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[真相深層]補助金漬けに危機感
政府、自給率に加え「食料自給力」検討 農政左右する対立軸に
日米間で緊迫度が増している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は主食用のコメの扱いで調整が続く。コメの輸入が交渉の対象になると、議論が紛糾するのはいつもの光景だ。しかしその陰で「コメ偏重」の農政を揺るがしかねない指標が農政の内側から出てきた。「食料自給力」だ。
自給力は、いざというときに国内でどれだけ食料をまかなえるかを表す指標だ。3月末に決めた今後10年間の農政の基本計画で言及し、初の試算も示した。
現状では7割
これまでの目標だった食料自給率と似てみえるが、実はどちらを重視するかで農業の補助金への依存度が変わってくる可能性がある。まず自給率は国内でげんに消費している食料のうち国産がどれだけ占めるかを示し、最近は40%前後(カロリーベース)で推移する。
これに対し、自給力は輸入が途絶えたときなどに、国内の農地をフルに使ってどれだけ食料を供給できるかを示す。基本計画によると、国民が栄養的にバランスのとれた食事をとろうとすると、現状で必要量の7割しかまかなえないという。
補助金が絡むのはこの先だ。日本の農業は国際競争力でみて大きく2つに分かれる。コメや麦、飼料などの穀物は農地が狭いため弱い。一方で野菜や花のハウス栽培など広い面積が要らない作物には競争力がある。
自給率は弱い農業を守る方便となってきた。象徴が農家が田んぼでつくる飼料米だ。牛や豚のエサの多くを輸入に頼ることが、自給率が低い一因になっているからだ。
いまの飼料米の助成制度だと、農家は収入の9割超を補助金に依存することになる。そこまで出さないと安い海外のエサに対抗できない。農林水産省は10年後の飼料米の生産量を今年度見込みの3倍強の110万トンに増やす計画だ。実現には低く見積もっても補助金を3倍にする必要がある。
強い分野伸ばす
自給力を重視すると、違う展望が開ける。今回の農政の基本計画をまとめた食料・農業・農村政策審議会の生源寺真一会長は「野菜や花のように市場性があり、収益性の高い作物に今まで以上に力を入れやすくなる」と指摘する。自給率の目標とは逆に、農業の強い分野を伸ばすことにつながるというわけだ。
なぜか。潜在的な供給能力を指標にすれば、平時は野菜や花をつくり、万が一のときはカロリーの高い穀物に植え替えるという選択肢ができるからだ。生源寺氏は「若者や働き盛りにとって魅力的な農業をつくり出すことが大切」と強調する。
自給力は別の角度の光も当てる。農林中金総合研究所の平沢明彦主席研究員は「耕作放棄地を縮小するとともに、単位面積当たりの収量を上げるべきだ」と話す。多様な作物を育てれば農地を有効に活用でき、食生活で栄養のバランスも良くなる効果も見込める。
もちろん自給力という指標だけで、コメ農家を補助金で支える農政がすぐ変わるわけではない。基本計画は補助金を大幅に増やす必要があるのを承知で、飼料米の増産を盛り込み、「生産努力目標の確実な達成」という強い表現で肯定した。
では農水省が固執する自給率に、なぜ自給力という指標を加えたのか。自給力は昨春に審議会の委員から「本来は自給力を高めることが必要だ」という意見が出て、議論が続いてきた。
補助金に頼り切る農業への批判は根強かった。「長年、補助金による総保護政策で弱体化する問題を抱えてきた」「農業の発展を阻害していないか精査が必要だ」。意見を反映し、基本計画に「厳しい財政事情のもと、施策の不断の点検を行う」との一文が入った。背景には財務省の意向も働いたとみられる。
自給率と自給力という似て非なる指標がはらむ緊張は農政の方向を左右する対立軸になる可能性がある。ただでさえ高齢農家の脱落で農業の先行きは混迷を深めている。そこに関税の原則撤廃を掲げるTPPの大波が待つ。自給力という指標には、「補助金漬け」の農業が立ち行かない未来を行政も有識者も覚悟している構図が浮かぶ。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞5月12日朝刊P.2]
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