の条約局長、ロシア大使)がその人だった。取材班がブツを持って本人に直接ただしたのに対し認めた。同業者としてお見事と言うほかない。
前泊氏らが日米地位協定にこだわって取材してきたのはなぜか。
それは米国が占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるための取り決めであるからだ。その基地の7割を引き受ける沖縄に最大のしわ寄せがきているからだ。一片の地位協定が、実は日本国憲法以上の重みを持って、今の日米関係、沖縄問題の根っこを支配している、というのだ。「沖縄は日本ですか。日本は独立国ですか」
先日、前泊氏が日本記者クラブの会見で問題提起した二対の問いが、私の耳にこだましている。安保新法制、辺野古新基地、憲法改正といった一連の外交・安保問題を読み解く共通のカギがここにあるような気がしてならない。日本全体の沖縄化という視点。安倍氏が語りたがらないもう一つのダークサイドではなかろうか。
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■人物略歴
◇倉重篤郎(くらしげ・あつろう)
1953年7月東京生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局。政治部、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
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