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岸博幸の政策ウォッチ
【第8回】 2015年5月15日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
安倍政権の右寄り保守と社会保障強化は両立しない
歳出削減目標額は明示しない財政健全化議論
財政健全化を目指すためには、社会保障の削減は必須だが…
Photo:naka-Fotolia.com
?12日に開催された経済財政諮問会議で、6月末までに財政健全化計画を取りまとめることが決まりました。
?2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという目標に向け、実質2%&名目3%という高い経済成長による税収増を目指すものの、消費税率は当面10%を超える水準にしないとしているので、税収増だけでは埋めきれない9兆円のPB赤字を解消するためには、政府の歳出削減が不可欠となります。しかし、諮問会議では社会保障と地方財政を歳出改革の重点分野として削減の具体策を検討はするものの、項目別の歳出削減の目標額は盛り込まれない方針のようです。
?こうした政権の方針に対して、多くのマスメディアは概要以下のような批判をしています。
・高い経済成長は実現できるかどうか分からないので、歳出削減にしっかりと取り組むべき
・特に、政府の一般会計予算の3分の1を占め、かつ高齢化により毎年1兆円規模で増え続けていく社会保障関係費の削減が最重要課題であり、社会保障制度の抜本改革に取り組むべき
?この主張は至極もっともであり、経済成長や財政赤字といったマクロ経済の数字からは、社会保障制度の抜本改革による社会保障支出の削減が不可避という結論になります。
旧ソ連時代のロシアが示す教訓
?ただ、最近つくづく思うのですが、こうした経済の数字の計算のみならず、安倍政権や与党自民党の政治的なスタンスからも本来は社会保障の水準は引き下げられて然るべきなのに、そういった議論が政府や党の会議で一切行なわれていないというのもちょっと変ではないでしょうか。
?安倍政権と今の自民党の政治スタンスは“右寄り”と言われますが、政策の内容からは“中道右派”と考えるのが適当です。自由な経済活動を尊重して小さな政府を志向する一方で、日本の歴史や伝統を重視する立場です。
?このうち、まず前者の“小さな政府”という考え方からは、福祉国家は持続不可能であり、市場メカニズムを活用して社会福祉を含む行政の効率化を実現すべきとなります。これはマクロ経済の数字の計算から導かれる結論と同じ位に自明ですが、それに加え、安倍首相の想いがより強いであろう後者の歴史・伝統を重視する立場からも、社会保障の水準はある程度引き下げられて当然となることに留意すべきではないかと思います。
“歴史・伝統を重視”というと、どうしても領土問題や憲法改正といった方向に目が向きがちですし、安倍政権もメディアもそれらについて盛んに議論していますが、同時にそれが意味するのは、個人の自立、家族やコミュニティ(共同体)のつながりの重要性です。
?実際、安倍首相の過去の所信表明演説などには、「自助・自立」、「共助と公助の精神」といった言葉がよく出てきます。また、自民党が民主党から政権を奪取する前の2012年4月に公表された日本国憲法改正草案をみると、国民の権利及び義務に関する部分では
「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」
?という条文が明記されています。
?ここで重要なのは、個人の自立や家族・コミュニティのつながりを再生/実現するには、政府がそれらの主体をかまい過ぎてはいけないということです。それは旧ソ連時代のロシアの経験が証明しています。
?帝政時代のロシアでは、国民の大半が農奴として土地にしばりつけられていたので、家族で助け合いながら生きていくしかありませんでした。
?ところが、二度の革命を経て1922年にソビエト連邦が成立すると、社会主義の理想の実現に向けて、住宅も医療費もすべてタダ、老後は生活するに十分な額の年金が提供されるようになりました。社会主義の下で政府丸抱えの福祉国家が実現されたのです。
?すると、その福祉国家で現実に起きたのは、子どもが親の面倒をみない社会の出現でした。親の面倒は国家がみてくれるので、子どもは自分のことだけを考えればいいという風潮が一気に広まったのです。そしてその考え方は、ソ連が崩壊してロシアとなって国家が親の面倒をすべてみることはなくなっても変わっていないとのことです。
安倍政権は国民に対して、
家族や仲間と助け合うよう仕向けるべき
?このロシアの経験が物語るのは、年金や健康保険などの社会保障を充実させればさせるほど、子どもは親の面倒という重荷が軽減されたと考えて、家族の絆が弱くなるという事実です。
?逆に考えれば、今の日本ではパラサイト、つまり子どもが成人しても実家を出ずに親と一緒に住み続ける方が多いですが、これは子ども、即ち若者世代は収入が低い上に政府の社会保障の恩恵が今も将来も少ないと考えた結果の合理的な行動として、親に甘えるという意味で家族の絆を頼っていると解釈することができます。若者世代への社会保障の水準の低さが、右寄りの政治思想の実現の観点からは正しく機能していると言えるのです。
?だとしたら、安倍首相は今国会の所信表明演説で「社会保障を充実してまいります」と述べていますが、そんなことはせずに、むしろ高齢者に対する手厚過ぎる社会保障の水準を若者世代と同様の水準に引き下げ、若者世代が親に甘えるのみならず将来は逆に親の面倒をみないといけないし、近所や仲間といったコミュニティで助け合わないといけないと思うように仕向けるべきではないでしょうか。
?そのように考えると、財政健全化という目標は、右寄りの政治的なスタンスを完遂するために必要な社会保障の水準の引き下げを実現する格好の大義名分となるとも言えます。6月末にまとめる財政健全化計画では、大胆な社会保障支出の削減の具体策を提示し、社会保障の水準を引き下げる方向を明示すべきではないでしょうか。
?もちろん、実際には自民党は高齢者を中心とした支持者が離れるのを恐れて、逆に社会保障の水準は維持か強化を目指すでしょう。しかし、集団的自衛権や憲法改正を叫びながらそれをやっては、政治スタンスの節操のなさを、いずれ国民に見透かされるのではないでしょうか。歴史と伝統を重視する右寄りの思想と社会保障の強化は、本来は相容れないし両立しないのです。
http://diamond.jp/articles/-/71529
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