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「中国」の名を口にしなかった安倍首相の謎
なぜか説明されない安全保障関連法案の本当の目的
2015.5.20(水) 古森 義久
ホワイトハウス公式夕食会、安倍首相がジョークで笑わす
米ホワイトハウスでの公式夕食会で、日本酒で乾杯の発声をする安倍晋三首相(2015年4月28日撮影)。(c)AFP/BRENDAN SMIALOWSKI〔AFPBB News〕
安倍晋三首相は安全保障関連法案の説明でなぜ「中国」にまったく触れなかったのか――。なんとも奇妙な現象だった。
日本の戦後の安全保障政策を根本から大きく変える一連の法案が5月14日、閣議で決定された。集団的自衛権の限定的な行使を認め、自衛隊の国際平和活動への制約を減らすという趣旨の法案である。これから国会での熱い審議が始まることになる。
安倍首相はその法案の目的や背景を説明するため、同14日、記者会見を開いた。首相はその会見の冒頭発言で、今回の安保政策の変更の原因となった日本をめぐる安全保障上の国際情勢の変化について語ったものの、そのなかの主要要因である中国の軍事力増強や軍事的威嚇にはまったく触れなかった。いや、「中国」という国名さえもただの一度も挙げなかったのである。
指摘されなかった中国の軍事的脅威
日本がなぜ今、戦後の安全保障の態勢や政策を大きく変えて、日米同盟の強化や抑止力の増強を図ろうとするのか。その背景に中国の軍事動向があることは、日本国内ではまず異論がないだろう。
中国の人民解放軍はこの20年にわたり一貫して大幅な増強を続けてきた。核兵器にはじまり、多様なミサイル、戦闘機、航空母艦、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、そして宇宙兵器からサイバー軍事能力まで、目を見張るような増強また増強なのである。しかもその軍事力を遠慮なく誇示して、危険な攻勢や拡大の行動に出る。軍事力を武器に他国に対して領土問題や政治上の案件での譲歩を迫る。
そうした中国の軍事的脅威の最大の標的は米国に次いで日本だと言えよう。台湾も主な標的ではあるが、日本とは別のカテゴリーとなる。だからこそ安倍首相が新たな安保法案の説明をする際は、中国の軍事的脅威を第一に指摘することが自然だったはずである。
ところが、安倍首相は「国民の命と平和な暮らしを守り抜く決意」を語ったものの、一体、何からそれらを守り抜くのかが不明だった。
首相は会見の冒頭発言で、日本をめぐる国際情勢の厳しさについて、以下のように述べただけだった。
「この2年、アルジェリア、シリア、チュニジアでは日本人がテロの犠牲になった。北朝鮮の数百発もの弾道ミサイルは日本の大半を射程に入れている。そのミサイルに搭載できる核兵器の開発も深刻さを増している」
「わが国に近づいてくる国籍不明の航空機に対するスクランブル(緊急発進)の回数は10年前と比べて実に7倍に増えている。私たちはこの厳しい現実から目を背けることはできない」
以上が、13分以上に及んだ安部首相の冒頭発言での、日本への具体的な脅威や危険に関する言葉のすべてだった。中国の軍事脅威に触れることはことさら避けたとしか思えないのである。
民主党議員も、中国に言及しない不自然さを指摘
安倍首相はこの後の記者団からの質問でも、同様に中国への言及を避けていた。日本を囲む「厳しい国際情勢とは具体的になにか」という質問に答えて、首相は次のように語った。
「日本を取り巻く安全保障環境は一層、厳しさを増している。北朝鮮の弾道ミサイルは日本の大半を射程に入れている。北朝鮮の行動は予測するのが難しいのが実態だ」
やはり中国は出てこないのである。一体なぜなのか。
この疑問は面白いことに、野党の民主党代表から安倍政権の中谷元防衛大臣に対してもぶつけられた。5月17日朝のフジテレビ「新報道2001」の討論においてである(私もこの討論に参加した)。
討論のテーマは今回の安全保障法案だった。まずキャスターの須田哲夫氏らから「最大の謎」として提起されたのが、「安倍首相はなぜ中国に言及しないのか」という点だった。
この疑問に答える役が安倍政権の中谷元防衛大臣だった。中谷氏は、政府としてはもうすでに中国の軍事増強については何度も指摘しているという趣旨を答えた。「いまでは中国側の日本の領海侵犯は毎月30回にも達し、(中国軍機への)スクランブルも何倍にも増えており、そのことは明確に提起している」という。だが、安倍首相は実際には明らかに中国を名指しすることを避けたのである。
中谷氏のこの答えに対して、野党の民主党を代表して番組に出演していた渡辺周衆議院議員がさらに興味深い追及をした。渡辺氏は民主党政権で防衛副大臣を務めたこともある、現実派の政治家である。
渡辺議員はこう述べた。「安倍首相は『中国の脅威があるからこそ今回の措置を取るのだ』と述べるべきだった」。
民主党の年来の対中姿勢を見てきた私にとってこの発言は意外だった。鳩山由紀夫元首相の例に象徴されるように、民主党の議員たちは対中融和姿勢をとってきた向きが多いからである。中国についても「軍事的脅威などと呼んではならない」とする意見が党内に多かった。2005年12月には民主党の前原誠司氏がワシントンでの講演で「中国は現実的な軍事脅威」と述べたところ、帰国後、党内でさんざんに非難された事例がある。
だから、その民主党の代表としてテレビ討論に出た渡辺氏が「安倍首相が中国の脅威を語らなかったのはおかしい」と責めるのだから、日本の安保論議も変わったものである。というよりも、中国の軍事力の日本に対する脅威が誰の目にも明らかな現実となって懸念されるようになってきたということだろうか。
北朝鮮よりさらに危険なミサイルを配備する中国
いずれにしても安倍首相の言明は奇異だった。「北朝鮮が日本を射程に入れた数百発の弾道ミサイルを持っている」と警告するならば、中国がそれ以上に大量の、かつそれ以上に危険なミサイル類を日本を射程に入れて配備している事実をなぜ指摘しないのか。
米国の国防総省筋の情報では、中国軍は日本を標的にできる射程1000キロから3000キロまでの準中距離弾道ミサイル(MRBM)の増強に特に力を入れている。その主力のDF21Cは射程1750キロ、配備数は100基程度で、ほぼそのすべてが日本全土を攻撃可能だという。
中国軍はさらに準中距離巡航ミサイルの開発と配備を続けている。同じく米国防総省筋の情報では、この巡航ミサイルの主力はDH10と呼ばれる射程1500キロほどの兵器で、中国軍の保有基数は200から500の間だという。これまた、そのほぼすべてが日本を射程におさめているという。
だから、安倍首相が日本を射程におさめた北朝鮮のミサイルを語るのならば、中国の同種のミサイルについても指摘すべきだった。中国軍のミサイルはもっと多数なのである。
しかも中国のミサイルは、通常弾頭だけでなく核弾頭の装備が可能なのだ。北朝鮮が、ミサイルの先端に装備できる小型で軽量の核弾頭の開発をやっと終えたという情報が伝わっているが、中国はとっくにその技術を開発し核装備しているのである。
しかも中国は、尖閣諸島という日本固有の領土を軍事力で奪おうとして、武装艦船による日本領海への侵入を頻繁に続けている。だからこそ日本は米国との同盟を強化し、抑止力を高め、中国の軍事侵略や軍事威嚇を防ごうと努めねばならなくなったのである。
こうした中国の軍事脅威こそが、まさに今回の日本の安保法案の原因である。だが安倍首相はその最も重要な部分をあえて語らなかったのだ。
中国の反応を恐れたのか、オバマ政権への配慮か
その理由はなんなのか。
まず、中国の反応を恐れたことが考えられる。中国を刺激して強硬きわまる反撃を招き、肝心の安保法案の国会での審議に支障をきたすという事態を恐れたのか。
あるいはアメリカのオバマ政権への配慮があったのかもしれない。オバマ政権は、中国の軍事拡張を問題視しながらも、中国を名指しで非難することをためらう傾向がある。オバマ政権の誕生当時には特にその傾向が強かった。もしかしたら安倍首相も、首相に助言する側近の官僚たちも、こうしたオバマ政権の中国への宥和的な態度を、意識しないうちに手本にしてしまったのだろうか。
いずれにしてもこれからの国会での安保法案審議では、中国の軍事脅威こそが今回の画期的な措置の最大の原因であり、理由なのだ、という点が明示されなければ、国民の支持は得にくいだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43832
- 戦後70年、中韓が建設急ぐ「虚の楼閣」 世界は武士道が分からぬと心得、正しく丁寧に説明を rei 2015/5/20 08:25:26
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